はじめに
ワークフローシステムの導入を検討する企業は年々増加していますが、2025年の現在、その“選び方”は大きく変わりつつあります。
かつては「紙を電子化するだけ」「申請ボタンがあればいい」といった基準で選ばれていたワークフローですが、近年ではAI活用・データ活用・制度運用の再設計といった観点が加わり、わずか1〜2年で製品の進化が加速しています。
本記事では、「いま選ぶなら何を基準にすべきか?」という観点から、制度設計/現場運用/経営判断支援までをカバーする最新の選定ポイントを7つの比較軸で解説します。
なぜ“選び方”が変わったのか?──制度要件の変化とAI時代の到来
Q:ワークフローシステムの選び方って、数年で変わるものなんですか?
A:変わります。働き方の変化や技術革新によって、制度運用やデータ活用の要求水準が大きく変わっています。
● ビジネス・業務の背景:制度運用の要件が“強く・広く”なってきた
かつてワークフローシステムは、紙やExcelで運用していた申請書・稟議書の手続きをデジタル化する“代替手段”として使われていました。
しかし2020年代に入り、ワークフローに求められる役割は大きく変わりつつあります。
以下のようなビジネス・業務的な変化が背景にあります。
- 脱ハンコ・テレワークによって、申請や承認を「場所に縛られず行える仕組み」が必須となった
- 働き方改革で、申請ルールや判断手続きを「明文化・標準化」する必要性が増している
- 電子帳簿保存法・インボイス制度などの法令対応が、申請書の保存・管理方式に明確な要件を課すようになった
- 内部統制・監査・ガバナンス対応として、判断の記録や承認ルートの証跡性が強く問われるようになった
これにより、単に「紙をなくす」だけでは不十分となり、ワークフローは申請~処理~保管~保存~廃棄までの文書ライフサイクル全体を設計すべきシステムへと変化しています。
つまり、申請~承認タスクの効率化だけでなく、文書の保管(関係者にいかに共有するか)、文書の保存(法令・規程の保存期間を確実に保存し、監査対応に備えられるか)まで求められるようになってきたのです。
● 技術の背景:AIによって“できること”が急激に広がっている
こうした業務面の変化に加えて、技術の進化も選定基準を一変させる要因となっています。
特に2023年〜2025年にかけては、AI(人工知能)の活用が本格化し、ワークフローのあり方にも大きな影響を及ぼしています。
現在、最先端のワークフローシステムでは以下のような技術が現実に導入されつつあります。
AI活用機能 | 目的 |
入力内容の自動チェック | 曖昧な記述や記入漏れを検出し、申請ミスを未然に防止 |
承認ルートの自動提案 | 金額や添付の有無から、規程に沿ったルートを自動判定 |
過去の判断傾向を学習したルート設定支援 | 属人化した判断をAIが“制度に沿って均一化”する |
異常申請の検知・通知 | 通常と異なるフローや文言の申請に対して警告を出す |
申請内容や件数の傾向分析 | 制度改善や業務負荷分析につながるレポートを自動生成 |
こうした変化によって、もはやワークフローは「ただ流す仕組み」ではありません。
今では “社内規程に基づいた定型的な判断やコミュニケーション“までをサポートし、社内規程を確実に実行するための重要な基盤として、より高度な役割が期待されています。
● 従来の選定軸では、これからの業務に耐えられない
これまで多くの企業でワークフローシステムが選ばれてきた際の判断軸は、次のようなものでした。
- 「価格が手頃であること」
- 「使いやすいインターフェースがあること」
- 「申請・承認フローが簡単に作れること」
確かにこれらは重要な要素ですが、2025年の現在、それだけでは“足りない”状況になっています。
理由は明確です。
ワークフローはもはや「ツール」ではなく、「制度を日々、確実に実行するためのインフラ」だからです。
たとえば──
- 制度どおりのルートで承認が進まない
- 不正な処理が見抜けない
- 記録が形式的で、活用されない
- 設定が複雑で、制度変更のたびにIT部門に依頼が必要
- レポートが出せず、何が起きているか見えない
こうした問題は、いずれも「ツール選定の段階」で見落とされた要件に起因します。
つまり、現代のワークフロー選定では、「何ができるか」ではなく「社内の制度や業務、さらには経営にどう貢献するか」を見るべきなのです。
● いま選ぶなら、何を見るべきか?──7つの視点で再設計を
本記事では、以下の7つの観点から、最新のワークフローシステムを選定する際の実務的な比較軸を提示していきます。
判断軸 | 着眼点 |
① 制度適合性 | 承認ルート・保存ルールなどを制度どおりに実行できるか |
② 利用環境 | PC・スマホ・チャットなど、場所に縛られずに使えるか |
③ セキュリティ | ねつ造・改ざん・削除などに対して制度的な防御があるか |
④ 運用性 | 現場主導で設定・運用・周知できる設計思想か |
⑤ 自動化の深さ | AIによって入力・処理・判断がどこまで補助されているか |
⑥ レポーティング | 実行状況がデータで把握でき、制度改善に活かせるか |
⑦ 費用対効果 | 単なる価格比較ではなく、制度運用のROIで評価できるか |
まとめ(ワークフローシステムの選び方)
- 2025年現在、ワークフローに求められる要件は「業務効率化」から「制度実行・判断支援・改善活用」へと進化している。
- 脱ハンコ、ガバナンス強化、AI活用の広がりにより、「導入すれば終わり」の時代は終わった。
今選ぶなら、「業務や制度に本当に合うかどうか」を7つの軸で丁寧に見極めることが必要。
よくある質問(ワークフローシステムの選び方)
A1:まずは、自社の社内規程や業務ルール(承認ルート、保存期間、部門間フローなど)をきちんと仕組みに落とし込めるかを見極めることが重要です。設定で再現できるか、運用中の変更に対応できるか、といった「制度の再現性」が判断軸になります。
A2:機能の有無だけでなく、「それが実務で使える構造になっているか」「制度に沿った使い方ができるか」を比較する必要があります。操作できることと、正しく制度運用できることは別です。
A3:“どこにAIが使われているか”を確認することがポイントです。入力支援、判断ルート提案、分析・レポートなど、業務のどこを補助してくれるのかをチェックしましょう。また、制度との整合性を保った上でAIが動いているかも重要です。
A4:制度要件や業務の進化(テレワーク・部門統合・法令改正など)に対してシステムが柔軟に対応できているかを点検することが第一歩です。不満がない=適合している、とは限りません。
A5:制度を理解し、運用する立場である業務部門(総務・経理・人事など)が主導すべきです。ただし、システム面の実装可否についてはIT部門と連携する必要があり、「業務部門が主体となり、IT部門が支援する体制」が理想です。
比較軸①:社内規程を確実に実行する仕組みが構築できるか?(1/2)
Q:申請や承認の機能があれば、ワークフローとして十分なのではないでしょうか?
A:表面的な処理機能だけでは不十分です。社内規程に沿った承認ルートや保存ルールを“仕組みとして再現・強制できるかどうか”が、制度運用では非常に重要になります。
● 概要:業務ではなく「規程」を動かす仕組みになっているか?
ワークフローシステムの主な役割は、「申請・承認・決裁の流れを効率化すること」だと思われがちです。
しかし2025年現在、ワークフローに求められているのは単なる効率化ではなく、社内規程に沿った運用を担保し、確実に実行する仕組みであることです。
企業には、以下のようなさまざまな社内規程が存在します。
- 稟議・決裁基準(例:50万円以上は部長決裁)
- 保存期間や廃棄条件(例:稟議書は7年間保存)
- 申請ごとの承認ルート(例:契約書付きの申請は法務部確認が必須)
こうしたルールは文書として整備されていても、実際の業務で仕組みとして機能していなければ意味がありません。
そのため、ワークフローシステムを比較・選定する際には、「その製品で、自社の規程を “仕組みとして回せる”か?」
という視点を持つことが大前提になります。
● 社内規程が“回らない”と何が起こるのか?
もしも、ワークフローが「人の判断や運用任せ」で設定されている場合、次のようなトラブルが起こりやすくなります。
具体例 | 規程違反による影響 |
本来、50万円以上の申請は部長決裁が必要なのに、課長だけで承認されていた | 監査で指摘/決裁の無効化/再承認が必要になる |
異動後の承認者設定が変更されず、既に退職した人に承認依頼が届く | 承認が滞る/制度運用が信頼されなくなる |
承認は済んでいるのに、文書の保存先がバラバラ | 情報が見つからない/改ざん・消失リスクが高まる |
このような事態は、「人間の操作ミス」や「担当者任せの運用」では防げません。
重要なのは、そもそも規程どおりでなければ処理が進まない“強制力のある仕組み”になっているかどうかです。
● 確認すべき5つの観点──「制度が守れるか」を判断するチェックポイント
ワークフローシステムが、社内規程を“仕組みとして回せる”状態になっているかを見極めるために、最低限押さえるべき5つのポイントがあります。
① 承認フローの柔軟性(条件分岐)
- 金額、添付ファイル、申請区分などに応じて、承認ルートを自動的に分岐できるか。
- 例:50万円以上は部長承認、契約書があれば法務確認ルートを追加。
チェックすべき点: 固定ルートしか設定できない製品は、制度の運用を現場任せにしてしまいがちです。
② 部署・役職単位の権限設定(RBAC)
- 承認者を「人」ではなく「役職・所属単位」で管理できるか。
- 異動・退職・兼務があっても、制度運用が自動的に更新される構造になっているか。
チェックすべき点: 個人指定によるルート設計では、運用のたびに手動メンテナンスが必要になります。
③ 組織予約(将来の人事変更への事前設定)
- 「来月からの承認者」を事前に登録し、スムーズに切り替えが行える仕組みがあるか。
- 例:人事異動内示時点で、ルートが自動更新される設計。
チェックすべき点: 組織変更に伴う混乱を回避するには、未来日対応が可能な構成が望ましいです。
④ 文書ライフサイクルの一元管理(作成〜処理~保管~保存〜廃棄)
- 申請から決裁後の保管・保存・廃棄までが一気通貫で管理されているか。
- 保存年限や廃棄フローも制度通りに設計できるか。
チェックすべき点: 承認済み文書が「ただ残っている」だけでは管理とは言えません。
⑤ 規程・マニュアルの開示/お知らせ機能
- 申請時に対象業務の関連規程や手順書がその場で確認できる設計になっているか。
- 制度変更時には「全社通知」や「既読確認」まで対応できるか。
チェックすべき点: 「知らなかった」「古い手順で出した」を防ぐ仕組みは、制度の定着に直結します。
● 実装されていないと、どうなるか?
システム設計が不十分な例 | 発生する問題 |
承認ルートが静的で手動変更 | 異動や休職時に設定ミス → 勝手な処理・遅延が発生 |
承認後に別システムで保存管理 | 書類の検索性・証跡性が低下 → 監査対応で不備 |
お知らせは別掲示板で運用 | 制度変更が伝わらない → 現場の運用がバラバラに |
このような状況は、すべて「システムと制度が分離していること」が原因です。
まとめ(比較軸① 制度適合性)
- 「社内規程を守れるかどうか」は、単にルートを設定できるかではなく、ルールを強制・再現・維持できる構造があるかで判断する必要があります。
- ワークフローシステムの導入目的が「業務効率化」から「制度の運用基盤」へと変化している今、制度とシステムが一体となって動いていることが最も重要です。
- 選定時には、見た目や価格ではなく、「制度を実行する仕組みとして耐えられるか」を必ずチェックしましょう。
よくある質問(比較軸① 制度適合性)
A1:いいえ。設定できるだけでなく、「必ずその通りにしか流れない構造」になっていなければ制度とは言えません。
A2:属人化や設定ミスの温床になります。制度の維持には“変更のしやすさ”と“属人性の排除”も必要です。
A3:制度としては一貫性が失われ、責任の所在が不明確になります。理想はワークフロー内で完結できる構造です。
A4:組織変更時に設定ミスが生じたり、人事異動や休職時のミス・対応遅れの原因になります。役職や部署ベースでの設計が推奨されます。
A5:見逃しや未読が発生します。既読確認やシステム内での周知・記録ができる機能があるとより安心です。
比較軸②:いつでもどこでも使える──申請・承認が滞らない仕組みか?
Q:テレワークが定着してきた今、ワークフローにおいて“いつでもどこでも使える”というのは本当に必要な要件なのでしょうか?
A:はい。制度としての申請・承認フローが機能するためには、“誰でも、どこからでも、止まらず処理できる環境”が不可欠です。特に承認の滞留は、業務全体の停滞につながります。
● 概要:ワークフローの“制度品質”は、利用環境で決まる
どれほど優れた承認ルート設計や保存ルールがあっても、使う人が使える環境になければ、制度としてのワークフローは機能しません。
特に近年は、以下のような働き方が定着しています。
- テレワークや在宅勤務の常態化
- 外出・出張の多い営業職や管理職の行動範囲の拡大
- シフト制・現場対応が求められる業務の増加
このような環境下では、「出社しないと承認できない」「スマホからは操作が重くてストレス」という状況自体が、制度を“止める原因”になります。
● 承認が滞ることで起きる“制度運用上のリスク”
状況 | 影響 |
外出中の上長が承認できず、稟議が停滞 | 納期遅延/発注ミス/業務停止の原因に |
スマホでは入力しづらく、後回しにされる | 未承認状態が増加 → 記録が不正確になる |
通知がチャットに届かず、気づかれない | 差し戻しや期限切れが常態化 → 信頼性が低下 |
これらは単なる「利便性の問題」ではなく、制度を確実に運用できるかどうかに直結する構造的な課題です。
● “いつでもどこでも使える”ワークフローの3つの要件
ワークフローが制度として機能するためには、以下の3つの接点が欠かせません。
① PC環境での安定動作
- ブラウザやOSに依存せず、安定した挙動であること
- 承認画面や処理ステータスが一目で分かること
特に申請書の作成・添付・ルート確認など、制度に関わる入力項目が多い業務では、PCでの正確な操作性が必要です。
② スマートフォン最適化(モバイル対応)
- ネイティブアプリで通信環境が悪くても良好な動作を担保する
- モバイル端末の小さな画面に対応した画面での情報提供
- モバイル端末の小さな画面に対応した入力方法(キーボードは打ちづらい)
モバイルからでも「承認処理が完了する」状態が確保されていなければ、外出中の判断や確認がすべて止まる設計になってしまいます。
③ メッセージアプリとの連携(LINE WORKS・Microsoft Teamsなど)
申請や承認の通知がチャットツール上で届くかどうかは、今やワークフローにとって“実務的な生命線”です。
特に次のような状況では、通知の仕組みが制度の成否を左右します。
- 通知メールが埋もれてしまい、申請に気づかない
- リンクからすぐに処理画面へ飛べないため、後回しにされる
- チャット文化が浸透している現場で、メール通知が形骸化している
「気づける場所で通知されるか」
「通知からワンタップで処理に入れるか」
この2点は、制度運用の“回転速度”を決定づける重要ポイントです。
● 制度を“止めない”ために必要な構造
「承認依頼を出したが、返ってこない」──この一言が、制度的には非常に重たいリスクを示しています。
以下のような仕組みがあれば、制度の処理は止まりません。
機能 | 意味する制度的効果 |
モバイル承認・ワンタップ処理 | 外出中の責任者でも判断が即時に可能 |
チャット通知・リンク連携 | 処理漏れや承認遅延の予防策 |
ステータスのリアルタイム反映 | 「今どこで止まっているか」が一目で分かる |
操作画面の軽量設計 | 処理が「面倒くさいもの」とならず、定着率が高まる |
これらはすべて、“制度を使ってもらう仕掛け”であり、制度を持続可能な状態にするための技術的基盤です。
まとめ(比較軸② いつでもどこでも使える)
- ワークフロー制度の本質は「ルール通りに判断すること」ですが、それを現実に成立させるには「いつでも・どこでも・誰でも使える設計」が不可欠です。
- PC、スマートフォン、チャットツールという3つの接点から制度にアクセスできる構造は、業務のスピードと制度の確実性を両立するカギとなります。
- 見た目の「使いやすさ」だけでなく、制度を滞らせない仕組みとして成立しているかを、選定時に必ず点検しましょう。
よくある質問(比較軸② いつでもどこでも使える)
A1:そうした業務環境にこそ、スマホ・チャット通知など“どこでも処理できる仕組み”が求められます。滞留の原因を設計で解消することが重要です。
A2:表示や承認処理が「可能」なだけでは不十分です。入力補助や画面設計、通知連携まで含めて“使いやすく設計されているか”を確認しましょう。そうでないと、実行できるアクションが内容の確認に限られたり、最悪の場合は内容の確認すら難しい場合があります。
A3:メールは見落とされやすく、現場ではチャット通知の方が効果的な場合が多いです。チャット連携の有無を選定条件に含めましょう。
A4:制度の問題ではなく、運用しやすさの設計不足です。操作画面や通知の導線が“すぐ処理したくなる設計”になっているかがポイントです。
A5:書類によって、どこでもできることにリスクが生じる場合も確かにあります。そのような懸念がある場合、きめ細かなアクセス制限を追加できるツールの検討が望ましいです。
比較軸③:情報セキュリティ──申請・判断・保存が改ざん・漏えいから守られているか?
Q:情報セキュリティは、SaaSのサービスでは当然実装済みと考えていましたが、導入時に考慮する必要があるのでしょうか?
A:はい。会社内の機密情報や個人情報を取り扱うシステムのため、様々な内部不正や外部攻撃が発生する可能性があり、十分な対策がされていないシステムでは、大きな事故が発生したり、場合によっては発生したことに気が付くことすらできないことがあります。対策状況はサービスごとに大きく異なるため、機能と同等以上に、しっかりとした確認が必要です。
● 概要:ワークフローは“制度の証拠”だからこそ、守る対象になる
ワークフローシステムは単なる業務支援ツールではありません。
それは「誰が、いつ、どのような根拠で承認・決裁したのか」を記録する、意思決定と制度運用の証拠インフラです。
そのため、ワークフローに蓄積される情報が失われたり、意図的に操作されたりすれば、制度そのものの正当性が疑われることになります。
とくに以下のような情報は、制度上の重要なエビデンス(証跡)と位置づけられます。
- 申請者と承認者の名前、役職、日時
- 承認・差戻し・却下などの判断内容
- 添付ファイル(見積書・契約書など)の履歴
- 申請文書の保存先とアクセス権限のログ
これらが改ざん・削除・漏えい・不正アクセスによって損なわれた場合、その制度は「存在していないもの」として扱われかねません。
● 文書手続きにおける4つのセキュリティリスク
実務におけるワークフロー文書の管理では、以下の4つのリスクが特に重要です。
① ねつ造(権限のない人による申請・文書作成)
- 例:退職済のアカウントを使って申請が行われる
- 結果:社内規程を無視した判断が“制度上の記録”として残ってしまう
対策すべき機能
適切な権限管理、パスワード管理、SSO、多要素認証、IP制限、アカウントの無効化管理など
② 改ざん(承認後の文書や添付ファイルが勝手に変更される)
- 例:承認済みの申請書が、後から内容を書き換えられる
- 結果:実際の判断と記録が食い違い、説明責任が果たせなくなる
対策すべき機能
承認後の自動ロック、差戻し時の履歴保持、操作ログの完全保存、編集権限の制限
③ 隠ぺい(不都合な履歴や文書が削除される)
- 例:処理のミスやトラブルが発覚する前に、関係書類が削除されてしまう
- 結果:監査・調査・是正対応が不可能になる
対策すべき機能
保存期間中の削除制限、廃棄承認フロー、削除ログの保存、アーカイブ機能
④ 情報漏えい(意図しない社外流出や内部不正)
- 例:管理画面の操作ミスで契約書ファイルが全社員に見える設定になっていた
- 結果:個人情報・契約情報の漏えいにより、重大な法的リスクが発生する
対策すべき機能
アクセス権限の詳細制御、閲覧ログ、ダウンロード制限、データ暗号化、端末制限
このようなリスクは、IT部門だけでなく、制度を運用する実務部門自身が「仕組みとして守れているか」を見極める視点を持つことで、初めて防ぐことができます。
● ワークフローの情報セキュリティ対策──チェックすべき7つの仕組み
ワークフローの情報セキュリティは、「ある程度守られている」では不十分です。
制度上の判断や記録を正しく維持し、誰が見ても正当性を証明できる構造があるかどうかが問われます。
以下は、ワークフロー選定時に確認すべき具体的なセキュリティ機能です。
チェック項目 | 確認すべき観点 |
ログイン制御 | ID・パスワード以外に、多要素認証・SSO・IP制限があるか? |
アクセス権限の細分化 | 「申請」「承認」「閲覧」「編集」「廃棄」など、操作ごとの権限を役職単位で制御できるか? |
承認後のロック | 承認済み文書は自動的に編集不可となるか?再提出時にはフローが再起動されるか? |
削除制限と廃棄承認 | 保存期間中は削除できないか?廃棄には申請・承認が必要か?削除ログが残るか? |
閲覧・ダウンロード制限 | 管理者権限を含め、文書単位で閲覧やDLを制限できるか? |
通信とデータの暗号化 | TLSやAESなどの暗号化方式を使用し、データの安全が担保されているか? |
改ざん防止ログ | すべての操作履歴が自動で記録・保全され、改ざん不可の状態か? |
これらのうち、1つでも欠けている場合は、制度上の記録が脆弱になり得るという認識が必要です。
● “守れる制度”とは、“壊されない設計”で支えられている
制度とは、「定める」だけでは成立しません。
決めたルールを確実に実行し、その履歴を守り抜ける設計があって初めて、制度として機能します。
そのためには、次のような設計思想を製品選定の判断基準として取り入れるべきです。
- 「誰が操作しても、勝手にルールを変えられない」構造であること
- 「ミスや不正が起きても、すぐに発見・追跡できる」記録設計であること
- 「制度の正当性を、第三者に説明できる」証跡が自動で残ること
こうしたセキュリティの仕組みは、単に情報を守るだけではなく、企業の信頼性・内部統制・監査対応・法令準拠すべてに直結する要件です。
まとめ(比較軸③:情報セキュリティ)
- ワークフローは、判断・記録・保存という「制度そのもの」を動かす仕組みだからこそ、セキュリティの設計が極めて重要です。
- ねつ造・改ざん・隠ぺい・情報漏えいといったリスクは、設定次第で防ぐことが可能です。
- 選定時には、システム全体が“壊されない構造”になっているかを、実務部門自身がチェックする視点を持つべきです。
よくある質問(比較軸③:情報セキュリティ)
A1:はい。制度運用の当事者である業務部門が「この仕組みで本当に守られているか?」を把握しておくことが重要です。情報セキュリティ事故は、外部攻撃だけではなく、内部不正・ミスによっても発生するものであるためです。
A2:操作ログが残っていても、改ざん可能であれば意味がありません。また、膨大なログが残るために、人間が目で確認することは難しく、AI/ITの力で操作ログのモニタリングをする仕組みを検討するのがベストです。
A3:削除自体は必要な操作です。ただし、「規程で定めた保存期間内の削除不可」「廃棄申請→承認→ログ記録」があるかどうかが安全性を左右します。
A4:クラウドサービスは利便性が高くなるにつれて、求められるセキュリティ水準も高めていかなければならないのは事実です。ただし、しっかりと対策されたシステムでは、紙よりも劣るということはありません。
A5:いいえ。アクセス権限管理(閲覧管理、変更管理)だけでなく、利用端末、ネットワーク、インフラ、データベース、アプリケーションまで多層的なセキュリティ対策が求められます。
比較軸④:業務部門が運用できるか──設定・変更を業務部門で回せるか?
Q:ワークフローの設定や変更はIT部門に依頼するのが前提だと思っていましたが、業務部門で対応できる方がよいのでしょうか?
A:はい。制度や組織が変化するたびにIT部門へ依頼が必要な構造では、対応が遅れ、制度が現場に定着しなくなります。実際の制度運用を担う業務部門が、自律的に設定・運用できるかどうかが重要な判断基準です。
● 概要:制度は“使えること”より、“回し続けられること”が大事
ワークフローシステムにおいて、承認ルートや申請書の内容を「設定できる」ことは当然です。
しかし、それ以上に重要なのは、制度が変更されたときに、現場の担当者がそのまま運用を維持・更新できるかという視点です。
たとえば以下のような場面では、日常的に設定の変更が必要になります。
- 稟議ルートに法務部を追加するよう制度が改定された
- 組織改編で部門が統合され、ルートや申請区分を見直す必要が出てきた
- 「出張申請」や「在宅勤務申請」など、新たな申請フォームが必要になった
- 承認基準の金額が50万円から30万円に変更された
これらをIT部門に都度依頼しなければ変更できない設計では、制度の柔軟な運用が不可能になります。
● よくある“ノーコードの落とし穴”──誰でも触れる=誰でも運用できる?
最近では多くの製品が「ノーコード(プログラミング不要)」をうたっています。
しかし、実際に運用現場で発生するのは、以下のような“ノーコードの限界”です。
見かけ上の特徴 | 実際の課題 |
設定画面に自由にアクセスできる | 設定項目が多すぎて、何をどう変更すればよいか分からない |
ポリシー設定でルール分岐が可能 | 条件が複雑すぎて、間違えると制度逸脱が起きる |
操作はGUIで完結する | ルールの変更がDB構造やAPIに影響し、結局IT部門のサポートが必要になる |
専用の「資格」や「研修」が用意されている | 誰でも触れるが、“実質的には専任者が必要”なシステムになってしまう |
このような状況では、たとえ「ノーコード」と謳っていても、現場が担える仕組みにはなりません。
● 業務部門が制度運用を担えるかを見極める3つの視点
① 設定の考え方が「規程ベース」になっているか?
- 承認ルートや分岐条件が、「稟議規程」「決裁基準」など実際の制度文書に即して設計できるか。
- 例:金額帯、添付書類の有無、部門ごとのルートなどを自然なルール形式で指定できるか。
チェックポイント:「画面上は自由に設定できるが、制度と対応づけるのが難しい」システムは、結局属人運用になりがちです。
② ポリシー設定がシンプルかつ例外対応が明確か?
- 「この条件ならこのルート」というポリシーベースで簡潔に表現できる設計思想かどうか。
- 分岐条件や例外処理を「何十項目も並べて個別設定」するのではなく、見通しよく管理できる構造になっているか。
チェックポイント:設定項目が多く複雑だと、制度改定のたびに誤設定や混乱が発生します。
③ 実際に誰が設定するのか?属人化・資格依存がないか?
- ノーコードと書かれていても、専用の資格や認定スキルが必要なケースでは、実質的に現場運用は困難です。
- 「その人しか触れない」「研修を受けた人しか操作できない」状態は、属人化によって制度変更が止まるリスクを孕みます。
チェックポイント:「誰が設定を維持できるか?」まで含めて評価することが大切です。
● 運用支援機能も含めて比較すべきポイント
運用を回すには、設定画面の設計だけでなく、実務担当者を支える仕組みがあるかどうかも重要です。
支援機能 | 意義 |
テンプレート機能 | 稟議・出張・休暇など、よくある申請をすぐに制度化できる |
ヘルプ・マニュアル | 設定方法や制度反映の考え方がすぐに調べられる |
サポート体制 | チャット・メール・電話など、困ったときにすぐ聞ける支援がある |
これらは、「現場で制度を回す」ために不可欠な構造要素です。設定そのものよりも、制度を回せる“総合的な環境”になっているかで評価しましょう。
まとめ(比較軸④:業務部門が運用できるか)
- ワークフローを「設定できる」ことと、「現場で制度変更まで回し続けられる」ことは別です。
- 規程ベースの設計思想、ポリシー型の簡潔さ、属人化しない操作設計が整っていて、はじめて業務部門主導の制度運用が可能になります。
- 導入時だけでなく、運用・改善を現場で担えるかどうかを基準に、設定構造と支援体制を比較検討しましょう。
よくある質問(比較軸④:業務部門が運用できるか)
A1:必ずしもそうとは限りません。操作画面が複雑だったり、専門知識が必要だったりすると、実質的にIT部門任せになります。
A2:制度変更はよくあることです。設定ミスを防ぐには、制度文書に即した設定がしやすい構造かどうか、また操作ガイドやサポートが充実しているかがポイントです。
A3:はい。役割ベースの権限設定や、共有テンプレート、履歴付き設定管理などがあれば、属人性を排除できます。
A4:製品によります。マニュアルや初期設定テンプレートが充実している製品は、業務担当者でも十分対応可能です。
A5:一時的な外注は有効ですが、制度変更のたびに外注が必要になるとコストとスピードの両面で支障が出ます。内部で回せる仕組みの方が持続性があります。
比較軸⑤:AI×ITでどこまで自動化につながるか
Q:AI対応と書かれている製品が増えていますが、実際に何をしてくれるのでしょうか?人の代わりになるのですか?
A:AIは人の代替ではなく、“制度の理解・判断・運用”を支援してくれる存在です。ITによる自動処理とは異なり、AIは言語・判断・操作の壁を補うことで、制度運用をスムーズに進めるためのパートナーとして機能します。
● 概要:AIは「制度を動かす人」を支える存在
「AIで自動化」と聞くと、“申請や承認を人がしなくてよくなる”といったイメージを持たれるかもしれません。
しかし、実際の制度運用においてAIが果たす役割は、人に代わるのではなく、人を支えることです。
ここで整理しておきたいのが、ITとAIの違いです。
役割 | IT(情報技術) | AI(人工知能) |
主な機能 | 正確な計算・処理・記録 | 判断支援・ナビゲーション・対話補助 |
例 | 入力エラーの検出/承認ルートの自動分岐/ログの保存 | 規程に基づくルート提案/申請内容の改善提案/対話での申請ナビ |
制度への貢献 | ミスのない処理を実現する | 正しく理解・判断しやすくする |
つまり、ITは制度の「処理・記録」を担い、AIは「判断や対話の補助」で制度の“動かしやすさ”を支えます。
● AIが制度運用で乗り越える「3つの壁」
制度が現場で回らない主な原因は、「やり方が分からない」「判断が難しい」「操作が面倒」という人側の障壁です。
AIはこれらを解消するために設計されており、次の3つの壁を乗り越える力があります。
① 言語の壁:多国籍・多言語環境における“理解できない”を解消
- いまや日本企業でも外国籍人材の比率は年々増加
- 社内規程や制度の運用説明が日本語のみでは対応しきれない
- 英語・中国語など多言語での制度説明やルート案内が必要
AIができること
- 自動翻訳による申請・承認のガイド対応
- 規程の要点や申請手順を複数言語で提示
- 曖昧な表現の補足説明や、制度用語のやさしい言い換え提案
② 専門性の壁:制度判断を“その都度調べる”負担を軽減
- 法務・会計・人事など、判断に一定の専門知識が必要な場面が多い
- 「誰の承認が必要か?」「この申請には何を添付すべきか?」が迷われやすい
- 担当者によって判断がブレる、属人的になるといった課題が発生
AIができること
- 社内規程を学習したナレッジベースに基づくルート提案
- 過去の同種申請と承認傾向の自動提示
- 「この申請は過去にどう処理されたか?」を可視化して判断を支援
③ ITスキルの壁:操作画面に依存しない、会話型の運用支援
- 操作メニューや設定項目が複雑で、現場担当者には難解なことが多い
- 「間違えたら困る」「どの申請フォームが正しいか分からない」という不安
- そもそも“ワークフロー画面に入る”ことが億劫になってしまう
AIができること
- 会話形式のチャットUIや音声入力で申請・ルート提案をサポート
- 「何を申請したいか」に応じて、必要なフォームや手順を自動ガイド
- 操作ミスや設定ミスを検知し、リアルタイムで修正アドバイスを表示
● 文書ライフサイクルにおけるAI活用の具体例
AIは単に「処理を速くする」ための技術ではありません。
文書ライフサイクル全体を見たとき、制度運用の質を高め、ミスや属人化を防ぐ補助役として機能します。
① 作成フェーズ:曖昧な申請を“迷わず・正確に書ける”よう補助
- 記入例やよくある申請文を提案
- 抽象的な目的欄に対して、補足コメントや改善例を提示
- 社内規程の該当条文を表示して、記載内容との照合を支援
② 承認フェーズ:判断が“誰でも同じようにできる”よう標準化
- 規程や予算、関連資料などを参照し、必要に応じてアラートを発出し承認サポート
③ 保管フェーズ:探しやすく・使いやすく保存する仕組みを整備
- 自由な切り口で、自然言語による文書検索
- 自由な切り口で、自然言語によるレポーティング
- AIテキストマイニングにより、文書の内容までレポーティング
④ 保存フェーズ:必要な記録が残り、活用しやすい形に変換
- 操作ログの自動監視
- 不審なログに対する自動アラート
まとめ(比較軸⑤:AI×ITでどこまで自動化につながるか)
AIを搭載しているかどうかではなく「どの工程で、どのような補助をしてくれるのか」が制度運用の成否を分けます。
とくに重要なのは、次の3点です。
- ルールを理解できない人でも、迷わず制度に乗れるようにする支援
- 判断に迷ったときに、妥当な基準や過去事例を提示できる仕組み
- 設定や操作が難しい人でも、会話ベースで制度を扱える設計
このようにAIは、制度を“動かす側”のストレスや誤りを減らし、制度を守る・使う・改善するというすべての場面に寄り添う“伴走型支援ツール”として機能します。
よくある質問(比較軸⑤:AI×ITでどこまで自動化につながるか)
A1:AIは補助にはなりますが、万能ではありません。「どの操作をどうサポートするか」が明示されている製品を選ぶことが重要です。
A2:AIは判断を“代行”するのではなく、“補助”する立場です。最終判断は人が行い、その判断を支える材料や視点をAIが提供します。
A3:入力補助・判断サポート・レポート作成などで、業務の“確認・調整・手戻り”を大きく減らせます。ただし効果は導入設計次第です。
A4:はい。ナレッジベースを更新すれば、ルート提案や判断補助の内容も即座に変わるため、制度改定時の運用変更がしやすくなります。
A5:使えます。特に申請者や承認者のITスキルにばらつきがある現場では、会話形式で制度が案内される設計は非常に効果的です。
比較軸⑥:レポーティング──制度は実行状況を“見える化”してこそ改善できる
Q:制度運用ができていれば、わざわざレポートで集計や分析をしなくてもいいのではないでしょうか?
A:一見そう思えますが、“制度が正しく回っているかどうか”を客観的に確認・改善するには、運用状況を定量的に把握することが不可欠です。レポートがなければ、問題が起きていることにも気づけません。
● 概要:制度運用は「できているつもり」ではなく、「見えること」で信頼される
ワークフロー制度は、導入しただけで完成ではありません。
申請や承認がどのように行われているか、実際の運用状況を可視化してはじめて、制度として“信頼される状態”が成立します。
とくに次のような問いに答えられない状態は、制度が形骸化している兆候です。
- どの部署で、何件くらい申請されているのか?
- 承認に時間がかかっている部門はどこか?
- 差し戻しや却下が多い申請種別は何か?
- 運用が偏っている部署・担当者はいるのか?
こうした実態が“分からない”ままでは、制度の形を整えても中身の改善が進みません。
● 紙・Excel時代では“改善の視点”が持てなかった
紙やExcelによる申請・承認フローでは、個別の書類を処理することはできても、制度全体の運用状況を把握・改善するのは非常に困難でした。
例えば──
業務例 | 見えなかったこと |
経費精算書(紙) | 部門別の支出傾向/交際費の集中状況/重複購入の有無 |
出張申請(メール) | どの部署がどの目的で何回出張しているか/承認速度の差 |
稟議書(Excel) | 申請理由の傾向/判断のバラつき/却下率の可視化 |
契約書保管(ファイルサーバ) | 更新漏れ・廃棄漏れの把握/リスク条項の有無や偏り |
このように、「制度がどう動いているか」は、“その場の処理”からは分かりません。
制度を組織の中で機能させ続けるには、集計・分析・改善の視点が不可欠です。
● ワークフローにおける主なレポートの種類とその意味
制度運用を可視化するレポートには、大きく3つのタイプがあります。
① 件数・処理状況のレポート(量とスピード)
- 申請件数・承認件数・差し戻し件数などの定量的な運用状況
- 平均処理時間や滞留件数などの流れのスムーズさ
- 部門別/担当者別の申請・承認傾向
使いどころ
「どこで止まっているか?」「誰がボトルネックか?」を客観的に把握する
② 内容傾向のレポート(判断の中身)
- 申請理由・自由記述欄のキーワード分析
- 件数の多い申請タイプや特定部門での偏り
- 差し戻し・却下の理由のパターン化
使いどころ
制度そのものの見直し、申請書の改善、マニュアルの更新に活用できる
● ERPのレポートだけでは見えない“判断の裏側”
ERPなどの基幹システムにもレポーティング機能はありますが、それは主に結果データ(数値や処理実績)を扱います。
一方、ワークフローシステムで記録されるのは、“誰が、なぜ、どのように判断したか”という制度の履歴そのものです。
項目 | ERP | ワークフロー |
扱う情報 | 実績データ(発注金額、支払状況など) | プロセスデータ(判断の記録、承認の履歴) |
見える内容 | 結果の集計 | 判断の根拠やプロセスの可視化 |
改善対象 | 費用・工程 | 制度・ルール・運用設計 |
ERPだけでは、「なぜこの支出が承認されたのか?」「誰がどう判断したのか?」という問いに答えられません。それを可視化・改善するのが、ワークフローシステムのレポートの役割です。
まとめ(比較軸⑥:レポーティング──制度は実行状況を“見える化”してこそ改善できる)
- 制度が運用されているかどうかを判断するには、「使われているか」だけでなく、「どのように使われているか」を見える化する必要があります。
- 申請の傾向、判断の偏り、滞留の要因などを数値で把握することで、制度の形骸化を防ぎ、実態に即した改善が可能になります。
- レポート機能が備わっているだけでなく、現場が使える形で可視化・分析・共有できる構造になっているかが選定のポイントです。
よくある質問(比較軸⑥:レポーティング──制度は実行状況を“見える化”してこそ改善できる)
A1:運用状況が“見えていない”と、改善のタイミングを逃したり、制度の形骸化に気づけなかったりします。回っているように見えて、ボトルネックが潜んでいることも多いです。
A2:ERPは「何が起きたか」を数値で見せてくれますが、ワークフローは「なぜそれが起きたか」「どう判断されたか」といった制度プロセスを可視化します。
A3:はい。たとえば、判断理由の偏りや曖昧な申請理由の傾向など、これまで“感覚”で語られていた問題をデータで見える形にしてくれます。
A4:自動レポートやテンプレート付きのダッシュボードがある製品も多く、知識がなくても活用しやすくなっています。導入前に“現場でも使える設計か”を確認しましょう。
A5:大切なのは、“見るため”のレポートではなく、“改善につなげる”ためのレポートであること。運用実態を定期的に確認する仕組みがある製品であれば、形骸化は防げます
比較軸⑦:ROIの最大化を目指す──目に見えるコストだけでなく、期待する効果を見極める
A:価格は判断材料のひとつですが、“安い=良い”とも“高い=高機能”とも限りません。制度運用において本当に得られる効果を見極め、投資対効果(ROI)の観点から総合的に判断することが重要です。
● 概要:「価格」は見えても、「効果」は見えにくい
ワークフローシステムを選ぶ際、「初期費用」や「月額料金」は最初に比較しやすい指標です。
しかし、価格だけを根拠に選定すると、制度運用の継続や改善に必要な要素を見落とす危険性があります。
実際には、多くの企業で次のような2つの誤解が起きています。
誤解①:安い製品の方が、お得で効率的に使えるはず
- 表面的な費用は低くても、設定が煩雑だったりサポートが弱く、運用に多くの人手や時間がかかってしまう
- 結果として、「社内規程を制度どおりに運用する」ために、“目に見えない人件費”や“手戻り”が発生し、トータルコストは高くなる
誤解②:高価な製品は、高機能でサポートも万全なはず
- 高価格でも「制度運用に関係のない汎用機能が多い」「設定が複雑すぎて使いこなせない」といったケースも存在
- 製品価格は、機能性だけでなく、本社の地代、人件費、営業方法(対面営業/代理店経由/広告投資)などの“提供企業側のコスト構造”によって決まることも多い
価格が高いから良い/安いから悪い、とは限らない
ワークフローシステムの真価は、「制度が確実に、効率的に、継続して回るかどうか」という効果(=ROI)で評価すべきです。
● ROIという視点で洗い出す“見えないコスト”と“得られる効果”
ROI(Return on Investment:投資対効果)とは、かけた費用に対して、どれだけの価値や成果が返ってくるかを測る考え方です。
ワークフロー選定でもこの視点が非常に重要です。
とくに制度運用においては、次のような“目に見えないコスト”が日々発生しています。
工程 | 実際にかかっている負荷 | 解消できる仕組み |
文書作成 | 規程を調べて書き直し/添付忘れの差戻し | フォーム設計とAIによる入力支援 |
回覧・郵送 | 印刷、押印、備品手配、宛名書き、移送 | ペーパーレスとルートの自動分岐 |
内容確認 | 契約書や見積の照合/判断のばらつき | AIによる過去事例の提示・判断傾向分析 |
転記 | ワークフローと他システムへの二重入力 | 自動連携によるデータ移送 |
進捗確認 | 「今どこ?」を毎回メールで確認 | ステータス可視化・自動通知機能 |
このような工程が残ったままだと、どれだけ価格が安くても制度は形骸化し、
結果として“高くついた”選択になってしまいます。
● AIは“制度の使いやすさ”を高め、ROIを押し上げる
近年はAI搭載型のワークフローも増えていますが、大切なのは「どこで、どのような支援をするAIなのか?」を見極めることです。
AIによって期待される効果は、単なる自動化ではなく「制度を使いやすくすること=制度のROIを高める」ことにあります。
領域 | AIの役割 | 得られる効果 |
判断支援 | 承認ルートの提案、記入内容の補足 | 判断のばらつき・誤申請の防止/スピード向上 |
コミュニケーション支援 | チャット形式で申請案内、差戻し理由の説明 | 業務フローの属人化回避/問い合わせ削減 |
改善のヒント提供 | レポート生成、判断傾向の可視化 | 制度改善の推進/経営判断への材料提供 |
AIは、制度の「手順」だけでなく「理解・判断・定着」の質を支え、人件費や制度トラブルの“未然防止”に貢献するツールです。
● ROIを最大化するために確認すべき3つの視点
価格だけでは見えてこない“制度に対する効果”を見抜くためには、製品選定の際に次の3つの観点から評価することが重要です。
① 制度運用の支援力(制度をどれだけ確実に回せるか)
- 社内規程に沿った承認ルート設計ができるか?
- 保存や廃棄まで含めて、一貫したライフサイクル管理が可能か?
- 「設定すれば動く」ではなく、「誰が使っても制度どおりに処理できる」状態を作れるか?
制度の実行品質そのものが、ROIの土台です。
② 運用の継続性と変更のしやすさ(属人化しない・現場で回せる)
- 業務部門で制度変更・ルート追加が可能な設計か?
- ノーコードと言いつつ専門知識や認定資格が必要ではないか?
- 支援体制(テンプレ・マニュアル・チャットサポートなど)はあるか?
制度は“一度決めたら終わり”ではなく、変化し続けるもの。変更対応力もROIに直結します。
③ 将来の拡張性・改善力(データの活用余地があるか)
- 運用実績のレポート化、改善点の可視化が可能か?
- AIによる判断傾向の分析や異常検知はできるか?
- ERPやBIツールとの連携によって、経営判断につなげられる設計か?
制度を「見える化→改善→投資効果の拡大」へ導く仕組みがあるかどうかが、長期的なROIを左右します。
まとめ(比較軸⑦:ROIの最大化を目指す)
ワークフローシステムにかかるコストは、初期費用や月額費用といった「価格表に出る金額」だけではありません。
文書作成の手間、設定の属人化、手戻り、問い合わせ対応、監査対応など、制度運用の裏側で消費される人件費と労力こそが、最も大きなコストになりがちです。
さらに、高価な製品=制度に合う製品とは限らないという点も重要です。
製品の価格は、必ずしも機能や支援体制の豊かさだけでなく、提供企業側のコスト構造(立地・人件費・営業スタイルなど)によって決まっている場合も多いためです。
だからこそ、選定時にはこう問いかけるべきです。
「この製品は、制度運用の成果を最大化できる構造になっているか?」
ROIを最大化するとは、制度が無理なく・継続的に・確実に回る状態を実現できるかどうかを見極めることです。
価格だけでは測れない“制度の価値”を正しく評価しましょう。
よくある質問(比較軸⑦:ROIの最大化を目指す)
A1:導入はできても、制度がうまく運用できず、属人化や手戻りが発生すれば、結果的に高くつく場合があります。継続運用まで見据えるべきです。
A2:そうとは限りません。価格には提供企業の営業費・固定費も含まれており、機能の過剰提供が価格を押し上げているケースもあります。
A3:制度を“守る”だけではなく、“改善する”ためには、判断傾向の見える化や異常検知といったAI分析が効果的です。中長期的には必須機能です。
A4:「この制度が止まると、月に何件の業務が遅れ、どれだけ人件費が無駄になるか」という具体例で話すと説得力が増します。ROIのシミュレーションも有効です。
A5:多くの企業が「運用しやすさ」「制度変更への対応力」「レポートの見える化」などを重視しています。単なる価格比較ではなく、“制度が動く仕組みか”という観点が主流になりつつあります。
おわりに
ワークフローシステムを比較する際、多くの方が「価格」「見た目」「機能数」といった“分かりやすい指標”に目を向けがちです。
しかし、制度運用に本当に求められるのは、「現場が使い続けられること」、そして「制度どおりに、判断と記録が繰り返される構造があること」です。
7つの比較軸の本質をもう一度整理すると、次のとおりです
社内規程を確実に実行する仕組みが構築できるか?
承認ルート・保存ルールを強制力を持って再現できるか?
いつでもどこでも使えるか?
制度が“止まらない設計”になっているか(PC・スマホ・チャット)
情報セキュリティに十分配慮されているか?
ねつ造・改ざん・隠ぺい・情報漏えいを仕組みで防げるか?
現場が運用・変更できるか?
制度改定や組織変更に“業務部門主導”で対応できる設計か?
AIや自動化によって判断や運用が支援されているか?
制度に関する判断・コミュニケーションが仕組みで補助されているか?
制度の運用状況が“見える化”されているか?
レポート・ダッシュボードで制度を改善するサイクルがあるか?
価格ではなく、制度運用のROIで判断できるか?
価格表にない“見えないコスト”と“制度効果”まで含めて評価できるか?
制度は、「決めること」ではなく「繰り返し、守られること」に意味があります。
だからこそ、ワークフロー選定においては、導入後に制度が実際に動くか、続くか、改善できるかを視点に置くべきです。