ワークフローシステム講座

日々の業務プロセスに課題を感じている方へ向けて、全14回のシリーズで、ワークフローシステムの基礎から業務改善の確かなヒントまでを全てお届けします。

【運用方法】ノーコードで運用できるワークフローシステムとは?

目次

ノーコードとは何か?「誰でもできる」とはどういうことか(前半)

~“コーディング不要”と“誰にでも使える”はまったく別の話~

ノーコードとは「プログラミング不要」なだけである

ノーコード(No Code)とは、文字通りコード(=プログラミング言語)を書くことなくアプリケーションや機能を構築できる技術カテゴリを指します。

ノーコード=専門スキルがなくても、GUI(画面操作)でアプリや処理を作れる仕組み

代表的なツール群としては以下が挙げられます。

  • Microsoft PowerApps
  • Zapier / Make(旧Integromat)
  • OutSystems
  • Kintone
  • Monday.com など

ただし注意すべきは、「ノーコードだから誰にでも扱える」という誤解です。

実際には、設計力・制度理解・画面設計のセンスが求められる場面も多く、単にコーディングが不要というだけでは不十分なのです。

スーツ姿の男性のイラストを中心に、三方向から矢印が伸びている図。左には歯車のアイコンと「設計力」、中央上には書類とメガネと歯車のアイコンに「制度理解」、右には電球と人の頭部のアイコンとともに「設計のセンス」と書かれている。下部には「一つでも欠けてしまうと、思い通りの設計はできない」というテキスト。

もちろんプログラミングスキルがなくても構築・運用ができるということは1つの前進ですが、相応の専門性が求められるということであれば、専任の担当者を設けたり、業務部門と専任担当者との間の多くのコミュニケーションを取ったりする必要があります。そのため、コスト面やスピード感といった点において、「業務部門で運用ができる」という状態に対して見劣りします。

「誰でも使えるノーコード」とは、どのような条件を満たしているか?

「誰でも使える」とは、次のような設計条件が揃って初めて成立します。

1. 操作画面にガイドや補足説明がある

  • 設定項目に「これは何を意味するのか」「どのような値を入れるべきか」が書かれている
  • プルダウン・チェックボックスなどの入力形式が整っていて、迷わず進められる構造
左側に青い縦長のツールバーがあり、上から「テキスト」「チェックボックス」「項目」「スライダー」「表」「並び替え」と並んでいる。チェックボックスのアイコンがクリックされており、右上の吹き出しには「チェックボックスを追加します。」と表示。右側には「ここに項目をドロップ」「ここにテキストボックスをドロップ」などの灰色のボックスが並ぶ。左には「初心者でも迷わない“UIナビゲーション”」「✔ガイドあり」「✔補足説明あり」というテキストがある。下部に「※画像はイメージです。」と書かれている。

2. 初期状態で使えるテンプレートが充実している

  • 業務用途別(例:稟議・休暇・購買)にプリセットされた設計例があり、ゼロから設計する負担が軽い
  • 専門知識がなくても「この項目を残せば制度を守れる」というテンプレ設計が用意されている
テンプレート選択画面のイメージ。リストには「宴議」「休暇」「購買」の3つの選択肢があり、「宴議」が緑色で選択されている。「作成」ボタンが水色で強調表示され、画面下には「※画像はイメージです。」および「初期状態で使えるテンプレートの充実・設計負担が軽い」という説明がある。

3. 権限設定と運用制御が明確に分かれている

  • 「自由に編集して良い範囲」と「制度として固定すべき範囲」が管理画面上で分かれており、設定ミスによる制度崩壊を防げる
情報システム部門と現場担当社員の役割を対比した図。左の赤色背景は「情報システム部門」を示し、「承認ルート」「権限管理」などに関わる「基盤」が強調されている。右の水色背景は「現場担当社員」を示し、「通知文言、通知時間」「表示順」などに関わる「使いやすさ」が強調されている。各領域にスーツ姿の人物イラストが配置されており、下部には「制度を崩さない」「誰でも設計できる」の共存が重要であるというメッセージが記載されている。

ノーコードでも「制度を回せる」ための設計条件とは?

ノーコードツールを業務部門が活用する場合、単に「フォームが作れる」「ルートを設定できる」といった機能面だけでなく、制度運用に必要な“仕組みのサポート”が備わっているかどうかが極めて重要です。

以下は、制度を「誰でも回せる」ための設計条件です。

1. ポリシーベース設計:複雑な条件を“ルール”で簡潔に表現できる

  • 「金額が50万円を超えたら部長承認、それ以下は課長でOK」などのルートをルール記述ベースで簡潔に設定できる構造
  • フォーム項目や承認経路を“if文”的に設定でき、視覚的なフロー図の操作に頼らず制度設計が可能

2. UIナビゲーション:設定時に“迷わせない画面設計”

  • 設定項目ごとに「これは何のための項目か」「どのような値を推奨するか」が明示されている
  • 初心者でも項目に沿って操作すれば、「制度に準拠した設計」になるようガイドされている
  • ミス設定が起きた際も、リアルタイムでアラートや補足が表示されるとベター

3. テンプレートとレシピ:ゼロから作らなくても“制度を守れる”

  • 稟議/出張/休暇/支払依頼/契約など、あらかじめ制度対応済みのテンプレートが搭載されている
  • そのまま使っても制度に準拠できる設計パターンが提供されており、「作るより選ぶ」感覚で制度を導入できる
  • 自社ルールに応じたレシピ(カスタマイズ済みひな形)を呼び出して再利用することも可能

4. 設定権限の分離管理:誰でも使えるが、誰でも崩せない

  • 業務部門の担当者が設定できる範囲と、情シスや管理部門だけが変更できる範囲を明確に分けて設計
  • たとえば、「承認ルートの基本構造は変更不可/通知文言や入力フィールドの並び順は編集可能」など
  • 「誰でも設定できる自由さ」と「制度を崩させない制限」が両立してこそ、“現場で使えるノーコード”になる

まとめ

  • ノーコードとは、「コーディング不要」であっても「誰にでも使える」わけではない
  • 制度運用に必要なのは、「迷わず・ミスなく・正しい構造で」設計・修正・運用ができる支援機能
  • ジュガールでは、ポリシーベース設計・UIナビ・テンプレ・権限分離などにより、制度を現場主導で運用・更新できる“支援されたノーコード設計”を提供している

ノーコードで制度運用を“現場主導”に変えるには? ~「ルールを守る」から「ルールを運用する」側へ~

情シス依存では制度が動かない時代に入っている

ワークフローシステムをはじめとする社内制度の運用において、従来は情報システム部門(情シス)が制度設計・設定変更・運用改善のすべてを担っていました。

しかし今、以下のような理由から制度運用を業務部門主導に切り替える必要性が高まっています。

【背景1】情シスの工数が不足している

  • DX推進、セキュリティ対策、基幹系システムのクラウド化などで、情シスは“余力がない”状態が常態化
  • 「承認ルートを変更してほしい」「フォームを1項目追加したい」といった小さな依頼が後回しになる/忘れられる事態が発生
情シス部門の負担を表した図。中央にノートパソコンを操作する男性と、「DX化推進」「セキュリティ」「クラウド化」の3つの主要業務アイコンが並ぶ。一方で、「承認ルートを変更してほしい」「フォームを1項目追加したい」といった現場からの小さな依頼が吹き出しで表示されている。下部には「情シス部門の工数が足りず、小さな依頼が『忘れられる』『後回しになる』事例が発生」と書かれており、赤文字で課題が強調されている。

【背景2】制度が属人化・ブラックボックス化している

  • フロー設計や設定方法が特定の社員に依存しており、「辞めたら誰も直せない」「触るのが怖い」という状況に
  • 組織改編・規程改定に即応できず、制度だけが「古いまま動いている」ケースも散見される
業務フローの設計がブラックボックス化している問題を示す図。中央には黒い立方体と「ブラックボックス化」のラベルがあり、設計内容や設定方法が「特定の社員に依存」している様子が表現されている。右側には、「辞めたら誰も直せない」「触るのが怖い」「制度が古いまま動いている」といったブラックボックス化によるリスクが箇条書きで示されている。

【背景3】制度変更が“年1回”では間に合わない

  • 法令改正/業務ルールのアップデート/組織構成の変更など、制度は流動的に変わるものになっている
  • 情シス起点ではスピードが追いつかず、現場が自分で制度を修正・再設定できる環境が必要
制度変更の頻度と現場の対応力のギャップを示す図。年度のタイムライン上に「4月:制度変更」「6月:法令の改正」「12月:組織構成の変更」などの重要イベントが表示されている。下部には「年1回の制度変更では間に合わない… 現場が自ら制度を修正・再設定できる環境が必要」というメッセージが赤と黒の文字で強調されている。

制度運用の主導権を「業務部門に戻す」ための視点とは?

ノーコードで重要なのは、「誰でも操作できる」ではなく、
「制度を知っている人が、制度どおりに設定・修正できること」である

現場主導の制度運用を実現するには、単に「設定できるUI」だけでなく、以下のような構造が必要です。

必要な視点支える仕組み
制度知識を操作に反映できるポリシーベース設計/条件分岐の簡易設定
規程変更に自力で対応できるテンプレートの再利用/通知・ルートの柔軟化
情報が属人化しない設定画面の説明・ガイド/履歴の自動記録
操作に対する不安がない試験運用モード/プレビュー機能/ロール制限

ジュガールは、制度を“現場で回せる”構造を最初から備えている

ジュガールは、単に「ノーコードでフォームやルートが作れる」だけのツールではありません。
文書手続きに特化することで、制度を運用する業務担当者が、自分で制度変更・再設計・運用改善を繰り返せる構造をシステムレベルで備えています。

1. ポリシーベース設計:複雑なルールも“ルールとして記述”できる

  • 金額条件・役職・部門などに応じた承認ルートを、視覚的なフロー編集なしで簡潔に設計
  • 「経費が10万円を超えたら部長承認」など、制度ルールそのままの言語感覚で設定可能
  • フローの“図面化”ではなく、“構造化された条件”として記述することで、属人性も排除
申請フローの条件分岐を視覚化した図。スタート地点から「合計金額<100000」または「合計金額≥100000」の条件でルートが分かれ、それぞれに応じて承認者が割り当てられている。特定条件(例:部長承認など)が視覚的に表示され、右側には「合計金額≥100000」の拡大表示もある。下部に「複雑な条件を『ルール』で簡潔に表現できる」という説明文。

2. UIガイド付きの設定支援:制度を知らなくても迷わず設計できる

  • 申請フォームやルート設計画面に、「これは何のための項目ですか?」という補足説明や設定例を表示
  • 必須項目・設定ルールの誤りがあれば、その場でアラート表示
  • ITに不慣れな担当者でも、操作に迷わず制度構造を維持できる
申請フォームのUI設計画面のイメージ図。左には「レイアウト」「主要パーツ」「申請者情報」「選択・評価」などのパーツが一覧で並び、中央にはドラッグ&ドロップで構成できる申請フォームエリアが表示されている。申請者情報の入力欄に対して「必須項目が未入力です」や「この項目には社員名を入力します」といったガイド表示あり。下部には「ITに不慣れな現場担当者でも制度構造を維持できるUI」との説明。

3. 制度別テンプレートと「レシピ」の提供

  • 稟議、出張、休暇、支払、契約など、制度運用に必要な基本型を初期設定済みで提供
  • そのまま使っても、社内規程に準拠したフロー・フィールドが整っているため、ゼロからの設計が不要
  • よく使う制度は“レシピ化”して社内で再利用 → 属人化の防止・スピード導入が可能

4. 権限分離による運用制御:「変えすぎない」安全性も備える

  • 設定可能な項目をロールごとに制限(例:通知設定は現場でOK/承認ルートは管理者のみ)
  • 制度を“現場で運用”しながら、“勝手に変えられない仕組み”も担保
  • 情シスと業務部門が連携して制度を保守できる分担設計
部門責任者とシステム管理部門のワークフロー権限設定の違いを比較した表。左側の部門責任者は「ユーザー管理」の閲覧・編集のみ許可されており、他の項目は未選択。右側のシステム管理部門は、複数の項目(所属、役職、会社設定など)に対して閲覧・編集・削除のフル権限が与えられている。下部には「権限分離で『制度を壊さず』現場で運用」というメッセージが強調されている。

「現場主導」は、“勝手に変えられる”ではなく、“制度が止まらない”こと

ジュガールが重視するのは、制度の属人性をなくし、制度を止めずに育てていく構造です。

  • 異動・退職があっても、制度の運用が継続できる
  • 新しい業務にも、現場で即座にフローを適用できる
  • 不正・誤設定は抑えつつ、改善や見直しは自力で可能

こうしたバランスを実現することで、「制度が“動かせる”」「変更が“怖くない”」環境が整い、制度そのものが持続可能なインフラへと進化します。

「Jugaad(ジュガール)」の目指す姿を示す図。左側には「制度が属人化している」悪い例として、制度A〜Cが個人ごとに紐づけられている様子が描かれており、大きな赤いバツ印が表示されている。右側には「制度が属人化せず持続可能」な良い例として、制度A〜Cが組織に紐づき、複数の人が「制度を止めずに育てる」サイクルに関わる様子が図示されている。

まとめ

  • 情シス依存から脱却し、制度を業務部門が“自分たちで回せる”仕組みが求められている
  • 現場主導を成立させるには、ガイド付きUI・テンプレート・設定制御などの仕組みが必要
  • ジュガールでは、「制度を崩さず、回し続けられる」ノーコード設計を提供しており、
     制度を止めない組織運営を支えている

ノーコード × ガバナンス:自由設計と制度統制を両立する~「誰でも触れる」が「制度を壊さない」構造へ~

ノーコードは「制度を崩す危険性」もはらんでいる

ノーコードの最大の魅力は、現場主導で制度や業務を自由に設計・変更できる点にあります。
しかし一方で、その“自由さ”が裏目に出て、制度運用が崩れるケースも少なくありません。

よくあるリスク

リスク例説明
承認ルートを無断で短縮「課長承認だけでいいでしょ」と勝手にルートを削除
フォーム項目が不足必須の項目(例:支払先、理由など)を外してしまい、差し戻しが多発
保存期間が初期値のまま重要な書類が短期間で削除対象になってしまう
規程と不一致な構造最新の制度変更が反映されておらず、旧ルールのまま運用され続ける

ガバナンスの視点で求められる「制度の枠内での自由設計」

ノーコードで制度運用を現場に委ねるには、次のような“制度を守る仕組み”を設計段階から取り込んでおく必要があります。

1. 承認ルートの逸脱防止

  • ポリシーベースの承認条件は管理部門側で固定
  • 現場担当者は「表示順」や「通知文言」など一部のみ変更可能
左側にはワークフロー権限設定の表があり、広範な編集・削除権限に赤いバツ印が重ねられている。右側には「通知の文言設定」と「表示順の変更」を表すベルのアイコンと上下矢印アイコンがあり、これらは緑の二重丸で囲まれている。下部には「現場担当者は『表示順』や『通知文言』を編集可能」と強調表示されている。

2. 必須項目・非編集項目の固定化

  • 重要な入力フィールドは非削除・非編集設定でロック
  • 業務ルール上の「マスト要件」はテンプレートとして固定されている状態を確保

3. 設定変更の履歴管理

  • 誰がいつ何を変更したかのログを自動保存
  • 意図しないルート変更・保存ルール崩壊が起きた際の検証が可能
操作ログの一覧を示す表のイメージ図。ユーザー名、操作画面、操作内容、操作日時が記録されており、「申請フォーム(ID:9999)を変更」「承認経路(ID:4321)を変更」などの具体的な内容と日時が表示されている。表の一部が赤枠で強調されている。下部には「ログが残ることで『意図しないルート変更』や『ルールの崩壊』の検証が可能に」と強調された説明文がある。

4. 定期的なレビュー/テンプレート更新

  • 管理者が定期的にテンプレートの最新状態をレビュー
  • 「規程変更が反映されていない制度」を一覧で洗い出せるような設計が望ましい

ジュガールでは「自由すぎず、制度は壊れない」ノーコード構造を採用

ジュガールでは、業務担当者が制度を自由に設計・修正しながらも、制度そのものが崩れないよう、以下のような統制機能が設計レベルで統合されています。

制御項目ジュガールでの対応
テンプレートの管理部門テンプレートの一元管理/共通設定項目の固定化が可能
設定ガイドと制限機能重要項目は非削除設定/編集ミスはリアルタイムでアラート通知
システムガバナンス設計操作ログ・権限ロール・編集禁止フラグなどを標準装備

まとめ

  • ノーコードは制度運用を現場に委ねる“強力な武器”である一方、制度を壊す“諸刃の剣”にもなりうる
  • そのためには、「自由に設計できるが、勝手に逸脱できない」構造が必須
  • ジュガールでは、テンプレート固定/承認条件ロック/ログ保存などにより、ガバナンスと柔軟性を両立するノーコード運用を実現している
川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。