ノーコード・ローコード・スクラッチ開発を徹底比較―業務アプリ開発の最適な選び方ガイド

この記事のポイント

  • 業務アプリの「開発手法」は、スピード・コスト・拡張性に影響し、経営判断そのものである
  • ノーコード・ローコード・スクラッチの3つの開発アプローチは、それぞれ異なる戦略的価値を持つ
  • ジュガールは、現場主導のスピード感と経営統制を両立する“第4の選択肢”として注目されている

なぜ「業務アプリの作り方」は、経営戦略そのものなのか?

業務アプリケーションの開発方法を「技術の選択肢のひとつ」として捉えてしまうと、本質を見誤ります。実際には、それが企業の開発スピード、ITコスト、組織文化にまで影響を及ぼす、戦略的かつ構造的な判断事項だからです。変化のスピードが加速する市場環境では、社内課題にどれだけ素早く、柔軟に対応できるかが競争力に直結します。そしてその俊敏性の土台をつくるのが、「業務アプリをどう作るか」という選択なのです。

この選択肢には、代表的に3つのアプローチがあります。1つ目は、現場主導でスピーディな解決を実現するノーコード開発。2つ目は、迅速性に加えて拡張性も求める組織に適したローコード開発。そして3つ目は、自社独自の価値を最大限に引き出すスクラッチ開発です。これらは単なる実装手段の違いではなく、それぞれがまったく異なる開発思想と経営的意味を内包しています。

この記事では、こうした手法の違いを、技術面・コスト面・リスク面といった多角的な視点から解きほぐします。目的や制約、将来の展望に応じてどの選択が最適なのかを見極めるための、実用的な指針を提示することが本稿の目的です。整理し、貴社の現場や経営判断に役立つ「選び方の地図」を提供します。

Q. なぜ経営層も開発手法の選択に関わるべきなのか?

A. 開発のやり方によって①サービスやシステムをリリースするまでのスピード、②投資額(人件費・ライセンス費など)、③カスタマイズの自由度や将来的な拡張性が大きく変わるからです。つまり、どの開発手法を選ぶかは、ビジネスモデルや競争力にも直結する「経営判断」だと言えます。

業務アプリ開発における3つの手法とその考え方

業務アプリの開発には、大きく分けて①ノーコード開発、②ローコード開発、③スクラッチ開発の3つのアプローチがあります。ここで重要なのは、これらの違いが単なる技術や工数の問題ではなく、それぞれ異なる価値観や戦略的優先順位に基づいているという点です。自社の目的や制約に合った選択をすることが、後の成功を左右します。

業務アプリ開発の3つの手法を比較した図。左から順にノーコード開発(コードを書かずにアプリを作る、現場主導でスピーディ)、ローコード開発(最小限のコードで作る、速さと柔軟性のバランス型)、スクラッチ開発(ゼロからコードを書く、差別化された競争力を狙う)と、それぞれの特徴がイラスト付きで記載されている。

選択肢1:ノーコード開発 ― 現場で素早く課題解決したいなら

ノーコード開発は、プログラミングの知識がなくてもアプリを構築できる手法です。あらかじめ用意されたUI部品や業務ロジックをマウス操作で組み立てられるため、現場の従業員自身が、自分たちの業務に即したアプリを迅速に立ち上げることができます。こうしたシチズン・ディベロッパー(専門的なIT知識がなくても業務アプリや自動化を自分で作る非IT部門の社員のこと)の活用は、現場で発生する小さな課題を、その場で素早く解決するための有効な手段です。特に、全社展開ではなく部門単位での導入を想定する場合に、スピード感と実行力を発揮します。

選択肢2:ローコード開発 ― スピードも拡張性も両立したいなら

ローコード開発は、ノーコードの直感的な操作性に加え必要に応じて開発者がコードを記述できる柔軟性を備えたアプローチです。たとえば、UIの大部分はビジュアル操作で構築し、複雑なビジネスロジックや外部システムとの連携部分にはコードを活用するといった使い分けが可能になります。これは、「ノーコードでは物足りないが、スクラッチに踏み切るには重すぎる」と感じている企業にとって、最適な選択肢となり得ます。現場の自由度とIT部門の統制を両立できる点でも注目されています。

ノーコードとの違いは?
→ 「コードを書いて機能を広げられるかどうか」が最大のポイントです。

選択肢3:スクラッチ開発 ― 差別化・独自性を追求するなら

スクラッチ開発は、既存のツールやフレームワークに依存せず、ゼロからアプリケーションを構築する手法です。自由度は無限大であり、たとえば業界特化の業務フロー、独自開発のアルゴリズム、あるいはブランディングを反映したユーザー体験など、他社にない価値をシステムに落とし込むことが可能です。その分、時間とコストは大きくなりますが、それを上回る競争優位性や知的財産としての価値が得られるため、戦略的な意味合いを強く持つアプローチと言えるでしょう。

「ノーコードとローコードの違いはわかった。でも、どのツールを選んだらいいかわからない」そんな声をよく耳にします。選択肢が増えた今こそ、「現場でスピード開発したい」「でもIT統制も手放せない」というニーズに応える“第4の選択肢”が求められています。

ジュガールは、申請・報告・稟議などの業務アプリを“誰でも簡単に、でもちゃんと統制されたかたちで”つくれる業務現場発のノーコードツールです。スマホ最適化や動的フォーム、AI補助まで備え、単なる画面作成ツールでは終わりません。ツール選びに迷っている方こそ、一度ジュガールをご覧ください。

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アプリ開発の費用対効果:3年間の総所有コスト(TCO)で見る費用対効果

業務アプリの開発は、ITだけでなく企業の財務戦略にも大きく関わるテーマです。多くの企業は初期費用に注目しがちですが、実際には、ライセンス料や人件費、保守・運用費、そして見落とされやすい隠れコストまで含めて考える必要があります。ここでは、アプリ導入後3年間の「総所有コスト(TCO: Total Cost of Ownership)」に着目し、ノーコード・ローコード・スクラッチ開発それぞれの費用構造を比較。表面的な価格差ではなく、実際の経済性を明らかにします。

初期投資の中身は? ライセンス料 vs 人件費

開発手法によって、初期投資の性質はまったく異なります。

  • ノーコード/ローコード(ツール利用型)
     初期費用の中心はライセンス料やサブスクリプション料金です。これらは月額制で部門単位の予算(運営費=OpEx)で処理できるケースが多く、導入の意思決定も比較的スピーディです。
  • スクラッチ開発(オーダーメイド型)
     初期費用の大部分は開発人件費です。たとえば、開発エンジニアを数ヶ月フルタイムでアサインする必要があるため、数百万円〜数千万円規模になることも珍しくありません。この場合、企業の資産として計上される「資本的支出(CapEx)」となり、上層部の承認や投資計画への組み込みが必須となります。

運用コストはどう違う? サブスクリプション vs インフラ&保守

開発後、アプリを安定稼働させるための「運用コスト」も、それぞれの手法で構造が異なります。

  • ノーコード/ローコード
     運用費の中心は継続的な利用料(サブスクリプション)です。この中に、インフラ運用・バージョンアップ・セキュリティパッチなどのコストも含まれるため、追加費用の心配が少なく、予算管理がしやすいのがメリットです。
  • スクラッチ開発
     こちらは費目が多岐にわたります。クラウド利用料のほか、もっとも大きいのが保守・サポート費用です。一般的に、初期開発費用の約15%が毎年の保守費としてかかると言われており、このコストはアプリを使い続ける限り継続的に発生します。

比較表:3年間の総所有コスト(TCO)試算モデル

中規模の業務アプリ(50ユーザーが利用する社内業務管理システム)を3年間運用した場合のTCO試算モデルは以下の通りです。スクラッチ開発は初期投資が突出して高い一方、ノーコードとローコードは継続的なライセンス料がTCOの大部分を占めるなど、コスト構造の違いが明確に分かります。

費用項目ノーコード (ユーザー課金型)ローコード (ユーザー課金型)スクラッチ開発
初期費用
ソフトウェア・ライセンス料¥0¥0¥0
開発人件費¥500,000 (内製設定)¥1,000,000 (内製設定+一部開発)¥12,000,000 (SE2名, PG2名 x 3ヶ月)
運用費用 (3年間合計)
プラットフォーム利用料¥5,400,000 (¥3,000/月 x 50人 x 36ヶ月)¥3,600,000 (¥2,000/月 x 50人 x 36ヶ月)¥0
プラグイン・追加機能料¥1,080,000 (月額3万円と仮定 x 36ヶ月)¥0 (標準機能で対応と仮定)¥0
インフラ費用 (クラウド)(利用料に込み)(利用料に込み)¥1,800,000 (月額5万円と仮定 x 36ヶ月)
保守・運用人件費(利用料に込み)(利用料に込み)¥5,400,000 (初期開発費の15%/年 x 3年)
3年間TCO合計 (概算)¥6,980,000¥4,600,000¥19,200,000

注: 上記はあくまで一般的な要件に基づいた試算モデルであり、実際の費用はアプリケーションの要件、料金プラン、開発体制によって大きく変動します。

Q. ツール利用型の開発で注意すべき「隠れコスト」はありますか?

A. 主に3つ挙げられます。1つ目は、標準機能では足りない部分を補うための有償プラグインや連携サービスの購入費用。2つ目は、従業員がツールの使い方を習得するための学習時間という間接的な人件費。そして3つ目は、既存の基幹システムなどと連携させるための追加開発費用です。

技術面から見た開発手法の違い:何ができて、何ができないのか

コストだけでなく、「技術的にどこまでできるか」という視点も、開発手法を選ぶうえで重要な判断材料です。特に、

  • UIやUXの自由度(どこまで見た目や操作性を自由に設計できるか)
  • 大量データやアクセス集中に対する処理能力
  • 他のシステムとの連携のしやすさ

といった観点から、自社にとってどの選択肢が最適なのかを見極めていく必要があります。ここでは、それぞれの開発手法が持つ技術的な特徴と、その裏にある制限について詳しく見ていきましょう。

アプリの見た目や操作性はどこまで自由に作れる?

まず注目すべきは「柔軟性」と「カスタマイズ性」です。業務アプリの画面や操作性が、どこまで自社仕様に合わせて作り込めるかは、導入後の使いやすさに直結します。

  • ノーコード開発では、あらかじめ用意されたテンプレートや部品を組み合わせることで、短時間でアプリを作ることができます。ただし、デザインや機能はプラットフォームの制約を受けるため、自社独自のUIや細かい業務ロジックを反映させたい場合には限界があります。
  • ローコード開発になると、開発者がコードを加えることで、標準機能を超えるカスタマイズが可能になります。たとえば、自社ブランドに沿ったUIを設計したり、複雑な承認フローを組み込んだりと、より実践的な業務アプリが実現できます。
  • スクラッチ開発は、設計から実装まで全て自由に構築できるのが最大の強みです。時間と予算、そして開発スキルがあれば、想像しうるあらゆる機能やデザインを具現化することができます。

データ量やアクセス集中に、どれだけ耐えられる?

次に考えたいのが、システムのパフォーマンスとスケーラビリティ(拡張性)です。ユーザー数の増加や、大量の業務データを扱う運用フェーズにおいて、アプリの処理能力は非常に重要です。

  • ノーコード開発の場合、パフォーマンスはプラットフォーム側に依存します。ユーザー側でのチューニングが難しいため、大量のデータ処理やアクセス集中が発生した場合に、処理速度がボトルネックになる可能性があります。
  • ローコード開発は、その点でより優れています。開発者がボトルネックとなる処理をコードで最適化できるため、ノーコードに比べて大規模データや高負荷に対応しやすくなっています。
  • スクラッチ開発では、システムアーキテクチャを自由に設計できるため、最も高いパフォーマンスが期待できます。ただし、性能を引き出すには、サーバー設計やデータベース構成を含めた高度な技術力と綿密な設計が不可欠です。

他のシステムと連携させることはできるか?

業務アプリは、それ単体で完結することは少なく、多くの場合、基幹システムや外部サービスとの連携が必要になります。この「連携性」と「拡張性」も重要な比較軸です。

  • ノーコード開発では、プラットフォームが提供するAPIや連携機能、サードパーティ製プラグインの範囲に制限されます。必要な連携先がなければ、追加開発も難しく、手詰まりになることもあります。
  • ローコード開発になると、標準的なAPIやデータ連携機能を備えていることが多く、会計システムやSFA、クラウドストレージなど、さまざまな外部システムと連携することが可能になります。
  • スクラッチ開発であれば、連携先の仕様に合わせてコードを自由に書けるため、理論上はどんなシステムとも連携可能です。ただし、その実装には相応の工数とスキルが求められます。
Q. 「ベンダーロックイン」が心配です。どの手法が最もリスクが低いですか?

A. これは「どちらの依存関係を、自社がより管理しやすいか」という戦略的な問いになります。ノーコード/ローコードはプラットフォーム提供ベンダーに依存する「ベンダーロックイン」のリスクがありますが、スクラッチ開発もまた、そのシステムを熟知した特定の開発者や特定の技術スタックに依存する「実装ロックイン」という、異なる種類のリスクを抱えています。

長期的なリスク管理:アプリ開発手法ごとの潜在的な脅威とは?

業務アプリの開発において重要なのは、作った後も長く安定して使い続けられるかどうかです。初期の開発コストやスピードにばかり目がいきがちですが、実際には運用フェーズに入ってからのリスクが、企業の業務やシステム全体に大きな影響を及ぼします。ここでは、開発手法ごとに異なる長期的なリスクに焦点を当て、特に「野良アプリの発生」「セキュリティ管理の所在」、そして「技術的負債や属人化」といった点について、それぞれの背景と対策を解説します。

現場で自由にアプリを作れるようになることで生じる問題とは?

開発基盤の生成から市民開発の普及に至る流れを示した図。市民開発の拡大に伴い『データ流出』や『サイロ化』のリスクが生じることを示唆し、下部に『あらかじめ安全な開発環境を整備』との注意喚起が強調されている。

ノーコードやローコードといったツールの登場により、現場の担当者が自らアプリを開発する「市民開発」が広がっています。これにより、業務改善のスピードが格段に上がる一方で、現場が独自に作成したアプリがIT部門の管理外で運用されるケースが増えており、これがいわゆる「野良アプリ」「シャドーIT」として問題視されています。

こうしたアプリは、セキュリティや情報管理の観点で不十分な状態で運用されることが多く、たとえば意図せず社外にデータが流出したり、社内で重複した情報がサイロ化したり、あるいは業務フローと整合しない形で使われてしまうこともあります。こうした事態が続くと、せっかくの業務改善がむしろ組織全体の混乱を招きかねません。

これを防ぐには、市民開発そのものを否定するのではなく、IT部門があらかじめ「安全な開発環境」を整えておくことが有効です。たとえば、使用可能なツールをあらかじめ選定し、セキュリティや運用面でのルールを明確にしながら、現場に必要な範囲で自由に使ってもらう仕組みを用意することが大切です。IT部門はこれまでのような“許可の門番”ではなく、現場を支える“伴走者”として関わっていく姿勢が求められます。

セキュリティ上の責任は、開発手法によってどう違うのか?

セキュリティの責任分担は、採用する開発手法によって大きく異なります。ノーコードやローコードのようなツールベースの開発では、サーバーやネットワークなどのインフラ部分については、基本的にプラットフォーム提供会社が責任を持ちます。一方、ユーザー企業側は、アクセス制限の設定やパスワードの管理、アプリ内の情報の取り扱いといった運用レベルでのセキュリティに注力する必要があります。

これに対し、スクラッチ開発を選択した場合、システムの構築から運用までを自社で担うことになるため、セキュリティに対しても全面的な責任を負うことになります。アプリケーションに潜むわずかな脆弱性が、企業にとって致命的なリスクとなりうる以上、設計・実装・運用の全フェーズにおいて、十分なセキュリティ体制と技術力が求められます。

複雑化するアプリの属人化や、技術的負債はどう防ぐべきか?

属人化や技術的負債などのリスクを回避するために必要な『ルール整備』を示す図。構造設計、ドキュメント整備、レビュー体制の構築、命名規則といった取り組みがパソコン画面やフローチャートのイラスト付きで紹介されている。

ノーコードやローコードによるアプリ開発は「誰でも簡単に使える」といった利便性が注目される一方で、属人化や技術的負債といった長期的なリスクも見逃せません。特に作り込まれたアプリは内部構造が複雑化しやすく、開発者本人にしか分からない状態が発生しやすいため、異動・退職によって保守や改修が困難になる恐れがあります。

このような課題を回避するためには、構造設計やドキュメント整備、レビュー体制の構築、命名規則などのルール整備が重要です。

ジュガールはこうしたリスクを解消するために、文書管理・ワークフロー・アプリ開発を統合したプラットフォームを提供しています。これにより、フォームや承認フロー、文書の保存・廃棄までを一貫して管理し、誰が作ってもルールに則ったアプリを構築可能。「誰でも作れる」だけでなく「みんなで育てられる」アプリを実現でき、属人化や野良アプリの発生を防ぐ仕組みが整っています。

≫複雑化するアプリの属人化や、技術的負債はどう防ぐべきか?

戦略的判断フレームワーク:最適なアプリ開発手法をどう選ぶか?

ここまでで、業務アプリの開発手法にはそれぞれ明確な特徴と向き・不向きがあることをご理解いただけたかと思います。では実際に、自社の目的や課題に対して、どの手法を選ぶべきなのか。ここからは、その判断を具体化するための「意思決定フレームワーク」を紹介します。

開発手法の選定は、機能の多さや費用の大小で決めるものではありません。大切なのは、自社がどんなビジネス目標を持ち、どのような業務課題を解決しようとしているのか。その目的に合った手法を選ぶことで、アプリ開発はコストではなく投資となり、組織に確かな価値をもたらします。

自社の目的から手法を選ぶ「開発手法マトリクス」という考え方

業務改善と事業成長の軸、スピード・柔軟性重視と統制・品質重視の軸で構成された開発手法マトリクス図。ノーコードは『すばやく現場改善』、ローコードは『会社全体のプロセス標準化』、スクラッチは『独自の顧客体験の実現』、ローコード×スクラッチは『新しいサービスをスピーディに市場投入』と記載されている。

アプリ開発のゴールは企業によってさまざまです。たとえば、現場レベルの業務をすばやく改善したいのか、会社全体の標準プロセスを整えたいのか。それとも、自社だけの強みを持つ独自サービスを開発したいのか。こうした目的によって、最適な開発手法は異なってきます。たとえば、現場の業務をすぐに効率化したい場合はノーコードが有効です。現場担当者が自らアプリを作り、迅速に課題を解決できます。一方で、業務全体に関わるような標準化や統制を必要とするプロセスには、ローコードやスクラッチといった、より柔軟で高度な開発が必要です。

新しいサービスをスピーディに市場に出したい場合は、ノーコードやローコードで最小限の製品(MVP)を短期間で作り、仮説検証を繰り返す方法が適しています。反対に、他社に真似できない顧客体験や独自機能を提供したいなら、テンプレートや既存機能では対応できないため、スクラッチ開発による完全なコントロールが不可欠になります。また、既存の基幹システムを活かしつつ、フロントエンドのモダナイズを図りたいといったケースには、既存資産と柔軟に連携できるローコードが最適です。

このように、自社の課題や目標が明確になれば、それに合った開発手法は自然と絞り込めていきます。

ビジネス目標 / 課題の特性最適な手法理由
部門内の迅速な業務効率化ノーコード現場担当者(シチズン・ディベロッパー)が自らの手で、最も速く課題を解決できる。局所的な問題解決に最適。
全社的な標準プロセスの構築ローコード / スクラッチ複雑なワークフローと厳格なガバナンスが求められる。ローコードは速度と統制を両立し、スクラッチは完全な統制を提供する。
新規事業の市場投入までの時間短縮ノーコード / ローコードアイデアを迅速に形にし、市場の反応を検証するMVP(Minimum Viable Product)開発に最適。
独自の顧客体験の創出ローコード / スクラッチテンプレートでは実現不可能な、ブランド独自のUI/UXを構築する必要があるため。
中核的な競争優位となるシステムの構築スクラッチ独自のアルゴリズムやビジネスロジックなど、模倣困難な知的財産をシステムとして構築する場合、完全なコントロールが不可欠。
既存の基幹システムの延命・近代化ローコード既存システムのデータをAPI経由で活用し、モダンなUIを持つフロントエンドアプリを迅速に構築するのに最適。

実践的な判断力を養う:具体的なシナリオで考える最適解

ここでは、代表的な3つのケースを通じて、実際にどのような手法が最適となるのかを考えてみましょう。

業種別に課題・分析・結論を示した業務アプリ開発手法の選定例。製造部門は『紙の報告が遅く非効率』→『スマホ対応のシンプルなアプリが必要』→『ノーコードが最適』。物流企業は『Excel業務の統合コストが高い』→『業務適合性・API連携が重要』→『ローコードで低コスト構築』。スタートアップ企業は『独自技術が製品』→『高パフォーマンスと知財保護が必要』→『スクラッチ開発が唯一の選択肢』と結論づけられている。

シナリオA:製造部門のヒヤリハット報告アプリ

まずひとつ目は、製造現場におけるヒヤリハット報告のデジタル化です。従来、紙で行っていた報告が煩雑で、集計にも時間がかかっていたという状況です。このようなケースでは、現場作業員がスマートフォンで手軽に入力できる簡単なアプリが求められます。スピードと使いやすさが何より重要であり、ITスキルに自信がないユーザーでも直感的に操作できることが前提です。こうしたニーズには、ノーコード開発が最も適しています。部門の管理者が自ら短期間でアプリを構築し、すぐに現場に展開できるため、導入効果も早期に現れます。

シナリオB:中堅物流企業の基幹業務システム

次に紹介するのは、中堅規模の物流企業における業務システムの統合です。配車管理や請求業務などがExcelに分散され、業務全体の一元管理ができていないという課題がありました。ただし、大規模なERPの導入にはコストの面でハードルがあるという事情もあります。このような場合には、自社業務に柔軟にフィットし、必要な機能をスピーディかつ低コストで構築できるローコード開発が最適解となります。APIを介した外部システムとの連携や、将来の機能追加にも対応できる拡張性も備えており、段階的なシステム刷新にも向いています。

シナリオC:技術系スタートアップの革新的な金融サービス

最後の例は、テクノロジー系スタートアップが展開する金融サービスに関するシナリオです。この企業は、独自開発したAIアルゴリズムをコア技術としており、それを用いた新しい投資体験をユーザーに提供しようとしています。ここでは、アプリケーションの性能や拡張性に加え、他にはないUIや演出といった、徹底した独自性が求められます。また、技術そのものが知的財産であり、競争力の源泉にもなっているため、第三者のプラットフォームに依存するわけにはいきません。このような条件下では、スクラッチ開発しか選択肢がありません。初期コストや開発負荷は高くなりますが、それを上回るだけの戦略的価値があるという判断です。

【課題解決の新たな視点】バラバラなニーズを、ひとつのプラットフォームでまとめて解決するには?

『現場の負担軽減』『社内業務プロセスの統一』『IT統制と現場の自由の両立』という3つのニーズを、1つのプラットフォームで解決することを示す図。スマートフォンやPCでの画面設計、業務フローの可視化、自動採番設定などの機能がそれぞれ対応していることがイラストで表現されている。

多くの企業が抱える業務改善の課題には、大きく3つの方向性があります。「現場の負担を減らしたい」「全社的な業務プロセスを統一したい」「IT統制と現場の自由を両立したい」。それぞれが重要である一方で、この3つを別々のツールで解決しようとすると、システムが複雑になり、情報が分断されたり、管理が難しくなったりするという新たな課題を生むこともあります。そこで今、これらのニーズをひとつのプラットフォーム上で解決するという考え方が注目されています。

現場での入力を簡単にしつつ、経営にも役立つデータにしたい

「現場での報告業務はなるべく手軽にしたいが、集めたデータは経営判断に使えるように整備したい」という悩みは、現場と経営をつなぐ立場にある方々にとって非常に現実的な課題です。簡単に入力できるアプリは存在しても、そこから先の分析や承認に使えるシステムとのつながりが弱いと、結局は手作業が残ったり、データが活かされなかったりします。逆に、分析機能が豊富な高機能ツールは、入力画面が複雑で現場には敬遠されてしまうことも少なくありません。

このジレンマを解決する手段として、有効なのが「現場の使いやすさ」と「データ活用力」の両方を備えたノーコード型の統合ツールです。たとえば、スマートフォンから簡単に写真や位置情報を使って報告ができる一方で、その情報が自動で承認フローに流れたり、グラフとして可視化されたりするような仕組みを、ひとつのプラットフォーム上で完結できるツールです。こうした設計であれば、現場の負担を最小限に抑えつつ、経営側もデータを活用できるという理想的なバランスが実現できます。

現場の報告アプリと社内ワークフローをつなげて、二重入力をなくしたい

現場での報告や承認が遅れたり、紙の書類が滞ったりといった課題は、いまだ多くの企業で解決されていません。ノーコードツールを導入しても、複雑なフォームやスマホでの使いづらさが原因で、現場に定着しないケースも見られます。また、報告アプリ・経費申請・稟議システムなどがバラバラに運用されていると、同じ情報を何度も入力する必要があり、手間やミス、情報共有の遅延を引き起こします。

こうした課題を解決するのが、ジュガールのノーコード型業務プラットフォームです。スマートフォンから写真・位置情報・手書きコメント付きでリアルな報告ができ、そのまま承認フローやレポートに自動連携。報告・申請・承認がひとつの流れで完結します。さらに、入力データは電子帳簿保存法にも対応して保管されるため、法令順守も安心。使いやすさと一貫した業務フローを両立し、現場とバックオフィスの分断を解消します。

≫報告・承認・集計までひとつで完結。ジュガールの業務アプリ作成ツールで、紙業務のストレスをゼロにする

現場の改善を応援しながら、IT部門としての統制も保ちたい

業務アプリの民主化が進む中で、現場の担当者が自分たちでツールを作り、改善を進めるという動きが活発になってきました。しかし、ここでIT部門がよく直面するのが、「現場に自由を与えすぎると管理できなくなる」「かといって制限すると改善が止まってしまう」というジレンマです。現場に任せすぎると“野良アプリ”が増え、セキュリティや情報ガバナンスが崩れる恐れがあります。一方で、すべてを中央でコントロールしようとすると、現場のスピード感や柔軟性が失われてしまいます。

この相反する課題に対する現実的な解決策としては、「ガバナンス機能を備えたノーコードツール」の導入が考えられます。たとえば、報告フォームの項目は現場が自由に変更できるが、承認ルートの設定や重要なデータの取り扱いについては管理者の権限でのみ操作可能とするような仕組みです。こうしたツールであれば、現場の裁量とIT統制のバランスを保ちながら、安全かつ効率的に業務改善を進めることができます。

業務アプリ開発に関するFAQ

Q1. ツールで開発を始めた後、より複雑な機能が必要になった場合、別の手法に移行できますか?

A. 一般的に、異なるプラットフォームや開発手法への直接的な移行は困難です。多くの場合、アプリケーションのロジックや画面設計は、移行先でゼロから再構築する必要があります。データ自体はファイル形式で出力して移行できることが多いですが、機能の移行はできません。そのため、将来的な拡張性を見越して、最初の手法選択を慎重に行うことが重要です。

Q2. IT部門がない中小企業でも、オーダーメイド(スクラッチ)開発は可能ですか?

A. はい、可能です。社内に専門のエンジニアがいなくても、外部の開発会社に委託(外注)することでスクラッチ開発は実現できます。ただし、その場合でも、自社の要件を正確に伝え、プロジェクトの進捗を管理する能力や、高額な開発・保守コストを継続的に負担できる財務体力が求められます。

Q3. 「アジャイル開発」という言葉を聞きますが、これは本記事で紹介した手法とどう違うのですか?

A. これらは比較の土俵が異なります。「ノーコード」「スクラッチ」などがアプリケーションを“何で作るか”という「開発手法」を指すのに対し、「アジャイル開発」は“どのように作るか”という「開発プロセス(進め方)」を指します。アジャイル開発は、短い期間で「計画→設計→実装→テスト」のサイクルを繰り返し、柔軟に仕様変更に対応していく進め方であり、本記事で紹介したどの開発手法でも採用され得る概念です。

Q4. 結局、どの開発手法が最も「優れている」のでしょうか?

A. どの手法にも明確なメリット・デメリットがあり、「あらゆる状況で最も優れた万能な手法」というものは存在しません。重要なのは「自社の目的や課題、組織文化にとって、最も適した手法は何か」という視点です。本記事で紹介した比較軸を参考に、ぜひ自社の状況に合った最適な手法を選択してください。

結論:あなたの会社にとって、今もっとも優先すべき開発方針は何か?

ここまでお読みいただいたとおり、業務アプリの開発手法をどう選ぶかという判断は、単なる技術論ではありません。それは、企業のビジネスモデルや文化、さらには中長期的な成長戦略とも密接に結びついた「経営判断」であると言えます。どの手法が正解かは、会社ごとの課題や目的によって変わります。たとえば、部門単位で目の前の業務課題をすばやく解決したいのであれば、やはりノーコード開発が有効です。現場の担当者が自ら手を動かして改善できるこの手法は、スピードを重視する業務に最適です。

一方で、業務の効率化だけでなく、他システムとの連携や将来の拡張性も見据えたいと考えるなら、ローコード開発がそのバランスをうまく取ってくれます。IT部門としての管理も利きつつ、現場のニーズにも柔軟に応えることが可能です。そして、もしあなたの会社が、独自の技術や仕組みを武器に市場での競争優位を確立したいと考えているのであれば、スクラッチ開発以外に選択肢はありません。完全なコントロールを握る代わりに、大きなリソースを投じる覚悟も必要ですが、その分リターンも明確です。

どの道を選ぶにしても、最も大切なのは「自社の現状と将来像を冷静に見つめ、適切な判断を下すこと」です。その選択こそが、単なる業務効率化ではなく、真の意味でのデジタルトランスフォーメーションを成功させる第一歩となるはずです。

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