文書管理とは?判断を記録し、業務を進化させるための基本と未来展望

文書管理とは?その定義・重要性・導入効果から、AI時代に必要な体制づくりまで詳しく解説します。

この記事のポイント

  •  文書管理は「判断の記録」を残す仕組みであり、ERPを補完する
  •  文書管理は「業務の見える化」と「AI活用」の前提となる
  •  文書管理が果たす「4つの機能」は、業務品質の柱

文書管理とは何か?

1-1. 文書管理の基本的な考え方

「文書管理」とは、企業や組織において作成・受領・保存される文書を、業務上必要な形で整理・保管・活用・廃棄する仕組み全体を指します。ここでいう「文書」は、紙に限らず、WordやExcel、PDFといった電子ファイルも含まれるのが一般的です。

文書管理は単なるファイル保存や保管ではなく、

  • 必要な文書がすぐに見つかる状態にあること
  • 誰が、いつ、何を承認・記録したかが分かること
  • 定められた期間を過ぎた文書は、適切に廃棄されること
    を前提に、情報の信頼性・業務の効率・組織のガバナンスを支える重要な機能として位置付けられます。
「文書管理要件」を説明する図解。3つの要素がアイコンと共に並んでいる。左から順に、1. 文書のアクセス性(必要な時にすぐに文書を見つけられること)、2. 承認の追跡(誰が・いつ・何を承認・記録したかが分かること)、3. 適切な廃棄(定められた期間を過ぎた文書は適切に廃棄されること)。各要素に対応するオレンジ色のアイコンと番号が付いている。

1-2. 文書管理の対象となる文書とは

文書管理の対象は、社内において業務や意思決定の根拠となる“公式文書”です。具体的には以下のような文書が該当します。

分類主な文書の例主な役割
稟議設備投資の稟議書、新制度導入の稟議書、出店・撤退などの稟議組織としての意思決定を正式に記録・承認する
申請出張申請、休暇申請、支払依頼、経費精算、備品購入申請など各種業務を行うための起点(依頼)となる
報告出張報告書、事故報告書、会議報告書、業務日報、月次進捗報告など実施した内容や結果を整理・共有・証跡として残す
届出住所変更届、異動届、退職届、家族情報変更届など人事や労務、制度上の変更・事実を届け出る
社内規程就業規則、旅費・経費規程、業務マニュアル、社内ポリシーなど組織運営に関わるルールや手順を定める
契約売買契約、業務委託契約、秘密保持契約(NDA)、ライセンス契約など対外的な法的効力を持つ合意内容を明文化し、証拠性・正当性を担保する

これらの文書は、内部統制・証跡管理・業務継続・ナレッジ蓄積のために不可欠な情報資産です。

文書管理に必要な代表的な文書8種を紹介する図解。左列上から「稟議書(組織としての意思決定を正式に記録・承認)」「申請書(各業務を行うための起点)」「報告書(実施内容や結果の整理・共有・証跡)」、右列上から「休暇届(人事や制度上の変更・事実を届け出る)」「社内規程(ルールや手順を定める)」「契約書(対外的な法的効力を持たせる文書)」が示されており、それぞれイラストと簡潔な説明が付いている。文書管理において、種類ごとの役割と目的を理解することの重要性を伝えている。

1-3. 現代の業務環境と文書管理の関係

現代の業務環境では、文書の役割がこれまで以上に重要になっています。背景には次のような社会的・技術的な変化があります。

  • テレワーク・リモートワークの浸透
  • 情報漏えい・不正アクセスリスクの増大
  • 監査・税務調査・法令順守の強化
  • 属人化・業務継続性のリスク顕在化

こうした状況においては、「文書をどのように記録・管理するか」が業務そのものの信頼性や再現性に直結します。

紙での運用は限界を迎え、いつでも・どこでも・誰でもルールに則って文書を扱える仕組みが強く求められています。

「文書管理が必要な理由」を4つの観点から説明する図解。左上から時計回りに、「業務継続性(特定の人員への依存リスク)」「テレワーク(実施の増加)」「セキュリティリスク(情報漏えいや不正アクセスのリスク増大)」「コンプライアンス(監査・法令遵守の強化)」が示されている。それぞれ色分けされたアイコンとともに、文書管理の重要性を視覚的に伝えている。

1-4. 文書管理が企業活動全体にもたらす効果とは

文書管理を適切に行うことで、企業や組織には次のような効果が期待されます。

項目内容
業務効率の向上文書の検索・共有・再利用がスムーズになり、時間ロスが減少する
判断の透明性承認・決裁の履歴が明確となり、意思決定の妥当性を説明できる
コンプライアンス強化法定保存期間の順守、監査証跡の確保などに対応しやすくなる
ナレッジ共有文書を通じてノウハウを社内に蓄積・再利用でき、属人化を防ぐ
AI・DX対応文書に記録された判断・プロセスが、将来的なAI学習データや業務可視化の基盤となる

単なる「保存」の話ではなく、組織全体のパフォーマンスと信頼性を高める基盤づくりと捉えるべきでしょう。

文書管理が組織のパフォーマンスと信頼性の向上に貢献することを示した円形の図解。中央に「組織のパフォーマンスと信頼性の向上」とあり、それを取り囲む6つの要素が矢印で連結されている。時計回りに「業務効率の向上(文書検索・共有の効率化)」「判断の透明性(意思決定の履歴明確化)」「コンプライアンス強化(法的要件と監査証跡の遵守)」「ナレッジ共有(ノウハウの蓄積と再利用)」「AI・DX対応(技術革新の基盤構築)」を通じて、文書管理が組織活動を多面的に支えることを視覚的に説明している。

文書管理は、企業活動を支える情報インフラである

文書管理とは、単に紙やファイルを整えることではなく、業務の信頼性・再現性・継続性を支える戦略的基盤です。

業務の見える化、意思決定の明文化、知見の蓄積、監査対応、AI活用――すべては「適切に記録され、活用可能な文書」があってこそ実現できます。

まずは、自社の文書がどのように扱われているかを見直し、ルールと仕組みの整備に着手することが、将来の成長と変革への第一歩となります。

文書のライフサイクルを理解する

2-1. 文書ライフサイクルの全体像(作成/処理/保管/保存/廃棄)

文書管理を考える上でまず押さえるべきは、文書が業務の中でたどるライフサイクル(文書の一生)です。文書は作成されてから廃棄されるまで、以下の5段階を通過します。

  1. 作成
     申請書や稟議書などの業務文書を新たに起案する段階です。
     誰が、いつ、何の目的で文書を作ったのかを明確にし、必要な情報を適切に入力することが求められます。
     この段階では、定型フォームの整備や入力ガイドの整備が業務効率化と誤記防止に有効です。
  2. 処理
     承認や決裁など、組織としての意思決定が行われるフェーズです。
     誰がどの順番で承認するのか、いつ処理が完了したかなどが明確に記録されることが重要です。
  3. 保管
     処理が完了した文書を、業務で活用できる状態で整理・保存します。検索しやすく、必要なときにすぐアクセスできるように保管体制を整えます。
  4. 保存
     法令や社内規程に基づき、一定期間保有しなければならない文書を管理するフェーズです。特に契約書や税務関連書類など、法定保存年限に従って安全に保存する必要があります。
  5. 廃棄
     保存期間を満了した文書は、適切な手続きにより廃棄します。
     電子文書であればログを残しつつ削除、紙文書であればシュレッダーや溶解などを行い、情報漏えいを防止する対応が求められます。
文書管理のライフサイクルを5つのステップで示した図解。順に、①作成(文書を入力・起案)、②処理(承認・決裁)、③保管(検索・共有できる状態に整理)、④保存(法定年限に従って保有)、⑤廃棄(安全に削除・廃棄)と進行。各ステップには対応するアイコンがあり、文書の流れと管理プロセスを視覚的に理解できる構成となっている。

2-2. 紙と電子、運用は違っても考え方は共通

「ファイルが見つからない」「紙の書類が残りすぎて捨てられない」——そんな“アナログ文書”の悩み、溜まっていませんか?

ジュガールなら、文書の作成・回付・保存・廃棄までがワンストップ。フォルダ構成や保存年限も自動で管理され、紙書類の山や属人的な運用から、組織全体が一気に解放されます。紙からの脱却だけでなく、「整った文書管理」が“業務の質”を変えます。

>ジュガールの文書管理システムで、散らかった情報を組織の資産に変える

文書のライフサイクルは、紙でも電子でも同じ流れで管理すべきです。つまり「作成→処理→保管→保存→廃棄」という基本の流れそのものは変わりません

ただし、「やり方」や「管理手段」が異なるため、両者には以下のような違いがあります。

ライフサイクル段階紙文書の運用電子文書の運用
作成手書き、Wordで印刷・配布Webフォーム、Excelテンプレート、自動生成など
処理回覧・押印、郵送・手渡し電子承認、ワークフロー、通知・リマインドなど
保管キャビネット、バインダーに分類保管フォルダ構成・文書管理システム・検索機能あり
保存倉庫・書庫に移送し保管保存期限の自動管理、アクセス制御、改ざん防止機能
廃棄シュレッダー・焼却ログ付き削除、廃棄記録の残る電子処理

共通して必要なのは、「誰が、いつ、何を処理したか」を明確にしておくこと。
その点で、電子文書のほうがログの自動取得・アクセス制限・検索性の高さなどの面で有利です。

文書管理において「誰が・いつ・何を処理したか」を明確にすることの重要性を示す図解。文書のライフサイクル(作成、処理、保管、保存、廃棄)の各ステージについて、紙文書と電子文書の対応方法を比較形式で説明している。紙文書では手書きや印刷、押印、バインダー保管、倉庫保存、シュレッダー廃棄などが例示されており、電子文書ではWebフォームやワークフロー、検索可能な文書管理システム、自動保存管理、ログ付き削除など、効率的かつ追跡可能な管理が行われることが強調されている。

2-3. 電子化に必要な法令知識(e文書法/電子帳簿保存法)

社内文書を電子化するときに準拠しなければならない法令が「e文書法」です。
また、領収書や請求書などの国税関係書類を電子で保存する場合には、「電子帳簿保存法」というより厳格な規定にも対応する必要があります。

ドキュメントライフサイクルを整えるだけでなく、電子化によって発生する法的要請やリスクにも目を向けておかねばなりません。

とはいえ、それほど難易度が高いわけではありません。正しい理解と適切なシステム選定によって、確実に対応していくことが可能です。

e文書法におけるシステム機能要件

要件名説明技術的対応例
見読性電子化された文書を即座に視覚的に確認できることPDF形式で保存、高解像度スキャン、印刷可能なレイアウト
完全性改ざんを防ぎ、検証できる状態を維持することWORM対応ストレージ、タイムスタンプ、電子署名、変更ログ管理
機密性第三者による不正アクセスを防止することアクセス制御、暗号化、パスワード保護、ログイン履歴
検索性必要な文書を効率的に検索できることメタデータ付与、フォルダ階層、全文検索機能

電子帳簿保存法におけるシステム機能要件

要件名説明技術的対応例
真正性作成者・送信者の特定と改ざん防止電子署名、タイムスタンプ、ハッシュ値による検証
可視性電子化された文書を即座に閲覧・印刷できることPDF閲覧、帳簿ソフトでの検索・表示機能
完全性改ざん・消失を防ぎ、履歴を確認できることWORM対応、バックアップ、ログの保存
機密性情報漏えいや不正アクセスを防止することユーザー別アクセス管理、暗号化通信
検索性メタデータをもとに検索できること取引先・日付・金額などの検索条件対応
保存性法定年限(7年または10年)に応じた保存長期保存ストレージ、自動保存管理
法的証拠力電子データが証拠として認められること電子署名+電子帳簿保存法準拠システムでの保存
文書管理に関する2つの法律「e文書法」と「電子帳簿保存法」の要件を比較した図解。左側にはe文書法の4つの要件(見読性、完全性、機密性、検索性)が示され、電子文書が改ざんされず視認・検索可能であることが求められる。右側には電子帳簿保存法の7つの要件(真正性、可視性、完全性、機密性、検索性、保存性、法的証拠力)が記載され、帳簿類の電子保存において、改ざん防止や法定期間の保存、証拠能力の確保が必要であることが強調されている。どちらの法律も文書管理の信頼性と効率化を支える基盤であることが示されている。

2-4. 文書管理ルールの基本(分類、命名、保存期間、アクセス制御)

文書ライフサイクルを組織としてきちんと回すためには、文書管理に関する明確なルールの整備が欠かせません。


これがないと、ファイル名がバラバラ、保存期間が曖昧、アクセス制限が甘いといった状況に陥り、業務の非効率や情報漏えいのリスクを招きます。

文書管理ルールとは何か?

文書管理ルールとは、企業・組織において「文書をどのように分類・名前付けし、誰がいつまで保管・処理するか」などを定めた運用方針のことです。

特に重要なのは次の5つの要素です。

これらは文書管理における基本かつ必須のルールセットであり、まずはこの5点を整備することが文書管理体制をスタートさせる第一歩になります。

文書管理における5つの基本ルール(これを抑えればOK)

ルール名意義・目的初心者向けの実践例
① 分類ルール文書をどの観点で整理・グループ化するかを定める部門別(経理・人事・営業)、業務別(稟議・申請・報告)でフォルダを分ける
② 命名ルール文書名を誰が見ても内容が分かる形で統一する20240415_経費申請_山田など、日付+文書種別+氏名の形式で命名
③ 保存期間ルール文書種別ごとにどのくらいの期間保管するかを定める稟議書=5年、契約書=10年、日報=1年、報告書=3年など
④ アクセス権限ルール誰が文書を閲覧・編集できるかを制限する経理部は経費関連文書のみ編集可、他部門は閲覧のみ可などの設定
⑤ 変更履歴の管理ルール文書がいつ誰によって変更されたかを記録・保持する決裁後の文書はロック、操作ログを残す、バージョン管理を有効にする

これら5つのルールは、すべての企業・組織でまず整備すべき“基本セット”です。

さらに、自社の業種・規模・セキュリティ要件に応じて、

  • 印刷の可否
  • 外部共有の許可/禁止
  • 文書種別ごとの運用マニュアル

などを追加的に定めていくと、より高いレベルでの管理が可能になります。

補足 | ルールが整備されていないとどうなるか?

  • フォルダが人によってバラバラ、誰も文書の所在が分からない
  • 同じ内容のファイルが複数存在し、最新版が分からない
  • 保存年限を超えて文書が残り続け、情報漏えいリスクになる
  • 閲覧・編集制限がないまま、機密文書が誰でも見られる状態に
  • 誰が変更・承認したかが分からず、監査で問題になる

こうしたリスクは、ルールがない/ルールが守られていないことが原因で起こります。
逆に言えば、この5点だけでもしっかり整備すれば、文書管理の基本はクリアできます。

文書管理における5つの基本ルール(分類、命名、保存期間、アクセス権限、変更履歴の管理)を、意味・目的と実践例とともに示した表形式の図解。
分類では「文書をどの観点で整理・グループ化するか」を定め、部門別や業務別のフォルダ分けが例示されている。
命名は「誰が見ても内容が分かる形式」に統一し、日付+文書種別+作成者名の命名ルールを紹介。
保存期間は文書種別ごとに期間を設定(例:稟議書5年、契約書10年など)。
アクセス権限では閲覧・編集の制限を設け、例として部門別の編集権限設定が挙げられている。
変更履歴の管理では、文書のロックやログ記録、バージョン管理の重要性が示されている。
全体として、文書管理のルール整備が業務の効率性と信頼性の向上に寄与することを伝えている。

ルール整備が「回る文書管理」の出発点

文書ライフサイクルをスムーズに回すには、
ルール(=文書の扱い方)と、仕組み(=ツールやシステム)の両輪が必要です。

まずは、今回ご紹介した5つの基本ルールから整えてみてください。

それだけで、

  • 「探せない」
  • 「残しすぎる」
  • 「誤って消す」
    といった日常的なトラブルの多くは予防できます。

文書とチャットはどう違う?

3-1. Teams・LINE WORKSはとても便利!でもなぜ文書も必要?

近年、ビジネスの現場では、Microsoft Teams や LINE WORKS のようなメッセージアプリが急速に普及しています。リアルタイムでのやり取りや、手軽な連絡手段として、従来のメールよりも効率的な場面も増えました。

たとえば、

  • 会議の日時調整
  • 簡単な業務報告
  • 日々の進捗確認 といった業務では、チャット形式のコミュニケーションが非常に有効です。

しかし、その便利さとは裏腹に、「重要な意思決定がどこでどう行われたか分からない」「確認したはずの内容が流れてしまう」といった課題も頻発しています。

なぜでしょうか? それは、メッセージアプリが「発散のコミュニケーション」だからです。

「メッセージアプリの活用と限界」をテーマにした図解。左側にはメッセージアプリが便利に使える場面として、「会議の日程調整」「軽い業務報告」「雑談・アイデア出し」がイラスト付きで紹介されている。右側には、メッセージアプリで起こりがちなトラブルとして、「ログが漏れる」「証跡が残らない」「言った言わないが起きる」という吹き出しと困っているビジネスマンのイラストが描かれている。文書管理の観点から、メッセージアプリでは情報の証跡や記録の一元管理が難しく、リスクがあることを示唆している。

3-2. 文書は“整理・判断・記録”に向いている

一方で、「稟議」「申請」「報告」「契約」などの業務プロセスでは、やり取りを明確に“収束”させることが求められます

  • 誰が、いつ、何を判断・承認したのか
  • その結果、何をどう実行したのか
  • 将来の監査・トラブル時に、何を証明できるのか

こうした要素は、チャットでは構造的に残せません。文書で記録するからこそ、組織としての意思決定が明確に整理され、正しく“履歴として残る”のです。

このような役割を持つ文書は、「収束のコミュニケーション」の象徴です。

チャットと文書の使い分けに関する図解。左側には吹き出しアイコンとともに「チャット」の特性として、「情報が広がる」「アイデア出し」「スピード感」が挙げられている。右側にはチェックリスト付きの文書アイコンとともに「文書」の特性として、「情報をまとめる」「承認を明確にする」「履歴が残る」と記載。文書管理の観点から、文書は記録性や承認プロセスに優れており、業務の証跡を残すために重要であることが示されている。

3-3. 情報があふれる時代だからこそ、「残す」べき情報を選ぶ視点が必要

私たちは毎日、膨大な情報に囲まれています。チャット・メール・通話・ミーティング・ノート・SNS…情報が“流れる”速度は年々速くなっています。

そんな中で、「本当に大切な情報が何だったか?」を1週間後・1年後に思い出せるでしょうか?

チャットや口頭の会話はその瞬間は便利ですが、情報を探す・根拠を示すという点では非常に不向きです。

だからこそ、次のような視点が大切になります。

  • これは“正式な判断”なのか?
  • 後から誰かに説明しなければならない情報か?
  • 証跡として残すべき内容か?

このように「これは文書に残すべきか?」という判断基準を持つことが、組織の情報品質を大きく変えていきます。

「この情報を文書化すべきか?」という問いに対し、3つの判断基準を示した図解。中央に考える人物のアイコンがあり、左右と下に思考の吹き出しが広がっている。左側には青いハンマーアイコンと「正式な判断:この情報は正式な判断の一部であり、記録が必要です」、右側には緑の吹き出しアイコンと「説明の必要性:後に誰かに説明する必要があり、文書化が役立つ」と書かれている。下にはオレンジ色のビックリマークとともに「証跡の必要性:証跡として保持する必要があり、文書化が不可欠」とある。この図は、情報を文書として残すべきかを文書管理の観点から判断するための基準を示している。

3-4. 適切な使い分けが、組織の生産性と信頼性を支える

「承認はチャットで済ませたはず」「言った・言わないでもめた」——そんな経験、ありませんか?

ジュガールの文書管理システムは、チャットでは残せない“判断の証跡”を正式な文書として記録します。申請や稟議、報告といった意思決定は、誰が・いつ・どう承認したかを明確に保存。チャットや口頭では残せない“組織の記憶”を、正確に・安全に残せます。

>ジュガールの文書管理で、意思決定の証跡をすべて残せる組織へ

チャットやメッセージアプリを否定する必要はありません。むしろ、柔軟なコミュニケーションには欠かせないツールです。

重要なのは、それぞれの特性を理解し、場面に応じて適切に使い分けることです。

コミュニケーション手段特性適している場面
チャット(発散型)スピーディ/柔軟性/非公式日常連絡/アイデア出し/軽い進捗共有
文書(収束型)正式性/再利用性/証跡性稟議・申請・報告・契約・社内規程など“残すべき判断と情報”

この使い分けの意識があるかどうかで、

  • 業務の透明性
  • 情報の信頼性
  • 組織の知的資産化が大きく変わります。

情報が流れる時代こそ、“収束させて残す”という選択を

メッセージアプリが主流となった今、情報は流れるように共有されます。
その一方で、流れてしまう情報・埋もれてしまう意思決定が増えているのも事実です。

だからこそ、

  • 「これは残すべきだ」
  • 「これは正式に決裁をとるべきだ」
    という判断を“文書”という形で定着させることが、業務の信頼性と継続性を支えるのです。

文書が果たす4つの機能

4-1. 定型化:必要な情報がブレずにそろう仕組み

文書の最大の利点のひとつが、「必要な情報が抜け漏れなく、同じ形式で記録される」ことです。これを定型化と呼びます。

申請書や稟議書などにおいて、あらかじめ決められたフォームを使うことで、

  • 何を書くべきかが明確になり、
  • 承認者がチェックすべきポイントがすぐ分かり、
  • 曖昧な表現や情報不足による差し戻しが減る

といった効果があります。

「どこに何を記入すればよいか迷わない」「誰が見ても分かる」状態が、業務の質を安定させる基盤になります。

手書きで記入された申請書を、定型フォーマットの電子または印刷フォームに移行する様子を示した図解。左側には人型アイコンが手書きの申請書を記入しており、「記入が整理されていない手書き申請書」と説明されている。右側には、入力欄が整った申請書フォーマットが描かれ、「記入ミス減少」「差し戻し防止」「承認スピード向上」と記載。文書管理の観点から、申請書をフォーマット化することで情報の整合性・記録性が高まり、効率的な管理と業務処理の迅速化が可能になることを示している。

4-2. 公式化:意思決定の正当性と承認プロセスの明確化

文書には、「この判断は正式な手続きを経て決められたものです」という正当性を担保する役割があります。これを公式化と呼びます。

特に稟議や契約においては、文書に承認印や電子署名が付与されることで、

  • 誰が、どの順番で承認したのか
  • 最終的な決裁者が誰だったのか
  • 決定に至るまでの理由や背景

といった情報が残り、組織の意思決定の透明性と責任の所在が明確になります。

チャットや口頭で「OKです」と言われたとしても、それが誰の判断で、どの段階でなされたのか証明できないため、後々のトラブルにもつながりかねません。

稟議書に複数の人物が押印している様子を示す図解。中央上に稟議書の図があり、下部に複数の押印欄が描かれている。下には4人の人型アイコンが並び、それぞれの押印と矢印で対応づけられている。図の下には「責任が明確に」「履歴が残る」「監査でも対応可能」と記載。文書管理の観点から、稟議書への押印記録は意思決定プロセスを可視化し、責任の所在や承認履歴を明確にすることで、監査やトラブル対応に有効であることを示している。

4-3. 共有化:組織全体に共通理解をもたらす文書の力

文書のもうひとつの重要な機能は、関係者全員が同じ情報を持てる状態をつくることです。これを共有化と呼びます。

たとえば、報告書や社内通知、会議録などを文書で残すことで、

  • その場にいなかった人も内容を確認できる
  • 言い間違いや聞き間違いを防げる
  • 複数部署でも共通認識を持って業務を進められる

といったメリットがあります。

「言った・言わない」「知らなかった・聞いていない」といったトラブルを未然に防ぎ、組織内の情報格差を埋める効果も大きいのです。

報告書が複数の関係者に共有され、「わかった」「理解できた」「話が早い」といった反応がある様子を示した図解。左側に押印欄のある報告書が描かれ、右側には3人の人型アイコンと吹き出しがあり、黒い矢印で報告書から情報が伝達されていることを示している。文書管理の観点から、報告書として正式に記録・共有された情報は、関係者全体の理解を促進し、情報伝達の効率化や意思決定の迅速化につながることを表している。

4-4. 証跡化:監査・コンプライアンス対応を支える証拠性

最後に、文書には「あとから説明できる状態をつくる」という証拠性があります。これを証跡化と呼びます。

企業活動では、次のようなタイミングで“過去の記録”が求められます。

  • 税務署からの調査に対して、出張費の証拠を求められたとき
  • 労務トラブルが起きた際、誰がどう対応したかを説明する必要があるとき
  • 内部監査で、承認フローが正しく機能していたかを確認されるとき

こうした場面では、「記憶」ではなく「記録」が物を言います。
証跡としての文書があることで、組織は“説明責任”を果たすことができるのです。

「過去の記録が求められる事例」として、3つのケースを紹介する図解。左から順に、

黄色の虫眼鏡アイコンと「税務監査:税務署が出張費の証拠を求めるとき」

オレンジ色の天秤アイコンと「労務トラブル:誰がどのように対応したかを説明する必要があるとき」

赤色のチェック付き書類アイコンと「内部監査:承認フローが正しく機能していたかを確認する時」
が記載されている。これらの事例は、文書管理によって過去の記録が適切に保存されていれば、監査や説明責任に迅速かつ正確に対応できることを示している。

文書は「業務の質」を支える4本柱

文書管理の目的は、単に「書類を整理すること」ではありません。
文書が持つ4つの機能を活用することで、業務の質を高め、組織の信頼性を支える仕組みが実現されます。

機能概要
定型化誰でも同じように書けることで、情報のバラつきやミスを防ぐ
公式化正式な意思決定として承認プロセスを明文化・記録に残す
共有化組織内の共通認識をつくり、情報伝達の効率と確実性を高める
証跡化後から説明できる状態をつくり、監査・法務・コンプライアンスに対応

この4つの機能を意識して文書を扱うことが、

  • 業務の標準化
  • 承認の透明性
  • ナレッジの蓄積
  • ガバナンスの強化
    につながります。

文書管理の課題と改善アプローチ

5-1. 文書管理でよくある課題とその背景

「必要な文書がどこにあるか分からない」「承認済みの書類が勝手に書き換えられていた」——そんな文書管理の混乱、放置していませんか?

ジュガールなら、文書の作成・承認から保管・保存・廃棄まで、すべてがひとつのシステムで完結。改ざん防止・アクセス制御・保存期間の自動管理まで標準搭載。紙やフォルダベースの管理では実現できなかった、高度な内部統制と効率性を両立できます。

>ジュガールの文書管理ソリューションで、業務の透明性と信頼性を手に入れる

多くの企業や組織では、文書管理に関して次のような日常的な悩みやトラブルが見られます。

よくある課題現場の声(例)
文書が探せない「あの稟議、どのフォルダに入ってる?」「最新版がどれか分からない」
文書が捨てられない「念のため全部残している」「保存期間が決まっていないので不安で廃棄できない」
文書が属人化している「担当者しか場所やルールを知らない」「退職とともにフォルダがカオスに」
承認の履歴が残らない「承認はチャットだったので、あとから確認できない」「誰がOKしたか分からない」
保存ルールがバラバラ「部門によって命名や分類が違う」「保存期間が曖昧で、文書が増え続けている」

これらの課題の多くは、「文書のライフサイクルが整理されていないこと」「文書ごとのルールが明確でないこと」から生じています。

「ライフサイクル設計やルール未整備」によって発生する文書管理上の問題を示した図解。図の中央に「原因は…ライフサイクル設計やルール未整備」と大きく表示され、周囲に以下の5つの課題が描かれている:

文書が探せない:パソコンの前で困っている男性と「どのフォルダに入ってる?」の吹き出し。

文書が捨てられない:紙文書を見つめて悩む男性と「保存期間が決まっていないので廃棄できない」の吹き出し。

文書が属人化している:退職する人物と、関係者が困っている様子、「担当者しか運用やルールを知らない」の吹き出し。

承認の履歴が残らない:会話するビジネスマンとウーマン、「誰がOKしたのかわからない」の吹き出し。

保存ルールがバラバラ:フォルダやPDF、紙のイメージと「部門によって命名や分類が違う」の吹き出し。

文書管理が適切に行われていないと、情報の検索・保存・廃棄・共有・承認の各プロセスで混乱が生じ、業務効率やコンプライアンス対応に重大な支障が出ることを表している。

5-2. 無理なく始められる改善ステップ

こうした課題は、いきなり大規模な文書管理システムを導入しなくても、小さなルールの整備から着手することで、段階的に改善できます。

改善の第一歩として効果的なのは、以下のようなステップです。

ステップ実施内容
① 文書棚卸し現在どのような文書が存在し、誰がどう管理しているかをリストアップ
② 文書分類の再設計文書種別ごとの分類(稟議、契約、申請など)と保存場所を統一
③ 命名ルールの明確化「日付+文書種別+案件名」など、検索しやすく意味の通る命名規則を決定
④ 保存期間の設定稟議:5年、契約:10年など、文書ごとの保存年限を社内規程と照合して設定
⑤ アクセス権の設定閲覧・編集・削除の範囲を部門や役職ごとに明確化

特に最初の「棚卸し」が非常に重要です。今ある文書を“見える化”することで、どこから手を付けるべきかがはっきりします。

5-3. 組織で取り組むために必要な体制と役割分担

文書管理は、単に「経理部門の責任」「総務だけでやること」ではありません。会社全体としてのルールと運用体制の整備が必要です。

特に以下のような役割分担を明確にすることで、組織全体での取り組みが円滑になります。

役割主な担当者主な役割内容
全体設計総務・情報システム部門文書分類の標準化/ライフサイクル定義/アクセス権・保存年限の管理方針の策定
実務設計各業務部門の責任者部門ごとの文書整理・命名ルール整備/特有業務への対応
実行者一般社員日常的な文書登録・分類・保管/ルールの遵守
推進・監視管理部門・監査部門運用状況の確認/定期的な棚卸し・ルール違反の是正/継続的な改善活動の主導

最初にすべてを完璧にする必要はありませんが、体制づくりを明文化しておくことで、形だけのルールに終わらず「運用に乗る」文書管理が実現します。

文書管理の体制構築に必要な組織的役割分担を示した図解。上部に4つのフェーズがあり、それぞれに対応する部門と役割が記載されている:

全体設計:総務・情報システム部門が担当。文書分類の標準化、ライフサイクルの定義、アクセス権・保存年限の管理方針を策定。

実務設計:各業務部門の責任者が、部門ごとの文書整理や命名ルール整備、特有業務への対応を行う。

実行者:一般社員が日常的な文書の登録・分類・保管、ルールの遵守を担う。

推進・監視:管理部門・監査部門が運用状況の確認、定期的な棚卸しとルール違反の是正、改善活動の主導を行う。

下部に「会社全体としてのルールと運用体制の整備が必要です」と記載。
この図は、文書管理を全社的に効果的に機能させるためには、各部門が明確な役割を担い、共通ルールと運用体制を構築することが不可欠であることを示している。

5-4. 効果測定のヒント(KPI例:検索時間、保存件数、処理件数など)

文書管理を改善した効果を実感するには、「成果を数値で見える化」することが重要です。改善施策が成功しているかどうかは、以下のようなKPI(重要業績指標)で評価できます。

KPI項目測定のポイント・具体例
文書の検索時間「必要な文書を見つけるのにかかった平均時間」が短縮されたか
文書の保存件数年度ごとの保存件数の推移(必要以上に文書が溜まっていないか)
承認・処理にかかる日数稟議書の起案から決裁までにかかる平均時間
文書の重複・誤登録率同一内容の文書が複数登録されていないか/ルール違反の発生率が低下しているか
ルール違反の件数/改善対応命名規則違反、未分類ファイルの数、アクセス権限の不適切設定などの是正回数

こうした数値を定期的に振り返ることで、「何が改善できたか」「どこにまだ課題があるか」が明確になります。

小さな改善が、大きな混乱を防ぐ

文書管理に関する課題は、多くの場合、些細なルールの未整備や、誰か一人の属人的な運用から始まります。

しかし、そこに少しずつ改善を重ねることで、

  • 文書が探しやすくなり、業務がスムーズに
  • 無駄な保存や誤った情報管理がなくなり、コスト削減に
  • 承認や証跡が整い、組織としての信頼性が高まる

といった効果が確実に現れてきます。

文書管理が不適切な場合に起きるリスクと、その抑止策

6-1. 文書管理の不備が招く3つの重大リスク

文書管理には、業務の効率化や情報整理といった目的だけでなく、組織を守るための“ガバナンス機能”としての役割があります。

文書が正しく管理されていない場合、次のような深刻なリスクが現実に起こり得ます。

リスク起こる状況の例
改ざん承認済みの文書を後から書き換える/処理済みの申請内容を意図的に編集する
隠ぺい都合の悪い文書を削除/保存されるべき記録をあえて残さない
情報漏えい閲覧権限のない社員が文書を閲覧/誤って社外に共有してしまう

これらは外部からのサイバー攻撃に限らず、内部の関係者の意図的・偶発的な操作によっても発生します。つまり、内部不正や操作ミスこそ、最も現実的なリスク要因なのです。

文書管理上の重大なリスクとしての「不正行為・操作ミス」を3つの観点から示した図解。中央に「不正な削除(隠ぺい)」として、都合の悪い文書を削除したり、保存すべき記録をあえて残さない行為が記載されている。左側には「不正な修正(改ざん)」として、承認済み文書の書き換えや申請内容の意図的編集、右側には「不正な閲覧(情報漏えい)」として、権限のない社員による閲覧や社外への誤送信が挙げられている。
下部には「内部不正や操作ミスこそ、最も現実的なリスク要因」との強調文。
この図は、文書管理体制の不備によって起こり得るリスク(改ざん、隠ぺい、漏えい)を明示し、アクセス制御・履歴管理・削除制限といった管理措置の重要性を訴えている。

6-2. なぜ「内部リスク」が深刻なのか?

多くの企業では、セキュリティ対策というと「外部からの攻撃」に目が向きがちです。
しかし、実際に多くのトラブルは社内の人によって、悪意なく引き起こされているのです。

以下のような行為が、「うっかり」でも組織に大きな損害を与えかねません。

行為リスクの分類解説
権限のない人が文書を変更改ざん確定文書に手を加えることは、意思決定の記録を歪め、信頼を損ねる
権限のない人が文書を削除隠ぺい手続きに基づかない削除は、証跡を失い、不正や事故の隠蔽と同義になる
閲覧権限のない人が文書を閲覧情報漏えい社内の人物であっても、アクセス権限を超えた閲覧は情報管理上の重大な問題となる

これらは、「やってはいけない」と言っても止まるものではありません。
“できないようにしておく”ことこそが、最も確実な対策になります。

文書管理上のリスクとして、アクセス権限のない人による「変更」「削除」「閲覧」の3つの不正行為を示した図解。左側にフードをかぶった人物のイラストと「権限のない人」の文字。そこから右に向かって点線の矢印が伸び、次のような不正行為とそのリスクが説明されている:

変更 → 不正な修正(改ざん):確定文書に手を加えることで意思決定の記録が歪み、信頼が損なわれる。

削除 → 不正な削除(隠ぺい):手続きに基づかない削除は証跡を失い、不正や事故の隠蔽にあたる。

閲覧 → 不正な閲覧(情報漏えい):社内の人物であっても、権限を超えた閲覧は重大な管理上の問題。

下部には「“できないようにしておく”ことこそが、最も確実な対策になる」との強調文がある。
この図は、適切なアクセス制御や操作制限が文書管理において極めて重要であり、不正や事故を未然に防ぐためには「予防的な仕組みの整備」が有効であることを示している。

6-3. 「抑止力」としての文書管理――紙でもシステムでも共通する設計思想

文書管理には、「不正を防ぐ構造をあらかじめ組み込んでおく」ことが求められます。
この考え方は、紙文書でもシステムでも共通です。

抑止機能比較:紙文書 vs システム運用

抑止すべきリスク紙文書における対策システムにおける対策
改ざん– 文書の採番で差し替えを防止
– 朱肉印・署名
– 原本をファイリングして保管
– 承認後の変更不可設定(ロック)
– 改版履歴・バージョン管理
– タイムスタンプ管理
隠ぺい– 書類台帳による所在管理
– 原本・控えの分散保管
– 複写配布によるダブルチェック
– 削除操作のログ記録
– 保存期限設定と廃棄ルール管理
– 操作制限(削除不可期間)
情報漏えい– 鍵付きキャビネット
– 「部外秘」スタンプ
– 閲覧ルールのマニュアル化
– アクセス権限の役職・部署別制御
– 閲覧ログ記録
– 制限付き共有・外部公開の制御設定

解説 | 目的は共通、違うのは「仕組み」のアプローチ

紙文書では「制度と人の目」でリスクを防いできました。
一方、システムではこれを「自動化と制御ロジック」で実現しています。

どちらも目的は共通です。

  • 「記録を残す」
  • 「勝手に操作できないようにする」
  • 「誰が何をしたか後から分かるようにする」

つまり、文書管理の“抑止力”とは、形は違っても本質は同じなのです。

文書管理は“人”ではなく“構造”で信頼をつくる

業務がどれだけ効率化されても、改ざん・隠ぺい・情報漏えいが起きれば、企業の信頼は一瞬で崩れます。

これらのリスクを防ぐには、

  • 「人が気をつける」ことに頼らず、
  • 「間違えても起きない」ように、
  • 仕組みで守ることが何よりも重要です。

紙であれシステムであれ、“できないようにする”設計こそが、文書管理の本質的な役割です。

目的に応じたシステム選びと「統合型」の可能性

7-1. 文書管理システムは「保管〜保存〜廃棄」に強い

「文書管理システム」とは、業務で発生した文書を安全に保存し、検索・共有できるように整理するためのシステムです。代表的な製品には、Box、OneDrive、SharePoint、Google Driveなどがあります。

主な目的は以下の通りです

  • ファイルの保管・検索・共有
  • アクセス制限やバージョン管理のセキュリティ対応
  • 操作ログの記録や削除ルールなどのガバナンス対応

これらのツールは、ファイルを蓄積するには非常に優れていますが、文書をどう作成し、誰がいつ承認したかといった業務プロセスそのものを管理する機能は含まれていないことが一般的です。

また、柔軟な権限設定が可能な反面、設定漏れ・設定過多によって、「見てはいけない人が閲覧してしまう」「消してはいけない文書が削除された」といったトラブルが発生することもあります。

文書管理のプロセスを「ワークフローシステム」と「文書管理システム」の関係で説明した図解。業務の流れとして、①申請、②承認(ここまでがワークフロー)、③保管、④保存、⑤廃棄(ここからが文書管理)という5ステップで構成されている。

右側には、「文書管理システム」とは、業務で発生した文書を安全に保存し、検索・共有できるように整理する仕組みであることが示されている。
また下部には、「ファイルを蓄積するには非常に優れているが、誰がいつ承認したかといった業務プロセスの管理機能は一般的には含まれていない」との補足も記載。

この図は、文書管理は単なる保管ではなく、業務上の記録を正確に残し、効率的に検索・活用できるよう整備するプロセスであり、業務フローとの連携やルール整備が必要であることを示している。

7-2. ワークフローシステムは「作成〜処理」に特化している

「ワークフローシステム」は、社内の申請・承認・決裁といった一連の業務手続きを電子化・可視化するためのツールです。

代表的な機能には以下があります

  • 申請フォームの作成(入力チェック・分岐設定)
  • 承認ルートの設定(部署・金額に応じたルール化)
  • 承認依頼・リマインドの自動化
  • 進行状況の可視化と承認履歴の保存

ただし、承認が完了した後の文書の保管・保存・廃棄は、別のツールや手動で行う必要があることが多く、「手続き」と「証跡」が分離してしまうリスクもあります。

社内の文書処理フローを「ワークフローシステム」と「文書管理システム」に分けて説明する図解。左側には、①作成、②処理の2ステップが「ワークフローシステム」に分類され、申請・承認・決裁などの業務手続きを電子化・可視化するためのツールであることが記されている。

右側には、③保管、④保存、⑤廃棄が「文書管理システム」の領域として示され、文書の記録保持や廃棄の管理が含まれる。

下部には、「承認完了後の文書の保管・保存・廃棄は、別のツールや手動で行うことが多く、『手続き』と『証跡』が分離してしまうリスクがある」との説明がある。

この図は、文書管理の適切な仕組みが整備されていないと、業務処理の流れと記録保持の間にギャップが生まれ、監査対応や内部統制に支障をきたす可能性があることを示している。

7-3. ワークフローと文書管理を“分けて導入”するリスク

ワークフローと文書管理を別々のシステムで導入すると、次のような課題が発生しやすくなります。

発生しがちな問題背景・原因
承認済み文書の所在が不明になるワークフロー上で承認されても、保存先は手動設定/個人フォルダ任せになりがち
文書保存のルールが統一されない文書管理システムの使い方が部門ごとにバラバラで、命名や保存期限が統制されない
承認履歴と文書が分離してしまう文書管理システムには承認プロセスの情報が含まれておらず、監査時に説明できない
権限設定が二重管理になりやすいワークフローと文書管理それぞれに別々の権限設定が必要で、設定ミスや整合性崩壊が発生しやすくなる

このように、機能が別々であるがゆえに、“人手”でつなげる必要が出てしまうのが現場の大きな負担となります。

7-4. 統合型システムがもたらす安心と効率

「ジュガールワークフロー」のように、ワークフローと文書管理を一体化する「統合型」システムであれば、上記のような課題は構造的に解消されます。

統合型システムの特長

項目解説
承認と保管の自動連携承認完了と同時に文書が自動で保管・検索可能な状態になる
権限管理の一元化文書の作成・承認・閲覧すべてが一貫したロール設計で管理され、設定ミスが減る
保存期限の自動設定承認種別に応じて文書の保存期間・廃棄ルールが自動適用される
証跡の一体化申請・承認履歴と文書本体がひもづいて保管され、監査時の対応がスムーズになる
申請から廃棄までの一連の業務プロセスを、従来の「ワークフローシステム」と「文書管理システム」に分けていたものを、「統合型システム」により一元化する構成を示した図解。業務のステップは次の5段階:

申請・承認(承認完了と同時に文書が自動保管され、検索可能になる)

決裁(権限管理をロール設計で統一)

保管(文書が自動的に記録・整理される)

保存(承認種別に応じた保存年限と廃棄ルールが自動で適用)

廃棄(申請・承認履歴と文書本体がひも付いて保存され、証跡管理が容易)

上部には青い矢印で「統合型システム」と表示され、ワークフローと文書管理が切れ目なく連携される様子を表現。
この図は、文書管理を業務プロセスと統合し、記録の整合性・検索性・証跡保持を高めることで、ミス削減や監査対応強化につながることを示している。

効率化だけでなく「守り」の視点でも統合型が有利

これからの文書管理システムに求められるのは、「保存できること」ではなく、

  • 業務プロセスと連携していること
  • 証跡が残せること
  • ガバナンスの一部として機能すること

という、「業務と管理の統合性」です。

比較軸ワークフローシステム文書管理システム統合型システム (ジュガールワークフロー)
承認機能×
保管・検索機能△(手動で保存)◎(承認と同時に自動保存)
証跡管理◎(履歴あり)△(履歴は文書操作のみ)◎(申請と文書がセットで管理)
権限の整合性△(設定箇所が複数)◎(役職・部署ごとの一元設定)
法令対応(証跡・保存)◎(業務の流れで自然に対応)

判断の記録としての文書の価値

ERPは“結果”を記録するシステム。でも、「なぜそう決めたか」という“背景”まで、残せていますか?

ジュガールの文書管理システムは、稟議や報告書など“判断の過程”を含む文書と、それに紐づく承認フロー・操作ログ・保存履歴までを一元管理。だから、過去の意思決定を誰が見ても追跡できる——説明責任にも、AI活用にも対応する“経営の記録基盤”が整います。

ジュガールの文書管理システムで、「判断の履歴」まで見える化する

8-1. 文書管理とERP、どちらも必要な“記録の仕組み”

企業活動の多くは、ERP(基幹業務システム)で処理され、売上、仕入、経費、人件費などの業務データが効率的に蓄積・統合されています。

そのため、「すでにすべての記録はERPに残っている」「文書管理はもう不要なのでは?」と考える人も少なくありません。

しかし、ERPが記録しているのは、取引や業務の“結果”に関する数値や実績です。その背景となる「なぜその判断がされたのか」「どのような経緯だったのか」といった情報は含まれていません。

たとえば、ある設備の導入費用がERPに登録されていても、次のような情報はERPには残っていません。

  • なぜその設備が必要とされたのか
  • 他の選択肢と比較した際のメリット・デメリット
  • 誰が、どのような根拠で承認したのか

これらの“判断の背景”を記録するのが、文書の役割です。
ERPと文書管理は、相互に補完し合う「記録の仕組み」なのです。

ERPと文書管理の得意分野を比較し、企業には「両方の記録」が必要であることを示す図解。左側には「ERPが得意な業務」として、「売上・仕入れ・経費」や「取引・業務の実績」など数値ベースの結果管理が紹介されており、「数値や実績の結果のみ」に特化していると記されている。

一方、右側には「文書管理が得意な業務」として、「なぜ設備が必要とされたのか」や「誰がどのような根拠で承認したのか」といった判断の背景や意思決定の根拠を記録・可視化する強みが示されている。

下部には「企業に必要なのは【両方の記録】」という強調されたメッセージがあり、数値情報(ERP)と意思決定の根拠(文書管理)の両方を適切に残すことの重要性が示されている。

8-2. ERPは「結果のみ」、文書は「原因+結果」を記録する

ERPは、「いつ・どこで・誰が・いくらで」などの処理された“結果”の記録に特化しています。

それに対して文書は、「なぜその判断に至ったのか」「どのような検討がされたのか」といった“原因”も含めた記録を残します。

つまり、

  • ERPは「What(何が起きたか)」
  • 文書は「Why(なぜそうなったか)」

を記録する役割を持っています。

文書には、以下のような情報が含まれます。

項目内容例
目的何のためにその支出・取引・行動が行われたのか
背景市場環境、社内事情、問題意識などの背景要因
検討経緯他の案との比較、代替策、検討プロセスの記録
承認者・時期誰がどの段階で承認したか、決裁者とそのタイミング

これらはERPでは記録されませんが、説明責任、内部統制、再発防止、業務ナレッジ化といった観点では欠かせない情報です。

ERPと文書管理の違いを対比した図解。左側にはERPが扱う業務として、「売上・仕入れ・経費」や「取引・業務の実績」といった数値や実績の結果のみが記録されると示されている。

右側には「文書管理」で扱うべき4つの項目が記載されており、それぞれ:

目的:その支出・取引・行動の目的

背景:市場や社内事情、問題意識などの背景要因

検討経緯:比較や代替案、検討プロセス

承認者・時期:誰がいつどの段階で承認・決裁したか

さらに、「これらはERPでは記録されませんが、説明責任、内部統制、再発防止、業務ナレッジ化の観点で欠かせない情報である」と強調されており、図の下部には「企業に必要なのは『原因+結果』」とまとめられている。

この図は、ERPが記録する「結果」だけでは不十分であり、文書管理によって意思決定の「背景や根拠」も記録することが企業運営において不可欠であることを示している。

8-3. 判断の記録は、業務の“見える化”と“再利用”を実現する

判断のプロセスを記録することで、以下のような業務価値が生まれます。

効果内容
説明責任の確保社内外からの問い合わせや監査対応時に、判断理由・責任所在を明確に示せる
経緯の再確認担当者が異動・退職しても、意思決定の背景が引き継がれる
ナレッジの蓄積・共有類似ケースが発生したときに、過去の稟議・報告書を参照して意思決定を迅速に行える
判断基準の標準化成功/失敗のパターンを共有することで、業務判断の質を底上げできる

このように、文書による「判断の記録」は、単なる過去の保管ではなく、“未来の意思決定のための資産”になります。

文書管理の価値を「過去の保管」ではなく「未来の意思決定のための資産」として捉える視点を示した図解。中央に「文書管理」のアイコンがあり、周囲に4つの効果が配置されている: 説明責任の確保:社外からの問い合わせや監査時に、判断理由・責任所在を明確にできる。 ナレッジの蓄積・共有:過去の議事録や報告書を参照し、迅速な意思決定が可能に。 経緯の再確認:担当者の異動や退職があっても、意思決定の背景を引き継げる。 判断基準の標準化:成功・失敗事例の共有によって業務判断の質を向上できる。 下部には「文書を過去の保管ではなく、“未来の意思決定のための資産”へ」との強調文。 この図は、文書管理を単なる記録保持ではなく、組織の継続的な学習・判断支援・説明責任の実現に資する戦略的な仕組みとして捉えるべきことを示している。

8-4. ERPと文書管理は“連携して初めて説明責任が果たせる”

ERPは、業務実績の処理を担い、「数値として残す」ことに優れたシステムです。
文書は、「判断の履歴として残す」ことに優れた仕組みです。

この2つは、それぞれ独立した役割を持ちながら、業務全体を通して“連携することで真価を発揮”します。

比較項目ERP文書管理
記録する内容数値・実績(What)判断・経緯・背景(Why)
承認履歴フラグ・ログが残る程度署名・決裁欄・承認ルートが明確に記録される
記録される粒度データベース向けに構造化された結果値意思決定にまつわる自由記述や添付資料、判断の痕跡
活用シーン経理処理/報告書類/監査提出業務説明/トラブル対応/再発防止/判断の参照など

▶ ERPと文書、どちらかでは不十分。両方がそろって初めて“説明できる組織”になります。

ERPと文書管理の役割の違いと、両者を連携することで業務全体における真価を発揮できることを示す図解。左側には「ERPの役割」として、次のような特徴が示されている:

数値・実績(What)

フラグ・ログが残る程度の記録

データベース向けに構造化された結果値

経理処理・報告書類・監査提出が主な使用シーン

右側には「文書管理が得意な業務」として:

判断・経緯・背景(Why)

署名・決裁欄・承認ルートが明確に記録される

意思決定の自由記述・添付資料・判断の痕跡が残される

業務説明・トラブル対応・再発防止・判断の参照が可能

それぞれの項目が「記録内容」「承認履歴」「記録粒度」「使用シーン」に対応して並べられており、下部には「業務全体を通して連携することで真価を発揮」との強調メッセージ。

この図は、ERPが構造化された結果を扱うのに対し、文書管理は意思決定の背景やプロセスを補完・記録する役割を担い、両者を組み合わせて活用することで業務の透明性・説明責任・再発防止に貢献できることを示している。

文書は「意思決定の理由」を残す、もう一つの基幹記録

数値の記録だけでは、意思決定の説明はできません。

「なぜそうしたのか」を記録することが、組織の信頼を守り、未来の判断に活かされていきます。

  • ERPは「確定した結果」を正確に残す
  • 文書は「判断の背景と責任」を記録する
  • 両者が連携してはじめて、真に説明可能な業務履歴が構築される

AI時代に備える文書管理

「AIを導入したけど効果が出ない」そんな声の多くは、“学ばせる文書”が整っていないことが原因です。

ジュガールは、文書を定型化・分類・保存しながら、メタデータや操作履歴まで自動で記録。将来的にAIで検索・要約・レコメンドしたいときも、必要な情報がすでに揃っている状態に。AI活用を見据えた“育てる文書管理”が、今日から始められます。

ジュガールの文書管理で、AIに“学ばせる情報資産”をつくる

9-1. AIは「人の仕事を奪う」のではなく、「戦略的な判断に集中する環境をつくる」

AIの進化により、「AIが人の仕事を奪うのではないか」と不安を抱く声もあります。
しかし、文書管理の分野においても、AIは人の役割を置き換えるものではなく、補完し支援する存在です。

実際に、AIが得意とするのは次のような業務です。

AIが得意な業務解説
繰り返し作業同じ種類の申請処理、文書の分類、定型的なレポート作成など
データ抽出・要約文書内の数値やキーワードの抽出、重要部分の要約など
類似文書の提示・レコメンド過去の判断や対応をもとに、類似ケースの文書を提示する

一方、AIが苦手とするのは以下のような業務です。

AIが苦手な業務解説
戦略的判断複数の要素を組み合わせて最適解を出す意思決定(例:新規事業立案、組織再編など)
暗黙知・経験に基づく判断現場経験や人間関係、状況判断に基づく感覚的な判断
倫理的判断・社会的配慮が必要な判断社内外への影響を見極めるバランス感覚や価値観に基づく選択

▶ つまり、AIは「人を代替する存在」ではなく、人が判断するための環境を整える存在なのです。

AIと人間の得意分野を比較した図解。左側には「AIが得意な業務」として以下が挙げられている:

繰り返し作業

データ抽出・要約

類似文書の提示

右側には「人しかできない業務」として以下が示されている:

戦略的判断

経験に基づく判断

社会的配慮が必要な判断

9-2. 判断の記録は、AIが学ぶための「知的インフラ」になる

AIは、データから学習することで知識を蓄積します。
ただし、そこに記録がなければ、AIは“何も学べません”。

AIに学ばせるべきは、人間の判断の履歴です。たとえば

文書種別判断情報の例
稟議書背景、選定理由、検討案、費用対効果、想定リスクなど
契約交渉記録交渉経緯、相手の反応、条項修正の意図、妥協点
報告書実施結果、所感、問題点、対応方針、次のアクション
トラブル記録原因分析、対策、再発防止、関係者への報告内容

こうした情報が文書に整理されていれば、AIは次のような支援が可能になります

  • 過去の類似事例を自動で検索・提示
  • 判断パターンを分析して傾向を可視化
  • 書類の自動要約やナレッジ共有への活用

「残しておくか、残さないか」で、AIが何を支援できるかが大きく変わります

文書管理の中でも特に重要な「判断の記録」である稟議書と報告書の内容をAIが学習し、その情報を要約・提案・再利用に活用するプロセスを示した図解。

左側には赤枠で囲まれた文書管理の対象として、「稟議書」と「報告書」があり、それぞれ以下の要素がチェック付きで記載されている:

稟議書:背景、選定理由、検討案、費用対効果、想定リスク

報告書:実施結果、所感、問題点、対応方針、次のアクション

中央に「AI学習」としてAIアイコンが配置され、稟議書・報告書の判断情報を学習。右側にはその学習結果が3つの形で活用される:

要約:大量の判断記録を簡潔にまとめる

提案:類似案件に基づく意思決定支援

再利用:過去の記録を検索し、業務に活かす

9-3. AIに活かせる文書とは?「構造」と「整備」がカギ

AIにとって価値ある文書は、ただ保管されたPDFやWordではなく、意味が読み取れる構造で整備された文書です。

そのためには、次のような準備が求められます。

整備項目内容例
文書の分類稟議/契約/報告など、文書種別を明確にしたフォルダ・タグの設定
命名ルール例:20240415_設備稟議_冷蔵庫導入案_山田 など、誰でも分かりやすく、検索可能な名前
メタデータ管理部署・申請者・対象金額・プロジェクト名などの属性情報を文書に紐付け
検索性の確保キーワード、分類、日付などで絞り込める検索UI・検索ロジックの整備
構造化された記録定型フォームでの入力により、項目別にデータが抽出・分析しやすい状態になっていること

これらが整っていなければ、AIが「何をどう学べばよいか分からない」状態になってしまいます。

非構造的で曖昧な文書(左側、赤いバツ印付きの書類)を、分類・命名・属性情報を付与して構造化することで、AIが活用できる状態にする流れを示した図解。右側には階層構造が描かれた文書アイコンと「AIが活かせる!構造化された文書」の文字。

文書構造化の具体例として、下部に3つのチェック項目が記載されている:

分類(稟議/契約/報告 など)

命名(例:20240415_設備稟議_冷蔵庫導入案_山田)

属性(部署・申請者・対象金額・プロジェクト名 など)

この図は、文書管理においてAIを有効に活用するためには、文書に対して明確な分類・命名ルール・属性付与を行い、構造化された情報として管理することが重要であることを示している。

9-4. 文書管理は“AI導入前”に整えるべき基礎インフラである

多くの企業が「AIを導入して業務を変えたい」と考えていますが、
AI導入で成果が出ている企業の多くは、先に文書・データを整備していた組織です。

逆に言えば、「文書が整っていない組織にAIを入れても、十分な効果は出ない」のが現実です。

AIに学ばせる内容がなければ、何も支援はできない。
判断の記録がなければ、判断を補助することもできない。

だからこそ、今やるべきは、

  • 文書の整備
  • 判断記録の構造化
  • 情報の蓄積と再利用

こうした “AI時代のための準備”としての文書管理の再設計なのです。

「文書管理の整備状況による違い」を示す図解。左側は「文書が整っていない会社」として、バラバラな命名と分類のない複数のフォルダ(例:2024年○○、書類7月分、稟議_Aなど)が表示され、AIがどのファイルから情報を収集すべきか判断できず、赤いバツ印が描かれている。

右側は「文書が整理されている会社」として、年・カテゴリ・案件名ごとに階層構造で分類されたフォルダ(例:2025年 稟議→新規設備→日付+案件名)が並び、AIが参考文書をすぐに見つけられる様子が示されている。

この図は、文書管理が整備されているとAI活用が進み、情報検索や業務効率が向上することを表現している。

AIに活かされる文書管理とは、「判断を整理し、学ばせること」

AIは人間の仕事を奪うのではありません。
AIが活躍するためには、人の判断・知識・経験が整理され、記録されていることが前提です。

文書は、その「判断の痕跡」を残す手段。
AIは、それをもとに次の判断を支援する存在。

AIを活かすかどうかは、今、何を残し、どう整えるかにかかっています。

継続的に機能する文書管理体制の構築

10-1. 文書管理の「仕組み」は、作って終わりではない

ここまでの章で、文書管理の重要性と将来への価値(判断の記録、AI活用など)について述べてきました。

しかし、いくら仕組みやルールが整備されていても、それが日常的に守られ、使われ、運用されなければ意味がありません

ありがちな失敗例

  • 社内に文書管理ルールはあるが、誰も読んでいない
  • 保存フォルダの構成を決めたが、3か月で崩れた
  • 文書種別ごとに保存年限を決めたが、守られていない
  • ワークフローや文書管理システムがあるが、現場の実態とズレて使われていない

▶ 文書管理の“本当の成功”は、「整備された状態が日常的に維持されること」にあります。
そのためには、「体制・役割・定着プロセス」の設計が欠かせません。

「文書管理の“あるある失敗例”」を中心に、4つの失敗パターンを円状に配置した図解。
左上には「ルールだけある」として、ルールは存在するが実態が伴っていないことを表す。
右上は「誰も守らない」として、文書管理ルールが形骸化している状況。
右下は「運用が属人化」として、特定の担当者だけが運用方法を把握しているリスクを示す。
左下は「使い方が不明」として、ルールや操作方法の教育不足を表す。

この図は、文書管理においてよくある運用上の失敗例を視覚的にまとめている。

10-2. 文書管理体制に必要な3つの基本機能

効果的な文書管理を継続的に機能させるには、以下の3つの柱が必要です。

機能目的実施内容例
① 統一ルールの整備文書の分類・命名・保存などを共通化稟議は5年保管、命名形式は「日付_種別_件名_作成者」、保存フォルダの構成ルールなど
② 運用体制の構築現場と管理部門が協力して守る体制を作る部門担当者の配置/ルール周知研修/実務に即した運用マニュアル作成/相談窓口の設置など
③ 定期的な点検と改善ルールが現場で形骸化しないようにする年1回の棚卸し・保存文書の廃棄チェック/誤保存・命名ミスの抽出と是正/運用実態のレビュー会など

▶ この3つが機能してはじめて、「作っただけのルール」ではなく、「組織に根付く仕組み」になります。

「文書管理」を組織的に機能させるための3つのサイクルを円形に表現した図。中央に「組織で“回る”文書管理」と書かれ、
上部には「ルール整備」、右下に「体制構築」、左下に「定期点検」の3つの円が配置され、それぞれ矢印で循環するようにつながっている。
この図は、文書管理を継続的に改善・運用していくためには、ルールの整備、運用体制の構築、そして定期的な見直しが必要であることを示している。

10-3. 運用体制の構築に必要な役割と分担

文書管理が定着しない原因の多くは、「誰が何をやるかが曖昧」なことです。
そのため、役割と責任を明確に分担し、体制図として設計しておくことが不可欠です。

役割担当部門主な業務内容
統括管理者情報システム部門/総務文書管理ポリシーの策定/文書種別ごとのルール設計/システム選定と全社展開
部門管理者各業務部門のリーダー自部門での運用ルールの調整/保存ルールの徹底/現場からの課題抽出とフィードバック対応
文書責任者担当者(部署ごと)文書の命名・分類・保存・期限管理の実務/棚卸しへの対応/社内問い合わせ窓口の役割
推進サポート管理部門・監査部門棚卸しの実施/定期的な是正活動/保存ルールの監視とガバナンス対応
文書管理体制における組織図を示す図。各部署(総務部、経理部、人事部、営業部、監査部)の中に部長、課長、一般社員の階層があり、文書管理における役割が色分けされている。

総務部は「統括管理者」として水色枠で囲まれ、全体の文書管理の責任を持つ。

監査部は「推進サポート」として緑の枠で囲まれ、他部署の文書管理を支援。

各部署の部長は「部門管理者」として文書管理の実務方針を統括。

各部署の一般社員は「文書責任者」として日々の文書管理運用を担当。

この図は、組織全体での役割分担により、文書管理の責任体制を明確化していることを表している。

10-4. ルールを“守らせる”のではなく、“守らざるを得ない”仕組みをつくる

ルールを作っても、それが守られなければ意味がありません。
しかし、現場に「守ってください」と言うだけでは限界があります。

▶ ポイントは、「人の注意に頼らない仕組み化」です。

運用課題解決アプローチ(仕組み化)
命名ミスが発生する命名パターンをテンプレート化/入力補助/自動生成
保存先がバラバラになるワークフロー処理後に自動で文書保管フォルダに振り分け
保存期限が管理されない文書種別ごとに保存年限を設定し、自動で廃棄リストを出力
廃棄が手動で漏れる廃棄期限に達した文書を自動で一覧化し、管理者に通知/削除操作にログを強制付与
「文書管理の現場課題と自動対応の仕組み」を示す図。左側には現場でのよくある困りごととして「命名エラー」「期限管理漏れ」「保存先の点在」が並び、右側にはそれぞれの課題に対応する自動化の仕組みとして「自動命名」「保存年限設定+通知」「自動振り分け」が示されている。これにより、文書管理の属人性を排除し、ミスや漏れを防止する仕組み化の重要性が伝えられている。

体制・ルール・仕組みが揃ってはじめて、文書管理は“根づく”

文書管理の最大の敵は、「作っただけで終わるルール」です。
ルールを守らせようとするのではなく、誰もが自然に守れる環境を整えることが、真に継続可能な文書管理体制につながります。

  • ポリシーを策定し
  • 実務と運用に合わせたルールを設計し
  • システムで補完し
  • 継続的に点検・改善していく

これこそが、“生きた文書管理”を組織に根付かせる道です。

文書管理がもたらす効果の可視化と評価

11-1. 文書管理の効果は、見えにくいからこそ“可視化”が必要

文書管理の改善は、業務効率やリスク抑止、意思決定の精度向上といった多くの効果をもたらします。
しかし、その効果は「目に見える数字」として表れにくく、「何が改善されたのか分からない」という声につながりがちです。

▶ だからこそ重要なのが、成果の可視化=KPI(重要業績評価指標)の設定です。

適切なKPIを設定し、改善効果を「見える化」することで、

  • 社内での評価
  • 改善の継続
  • 現場の納得感

につながり、文書管理が“やって終わり”ではなく“根付く改革”となります。

文書管理において、効果の要因が不明な状態をKPI設定によって「可視化」し、納得・継続・説明責任の3点を実現する流れを示す図。左側には分析できないグラフと疑問符、右側には分析されたグラフとチェックマークのアイコンがあり、「KPIにより効果を可視化」という文書管理の改善プロセスが強調されている。

11-2. 文書管理のKPI:何を測定すべきか?

文書管理のKPIは、「業務効率」「リスク管理」「データ活用」の3カテゴリに分類できます。

A. 業務効率に関するKPI

指標測定例
文書検索時間の短縮「稟議書を探すのにかかった平均時間」が何分→何分に改善されたか
文書処理時間の短縮「申請→承認→保存」の完了までの日数がどれくらい短縮されたか
重複文書・誤保存の削減件数同一文書の保存重複件数、命名ミス、保存先の誤りなどの発生件数が減ったか

B. リスク管理に関するKPI

指標測定例
文書の誤削除件数保存期限前の文書削除件数/無許可削除件数の推移
アクセス権限違反件数閲覧制限違反/社外への誤送信件数/共有リンクの誤操作件数などの発生状況
棚卸し未対応文書の割合棚卸しの対象文書数に対して、期限内に対応できていない文書の割合

C. データ活用に関するKPI

指標測定例
ナレッジ再利用件数過去の文書が参照された回数/類似案件で再利用された文書件数など
文書からのAI支援実行件数AI検索・要約・レコメンドなどが活用された頻度(システムログから抽出)
検索ヒット率検索実行数に対して、適切な文書に到達できた割合
文書管理に関するKPI(重要業績評価指標)を「業務管理」「リスク管理」「データ活用」の3つのカテゴリに分類して示した図。業務管理には「文書検索時間の短縮」「処理時間の短縮」「重複・誤保存削減」があり、リスク管理には「誤削除件数」「アクセス権違反」「未対応文書の割合」が含まれる。データ活用では「ナレッジ再利用件数」「AI支援実行件数」「検索ヒット率」が挙げられ、文書管理の可視化と改善の重要性を強調している。

11-3. KPIを“現場で共有”することで、文書管理が“自分ごと”になる

KPIは、単に管理者やプロジェクトオーナーが確認するものではありません。
むしろ重要なのは、「現場と一緒に見ていく」ことです。

共有方法効果
ダッシュボード共有自部門の文書処理状況や検索実績が可視化され、改善のきっかけになる
KPIに対する目標設定「検索時間10分以内」「誤保存0件」などの目標をチーム内で共有し、行動が明確になる
KPI報告の定期化月次会議や朝会で報告することで、意識の定着と情報の更新が同時にできる

▶ 「数字で現れる」→「意味が分かる」→「行動が変わる」
この流れが、文書管理を組織文化として根付かせる鍵です。

文書管理におけるKPI運用のサイクルを示した図。中心には「KPIは現場で共有して意味を持つ」と書かれた円があり、4つのステップが矢印で循環している。①目標(KPI)設定、②現場で共有(POINTとして強調)、③定期的に報告、④改善提案。それぞれのステップに対応するアイコン付き。KPIを文書管理に活かすには、関係者全体で継続的に共有・改善していくことが重要であることを示している。

11-4. 成果の“数字”と“現場の声”をセットで評価する

KPIは定量的な成果を測るのに最適ですが、それだけでは文書管理の効果をすべて表しきれません。
そこで、“現場の変化”や“実感の声”も合わせて可視化することが大切です。

観点具体的な観測例
ヒヤリハットの減少「探していた文書が見つからずに業務が止まった」などの事故報告件数が減っている
情報共有の効率化「申請書類の位置を聞かれなくなった」「部門間のファイル共有がスムーズになった」などの声が増えた
メール量の削減ファイル添付や送信が不要になり、文書共有に関するメール件数が減少した
ストレスの軽減「探す時間が減って本来業務に集中できるようになった」というポジティブなフィードバック

▶ 定量(KPI)+定性(現場の声)で、“成果の納得感”が社内に伝わるのです。

文書管理の効果を「定量的な成果」と「定性的な成果」の両面から示す図。左側にはKPIグラフのアイコンがあり、「定量的な成果」として文書管理の改善状況を数値で可視化できることを示す。右側には吹き出し形式で「ファイル共有がスムーズに!」「文書を探す時間が短縮されてストレス削減!」という声が描かれ、「定性的な成果」として現場の実感を表現。下部には「数字と実感、両方が大事」と強調されており、文書管理においてKPI指標と現場の声の両立が重要であることを伝えている。

まとめ:成果を“見える化”して、文書管理を“継続する改革”に

文書管理は、「仕組みを整えた瞬間」ではなく、「日々の運用を通じて改善されていくもの」です。
そのためには、見える指標(KPI)と現場の実感(定性評価)を組み合わせて評価し、継続につなげることが不可欠です。

  • 見える数字があるから、評価される
  • 現場の声があるから、納得される
  • 組み合わせてこそ、“次の改善”が見えてくる

文書管理は、「整えたら終わり」ではなく、進化する仕組みとして育てていくことが大切です。

文書管理はDX推進の起点となる

12-1. 文書管理の整備は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の出発点

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が浸透しつつありますが、「AI」「IoT」「ビッグデータ」など先端技術に目が行きがちで、“基礎となる情報環境”の整備が後回しにされる傾向があります。

その中で最も重要な“基礎”が、実は文書管理です。

なぜなら、DXとは

人の判断・経験・知識を、再利用可能なデータとして組織に蓄積し、次の業務に活かすこと

であり、その土台となるのが「判断の記録=文書」なのです。

文書が整っていないままでは、どんなに最新のツールを導入しても、判断の履歴が活かされず、業務は属人化のままです。

「DXの土台は文書管理」と強調する図解。図の中心には三層のピラミッドがあり、下から順に「紙→整備された文書」「ナレッジの共有」「AI・DX活用」と記載されている。ピラミッドの下層に位置する「整備された文書」は、文書管理の重要性を示しており、これがDX推進の基盤であることを表現。左側には上昇する矢印が描かれ、文書管理の整備がDX活用へのステップアップにつながることを視覚的に示している。

12-2. 文書管理が変わると、組織の“見える化”が進む

文書が整備されると、組織の中にあった“見えないもの”が可視化されていきます。

見えるようになるもの内容
判断の履歴誰が、なぜ、何を判断したのかが文書として確認できる
承認・処理の流れどの業務が、どこで止まっているのかを可視化できる
保存文書の全体像何を、どこに、どれだけ保管しているかを棚卸しできる
業務改善の機会重複・誤保存・属人化など、整理によって“改善すべき点”が浮き彫りになる

▶ 「見えるようになる」ことは、組織のあらゆる問題に気づけるようになることです。

文書管理における可視化の重要性を示す図解。左側に「未整備」「見える化」「文書を整備」と段階が描かれ、未整備の状態では「誰が何を判断したか不明」「承認の滞留場所が不明」「保存場所が不明」「改善ポイントが不明」といった課題が並ぶ。それに対応して、右側には「判断履歴」「承認フロー」「保存状況」「改善機会」と文書管理によって解決される項目がアイコン付きで示されている。文書管理を通じて業務の透明化と効率化が進むことを視覚的に表現している。

12-3. 文書管理は「業務効率」と「信頼性」の両立を可能にする

これまでの文書管理は、

  • 紙ベースで面倒
  • 管理が煩雑
  • 負担が大きい
    という“コストの象徴”のように捉えられてきました。

しかし、現代の文書管理はまったく違います。

  • ワークフローと一体化し、作業を自動化
  • AIや検索機能で、探す手間を削減
  • ログ管理とアクセス制御で、監査やコンプライアンスに強い仕組みへと進化しています。

つまり、「効率性と統制力の両立」が、文書管理によって実現できる時代になったのです。

文書管理における「効率」と「統制」のバランスを天秤で表現した図。左側には「効率」として「作業自動化」と「検索機能」が水色のアイコン付きで示され、右側には「統制」として「ログ管理」と「アクセス制御」が緑色のアイコン付きで示されている。文書管理において、業務効率化とセキュリティ統制の両立が重要であることを示唆している。

12-4. 文書管理から始まるDXは、組織の“文化”を変えていく

最終的に文書管理が変えるのは、組織文化そのものです。

  • 判断は記録され、責任が明確になる
  • 誰かに聞かなくても、過去の情報をたどれる
  • 手続きが整い、属人化が減る
  • 判断の質が上がり、業務の精度が上がる

この積み重ねが、「データドリブンな組織」へと変化していく原動力となります。

▶ 文書管理を整えることは、組織が“思考と行動を蓄積できる文化”を育てることなのです。

文書管理によって組織文化を変えていくプロセスを示す図。左側には、現状の課題として「責任があいまい」「属人化」「聞き回り」が並び、それぞれが矢印で右側の改善策「判断を記録」「共有」「検索」に対応している。下部には「文書管理で組織の“文化”を変えていく」というメッセージが強調されている。文書管理の導入により、情報の可視化と共有、業務の効率化が促進されることを示している。

川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 CMO(マーケティング責任者)

TOP10 CMOs IN JAPAN 2023 Award”に選出。
全国展開する上場アパレル企業で代表取締役社長に就任後、VeBuIn株式会社でプロダクト戦略、マーケティングを総括

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