
ドミノ理論とは、労働災害(事故)は単独の原因で突然起きるのではなく、複数の要因がドミノ倒しのように連鎖して起きると考える安全管理の理論です。1931年にアメリカの安全技術者H.W.ハインリッヒが提唱し、「連鎖のどこか1枚を取り除けば、事故は防げる」という考え方を示しました。
この記事では、ドミノ理論の5つの要因、ハインリッヒの法則やスイスチーズモデルとの違い、そして職場で実際に活用する手順までを、図解とともに解説します。
この記事のポイント
- ドミノ理論は、事故を「5つの要因の連鎖」として捉え、連鎖を断ち切って防ぐ考え方
- ハインリッヒ版は3番目(不安全行動・不安全状態)の除去を重視し、後に登場したバード版は1番目(管理の欠陥)の改善を重視する
- 単独で使うよりも、ヒヤリハット報告の仕組みやスイスチーズモデルと組み合わせると効果が高まる
※国際政治で使われる「ドミノ理論」(ある国が共産化すると周辺国も連鎖的に共産化するという考え方)とは別の概念です。この記事では安全管理・リスクマネジメントの理論を扱います。
ドミノ理論とは?
ドミノ理論の定義
ドミノ理論(ドミノ・セオリー)は、ハインリッヒが1931年の著書『Industrial Accident Prevention: A Scientific Approach』で示した事故の因果モデルです。労働災害を「5枚のドミノが順に倒れた結果」と見立て、傷害(最後のドミノ)を防ぐには、途中のドミノを1枚取り除いて連鎖を止めればよいと説明しました。
「連鎖を断つ」という考え方
たとえば、「安全カバーを外したまま作業して指を挟んだ」という事故を考えてみましょう。事故だけを見れば「本人の不注意」で終わってしまいますが、ドミノ理論ではなぜ外したのか、なぜ外せる状態だったのかを順にさかのぼります。原因を1つの点ではなく「つながり」として捉えることで、再発防止の打ち手が見つけやすくなります。
ハインリッヒのドミノ理論|5つの要因
ハインリッヒが示した5つのドミノは、次のとおりです。
| 順番 | 要因 | 内容 | 具体例 |
| ① | 社会的環境・遺伝的要因 | 人の性格や行動傾向のもとになる、生育環境や社会的背景 | 安全に対する意識が育ちにくい環境 |
| ② | 人的欠陥(個人的欠陥) | 無謀・神経質・不注意といった性格上の欠点や、知識・技能の不足 | 危険性を十分に理解していない |
| ③ | 不安全行動・不安全状態 | 安全手順を守らない行動や、危険な設備・環境 | 安全装置を外して作業する、床が濡れたまま放置されている |
| ④ | 事故 | 物体との衝突、転落、はさまれなど、傷害につながる出来事 | 機械に手を挟まれる |
| ⑤ | 傷害 | 事故の結果として生じるケガや死亡 | 骨折・休業災害 |
なぜ「3番目のドミノ」を取り除くのか
ハインリッヒは、①社会的環境や②個人の性格的な欠点は短期間で変えることが難しい一方、③不安全行動・不安全状態は現場の対策で取り除きやすいと考えました。そのため、5枚のうち3枚目を取り除くことが事故防止の最も現実的な方法だと説きました。

バードの修正ドミノ理論|現代の職場ではこちらも重要
ハインリッヒの理論は、原因が「個人の欠陥」に偏りやすいという指摘を受けました。その後、アメリカの安全管理者フランク・バードらが、管理・組織の責任を重視する形に修正した理論を提唱しました(修正ドミノ理論)。
| 順番 | ハインリッヒ版(1931) | バード版(修正ドミノ) |
| ① | 社会的環境・遺伝的要因 | 管理の欠陥(統制の不足) |
| ② | 人的欠陥 | 基本原因(個人的要因・仕事上の要因) |
| ③ | 不安全行動・不安全状態 | 直接原因(不安全行動・不安全状態) |
| ④ | 事故 | 事故(接触) |
| ⑤ | 傷害 | 損失(人・物・環境への被害) |
| 重視する対策 | ③の除去(現場の対策) | ①の改善(管理体制の強化) |
バード版では、事故の根本には「管理の欠陥」があると考えます。たとえば、安全教育や点検の仕組みが整っていなければ、作業者は「基本原因」をもったまま危険な行動をとりやすくなります。現場の注意喚起だけでなく、内部統制やルール整備といった管理面の改善が欠かせない理由です。

ドミノ理論の具体例|製造業の場合
製造現場で機械に手を挟まれる事故を、5つのドミノに当てはめてみます(バード版の考え方を使った例です)。
- 管理の欠陥:設備点検や安全教育のルールはあるが、確認する仕組みがなく形骸化している
- 基本原因:新人が安全カバーの必要性を教わっておらず、作業の忙しさから手順を省略しがち
- 直接原因:安全カバーを外したまま機械を稼働させた
- 事故:作業中に手が機械に巻き込まれた
- 損失:作業者の負傷、ライン停止、労災対応
この連鎖では、「カバーを外さないよう注意する」(3番目への対策)だけでは、忙しくなれば同じことが起きます。「点検が形骸化しない仕組みをつくる」(1番目)や、「新人教育を見直す」(2番目)まで手を入れて初めて、再発しにくい状態になります。

ドミノ理論・ハインリッヒの法則・スイスチーズモデルの違い
安全管理の理論には、名前の似たものがいくつもあります。混同されやすい3つを整理します。
| ドミノ理論 | ハインリッヒの法則 | スイスチーズモデル | |
| 提唱者 | H.W.ハインリッヒ(1931) | H.W.ハインリッヒ(同じ著書) | ジェームズ・リーズン(1990) |
| 捉え方 | 事故が起きるプロセス(連鎖) | 事故の発生比率(統計的傾向) | 複数の防護層の穴が重なったときに事故が起きる |
| 示すこと | 連鎖の1枚を取り除けば事故を防げる | 重大事故1件の背後に軽微な事故29件、無傷の事故300件がある | 防護層を多重化し、穴を減らし、重ならないようにする |
| 活用場面 | 事故の原因分析・再発防止 | ヒヤリハット収集の重要性の説明 | 組織的な防護策の設計・点検 |
ハインリッヒの法則は「事故の数」に、ドミノ理論は「事故の原因のつながり」に注目します。なお、ハインリッヒの法則の比率は業種や環境によって異なるとされており、あくまで目安として捉えるのが適切です。
一方、スイスチーズモデルは、ドミノ理論の「一本の連鎖」ではなく、複数の防護層それぞれに穴があり、その穴が偶然一直線に並んだときに事故が起きると考えます。ドミノ理論で「どの原因がつながったか」を特定し、スイスチーズモデルで「どの防護層を強化するか」を検討するというように、組み合わせると実務で役立ちます。

ドミノ理論を職場で活用する5ステップ
事故やヒヤリハットが起きたとき、ドミノ理論で分析する手順は次のとおりです。
- 事実を時系列で整理する
まず「いつ・どこで・何が・どうなったか」を、推測を交えずに書き出します。ヒヤリハットとインシデントの違いを押さえたうえで、報告の対象を決めておくとスムーズです。
- 5つのドミノに当てはめる
書き出した事実を、「④事故」から逆にさかのぼり、「なぜそれが起きたか」を繰り返して各ドミノに整理します。
- 断ち切るポイントを決める
すぐに実行できる対策(③不安全行動・状態の除去)と、時間をかけて取り組む対策(①管理・②基本原因の改善)の両方を決めます。前者は即効性があり、後者は再発防止の効果が長続きします。
- 対策を実行し、効果を確認する
対策は実行して終わりではありません。同様のヒヤリハットが減っているか、対策が現場で守られているかを定期的に確認します。SDCAのように、標準化して維持する仕組みと組み合わせると定着しやすくなります。
- 情報を蓄積し、組織で共有する
分析結果や対策は、報告書として残し、他の部署とも共有します。事故報告書の書式を統一しておけば、原因の傾向も見えやすくなります。

ドミノ理論の限界と使うときの注意点
ドミノ理論は分かりやすい反面、次のような限界も指摘されています。
- 原因を一直線でしか捉えられない:現代の事故は複数の要因が絡み合うことが多く、単線の連鎖では説明しきれない場合がある
- 個人の責任追及になりやすい:特にハインリッヒ版は「人的欠陥」に注目するため、「誰が悪いか」の議論に偏るおそれがある
- 組織や仕組みの問題が見えにくい:この点を補うのが、バード版やスイスチーズモデル
分析の目的は個人を責めることではなく、仕組みで再発を防ぐことです。人の注意力に頼らない対策を考える視点として、ヒューマンエラーの考え方も参考になります。
製造業以外での応用
ドミノ理論は労働災害の理論ですが、「原因が連鎖して大きなトラブルになる」という構造は、他の業務にも当てはまります。
- サービス業:不十分な引き継ぎ → 顧客対応の抜け → クレーム → 信用低下、という連鎖に当てはめて、引き継ぎ手順や教育を見直す
- 事務・バックオフィス:確認ルールの形骸化 → チェック漏れ → 誤った支払い・申請 → 損失、という連鎖に当てはめて、承認フローを見直す
現場の危険を事前に洗い出す方法としては、KYT(危険予知訓練)も有効です。全体像はリスクマネジメントの解説もご覧ください。
ヒヤリハット報告を「仕組み」にして連鎖を断つ
ドミノ理論を活かすには、事故になる前のヒヤリハットや小さなミスの情報が集まる仕組みが欠かせません。報告が紙やメールで散らばっていると、どのドミノが倒れかけているのか、傾向をつかむことが難しくなります。
ジュガールのクラウド型ワークフローなら、報告・承認・共有の流れを一本化できます。
- スマホ対応:現場や外出先からその場で報告・承認ができる
- 承認フローの自動化:部署や役職に応じたフローを設定でき、報告が止まりにくい
- 外部システムとの連携:LINE WORKSやSlackなどと連携して通知・承認ができる
インシデント報告の課題やDX化のメリットは、インシデント報告の特設ページで詳しくご紹介しています。
よくある質問
A. 労働災害が5つの要因の連鎖で起きると考える理論で、連鎖のどこかを断ち切れば事故を防げると説明します。1931年にH.W.ハインリッヒが提唱しました。
A. ハインリッヒ版では、①社会的環境・遺伝的要因、②人的欠陥、③不安全行動・不安全状態、④事故、⑤傷害の5つです。
A. ドミノ理論は事故が起きる「プロセス」を、ハインリッヒの法則は事故の「発生比率」を示す理論です。どちらもハインリッヒが同じ著書で示しましたが、視点が異なります。
A. 原因を一直線の連鎖で捉えるため、複数の要因が複雑に絡む事故を説明しにくい点や、個人の責任追及に偏りやすい点が指摘されています。スイスチーズモデルなどと併用して補います。
A. できます。まずはヒヤリハットを記録し、月に一度のミーティングで「どのドミノが倒れかけたか」を全員で確認するところから始められます。
まとめ
ドミノ理論は、事故を5つの要因の連鎖として捉え、連鎖のどこかを断ち切って防ぐための考え方です。
- ハインリッヒ版は「3番目(不安全行動・不安全状態)」、バード版は「1番目(管理の欠陥)」の対策を重視する
- ハインリッヒの法則は「数」、ドミノ理論は「つながり」、スイスチーズモデルは「防護層」を見る理論で、組み合わせると効果的
- 分析の目的は個人の責任追及ではなく、仕組みによる再発防止
まずは身近なヒヤリハットを1件取り上げ、5つのドミノに当てはめてみてください。
参考文献
- H.W. Heinrich『Industrial Accident Prevention: A Scientific Approach』(1931)
- F.E. Bird, G.L. Germain『Practical Loss Control Leadership』(1985)
- J. Reason『Human Error』(1990)