ワークフローシステム講座

日々の業務プロセスに課題を感じている方へ向けて、ワークフローシステムの選び方から業務改善の確かなヒントまで、完全網羅でお伝えします。

日本と海外のワークフローシステムの違いとは?重視するポイントを比較

目次

日本は「統制」、海外は「自動化」- 思想の違いが機能の差を生む

ワークフローシステムと一言でいっても、日本と海外ではその目的や機能が大きく異なります。結論から言うと、日本のワークフローシステムは「文書手続きを電子化し、組織の統制(ガバナンス)を強化すること」を最優先に発展してきました。一方、海外では「業務プロセス全体を自動化(オートメーション)し、効率性を最大化すること」が重視されています。

  • ガバナンスとは?:少し難しい言葉ですが、「企業や組織が不正なく、健全に運営されるための管理体制やルール」のことです。「企業統治」とも訳され、しっかりとした会社経営の土台となります。
  • オートメーションとは?:これまで人の手で行っていた作業を、機械やコンピュータが代わりに行うこと。「自動化」を意味します。

この思想的な違いは、それぞれの国の文化やビジネス慣習に深く根ざしており、システムの機能や選定基準にまで大きな影響を与えています。本記事では、この根本的な違いがなぜ生まれたのか、そして自社にはどちらのタイプのシステムが適しているのかを、文化的背景から具体的な機能比較、未来の展望まで含めて徹底的に解説します。

なぜ違う?思想の根源にある文化的・歴史的背景とは?

日本と海外でワークフローシステムの思想が大きく異なるのは、それぞれのビジネス文化と歴史的経緯が違うためです。日本が「みんなで確認し、合意を形成すること」と「責任の所在を記録として残すこと」を大切にしてきたのに対し、海外では「個人の権限でスピーディに業務を進めること」が優先されてきました。

日本型ワークフロー:「稟議」と「ハンコ文化」が育んだガバナンス重視の思想

日本のワークフローシステムの根底には、「稟議(りんぎ)」と「ハンコ文化」という、私たちにとって馴染み深い組織文化があります。

稟議制度は、担当者が提案書(稟議書)を作成し、関係部署や役職者が順に内容を確認し、承認を積み重ねていく日本独自の意思決定プロセスです。これは、一つの決定に対して様々な角度からチェックを入れることで、組織全体の合意形成を丁寧に行うという文化の表れです。また、もしその決定が大きな挑戦であったとしても、責任を起案者一人に負わせるのではなく、承認に関わった組織全体で分担し、支え合うという、集団的なリスク管理の知恵でもありました。

そして、その一つひとつの承認の証として、古くから大切にされてきたのがハンコ(印章)です。単なるサインの代わりではなく、朱肉をつけて紙に押すという行為そのものが、「内容を確かに確認し、その判断に責任を持つ」という意思表示の儀式として、私たちのビジネスシーンに深く根付いています。

この「明確な承認プロセス」と「責任の所在の証明」を重んじる文化が、日本のワークフローシステムを、決裁の過程を正確に記録し、後から誰も改ざんできない「信頼できる証拠」として残すためのシステム、すなわち「記録・統制(ガバナンス)のためのシステム」として進化させたのです。

海外型ワークフロー:「効率性」を追求し続ける自動化の歴史

一方、海外(特に欧米圏)のワークフローは、産業革命以降一貫して追求されてきた「効率性の最大化」という思想に基づいています。常に業務の無駄をなくし、生産性を高めることが最も重要なテーマでした。

その思想がIT時代に発展したのが、1990年代に登場したBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)という考え方です。これは、既存のやり方を単にデジタル化するのではなく、「そもそも、この業務は必要なのか?」という視点から、業務プロセス全体を根本的に見直して再設計するアプローチです。

さらに2000年代以降、様々な機能に特化したSaaS(クラウドサービス)が普及すると、今度は「どうやってバラバラのシステムを連携させるか?」という新たな課題が生まれました。この課題を解決するために登場したのが、iPaaS(アイパース)と呼ばれる、システム同士を繋ぐためのプラットフォームです。

  • APIとは?:iPaaSがシステム連携に使う技術がAPIです。これは、異なるソフトウェア同士が会話するための「通訳」のようなもので、APIがあることで、全く別のサービス間でデータをスムーズにやり取りできます。レストランで例えるなら、客(あなた)と厨房(システム)の間で注文を正確に伝えてくれるウェイターのような存在です。

ZapierやPower Automateに代表されるこれらのツールは、APIを通じて様々なクラウドサービスを連携させ、定型業務を自動化するハブとして機能します。例えば、「問い合わせフォームに投稿があったら、自動で顧客リストに登録し、営業担当にチャットで通知する」といった一連の流れを、人の手を介さずに実行します。

このように、海外のワークフローは、個別の承認プロセスに留まらず、業務全体の流れを止めない「実行・自動化(オートメーション)のためのシステム」として発展してきたのです。

比較項目日本型ワークフロー海外型ワークフロー
思想の根源合意形成と責任の共有(稟議・ハンコ文化)効率性の最大化と生産性向上(産業革命・BPR)
主な目的組織統制(ガバナンス)業務自動化(オートメーション)
システムの位置づけ意思決定を記録・証明する「記録のシステム」業務を実行・連携させる「実行のシステム」
キーワード承認、決裁、証跡、内部統制、コンプライアンス連携、自動化、効率化、タスク、API

機能の違いを徹底比較:重視するポイントはどこか?

思想的な背景が異なれば、当然、システムに搭載される機能や重視されるポイントも変わってきます。ここでは、日本型と海外型の具体的な機能の違いを比較してみましょう。

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日本型ワークフローの主な機能と特徴

日本のワークフローシステムは、組織の複雑な承認ルールをいかに忠実に、そして間違いなく再現できるかを重視しています。

  • 重視するポイント:内部統制の強化、監査対応、決裁プロセスの透明化、証跡管理
  • 主な機能
  • 柔軟なフォーム作成機能:現在使っている紙やExcelの申請書を、見た目そのままにWebフォーム化できます。これにより、利用者の抵抗感を最小限に抑え、誰でも直感的に使えます。
  • 複雑な承認フロー設定:申請金額や部署、役職といった条件に応じた承認ルートの自動分岐、複数人での同時承認(合議)、不在時の代理承認など、日本企業特有の細やかなルールをシステム上で正確に設定できます。
  • 国内システムとの連携:会計ソフトや人事給与システムなど、国内の主要な基幹システムとのデータ連携を前提とした機能が充実しており、決裁後のデータ活用もスムーズです。

海外型ワークフローの主な機能と特徴

海外のワークフローシステムは、いかに多くの業務を、いかに速く、人の手を介さずに処理できるかを重視しています。

  • 重視するポイント:業務効率の最大化、スピード、システム間のデータ連携、拡張性
  • 主な機能
    • 膨大な連携コネクタ:数千を超える様々なクラウドサービス(SaaS)と簡単に連携できる既製のコネクタが用意されています。これにより、社内で利用している複数のツールを繋ぎ、一つの大きなシステムのように動かせます。
    • トリガー&アクションによる自動化:「〇〇が起きたら(トリガー)、△△を実行する(アクション)」という簡単なルール設定で、プログラミング知識がなくても業務の自動化を実現できます(このような、専門家でなくてもアプリ開発ができる仕組みを「市民開発」と呼びます)。
    • RPA・AI連携:PC上の定型作業を自動化するRPA機能や、AIによるデータ分析・予測といった高度な機能もワークフローに組み込むことが可能です。

比較表:日本と海外のワークフローシステム

比較項目日本のワークフローシステム海外のワークフローシステム(BPA/iPaaS)
主目的組織統制とガバナンス強化業務効率化とプロセス自動化
中心概念文書手続きの電子化ビジネス・プロセス・オートメーション(BPA)
重視する点承認プロセスの正確性、証跡管理、内部統制処理速度、システム間連携、
拡張性
主な機能複雑な承認フロー設定、
条件分岐、日本の帳票再現
多数のSaaS連携コネクタ、
トリガー&アクション設定
対象ユーザー経理・総務・人事などの管理部門、全従業員IT部門、業務改善を推進するビジネスユーザー
代表的な製品ジュガール, Workflow,
X-point, 楽々WorkflowII
Zapier, Power Automate,
Nintex

自社に合うシステムを選ぶための3つのステップ

では、自社にはどちらのタイプのワークフローシステムが合っているのでしょうか。以下の3つのステップで検討することをおすすめします。

Step1: 目的を明確にする – 「統制強化」か「効率化」か?

まず、ワークフローシステム導入によって解決したい最大の課題は何かを明確にしましょう。

  • 統制強化が目的の場合:内部統制の強化、監査対応の効率化、稟議プロセスの透明化などが課題であれば、日本のワークフローシステムが適しています。複雑な承認ルートや証跡管理機能が強みを発揮します。
  • 効率化が目的の場合:複数のSaaS間でのデータ手入力や、定型的な通知・登録作業に時間がかかっているのであれば、海外のワークフローシステムが有効です。幅広い連携機能で業務を自動化できます。

Step2: 対象業務の特性を分析する – 「文書中心」か「タスク中心」か?

次に、自動化したい業務がどのような性質を持つか分析します。

  • 文書中心の業務:稟議書、契約書、各種申請書など、人間の「判断」や「承認」がプロセスの中心となる業務は、日本型が得意とする領域です。
  • タスク中心の業務:データの移動、システムへの登録、定型的な通知など、人間の判断をあまり必要としない「処理」が中心の業務は、海外型が真価を発揮します。

Step3: 将来の拡張性を見据える – 「ハイブリッド戦略」という選択肢

多くの企業では、「統制」と「効率化」の両方が求められます。その場合、両者の強みを組み合わせる「ハイブリッド戦略」が最も現実的で効果的です。

例えば、以下のような運用が考えられます。

  1. 承認(日本型):設備投資の稟議書を、日本のワークフローシステム(例:ジュガール Workflow)で厳格な承認ルートと証跡記録のもとで決裁します。
  2. 連携(トリガー):決裁が完了した瞬間、API連携で海外の自動化プラットフォーム(例:Power Automate)に通知を送ります。
  3. 実行(海外型):通知を受けたプラットフォームが、基幹システムへの購買依頼登録、経理部へのチャット通知、文書管理システムへの格納といった一連のタスクをすべて自動で実行します。

このように、プロセスの目的に応じて最適なツールを使い分けることで、ガバナンスと効率性を両立させることが可能です。そして、ジュガールワークフローのようなAPI連携を充実させている「統合型ワークフローシステム」は、日本のガバナンス文化を深く理解しつつ、外部システムとの柔軟なAPI連携も可能にすることで、この両方の役割 ハイブリッド戦略の中核を担うことができます。

まとめ:自社の文化と目的に最適なワークフローを選ぼう

この記事では、日本と海外のワークフローシステムの違いについて、その思想的背景から機能、選び方までを解説しました。

  • 日本のワークフローは「稟議」と「ハンコ文化」を背景に、組織統制(ガバナンス)を重視する「記録のためのシステム」として発展しました。
  • 海外のワークフローは「効率性」の追求から、多様なSaaSを連携させ業務を自動化する「実行のためのシステム」として進化しました。
  • どちらか一方が優れているわけではなく、自社の目的(統制か効率化か)と業務の特性(文書中心かタスク中心か)に応じて最適なシステムを選ぶことが重要です。
  • 将来的には、両者の強みを組み合わせる「ハイブリッド戦略」が有効であり、ジュガールワークフローのような統合型ワークフローシステムはその両方の役割 ハブとして機能します。

自社のビジネス文化や解決したい課題を深く見つめ直し、表面的な機能比較に留まらない、本質的なシステム選定を行いましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1: 日本企業が海外型のワークフローツールを使うのは難しいですか?

A1: 難しくはありませんが、目的のミスマッチが起こる可能性があります。海外型ツールは、日本の稟議制度のような複雑な承認フローの再現や、厳格な証跡管理よりも、SaaS間の連携によるタスク自動化に特化しています。業務効率化が主目的なら非常に有効ですが、内部統制の強化が目的なら日本型の方が適している場合が多いです。

Q2: 海外企業が日本型のワークフローを導入するメリットはありますか?

A2: あります。特に、金融や製薬など規制が厳しく、監査対応で詳細な承認プロセスと証跡の記録が求められる業界では、日本型ワークフローの強固なガバナンス機能は大きなメリットになります。意思決定プロセスの透明性を高めたい企業にとっても有効です。

Q3: 中小企業はどちらのタイプを選ぶべきですか?

A3: 企業の規模よりも、解決したい課題で選ぶべきです。例えば、少人数でも多くのSaaSを利用し、データ連携に課題を感じているなら海外型が有効です。一方、属人化を防ぎ、承認プロセスを標準化して組織の基盤を固めたいのであれば、ジュガール Workflowのような、低コストで導入できる日本型のクラウドワークフローが最適です。

Q4: AIの進化で、この違いはなくなっていきますか?

A4: はい、将来的には両者の境界は曖昧になっていくと予測されます。AIは、これまで人間にしかできなかった「判断」の一部を自動化できるため、海外型システムが日本のガバナンス領域に参入しやすくなります。逆に、日本型システムもAIを活用して下流工程の自動化を強化することで、海外型の効率性の領域に近づいていきます。今後は、両者の思想を併せ持つ「統合型」が主流になるでしょう

川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。