この記事のポイント
- 自社のSaaS利用状況が、国内平均と比較してどのような状況にあるか
- SaaSの乱立(スプロール)が引き起こす、具体的な3つの経営リスク
- IDaaSやAPI連携といった一般的な対策では、なぜ根本解決に至らないのか
- SaaS環境をリセットし、コスト削減と生産性向上を両立する「統合」というアプローチ
- 乱立したSaaSを整理し、ITガバナンスを再構築するための具体的なステップ
1. SaaSスプロールとは何か?自社の導入状況を客観的データで把握する
概要
DX推進の掛け声のもと、多くの企業でSaaS導入が加速しています。しかし、その裏側で管理が追いつかず、無秩序にツールが増殖する「SaaSスプロール」が深刻な経営課題となっています。まずは客観的な調査データに基づき、国内企業のSaaS導入の現在地を明らかにします。
1-1. 日本企業におけるSaaS導入数の平均は?
「うちの会社、SaaSを使いすぎだろうか?」──多くの情報システム担当者が一度は抱く疑問ではないでしょうか。
スマートキャンプ社が運営する「BOXIL SaaS」の調査レポート「SaaS利用に関する調査(2024年)」によると、国内企業の 約3割(30.7%)が11個以上のSaaSを利用している と回答しており、この割合は前年から5ポイント増加しています。
特にこの傾向は企業規模に比例して顕著になります。同調査では、従業員5,001名以上の大企業において、実に 21%が「51個以上」のSaaSを利用している という驚くべき実態が明らかになりました。
従業員規模 | 1〜5個 | 6〜10個 | 11〜20個 | 21〜30個 | 31〜50個 | 51個以上 |
全体平均 | 58.4% | 11.0% | 11.7% | 6.5% | 5.3% | 7.2% |
5,001名以上 | – | – | (半数以上が11個以上) | – | – | 21.0% |
出典:BOXIL SaaS「SaaSに関する調査レポートvol.3」のデータを基に作成
このデータは、もはやSaaSの利用が当たり前となり、複数のツールを組み合わせて利用する「スタック深化」のフェーズに入っていることを示唆しています。
引用元
- 記事タイトル : 1社あたりのSaaS利用数「11個以上」が前年比+5% -「SaaSに関する調査レポートvol.3」を公開
- 提供元 : BOXIL SaaS(スマートキャンプ株式会社)
- URL : https://boxil.jp/mag/a9428/
1-2. なぜSaaSは意図せず増え続けてしまうのか?
SaaSが増殖する背景には、主に2つの要因があります。
- 部門最適での導入: 各部門がそれぞれの業務課題を解決するために、マーケティング、営業、人事、経理といった領域で最適なツールを個別に導入します。これが全社的な視点での管理が追いつかないまま進むと、ツールのサイロ化を招きます。
- コミュニケーションツールの普及: コロナ禍を契機に、Web会議システムやビジネスチャットが急速に普及しました。ある調査では、企業はWeb会議システムを有料版だけで平均2.2種類導入しているという結果もあり、コミュニケーションの効率化がSaaS導入の大きな波を作ったことがわかります。
しかし、こうした「部分最適」の積み重ねが、次章で解説する「静かなる危機」の引き金となっているのです。この「部分最適がもたらす課題」については、ピラー記事でさらに詳しく解説しています。
より深く知りたい方は下記の記事をご参照ください。
「統合型ワークフローシステム」とは?選び方・比較検討方法まで詳細解説!
【FAQ】このセクションに関するよくある質問
A. 一概にそうとは言えません。事業戦略上、必要なツールを適切に管理・活用できているのであれば問題ありません。しかし、多くの場合、全体像を誰も把握できていない「SaaSスプロール」状態に陥っており、それがコスト増やセキュリティリスクといった経営課題に直結していることが問題の本質です。
2. SaaSスプロールが引き起こす、見過ごされがちな3つの経営リスクとは?
概要
便利さの裏で、管理されていないSaaSは「コストの増大」「データの分断」「セキュリティリスク」という3つの深刻な経営リスクを静かにもたらします。これらは互いに連鎖し、気づかぬうちに企業の生産性や競争力を蝕んでいきます。
2-1. リスク①:コストの増大と「棚ざらしライセンス」の浪費
「気づけば、SaaSのライセンス費用がIT予算を圧迫している…」
SaaSスプロールがもたらす最も直接的な問題は、コスト管理の破綻です。多くの企業が「コストの増加」をSaaS管理における最大の課題として挙げています。
問題はさらに深刻です。多くの企業では、退職者が利用していたアカウントや、導入したものの使われなくなった「棚ざらし」のアカウントにも、知らず知らずのうちに費用を払い続けています。ある調査では、企業の7割以上がこのような未使用ライセンスを保有しているという結果も出ており、これは予算が直接的に無駄になっていることを意味します。
2-2. リスク②:データの分断と「手作業地獄」の再来
「営業はSalesforce、経理はfreee、人事はSmartHR…結局、従業員マスタは誰が正なの?」
部門ごとに最適化されたSaaSは、それぞれが独立したデータベースを持っています。その結果、顧客マスタ、従業員マスタ、製品マスタといった重要な情報がシステムごとに分散し、サイロ化してしまいます。
この「データの分断」は、DXが目指すはずだった業務自動化とは真逆の事態を引き起こします。
- システム間でデータを手作業でコピー&ペーストする「二重入力」の発生。
- どちらのデータが最新か分からず、確認作業に追われる。
- データが連携されていないため、全社横断での分析やレポーティングができない。
せっかく高価なツールを導入したのに、結局はExcelを用いた「手作業地獄」に逆戻りしてしまうのです。
2-3. リスク③:シャドーITとセキュリティガバナンスの崩壊
「現場が勝手に無料ツールを使い始めたが、情報漏洩のリスクはないだろうか…」
情報システム部門が把握していないところで、各部門が独自にSaaSを導入・利用する「シャドーIT」は、セキュリティガバナンスにおける最大の脅威の一つです。ある調査では、驚くべきことに78%の企業でSaaS管理が情報システム部門に一元化されていないという実態が明らかになっています。
管理が行き届かないSaaSは、以下のような深刻なセキュリティホールを生み出します。
- 退職者のアカウントが放置され、不正アクセスの温床となる。
- 各SaaSのセキュリティ設定が不十分なまま利用され、情報漏えいのリスクが高まる。
- 誰が・どのデータにアクセスできるのか、全社的に把握・統制できない。
【図表】SaaSスプロールが引き起こす3つの経営リスク
リスク分類 | 具体的な問題点 | 経営への影響 |
コスト | ・未使用/重複ライセンスへの支払い ・管理工数の増大 | 予算の圧迫、投資対効果(ROI)の低下 |
業務プロセス | ・システム間のデータ分断 ・手作業による二重入力、確認作業の頻発 | 生産性の低下、業務自動化の阻害 |
セキュリティ | ・シャドーITの横行 ・退職者アカウントの放置 ・統一されたポリシーの欠如 | 情報漏洩リスクの増大、コンプライアンス違反 |
【まとめ】SaaSスプロールが引き起こすリスクの要点
- コストの浪費: 管理外のSaaSが増えることで、使われていないライセンスにも支払いが発生し、ITコストが不透明かつ無駄に膨れ上がります。
- 生産性の低下: データが各SaaSに分散・サイロ化するため、システム間の連携が取れず、手作業でのデータ入力や確認作業といった非効率な業務が復活します。
- セキュリティの脆弱化: IT部門が把握できない「シャドーIT」が横行し、企業全体のセキュリティポリシーが適用されず、情報漏洩の温床となります。
ワークフローシステムに求められる具体的なセキュリティ対策については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:ワークフローシステムのセキュリティ|7つのリスクと多層防御の考え方
【FAQ】このセクションに関するよくある質問
A. 主な原因は、情報システム部門の承認プロセスが遅かったり、現場のニーズに合ったツールを提供できなかったりすることにあります。現場は業務効率化のために手軽なクラウドサービスを使い始めますが、それが結果として全社的なセキュリティリスクを高めてしまうというジレンマが存在します。
3. なぜIDaaSやAPI連携といった一般的な対策だけでは不十分なのか?
概要
SaaSスプロールの課題に対し、IDaaSによる認証統合や、iPaaSなどを用いた個別API連携、RPAによる転記作業の自動化といった対策が考えられます。しかし、これらの手法は一見有効に見えても、根本的な問題解決には至らない「対症療法」に過ぎないケースが多くあります。
3-1. IDaaS(認証基盤)の限界:「ログイン」は楽になるが「データ」は繋がらない
IDaaS(Identity as a Service)は、複数のSaaSへのログインを一度の認証で済ませるシングルサインオン(SSO)を実現し、ID管理を効率化する優れたソリューションです。これにより、パスワード管理の煩雑さや、退職者アカウントの削除漏れといった課題は大幅に改善されます。
しかし、IDaaSが解決するのはあくまで「認証の統合」です。各SaaS内に存在するデータや業務プロセスそのものが連携されるわけではありません。
3-2. 個別API連携の限界:「連携のスパゲッティ化」という新たな悪夢
「それなら、SaaS同士をAPIで直接連携させればいいのでは?」と考えるのは自然な流れです。しかし、場当たり的な個別連携は、新たな問題を引き起こします。
利用するSaaSが3〜4個であれば、1対1のAPI連携で対応できるかもしれません。しかし、10個、20個とツールが増えるにつれて、システム間の連携は網の目のように複雑化し、やがて誰にも全体像が把握できない「連携のスパゲッティ状態」に陥ります。
- 開発・保守コストの増大: 新たな連携が必要になるたびに、個別の開発が発生。仕様変更にも弱く、メンテナンスコストが膨れ上がります。
- エラーハンドリングの困難さ: どこか一つのAPIでエラーが発生した際に、原因の特定や切り分けが非常に難しくなります。
- 属人化: 連携の仕様が特定の開発担当者の頭の中にしかなく、その人がいなくなると誰も触れないブラックボックスと化します。
3-3. RPAの限界:転記作業は自動化できても、データ分断は解決しない
RPA(Robotic Process Automation)は、人間がPCで行う定型的な画面操作を自動化する技術です。例えば、「ワークフローシステムの画面からデータをコピーし、会計システムの画面にペーストする」といった作業を自動化できます。
しかし、RPAはあくまで「画面操作の模倣」であり、システム間のデータを直接連携させるわけではありません。
- 表面的な解決: 根本的なデータの分断は解決されず、SaaSの画面デザインが変更されるだけで、RPAロボットが停止してしまう脆弱性を抱えています。
- AI-RPAへの進化: 近年では、AI技術を組み合わせ、より柔軟な自動化を実現する「AI-RPA」も登場しています。しかし、それでもなお、複数のSaaSを契約・管理し続けるという根本的な課題は残ります。
対策 | 解決できること | 解決できない根本課題 |
IDaaS | 認証の統合、ID管理の効率化 | データとプロセスの分断 |
個別API連携 | 特定システム間のデータ連携 | コスト増、スパゲッティ化、属人化 |
RPA | 画面上の定型的な転記作業 | データの分断、画面変更への脆弱性 |
【FAQ】このセクションに関するよくある質問
A. iPaaSは、複数のSaaS連携をクラウド上で統合管理できるため、個別API連携よりは見通しが良くなります。しかし、連携シナリオの設計・開発・保守に専門知識が必要な点は変わらず、利用料も発生します。また、連携するSaaSの契約・管理が個別に必要であるという根本課題も残るため、万能の解決策ではありません。
4. 根本的な解決策はSaaSの「統合」にあり。「統合型ワークフローシステム」という選択肢
概要
SaaSスプロールがもたらす課題に対し、これまでの「連携」から一歩進んだ「統合」という新たな潮流が生まれています。機能が限定的だったSaaSが進化し、複数の業務領域をカバーする「統合型プラットフォーム」が登場。複数のツールを一つにまとめることで、コスト、管理、業務プロセスすべての問題を根本から解決します。
4-1. SaaSの進化:単機能ツールから多機能プラットフォームへ
かつてのSaaS市場は、経費精算、顧客管理、情報共有など、特定の機能に特化した「単機能ツール」が主流でした。企業はそれぞれの課題に応じて最適なツールを選び、導入してきましたが、その結果としてSaaSの乱立とサイロ化が進んでしまいました。
しかし現在、SaaS市場は新たなフェーズに入っています。各ベンダーが機能拡張を重ねた結果、一つのサービスで複数の業務領域をカバーできる「多機能プラットフォーム」へと進化しているのです。
- 機能面の拡大: ワークフロー機能だけでなく、文書管理、グループウェア、BIツール、AIアシスタントといった機能までを内包。
- 業務カバー範囲の拡大: 稟議や経費精算といった間接業務全般を、一つのシステムで完結できる。
この進化により、企業のSaaS戦略も「多数のツールを“連携”させる」から「複数のツールを“一つにまとめる”」へと、その考え方を大きく転換させる時期に来ています。
4-2. 「ハブ&スポーク」から「オールインワン統合」へ
これまでSaaS乱立の解決策とされてきたのは、中心となるハブシステムを置き、各SaaS(スポーク)をAPIで連携させる「ハブ&スポーク」モデルでした。これはデータの分断をある程度解消しますが、依然として複数のSaaSを契約・管理する必要があり、根本的なコスト削減や運用負荷の軽減には限界があります。
そこで登場したのが、統合型ワークフローシステムによる「オールインワン統合」というアプローチです。
【図解】SaaS管理の進化:「連携」から「統合」へ
このモデルは、これまで個別のSaaSが担っていた間接業務領域の機能を、一つのプラットフォームで提供します。これにより、企業は以下のような本質的なメリットを享受できます。
メリット | 具体的な効果 |
抜本的なコスト削減 | ・複数のSaaS契約を一本化でき、ライセンス費用を大幅に削減。 ・未使用ライセンスの概念がなくなり、無駄な支払いがゼロになる。 |
究極の生産性向上 | ・システム間の画面遷移や二重入力が完全に不要になる。 ・全ての業務とデータが最初から統合されており、真の業務自動化が実現する。 |
シンプルなITガバナンス | ・管理対象が単一のシステムになるため、セキュリティポリシーの適用やアカウント管理が極めて容易になる。 ・シャドーITが発生する余地をなくし、IT部門の運用負荷を劇的に軽減。 |
このように、「統合型ワークフローシステム」を導入することは、単にツールを一つ追加することではありません。それは、複雑化したSaaS環境をリセットし、シンプルで強力な業務基盤を再構築する、次世代のDX戦略なのです。
より深く知りたい方は
「統合型ワークフローシステム」がなぜこれらのメリットを実現できるのか、その具体的な機能や提供価値については、以下の記事で詳細に解説しています。
関連記事:「統合型ワークフローシステム」とは?選び方・比較検討方法まで詳細解説!
【FAQ】このセクションに関するよくある質問
A. 経費精算、文書管理、簡単なBIなど、多くの間接業務領域は統合型ワークフローシステム一つでカバーできるため、複数のSaaSを解約し、コストを大幅に削減することが可能です。ただし、CRM/SFAや専門的な会計システムなど、特定の高度な機能を持つSaaSは、必要に応じてAPI連携させて活用するのが現実的かつ効果的です。
5. まとめ:部分最適から全体最適へ
本記事では、多くの企業が直面している「SaaSの乱立(スプロール)」が引き起こす課題と、その解決策について解説しました。
- SaaSスプロールの実態: 日本企業、特に大企業では数十個のSaaSを利用するのが当たり前となり、管理が追いついていないのが現状です。
- 静かなる危機: 管理されないSaaSは、「コスト増」「データ分断」「セキュリティリスク」という深刻な経営課題を引き起こします。
- 対症療法の限界: IDaaSや個別API連携、RPAは、問題の根本解決にはならず、新たな課題を生む可能性があります。
- 真の解決策: 複数のSaaSを一つの「統合型ワークフローシステム」に集約し、業務プロセスとデータ管理を根本からシンプルにすることが、コスト削減と全体最適を実現する鍵となります。
あなたの会社は、SaaSがもたらす便益を最大限に享受できていますか?それとも、「静かなる危機」の兆候に気づかぬふりをしていませんか?今こそ、自社のSaaS戦略を見直し、全体最適に向けた一歩を踏み出す時です。
6. 総合FAQ
A1: 企業内で利用されるSaaS(クラウドサービス)が、全社的な管理・統制戦略なしに、各部門の判断で無秩序に導入・増殖していく状態を指します。これにより、コストの増大、セキュリティリスクの向上、業務プロセスの非効率化といった様々な問題が発生します。
A2: はい、可能です。優れた統合型ワークフローシステムは、豊富なAPIや連携アダプタを備えており、既存の主要な基幹システムやSaaS(CRM, SFA, 会計システムなど)と柔軟に連携できるよう設計されています。これにより、承認プロセスの一元化やデータの二重入力を防ぐことができます。
A3: まずは、社内で利用されているすべてのSaaSを洗い出し、①誰が使っているか、②何のために使っているか、③コストはいくらか、④機能が重複しているものはないか、を可視化することから始めるのが第一歩です。その上で、本記事で解説した「統合」という視点で使用ツール全体の最適化を検討することをおすすめします。
複雑なビジネス環境において、SaaSスプロールは避けられない課題です。ジュガールワークフローは、このような課題に対し、単なる部分最適に留まらない「統合」というアプローチで根本的な解決をもたらします。コスト削減、生産性向上、そして堅牢なセキュリティガバナンスの実現を、この「統合型ワークフローシステム」が強力に支援します。ジュガールワークフローの製品ページも、ぜひ合わせてご確認ください。