ワークフローシステム講座

日々の業務プロセスに課題を感じている方へ向けて、ワークフローシステムの選び方から業務改善の確かなヒントまで、完全網羅でお伝えします。

なぜ紙・Excel・メールでの稟議は限界なのか?3つの大きな課題を解説

目次

この記事のポイント

  • 紙・Excel・メールによる稟議が、なぜ現代のビジネス環境で通用しないのか
  • 旧来の承認プロセスが引き起こす「生産性」「ガバナンス」「経営スピード」に関する3つの深刻な課題
  • 一般的なワークフローシステムで解決できることと、それでも残る「システムの分断」という根本課題
  • 真の解決策である「統合型ワークフローシステム」がもたらす価値
  • 自社の稟議プロセスを見直し、改善するための具体的な次のステップ

はじめに:その「稟議」、会社の成長を止めていませんか?

日本の多くの企業に深く根付く「稟議」という意思決定プロセス。関係各所に書類を回覧し、合意形成を図るこの仕組みは、かつては会議の非効率を避け、決定事項を記録に残すための合理的な手段でした。

しかし、ビジネス環境が激変する現代において、その実行手段としていまだに使われている「紙」「Excel」「メール」は、もはや限界を迎えています。かつて機能的だったツールは、今や業務を停滞させ、企業の競争力を静かに、しかし確実に蝕む「見えざる敵」となっているのです。

本記事では、旧来の稟議プロセスが引き起こす問題を、「生産性の低下」「ガバナンスの脆弱性」「経営スピードの鈍化」という3つの重大な経営課題の観点から徹底的に分析し、なぜ今すぐの変革が必要なのかを解説します。

【関連情報】

そもそもワークフローとは何か、その基本から知りたい方は、まずはこちらの記事をご覧ください。

>> ワークフローとは?今さら聞けない定義から承認・決裁との違いまでを解説

課題1:プロセスのブラックボックス化と深刻な生産性の低下

旧来の承認プロセスがもたらす最も直接的な問題は、組織全体の生産性を蝕む非効率性です。これは単なる時間の浪費ではなく、従業員のモチベーション低下や人材流出にまでつながる深刻な課題です。

承認待ちが常態化する「止まる」ワークフロー

紙やメールを基本とした稟議は、本質的に「止まる」ようにできています。

  • 物理的な停滞:紙の稟議書は、承認者が出張や休暇で不在の場合、そのデスクの上で完全にプロセスが停止します。
  • 見落とし・後回し:メールでの申請は、日々大量に届く受信ボックスに埋もれ、承認者に見落とされたり、多忙を理由に後回しにされたりすることが頻繁に起こります。
  • 手戻りの発生:書類に不備が見つかった際の「差し戻し」は、申請者にとって悪夢です。修正後、また最初の承認者からプロセスをやり直さなければならず、関係者全員の時間を奪います。

このような遅延は、ビジネスの勢いを削ぎ、従業員に「待つ」文化を根付かせてしまいます。

申請の「今」が見えないストレスと無駄な確認コスト

一度提出した稟議書が、今どこにあり、誰の段階で止まっているのか。紙やメールの運用では、この状況をリアルタイムで把握する術がありません。このプロセスのブラックボックス化は、従業員に本来不要な業務を強います。

  • 追跡作業の発生:申請者は状況を確認するために、承認者の席まで足を運んだり、電話や催促のメールを送ったりといった、全く価値を生まない追跡作業に時間を費やします。
  • 心理的負担の増大:「あの件、どうなっただろうか」と常に気にかけなければならない状況は、従業員の集中力を奪い、本来注力すべきコア業務へのパフォーマンスを低下させます。

探せない・再利用できない情報が「組織の知的資産」を失わせる

過去の稟議書は、単なる記録ではなく、コスト分析やリスク評価など、未来の意思決定に役立つ「組織の知的資産」です。しかし、旧来の方法ではこの資産が死蔵されてしまいます。

  • 紙の限界:ファイルキャビネットに眠る膨大な書類の中から、特定の稟議書を探し出すのは至難の業です。紛失や劣化のリスクも常に伴います。
  • Excel・メールの限界:個人のPCやメールボックスに散在するファイルは、バージョン管理が困難で、どれが最新版か分からなくなります。過去の経緯を検索することも極めて難しく、組織は過去の学びから教訓を得ることができません。

この「組織的健忘症」は、同じ過ちの繰り返しや、非効率な作業の再生産を招き、組織の成長を深刻に阻害します。

【まとめ】紙・Excel・メール稟議が引き起こす生産性の問題点

問題の種類具体的な事象もたらされる結果
意思決定の遅延承認者の不在、メールの見落とし、書類不備による差し戻しビジネスの停滞、機会損失、従業員のフラストレーション増大
進捗の不透明性承認状況のブラックボックス化無駄な確認・催促業務の発生、心理的負担の増加、コア業務への集中阻害
非効率な情報管理過去文書の検索困難、バージョン管理の混乱、属人化組織の知的資産の死蔵、ナレッジの不活用、非効率な作業の繰り返し

課題2:ガバナンスの脆弱性と増大する経営リスク

日々の非効率性は、やがて企業の信頼を揺るがす、より深刻な経営リスクへと発展します。旧来のプロセスは、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスの観点から、多くの脆弱性を内包しています。

「全員承認」がもたらす無責任な体制

稟議制度は、複数の承認者が関与することで、しばしば責任の所在を曖昧にします。

  • 責任感の希薄化:全員が承認印を押すことで、「他の誰かがしっかり見ているだろう」という心理が働き、個々の責任感が希薄になりがちです。結果として、提案内容に対するチェックが甘くなる傾向があります。
  • 問題発生時の特定困難:万が一、その決定が不正や大きな損失につながった場合、誰に最終的な責任があったのかを特定することが困難になり、組織としての反省や改善が機能しなくなります。

【関連情報】

企業の不正防止に不可欠なJ-SOX法への対応も、旧来のプロセスでは限界があります。詳しくは以下の記事で解説しています。

>> ワークフローで実現するJ-SOX対応|3点セット作成を効率化するポイント

ルール逸脱を許容するアナログな運用が内部統制を形骸化させる

職務権限規程などの社内ルールも、手動プロセスではその遵守を徹底することが極めて困難です。

  • 不正な申請の横行:決裁金額の上限を超える申請や、本来通すべき承認者を意図的に飛ばすといったルール違反を、システム的に防ぐ仕組みがありません。
  • 内部統制の形骸化:ルールは文書として存在するものの、日々の業務で一貫して適用されず、実効性を失います。これは、監査で指摘を受ける重大なリスクとなります。

保護されない機密情報が情報漏洩・改ざんリスクを招く

旧来のプロセスは、情報セキュリティの観点からも極めて脆弱です。

  • 物理的なリスク:機密情報が記載された紙の書類は、紛失、盗難、権限のない人物による盗み見のリスクに常に晒されています。
  • デジタルのリスク:Excelファイルを添付したメールの誤送信は、単純なミスで重大な情報漏洩事故を引き起こします。また、Excelのデータや紙の承認日などは、痕跡を残さず改ざんすることも比較的容易であり、客観的な証跡として不十分です。

【まとめ】旧来プロセスが内包するガバナンス上のリスク

リスクの種類具体的な脅威
責任所在の曖昧化チェック機能の低下、無責任体質の助長
内部統制の形骸化不正な申請・決裁の発生、社内ルールの無視
情報セキュリティ機密情報の漏洩、データの改ざん、監査証跡の不備

課題3:経営スピードの鈍化と失われるビジネス機会

内部の非効率性やガバナンスの問題は、最終的に企業の市場競争力そのものを削ぐ、戦略的な足枷となります。

意思決定の遅れが致命的な機会損失につながる

現代のビジネスではスピードが勝敗を分けます。しかし、重要な意思決定に数週間もかかっていては、ビジネスチャンスはあっという間に過ぎ去ってしまいます。

例えば、ある営業担当者が大型契約のために特別な値引き承認を求めても、稟議書が上長のデスクで滞留している間に、競合他社に契約を奪われるといった事態は、決して珍しい話ではありません。企業の「内部時計」が市場の変化の速さである「市場時計」についていけず、構造的に競争力を失ってしまうのです。

「ハンコ出社」が多様な働き方の障壁となる

リモートワークやハイブリッドワークが普及する現代において、紙の書類への押印のためだけに出社する、いわゆる「ハンコ出社」は、企業の成長を阻害する大きな要因です。

  • 柔軟な働き方の阻害:従業員の生産性や満足度を著しく低下させます。
  • 人材獲得競争での不利:柔軟な働き方を求める優秀な人材から敬遠され、採用競争において直接的な不利益を被ります。旧態依然とした社内プロセスが、企業の魅力を損ない、人材流出の原因にもなりかねません。

データが活用できず「勘と経験」の経営から脱却できない

稟議プロセスは、「どの部署が、何に、いくら使っているか」「承認にどれくらい時間がかかっているか」といった、経営判断に役立つ貴重なデータの宝庫です。

しかし、紙やExcel、メールに散在する情報は、集計・分析が不可能な「ダークデータ」と化してしまいます。これにより、経営陣は客観的なデータではなく、個人の勘や経験に頼った意思決定を続けざるを得なくなり、データドリブン経営への移行を阻害します。

【まとめ】経営スピードを鈍化させる3つの要因

  • 意思決定のボトルネック:市場の変化に対応できず、ビジネスチャンスを逃す。
  • 多様な働き方への未対応:従業員の生産性を下げ、人材獲得における競争力を失う。
  • データの死蔵:データに基づいた戦略的な経営判断ができず、成長が頭打ちになる。

結論:部分最適の先へ、真の「稟議DX」を実現するために

ここまで見てきたように、紙・Excel・メールによる稟議は、もはや企業の成長を支えるどころか、その足枷となっています。では、どうすればこの状況から脱却できるのでしょうか。

解決策の第一歩:ワークフローシステムによる「プロセスの電子化」

3つの大きな課題を解決するための第一歩が、「ワークフローシステム」の導入です。ワークフローシステムは、これまで手動で行っていた申請から承認・決裁までのプロセスを電子化・自動化することで、以下のような直接的な効果をもたらします。

  • 生産性の向上:承認ルートの自動化と進捗の可視化により、遅延や無駄な確認作業をなくします。
  • ガバナンスの強化:社内ルールをシステムに組み込み、逸脱を防ぎます。また「誰が・いつ・何を承認したか」という改ざん不可能な監査証跡を自動で記録します。
  • 経営スピードの向上:場所を選ばずに承認が可能になり、意思決定を迅速化します。テレワークなど多様な働き方にも対応できます。

まずはワークフローシステムを導入し、非効率な手作業から脱却すること。これが変革のスタートラインです。

しかし、それだけでは不十分な理由:システムの「分断」という新たな壁

多くの企業がワークフローシステムを導入したにもかかわらず、根本的な業務改革に至らないケースがあります。その原因は、文書業務に関わるシステムが「分断」されたままである「部分最適の罠」にあります。

企業の公式な文書は、承認されたら終わりではありません。「作成」から「保管」「廃棄」までの一連のライフサイクルを持ちますが、各フェーズで異なるシステムが使われているのが実情です。

【表】分断された文書業務と各システムの役割

システムの種類主な役割課題
ワークフローシステム文書の作成(申請)から処理(承認・決裁)までを担う決裁後の文書は管理外となり、保管や活用がされない。
文書管理システム決裁後の文書の保管・保存・廃棄を担う承認プロセスと分断されており、決裁文書を手動で登録する必要がある。
グループウェアルール文書(規程・マニュアル)の開示や、業務連絡の周知を担う申請時に最新の規程が参照されず、形骸化しやすい。

このように、各システムがそれぞれの役割しか果たさない「部分最適」の状態では、決裁後の文書が管理されない「野良ファイル」と化したり、申請時に古いルールを参照してしまったりといった、新たな非効率とリスクが生まれてしまうのです。

真の解決策:すべてを繋ぎ、データを価値に変える「統合型ワークフローシステム」

この根深い「分断」を解消し、真の業務改革を実現するのが、「統合型ワークフローシステム」です。

統合型ワークフローシステムは、単にプロセスを繋ぐだけではありません。これまで「ダークデータ」として眠っていた申請内容そのものをデータとして捉え、経営の意思決定に活かす仕組みを提供します。

  • 文書ライフサイクルの一元管理:これまでバラバラだったワークフロー、文書管理、グループウェアの機能を一つに束ね、文書の作成から承認、保管、活用、そして廃棄までをシームレスに管理します。
  • BIツールによるデータの可視化:蓄積されたデータをBI(ビジネスインテリジェンス)ツールで分析・可視化します。「承認に何日かかったか」といったプロセス情報だけでなく、「どの部署が、どのような経費を、いくら申請しているか」といった書類の中身まで踏み込んだ分析が可能になり、データに基づいた予算策定や業務改善を強力に支援します。
  • AIによる高度なサポート:AIが過去の類似案件を参考に最適な承認ルートを提案したり、問い合わせに自動で応答したりと、これまで人間に依存していた「判断」や「コミュニケーション」の領域まで効率化を進めます。

もし、あなたの会社が単なる電子化に留まらない、本質的な業務改革を目指すなら、この「統合」と「データ活用」という視点は不可欠です。例えば、ジュガールワークフローは、まさにこの思想を体現した次世代のプラットフォームです。強固な基盤とAI・BI活用能力で、貴社の制度を形だけのルールから、会社のパフォーマンスを生み出す「動く仕組み」へと変革します。まずは自社の現状を把握し、変革への一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

引用・参考文献

  1. 株式会社アイ・ティ・アール (ITR)「ITR Market View:ECサイト構築/CMS/SMS送信サービス/電子請求書サービス/電子契約サービス/ワークフロー市場2023」
    ワークフロー市場の動向や成長予測に関する調査データ。電子化のニーズの高まりを示唆している。
    (https://www.itr.co.jp/report/marketview/M23001800.html)

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記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。