ワークフローシステム講座

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【2025年改正対応】電子帳簿保存法をワークフローで乗り切る完全ガイド|JIIMA認証・e-文書法との違いも解説

目次

この記事のポイント

  • 2024年に義務化された電子帳簿保存法(電帳法)の基本と、2025年最新改正のポイント
  • 法律が求める「真実性」「可視性」が、紙の文書管理とどう違うのかという本質的な理解
  • なぜ、電帳法対応に「ワークフローシステム」が最適解なのかという実践的な理由
  • 失敗しないための、電帳法に対応したワークフローシステムの具体的な選び方と必須機能
  • 信頼の証である「JIIMA認証」の重要性と活用方法
  • 法対応をコストで終わらせず、業務改革につなげるための具体的な導入ステップ

1. なぜ今、電子帳簿保存法への対応が「待ったなし」なのか?

この章のポイント

  • 2024年1月から「電子取引」のデータ保存が全事業者に義務化された。
  • 電帳法対応は、単なる法改正対応ではなく、DX推進の重要な一歩である。
  • 法対応を「コスト」と捉えるか「投資」と捉えるかで、企業の未来は大きく変わる。

「電子帳簿保存法(でんしちょうぼほぞんほう)」という言葉を耳にする機会が急激に増え、「対応しなければならないのは知っているが、具体的に何をすればいいのか分からない」「法律の話は難しくて苦手だ」と感じている方も多いのではないでしょうか。

ご安心ください。この記事では、専門用語を一つひとつ丁寧に紐解きながら、なぜ対応が必要なのか、そして具体的にどうすれば良いのかを、ビジネスの現場目線で解説していきます。

まず結論から言えば、2024年1月1日から「電子取引」におけるデータ保存がすべての事業者(法人・個人事業主)に義務化されたため、電帳法への対応はもはや他人事ではなく、すべての企業にとって「待ったなし」の経営課題となっています。

概要:単なる法改正ではない、DX推進の号砲

電子帳簿保存法(以下、電帳法)は、これまで紙での保存が原則だった国税関係の帳簿や書類を、一定のルールのもとで電子データとして保存することを認める法律です。1998年の施行以来、時代の要請に合わせて幾度も改正が重ねられてきましたが、特に2022年の改正と2024年からの義務化は、企業の経理業務のあり方を根本から変える、大きな転換点となりました。

この法律の目的は、単にペーパーレス化を促すだけではありません。企業内に散在する請求書や領収書といった取引データをデジタル化・一元化することで、業務プロセス全体の効率化と生産性向上、すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させることに、その本質的な狙いがあります。

請求書を探すために倉庫の段ボール箱を漁ったり、承認印をもらうために出社したりする時間。これらは、企業の成長に直接貢献しない「見えないコスト」です。電帳法への対応は、こうした旧来の業務プロセスを見直し、企業全体の生産性を向上させる絶好の機会なのです。

したがって、電帳法への対応を「コストのかかる面倒な義務」と捉えるか、「業務改革を進める好機」と捉えるかで、数年後の企業の競争力に大きな差が生まれることになるでしょう。

Q. うちのような中小企業にも関係ありますか?

A. はい、大いに関係あります。電帳法の中でも、特にメールで受け取った請求書PDFなどをデータで保存する「電子取引データ保存」は、企業の規模や業種、売上高にかかわらず、すべての法人および個人事業主が対象となります。たとえ電子取引が1件でもあれば、そのデータを法律の要件に沿って保存する義務があります。ただし、事業者の負担を軽減するための猶予措置や緩和要件も設けられていますので、自社の状況に合った対応方法を知ることが重要です(詳しくは第4章で解説します)。

2. 【図解】電子帳簿保存法の全体像|3つの保存区分を正しく理解する

この章のポイント

  • 電帳法には「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つの区分がある。
  • このうち、対応が「義務」なのは「電子取引データ保存」のみ。他は「任意」。
  • まずは「義務」への対応を確実に行い、次に「任意」の活用を検討するのが正しい順序。

電帳法への対応を始める第一歩は、法律が定める3つの保存区分を正確に理解することです。この3つは「義務」と「任意」に分かれており、自社がどこまで対応すべきかを見極める上で非常に重要です。

① 電子帳簿等保存(任意)

これは、会計ソフトなどを使って最初から一貫して電子的に作成した帳簿や書類を、データのまま保存することを指します。

  • 対象書類の例:
    • 国税関係帳簿: 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳など
    • 決算関係書類: 貸借対照表、損益計算書など
  • 位置づけ: 任意。希望する事業者のみが対応します。紙に印刷して保存する必要がなくなるため、ペーパーレス化によるコスト削減や保管スペースの削減といったメリットがあります。

② スキャナ保存(任意)

これは、取引先から紙で受け取った、または自社で作成して紙で渡した書類の写しを、スキャナやスマートフォンで読み取って画像データとして保存することを指します。

  • 対象書類の例: 請求書、領収書、契約書、見積書、注文書など
  • 位置づけ: 任意。希望する事業者のみが対応します。一定の要件を満たして保存すれば、紙の原本を破棄できるため、書類の管理・検索が格段に効率化されます。

③ 電子取引データ保存(義務)

これが最も重要な区分です。電子メールやクラウドサービス、EDI取引など、電子的にやり取りした取引情報を、紙に出力せずデータのまま保存することを指します。

  • 対象となる取引情報の例:
    • 電子メールに添付された請求書や領収書のPDF
    • Webサイトからダウンロードした領収書や利用明細
    • クラウドサービスを介して授受した請求書
    • EDI(電子データ交換)システム上の取引情報
    • ペーパーレスFAXで受信した注文書データ
  • 位置づけ: 義務。2024年1月1日から、すべての事業者が対応必須となりました。紙に印刷して保存することは、原則として認められません。

まとめ表:3つの保存区分の違い

区分対象法的義務主なメリット・目的
① 電子帳簿等保存会計ソフト等で作成した帳簿・書類任意ペーパーレス化、保管コスト削減
② スキャナ保存紙で受領・作成した書類任意書類管理の効率化、原本破棄
③ 電子取引データ保存データで授受した取引情報義務コンプライアンス遵守

このように、電帳法は「ペーパーレス化による業務効率化」という任意(オポチュニティ)の側面と、「電子取引データの保存」という義務(コンプライアンス)の側面を併せ持っています。まずはすべての事業者が義務である③の対応を確実に行い、その上で、自社の業務効率化のために①や②に取り組む、というステップで考えるのが正しいアプローチです。

Q. すべての書類を電子化しないといけないのですか?

A. いいえ、その必要はありません。法律で電子保存が「義務」付けられているのは、あくまで「電子取引」でやり取りしたデータのみです。取引先から紙で受け取った請求書や領収書は、これまで通り紙のままファイリングして保存しても全く問題ありません。「スキャナ保存」は、その紙の書類を電子化して管理を楽にしたい企業が、任意で選択する制度です。

3. 法律は難しくない!「良い文書管理」の原則を紙の業務と比較して理解する

この章のポイント

  • 法律が求める「真実性」「可視性」といった要件は、決して特殊なものではない。
  • これらは、紙の文書管理で当たり前に行われてきた「良い管理」を、デジタルで実現するための指針である。
  • 「法律=難しい」という先入観を捨て、ビジネスの基本原則として捉えることが理解への近道。

「見読性」「完全性」「真実性」…法律の条文には、こうした難解に見える言葉が並びます。しかし、これらの言葉の本質を理解すれば、法律が求めているのは、実はビジネスの現場で昔から行われてきた「信頼できる文書管理」そのものであることが分かります。

ここでは、文書の電子化に関する法律の基本である「e-文書法」と、その特別ルールである「電子帳簿保存法」が求める要件を、皆さんが慣れ親しんだ「紙の文書管理」と比較しながら解説します。

比較表:紙と電子における「良い文書管理」の原則

管理原則法律上の要件紙の管理での実践例電子管理での実践例(システム利用)
読めること見読性汚れやかすれがないよう、きれいにファイリングする。PCやスマホで文字や数字が明瞭に表示・印刷できる。
変わらないこと完全性 / 真実性決裁印や割印を押し、後から改ざんできないようにする。タイムスタンプを付与する。訂正・削除の操作履歴をすべて記録する。
守られること機密性鍵付きのキャビネットに保管し、閲覧者を限定する。役職や部署に応じてアクセス権限を設定し、不正な閲覧を防ぐ。
見つかること検索性取引先別・日付順に整理し、文書管理台帳を作成する。取引年月日・金額・取引先などの項目でデータを瞬時に検索できる。

すべての文書管理の土台となる「e-文書法」の4大原則

まず、あらゆる文書の電子化の基本となる「e-文書法」が定める4つの原則を見ていきましょう。

① 見読性(けんどくせい)

  • 法律の要求: PCの画面やプリンタなどで、明瞭な状態で速やかに出力(表示・印刷)できること。
  • 紙の管理で言うと…: 「誰でも読めるように、きれいにファイリングすること」
    当たり前のことですが、受け取った請求書が汚れていたり、文字がかすれていたりすれば、内容を確認できません。紙の文書をきれいに保管し、誰もが内容をはっきりと読める状態を保つこと。これが「見読性」の本質です。電子データも同様に、誰のPCでも正しく表示され、内容が確認できる状態でなければなりません。

② 完全性

  • 法律の要求: 保存期間中に、記録された情報が意図せず破壊されたり、改ざんされたりすることを防ぐ措置がとられていること。
  • 紙の管理で言うと…: 「決裁印を押し、鍵付きのキャビネットで保管すること」
    重要な契約書には、承認の証としてハンコを押し、後から誰かが勝手に書き換えられないようにします。そして、その書類は施錠できるキャビネットに保管し、紛失や不正な持ち出しを防ぎます。これが「完全性」、つまり「その文書が正しく、作成された時から変わっていないこと」を保証する行為です。

③ 機密性

  • 法律の要求: 保存された情報に対し、許可なくアクセスされたり、情報が漏洩したりすることを防ぐ措置がとられていること。
  • 紙の管理で言うと…: 「役員会議の議事録は、役員しか見られない場所に保管すること」
    すべての書類を誰もが見られる場所に置く企業はありません。給与情報や人事考課、未公開の経営情報など、機密性の高い文書は、閲覧できる人を限定した場所で厳重に管理します。これが「機密性」です。電子データにおいても、役職や部署に応じてアクセス権限を設定することが求められます。

④ 検索性

  • 法律の要求: 保存された膨大な情報の中から、必要な情報を速やかに探し出せること。
  • 紙の管理で言うと…: 「取引先ごと・日付順にファイリングし、インデックスを付けること」
    何年も前の請求書が必要になった時、段ボール箱をひっくり返して探すのは大変です。そうならないように、通常は取引先別や日付順に整理し、ファイルには背表紙を付け、どこに何があるか分かるように「文書管理台帳」を作成します。これが「検索性」です。電子データも、ファイル名やフォルダを整理し、必要な時にすぐに見つけられる状態でなければなりません。

国税関係書類に特化した「電子帳簿保存法」の2大原則

次に、国税関係の重要書類に特化した「電子帳簿保存法」の原則です。これは、e-文書法の原則を、税務調査という観点から、より具体的に、より厳格にしたものと理解してください。

① 真実性の確保

  • 法律の要求: 保存されたデータが、作成されてから一貫して改ざんされていないことを証明するための措置。
  • e-文書法との関係: 「完全性」を、より厳格にしたもの。
  • 紙の管理で言うと…: 「決裁印」や「割印」、「管理台帳での記録」に相当します。電子の世界では、これを「タイムスタンプの付与」「訂正・削除履歴が残るシステムの利用」といった技術的な手段で実現します。つまり、「誰がいつ作成し、その後一切手が加えられていないこと」あるいは「もし変更したなら、誰がいつ変更したかの記録がすべて残っていること」をシステムで証明するのです。

② 可視性の確保

  • 法律の要求: 保存されたデータを、税務調査などの際に速やかに検索・表示できることを保証するための措置。
  • e-文書法との関係: 「見読性」と「検索性」を合わせたもの。
  • 紙の管理で言うと…: 「きれいで見やすいファイリング」と「インデックスや管理台帳」に相当します。電帳法では、これをさらに具体的に、PCやディスプレイを備え付け、「取引年月日・金額・取引先」といった特定の項目でデータを検索できる機能をシステムに持たせることを求めています。

ビジネス上の意味:法対応は「良い文書管理」の実践そのもの

いかがでしょうか。こうして見ると、法律が求める要件は、決して突飛なものでも、難解なものでもないことが分かります。

つまり、電帳法やe-文書法への対応とは、何か特別なことを始めるのではなく、「これまで紙で、手間をかけて行ってきた適切な文書管理を、デジタルの力を使って、より効率的かつ確実に行うこと」に他なりません。この視点を持つことで、法対応は単なる義務ではなく、自社の文書管理体制そのものを見直し、強化する絶好の機会と捉えることができるのです。

Q. 結局、私たちが日々の業務で気にすべきはどちらの法律ですか?

A. 結論として、経理・財務部門が日々の請求書や領収書の処理で直接的に意識すべきは「電子帳簿保存法」です。 なぜなら、法律の世界では、広い範囲を対象とする「一般法」(e-文書法)と、特定の分野を対象とする「特別法」(電帳法)がある場合、「特別法」が優先して適用されるからです。税務調査で問われるのは、電帳法の要件を遵守しているかどうかであり、コンプライアンス対応の焦点はすべて電帳法に合わせるべきです。

4. 【2025年最新】改正内容を徹底解説|何が変わり、どう対応すべきか?

この章のポイント

  • スキャナ保存や電子取引の要件が緩和され、特に中小企業の負担が軽減された。
  • 一方で、データ改ざんに対する罰則は強化されている。
  • 信頼性の高いシステムを導入することが、リスク対策と税務上のメリットにつながる。

電帳法は、社会の実情に合わせて頻繁に改正が行われています。ここでは、2025年時点での最新のルール、特に事業者の対応に大きく影響するポイントを解説します。これらの改正は、規制緩和によって事業者の負担を減らすという「アメ」と、不正に対する罰則を強化するという「ムチ」を使い分ける、巧妙な政策が反映されています。

ポイント① スキャナ保存の要件が大幅緩和【アメ】

紙の書類をスキャンして保存する「スキャナ保存」のルールが、大幅に使いやすくなりました。

  • 入力者情報の保存が不要に: 以前は、誰がスキャン作業を行ったかの情報を記録する必要がありましたが、この要件が廃止されました。
  • 解像度・階調情報の保存が不要に: スキャンした画像の解像度(dpi)や、カラーかグレースケールかといった情報の保存も不要になりました。(ただし、スキャンする際の機器設定として、解像度200dpi以上、カラー画像での読み取りといった基本要件は維持されています)
  • 帳簿との相互関連性の要件が緩和: スキャンした書類(例:請求書)と、それに対応する会計帳簿の仕訳を結びつけて確認できる「相互関連性」の確保が、契約書や領収書といった「重要書類」に限定されました。見積書などの「一般書類」は不要です。

これらの緩和により、スキャナ保存導入の事務的なハードルは大きく下がりました。

ポイント② 電子取引の検索要件が緩和&新たな猶予措置【アメ】

義務である「電子取引データ保存」についても、事業者の実情に配慮した重要な緩和措置が講じられています。

  • 検索要件の大幅な緩和:
    原則として、電子取引データは「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できる状態で保存する必要があります。しかし、以下のいずれかに該当する事業者は、この検索要件のすべてが不要になります。
  1. 基準期間(2事業年度前)の売上高が5,000万円以下の事業者。
  2. 税務調査の際に、電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日や取引先ごとに整理された形で提示・提出できる事業者。
  • 新たな猶予措置の整備:
    「システム導入が間に合わない」「資金や人手が足りない」といった「相当の理由」がある事業者については、以下の2点を満たすことを条件に、検索要件などを満たさずにデータをただ保存しておくだけでよい、という猶予措置が設けられました。
  1. 税務調査の際に、データのダウンロードの求めに応じられること。
  2. 税務調査の際に、プリントアウトした書面の提示・提出の求めに応じられること。

これらの「アメ」により、特に中小企業は、自社のリソースに合わせて段階的に対応を進めることが可能になりました。

ポイント③ 「優良な電子帳簿」のメリットと罰則強化の「アメとムチ」

一方で、データの信頼性に対する要求はより高度になっています。

  • 罰則の強化【ムチ】:
    電子取引データについて、もし隠蔽や仮装といった不正な処理(改ざんなど)が発覚した場合、通常のペナルティ(重加算税35%)に、さらに10%が加重され、合計で追徴税額の45%という非常に重いペナルティが課されることになりました。
  • 優遇措置【アメ】:
    この10%の加重措置は、「優良な電子帳簿」の要件を満たしている場合や、信頼性の高いシステムを利用している場合には免除されます。
    さらに、より厳格な要件(検索機能の確保など)を満たす「優良な電子帳簿」として保存し、事前に届出を行っている場合、万が一申告漏れがあっても過少申告加算税が5%軽減されるというメリットもあります。

まとめ表:2025年改正のポイントと事業への影響

区分主要な改正点事業への影響・戦略的意味合い
スキャナ保存メタデータ(解像度等)や入力者情報の保存が不要に事務負担が大幅に軽減され、導入しやすくなった。
電子取引検索要件の緩和(売上5,000万円以下等)中小企業の多くで、高度な検索機能を持つシステムの導入が不要になった。
電子取引新たな猶予措置の創設システム対応が困難な事業者にもセーフティネットが用意され、コンプライアンスのハードルが下がった。
罰則・優遇不正に対する重加算税10%加重データ改ざんのリスクが経営に与えるインパクトが増大した。
罰則・優遇優良なシステム利用者は加重措置を免除信頼性の高いシステムへの投資が、将来のペナルティリスクを低減する「保険」として機能するようになった。
Q. システム導入が間に合わない場合、どうすれば良いですか?

A. 上記の「猶予措置」の利用を検討してください。特別な事前申請は不要です。電子取引のデータを、例えば「20251031_株式会社〇〇_110000円.pdf」のように、後から見て内容が分かるようなファイル名(日付・取引先・金額)にリネームし、「2025年10月」といった月別のフォルダに整理してPCやサーバーに保存しておくだけでも、最低限の対応とはなります。ただし、これはあくまで一時的な措置であり、業務効率や検索性を考えると、早期に適切なシステムを導入することが望ましいです。

5. なぜワークフローが最適解なのか?|紙の管理と比較してわかる本質

この章のポイント

  • 紙の文書管理は、厳密に行うと非常に非効率で多くの「見えないコスト」を抱えている。
  • ワークフローシステムは、紙で手間のかかった「真実性」「可視性」の確保を、業務プロセスの中で自動的に実現する。
  • システム導入は、法対応だけでなく、旧来の非効率な業務を刷新する経営判断である。

電帳法対応と聞くと、「システム導入は大変そうだ」と感じるかもしれません。しかし、視点を変えて、これまでの「紙の文書管理」で本当に厳格な管理ができていたかと比較してみると、ワークフローシステムを導入することが、いかに合理的で効率的なのかが見えてきます。

幻想だった「紙の管理」の手軽さ

紙の請求書や領収書をファイルに綴じてキャビネットに保管する方法は、一見シンプルに見えます。しかし、第3章で解説した法律が求める「真実性」や「可視性」を厳密に担保しようとすると、実は大変な手間とコストがかかっています。

  • 真実性の確保(紙の場合):
    • 改ざん防止: 決裁印や割印を押し、一度綴じたファイルは安易に抜き差しできないように連番を振って管理する。
    • アクセス管理: 重要な書類は施錠できるキャビネットに保管し、誰がいつ閲覧したかを「持ち出し管理簿」に手で記録する。
    • 紛失・劣化対策: 書類の紛失リスクに常に備え、火災や水害から守るための物理的な対策(耐火書庫など)も必要。
  • 可視性の確保(紙の場合):
    • 検索性: 過去の書類を探すには、まず管理台帳で保管場所を特定し、倉庫のキャビネットの前まで行き、膨大なファイルの中から目視で探し出す必要がある。
    • 共有の困難さ: 複数の人が同時に同じ書類を見ることはできず、コピーを取る手間が発生する。テレワークでは閲覧自体が不可能。

このように、多くの企業で紙の管理は「ルールが曖昧なまま運用されている」から手軽に感じていただけかもしれません。厳密な管理は非常に非効率で、多くの見えないコスト(人件費、保管スペース代、紛失リスク)を内包しているのです。

ワークフローが「当たり前の管理」を自動化する

ワークフローシステムは、この「紙でやると大変だった厳密な管理」を、業務プロセスに組み込むことで自動的に実現します。

理由① 「真実性の確保」を仕組みで担保する

ワークフローシステムは、まさに電帳法が求める「訂正・削除の履歴が残るシステム」そのものです。

  • 変更履歴の自動記録: 誰がいつ申請し、誰が承認したか、もし差し戻しや修正があればそのすべてがタイムスタンプと共に自動で記録されます。これは、紙の管理簿への手書き記録とは比較にならないほど正確で、改ざんが困難な「監査証跡」となります。
  • アクセス制御: 権限のない人は、そもそもデータにアクセスしたり、承認したりすることができません。これにより、紙の「鍵の管理」よりもはるかに高度なセキュリティが実現します。

理由② 「可視性の確保」を劇的に向上させる

手作業でのファイリングや検索といった、最も時間のかかる作業から解放されます。

  • 瞬時の検索: 取引先名や日付、金額などを入力すれば、数秒で目的のデータを探し出せます。これは、倉庫のキャビネットを探し回る時間とは比べ物になりません。
  • 場所を問わない閲覧: ネット環境さえあれば、オフィス、自宅、出張先など、どこからでも必要な情報にアクセスでき、多様な働き方を支援します。

このように、ワークフローシステムは、電帳法の要件を「点」で満たすだけでなく、これまで非効率だった紙の管理業務全体を、より安全かつ効率的なデジタルの仕組みに置き換える、最も合理的で堅牢なソリューションなのです。法対応をきっかけに、より高度な文書管理機能を持つ統合型ワークフローシステムを導入すれば、全社的な業務改革へとつなげることも可能です。

Q. ワークフローの承認記録は、法的に有効な記録になりますか?

A. はい、なります。適切に設計されたワークフローシステムが記録する「誰が(Who)・いつ(When)・何を(What)・どのように(How)」承認したかというログは、電子署名法やe-文書法、そして電子帳簿保存法の観点からも、有効な証拠(監査証跡)として認められます。特に、訂正削除の履歴が残るシステムは、電帳法が求める「真実性の確保」の要件を満たすための主要な手段の一つとして公式に認められています。

6. 失敗しない!電帳法対応ワークフローシステムの選び方と比較ポイント

この章のポイント

  • 自社の状況(売上規模など)に応じて、必要な検索機能が搭載されているかを確認する。
  • データの改ざん防止や、訂正・削除の履歴が確実に記録されるシステムを選ぶ。
  • 「JIIMA認証」は、法対応の要件を満たしていることの客観的な証明となり、システム選定の安心材料になる。

では、具体的にどのようなワークフローシステムを選べば良いのでしょうか。ここでは、電帳法対応を目的とする場合に、最低限確認すべき必須機能と、信頼できる製品を見極めるための「JIIMA認証」について解説します。

必須機能①:「可視性の確保」を実現する検索機能

第4章で解説した通り、売上高5,000万円超の事業者など、検索要件の免除を受けられない場合は、システムに以下の検索機能が備わっていることが必須です。

  • 「取引年月日」「取引金額」「取引先」を検索条件として設定できること。
  • 日付と金額については、範囲を指定して検索できること(例:2025年10月1日~10月31日までの、10万円以上の取引)。
  • 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できること(例:取引先「A社」の、10月分の取引)。

必須機能②:「真実性の確保」を担保する証跡管理機能

「真実性の確保」の根幹をなす機能です。システムが以下のいずれかの仕様を満たしているかを確認しましょう。

  • 一度登録・承認されたデータは、訂正や削除が一切できない
  • 訂正や削除を行った場合、その操作の履歴(いつ、誰が、どのデータを変更したか)が完全に記録され、後から確認できる

信頼の証「JIIMA認証」とは?そのメリットと確認方法

JIIMA(ジーマ)認証とは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が、市販のソフトウェア製品が電帳法の要件を満たしているかを第三者の立場でチェックし、認証する制度です。

  • 導入のメリット: JIIMA認証を取得している製品を導入する最大のメリットは「安心感」です。自社でシステムの仕様が法的要件を満たしているかを細かく検証する必要がなく、国税庁も認める「お墨付き」の製品を安心して利用できます。国税庁のウェブサイトでも、JIIMA認証製品のリストが公開されており、税務調査の際にもスムーズな説明が可能です。
  • 認証の種類と確認方法: JIIMA認証には、「電子帳簿ソフト」「スキャナ保存ソフト」「電子取引ソフト」など、電帳法の区分に応じた複数の種類があります。自社が必要とする区分の認証を取得しているか、製品のウェブサイトやJIIMAの公式サイトで確認しましょう。

比較表:JIIMA認証取得システムのタイプ別比較

電帳法に対応したシステムは、大きく3つのタイプに分類できます。

タイプ主な特徴JIIMA認証の傾向対象企業代表的な製品例
A: 会計ソフト一体型会計処理とデータ保存がワンストップで完結。電子帳簿、電子取引個人事業主、中小企業マネーフォワード クラウド、freee会計
B: 経費精算・請求書特化型領収書や請求書の処理に特化した高度な機能を持つ。スキャナ保存、電子取引中小企業~大企業ジュガール経費精算 ※、楽楽精算、TOKIUMインボイス
C: ワークフロー・文書管理型稟議などを含め、社内のあらゆる文書の電子化に対応。拡張性が高い。全ての区分に対応可能中堅企業~大企業ジュガール ワークフロー ※、SuperStream-NX

※ジュガールでは、領収書や請求書などの国税関係書類の管理・保存は主に「ジュガール経費精算」が担い、JIIMA認証を取得しています。一方、「ジュガール ワークフロー」は、稟議書や申請書など、より広範な社内文書のライフサイクル管理を担い、電帳法対応と同等の厳格な文書管理機能を提供します。

(関連情報:より汎用的なワークフローシステムの選び方についてはまとめ記事(統合型ワークフローシステムとは?選び方・比較検討方法まで詳細解説!【2025年最新版】)もご覧ください。)

Q. JIIMA認証がないシステムでは対応できませんか?

A. いいえ、JIIMA認証がなくても、電帳法の要件(検索機能、真実性・可視性の確保など)を自社で確認し、要件を満たしていると判断できれば、そのシステムを利用することは可能です。その場合は、なぜそのシステムが法的要件を満たしていると言えるのかを、税務調査などで説明できるように準備しておく必要があります。JIIMA認証は、その説明責任を第三者機関が肩代わりしてくれる「証明書」のようなものと考えると分かりやすいでしょう。

7. 【実践編】ワークフロー導入で電帳法対応を実現する3ステップ

この章のポイント

  • まずは現状の業務を整理し、自社の電子取引の種類と流れを把握する。
  • 全社一斉導入ではなく、特定部門・業務からの「スモールスタート」が成功の鍵。
  • 導入後の定着と改善こそが重要。現場の声を吸い上げてプロセスを育てる。

理論や機能が分かっても、実際に導入を進めるのは大変です。ここでは、ワークフローシステムを使って電帳法対応を成功させるための、現実的な3つのステップを紹介します。

Step1:対象業務の洗い出しと事務処理規程の準備

まず、現状の業務を整理することから始めます。

  • 対象業務の洗い出し: どのような種類の電子取引があるか(メール添付のPDF、Webダウンロードの領収書など)、誰が、どのように処理しているかをリストアップします。この作業を通じて、どの業務からシステム化すれば効果が大きいかが見えてきます。
  • 事務処理規程の準備: タイムスタンプを利用しない場合、データの真実性を担保するために「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」を策定し、備え付けておく必要があります。この規程には、データの訂正・削除を行う際の手順や責任者を定めます。多くのシステムベンダーが雛形を提供しているため、それを参考に自社の実情に合わせて作成しましょう。

Step2:スモールスタートで成功体験を積む

いきなり全社で一斉に導入しようとすると、現場の混乱や抵抗を招きがちです。まずは、影響範囲を限定した「スモールスタート」をおすすめします。

  • 部門を絞る: 経理部や情報システム部など、ITツールに比較的慣れている部門から始めます。
  • 業務を絞る: 経費精算や特定の取引先からの請求書処理など、利用頻度が高く、効果を実感しやすい業務に絞って導入します。

小さな範囲で導入・運用のノウハウを蓄積し、「便利になった」という成功体験を社内に示すことが、その後の全社展開をスムーズに進める鍵となります。

Step3:全社展開と継続的な改善

スモールスタートで得た知見をもとに、対象部門や業務を段階的に拡大していきます。

  • マニュアル整備と従業員教育: 全社展開にあたり、分かりやすい操作マニュアルを準備し、説明会などを実施して従業員の理解を促進します。なぜこの変更が必要なのか、導入によってどのようなメリットがあるのか、という背景から丁寧に伝えることが重要です。
  • 改善サイクルの構築: 導入して終わりではなく、現場の従業員から「もっとこうすれば使いやすい」といったフィードバックを収集する仕組みを設けます。定期的にプロセスの見直しやシステムの改善を行い、業務プロセスを継続的に「育てる」という意識が、定着と効果の最大化につながります。

よくある質問(Q&A)

FAXの扱いは?

複合機から紙で出力されるものは「紙の取引」です。一方、PC上でデータとして送受信するペーパーレスFAXは「電子取引」に該当します。

ファイル形式は?

Excelなどで作成した請求書を、相手に送る前にPDFに変換して保存することは、内容の同一性が保たれていれば問題ありません。

クレジットカードの明細は?

Webサイトからダウンロードした利用明細データは「電子取引」に該当するため、データでの保存が必要です。紙の明細書が郵送される場合は、それを紙のまま保存するか、スキャナ保存を行います。

8. 結論:法対応を「守り」から、業務改革を推進する「攻め」のDXへ

本記事を通じて、電子帳簿保存法への対応が、単なる義務ではなく、企業の業務プロセスを見直す絶好の機会であることがお分かりいただけたかと思います。

法対応はコストではなく、未来への投資

2024年からの電子取引データ保存の義務化、そして2025年以降の改正の流れは、すべての企業にデジタル化へのシフトを促す、国からの強いメッセージです。この変化を「守り」のコンプライアンス対応コストとして捉えるか、業務の非効率を解消し、生産性を向上させる「攻め」のDX投資と捉えるか。その視点の違いが、企業の未来を大きく左右します。

ワークフローシステムを導入し、請求書や領収書の処理をデジタル化することは、その第一歩です。これにより、ペーパーレス化によるコスト削減や意思決定の迅速化はもちろん、ヒューマンエラーの削減、内部統制の強化といった、目に見えにくいが重要な経営基盤の強化につながります。

ジュガール ワークフローのような信頼性の高いシステムは、複雑な法令要件への対応をスムーズに実現します。さらに、ジュガール経費精算と連携させることで、JIIMA認証に準拠した国税関係書類の管理と、社内全体の申請・承認プロセスをシームレスに統合し、全社的な業務最適化を推進します。従業員がより付加価値の高い創造的な仕事に集中できる環境を構築することこそ、真のDXと言えるでしょう。

法改正という変化の波を乗りこなし、企業の成長を加速させるための羅針盤として、本記事が皆様のお役に立てば幸いです。

9. 引用・参考文献

  1. 国税庁. 「電子帳簿保存法一問一答(Q&A)」
  • 提供者:国税庁
  • URL: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/4-3.htm
  • (法令解釈に関する最も公式かつ詳細な情報源)
  1. 国税庁. 「電子帳簿保存法が改正されました」
  • 提供者:国税庁
  • URL: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0023003-082.pdf
  • (改正内容が分かりやすくまとめられたパンフレット)
  1. JIIMA. 「電子帳簿保存法 特集ページ」
  • 提供者:公益社団法人日本文書情報マネジメント協会
  • URL: https://www.jiima.or.jp/deichou-sp/
  • (JIIMA認証制度に関する公式情報)
  1. 中小企業庁. 「中小企業・小規模事業者のための電子帳簿保存法 特設サイト」
  • 提供者:中小企業庁
  • URL: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/denchouho.html
  • (中小企業向けに特化した解説や支援情報)
  1. KPMG. 「2025年度税制改正 – 電子帳簿等保存制度関連情報」
  • 提供者:KPMGジャパン
  • URL: https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/06/e-taxnews-20250630.html
  • (専門家による税制改正の分析レポート)

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記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。