ワークフローシステム講座

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GraphQLは次世代APIの標準か?RESTとの違いとワークフロー連携へのインパクト

目次

この記事のポイント

  • GraphQLとRESTが生まれた歴史的背景と、根本的な設計思想の違い。
  • データ取得、スキーマ、パフォーマンスなど、技術的な観点からの詳細な比較と、それぞれの長所・短所。
  • 某大手メディアサービスや某大手ECサイトは、なぜ、どのような課題を解決するためにGraphQLを導入したのか。
  • GraphQLが開発者の生産性やチーム間の連携(ワークフロー)をどう変えるか。
  • 自社のプロジェクトにGraphQLとRESTのどちらが適しているか、具体的な判断基準。

1. はじめに:APIの「数」が、DXの「質」を脅かす時代

概要

現代のビジネスは、様々なシステムがAPI(Application Programming Interface)を介して連携することで成り立っています。しかし、連携するSaaSが増えるほどAPIの数は増え、その管理は複雑化し、トラブルの温床となります。本記事では、この「APIの混乱」という課題に対し、次世代技術GraphQLがどう応えるのかを、長年の主流であるRESTと比較しながら解説します。APIの選択は、もはや単なる技術選定ではなく、企業のDX戦略そのものを左右する重要な意思決定なのです。

詳細

多くの企業がSaaSを導入し、業務プロセスの効率化を進める中で、システム間の「連携」は避けて通れない課題です。ピラーページ『ワークフロー4.0の全貌|自律型AIチームが経営を加速させる未来』で解説した通り、ワークフロー3.0の時代は、APIによってシステムが「つながる」ことで飛躍的な進化を遂げました。

しかし、その連携が深化するにつれ、新たな問題が浮上しています。それは、APIの数が爆発的に増加することによる「管理の限界」です。連携するシステムが増えるたびにAPIは増え、その仕様や依存関係は複雑に絡み合います。この状態は「APIスパゲッティ」とも呼ばれ、一度トラブルが発生すると原因究明が困難になり、システム全体の安定性を脅かします。

この課題は、長らくAPI設計の王道とされてきたRESTのアーキテクチャだけでは、解決が難しくなってきています。一方で、近年急速に普及しているGraphQLは、この「APIの混乱」を収束させるための、全く新しいアプローチを提示します。

GraphQLの登場は、開発現場に「APIのあり方」を再考する大きなきっかけを与えました。それは、フロントエンドとバックエンドの協業プロセス、すなわち「開発ワークフロー」そのものを変革するポテンシャルを秘めています。本記事では、両者の技術的な違いを深掘りし、あなたのビジネスにとって最適なAPI戦略は何かを考えるための羅針盤を提供します。

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2. 【思想の対立】GraphQLとREST、何が根本的に違うのか?

概要

GraphQLとRESTは、単なる技術仕様の違いではありません。その根底には、APIを「誰が」「どのように」使うことを想定しているか、という根本的な設計思想の違いがあります。RESTはサーバーが定義した「資源(リソース)」を中心に構成されるのに対し、GraphQLはクライアント(アプリケーション)が「欲しいもの(クエリ)」を中心に構成されます。

2-1. REST:サーバーが主導する「リソース中心」の世界

定義

REST(Representational State Transfer)は、2000年に提唱されたソフトウェアアーキテクチャスタイルです。これは特定の技術ではなく、Web全体を支える通信の原則を応用した設計思想です。「リソース」という概念が中心にあり、すべての情報(顧客、商品など)は一意のURL(例:/users/123)で識別される「リソース」として表現されます。

ビジネスへのインパクト

RESTの世界では、サーバー側がAPIの仕様を完全に定義します。例えば、「ユーザー情報を取得するAPI(/users/{id})」は、必ず「氏名、住所、電話番号、メールアドレス…」といった固定のデータセットを返します。クライアント(アプリケーション)側は、その中から必要な情報だけを選んで使うことになります。

このアプローチは、まるで定食屋に似ています。「唐揚げ定食」を頼めば、メインの唐揚げにご飯、味噌汁、漬物が必ずセットで付いてくる。クライアントは「ご飯はいらない」と個別に断ることはできず、提供されたものをそのまま受け取るしかありません。このシンプルさと予測可能性が、長年にわたりRESTが支持されてきた理由です。

2-2. GraphQL:Facebookが生んだ「クライアント中心」の世界

定義

GraphQLは、APIのための「クエリ言語(問い合わせ言語)」であり、そのランタイムです。この技術は、2012年頃からFacebook(現Meta)社内で、ある切実な課題を解決するために開発されました。

誕生の経緯:モバイルアプリの壁

当時、FacebookはWeb中心のサービスから、ネイティブのモバイルアプリへと大きく舵を切っていました。しかし、そこでREST APIが抱える2つの大きな問題に直面します。

  1. オーバーフェッチ (Over-fetching):モバイルアプリのニュースフィードでは、ユーザーの名前とプロフィール画像だけが必要なのに、REST APIは誕生日や勤務先など不要なデータまで大量に返してしまいます。これは、通信速度が限られるモバイル環境では致命的なパフォーマンス低下を招きました。
  2. アンダーフェッチ (Under-fetching):一つの画面を表示するために、ユーザー情報、投稿情報、コメント情報、いいね!情報など、複数のAPIを何度も呼び出す必要がありました(チャッティネス)。これにより、アプリの表示が遅くなり、ユーザー体験を損なっていました。

これらの課題を解決するため、Facebookは「データの取得方法は、サーバーではなくクライアントが決めるべきだ」という逆転の発想に至ります。このクライアント主導の思想こそが、GraphQLの核心です。

ビジネスへのインパクト

GraphQLでは、クライアント側が「どんなデータが、どんな構造で欲しいか」をリクエスト(クエリ)で正確に指定できます。サーバーは、そのリクエストに応じて、過不足なくデータを返します。

これは、アラカルト形式のレストランに例えられます。客(クライアント)はメニューを見ながら、「Aという料理の付け合わせは抜きで、Bという料理からソースだけを持ってきて、Cというサラダを添えてほしい」といった自由な注文が可能です。この柔軟性により、クライアントは一度の通信で必要なデータだけを効率的に取得でき、特に通信環境が不安定なモバイルアプリや、複雑な画面を持つWebアプリケーションの開発で絶大な効果を発揮します。

【この章のまとめ】

項目REST (Representational State Transfer)GraphQL (Graph Query Language)
中心思想リソース指向(サーバーがデータ構造を定義)クエリ指向(クライアントがデータ構造を要求)
アナロジー定食屋(決まったセットメニュー)アラカルトレストラン(自由な組み合わせ)
主導権サーバー側クライアント側
生まれた背景Web全体の原則を体系化Facebookのモバイルアプリ課題解決

3. 【技術の深掘り】GraphQL vs. REST 6つの決定的違い

概要

設計思想の違いは、具体的な技術仕様に現れます。データ取得の方法からパフォーマンスの特性、エラーの扱い方まで、両者には明確な違いが存在し、それが開発効率やアプリケーションの品質に直接影響します。

3-1. データ取得:必要なものだけを取得する効率性

課題

RESTでは、前述の通りオーバーフェッチとアンダーフェッチが問題になります。例えば、ブログ記事の一覧画面で「記事タイトル」と「著者名」だけが必要なのに、RESTの/postsエンドポイントが本文やコメントまで含んだ巨大なデータを返してしまう(オーバーフェッチ)。あるいは、ユーザーのプロフィール画面を表示するために、/users/1、/users/1/posts、/users/1/followersと3回もAPIを呼び出す必要がある(アンダーフェッチ)。

解決策

GraphQLは、この問題を根本から解決します。クライアントは以下のようなクエリを単一のエンドポイント(例:/graphql)に一度だけ送信します。

query {
  user(id: “1”) {
    name
    profilePicture
    latestPosts(limit: 3) {
      title
      createdAt
    }
  }
}
このクエリにより、ユーザーの名前、プロフィール画像、そして最新3件の投稿タイトルと作成日だけを、一度のリクエストで過不足なく取得できます。これにより、ネットワーク通信量が削減され、アプリケーションの表示速度が向上します。

3-2. スキーマと型:揺るがない「契約」の存在

課題

RESTには、APIの仕様を記述する統一された標準がなく、多くの場合、OpenAPI (旧Swagger) のような外部ツールに依存します。しかし、その利用は必須ではなく、ドキュメントが古くなっている、あるいは存在しないケースも少なくありません。これが、開発者間の認識齟齬や手戻りの原因となります。

解決策

GraphQLでは、スキーマと呼ばれる厳格な型定義が仕様の中核に組み込まれています。スキーマは、APIで利用可能なすべてのデータ型(User, Postなど)と、それらを取得・操作する方法(Query, Mutation)を定義した「契約書」の役割を果たします。

この「契約書」があるおかげで、開発者はAPIの構造を正確に把握でき、コード補完や型チェックといった開発ツールの強力なサポートを受けられます。これにより、ヒューマンエラーが減り、開発効率が劇的に向上します。スキーマ自体が常に最新のドキュメントとして機能するため、認識のズレも起こりません。

3-3. APIの進化:バージョン管理からの解放

課題

REST APIで仕様変更(例:フィールドの削除)を行うと、古い仕様に依存しているクライアントが動作しなくなる「破壊的変更」が発生します。これを避けるため、多くの企業は/v1/users、/v2/usersのようにURLにバージョン番号を付けますが、複数バージョンの維持・管理は大きな負担となります。

解決策

GraphQLは「バージョンレスAPI」としばしば呼ばれます。クライアントが必要なフィールドを明示的に要求するため、サーバーが新しいフィールドを追加しても、既存のクライアントには何の影響もありません。

フィールドを廃止したい場合は、スキーマ上で@deprecatedという印を付けます。これにより、開発者はそのフィールドが将来削除されることを知ることができますが、すぐには機能しなくなりません。利用状況を監視し、誰も使わなくなったことを確認してから安全に削除できるため、柔軟なAPIの進化が可能になります。

3-4. パフォーマンス:N+1問題という落とし穴

課題

GraphQLの柔軟性は、サーバーサイドに新たなパフォーマンス問題をもたらす可能性があります。その代表例が「N+1問題」です。例えば、「10件の投稿(Post)と、それぞれの投稿の著者(User)情報」を取得するクエリを考えます。単純に実装すると、まず投稿リストを取得するために1回のDBアクセス、次に各投稿の著者情報を取得するために10回のDBアクセス、合計11(N+1)回のアクセスが発生し、パフォーマンスが著しく低下する可能性があります。

解決策

この問題は、DataLoaderというライブラリ(または同様のバッチ処理パターン)をサーバーサイドに実装することで解決できます。DataLoaderは、短時間に来た複数のリクエストを一旦溜め込み、IDをまとめてから一度のDBアクセスで効率的にデータを取得します。これにより、N+1回のDBアクセスをわずか2回に削減できます。GraphQLは自動的に高性能になるわけではなく、このようなサーバーサイドでの最適化が重要になります。

3-5. キャッシュ戦略:トレードオフの関係

課題

RESTの大きな利点の一つは、HTTPの仕組みを最大限に活用できることです。GETリクエストはURLと一対一で対応するため、ブラウザやCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)によるキャッシュが非常に容易で、パフォーマンス向上に大きく貢献します。

解決策

一方、GraphQLは通常、すべてのリクエストを単一のエンドポイントへのPOSTリクエストとして送信するため、HTTPレベルでのキャッシュは効果的に機能しません。その代わり、Apollo ClientやRelayといったクライアントライブラリが、アプリケーションレベルで高度なキャッシュ機構を提供します。これにより、一度取得したデータを正規化してメモリ上に保持し、UIコンポーネント間でデータを効率的に再利用します。これは、公開情報よりも、ユーザーごとに内容が変わる動的なアプリケーションで特に有効です。

3-6. エラーハンドリング:部分的成功という思想

課題

RESTでは、リクエストの結果はHTTPステータスコード(例:200 OK, 404 Not Found, 500 Internal Server Error)で示されます。リクエストの一部でも失敗すれば、全体が失敗として扱われるのが一般的です。

解決策

GraphQLは、リクエストが成功した場合でも失敗した場合でも、多くの場合200 OKを返します。実際のエラー情報は、レスポンスボディ内のerrorsという専用の配列に含まれます。

この仕組みの利点は、「部分的な成功」を表現できることです。例えば、ユーザー情報と投稿リストを同時にリクエストした際、投稿リストの取得に失敗しても、ユーザー情報だけはdataフィールドで返し、投稿リストのエラーはerrorsフィールドで伝えることができます。これにより、一部のデータが欠けても画面全体がエラーになるのを防ぎ、より回復力のあるアプリケーションを構築できます。

【この章のまとめ】

特徴RESTGraphQL
データ取得固定(オーバー/アンダーフェッチのリスク)柔軟(クライアントが必要なものを指定)
スキーマ/型必須ではない(OpenAPI等で後付け)必須(強く型付けされたスキーマが中核)
バージョニング明示的なバージョン管理が必要(例: /v1)原則不要(スキーマの進化で対応)
パフォーマンス予測可能だが柔軟性に欠ける柔軟だがN+1問題などサーバーサイドの考慮が必要
キャッシュHTTPキャッシュを容易に活用可能アプリケーションレベルでのキャッシュが必要
エラー処理HTTPステータスコードで全体の結果を示すerrors配列で詳細を報告(部分的成功が可能)

4. 【ワークフローへの衝撃】GraphQLが開発プロセスと組織にもたらす変革

概要

GraphQLの影響は、技術的な側面に留まりません。それはフロントエンドとバックエンドチームの間の「協業のやり方」を根本から変え、開発ワークフロー全体をより効率的で自律的なものへと進化させます。特に、多数のマイクロサービスが連携する複雑なシステムにおいて、その真価を発揮します。

4-1. 開発者体験の向上と、フロントエンドチームの自律

課題

従来のREST開発では、フロントエンドチームがUIを変更し、新しいデータが必要になるたびに、バックエンドチームに「新しいAPIエンドポイントを作ってください」「このエンドポイントにこのフィールドを追加してください」と依頼する必要がありました。この依存関係は、開発のボトルネックとなり、スピードを著しく低下させます。

解決策

GraphQLは、フロントエンドとバックエンドの間に強力な抽象化レイヤーを設けます。バックエンドチームの役割は、個別のエンドポイントを作ることではなく、ビジネスで利用可能なすべてのデータを「グラフ」として整備し、スキーマを充実させることにシフトします。

一度スキーマが提供されれば、フロントエンドチームはバックエンドチームを待つことなく、必要なデータを自由に組み合わせて取得できます。GraphiQLのようなインタラクティブな開発ツールを使えば、APIドキュメントを読み解く代わりに、スキーマを探索しながらリアルタイムでクエリを試し、必要なデータを即座に手に入れることができます。

この「セルフサービス」モデルは、フロントエンドチームに大きな裁量とスピードを与え、両チームが並行して開発を進めることを可能にします。これは、開発ワークフローにおける革命的な変化です。

4-2. APIの混乱を収束させる救世主「GraphQLフェデレーション」

課題

現代的なシステムは、それぞれが独立した機能を持つ小さなサービス(マイクロサービス)の集合体として構築されることが増えています。しかし、クライアントアプリケーションが「ユーザー情報サービス」「商品情報サービス」「注文情報サービス」など、複数のマイクロサービスからデータを集めて一つの画面を表示するのは非常に複雑です。結果として、APIの数は増え続け、前述の「APIスパゲッティ問題」を引き起こし、管理コストの増大とシステムの不安定化を招きます。

解決策

この課題に対するGraphQLコミュニティの答えが「GraphQLフェデレーション」です。これは、複数の独立したGraphQLサービス(サブグラフ)を、単一の統一されたGraphQL API(スーパーグラフ)にまとめるためのアーキテクチャです。

  • 各チームは独立: 各マイクロサービスチームは、自身のサービスに対応するGraphQLスキーマ(サブグラフ)を独立して開発・管理します。
  • ゲートウェイが統合: APIゲートウェイが、これらのサブグラフを自動的に合成し、クライアントに対しては一つの巨大なグラフ(スーパーグラフ)のように見せかけます。
  • クライアントはシンプルに: クライアントがスーパーグラフにクエリを送信すると、ゲートウェイは賢くクエリを計画・分解し、必要な情報を各サブグラフから効率的に取得して、結果を一つにまとめて返します。

この仕組みにより、クライアントはバックエンドの複雑なマイクロサービス構造を意識する必要がなくなり、あたかも単一の巨大なデータベースに問い合わせるかのように、シンプルにデータを取得できます。これは、乱立したAPIを一つに束ね、管理の複雑さを劇的に低減する強力なソリューションです。

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5. 【経験の証明】世界のトップ企業はなぜGraphQLを選んだのか?

概要

理論だけでなく、実際のビジネスシーンでGraphQLがどのように活用されているかを知ることは、その真の価値を理解する上で不可欠です。ここでは、世界をリードするテクノロジー企業が、どのような課題を解決するためにGraphQLを採用したのか、具体的な事例を見ていきましょう。

5-1. 某大手メディアサービス:数百のマイクロサービスを束ねるための選択

課題

某大手メディアサービスのプラットフォームは、数百ものマイクロサービスから構成されています。UIチームが新しい機能を開発するたびに、複数のバックエンドチームと調整し、必要なデータを集めるためのAPIを準備する必要があり、開発のボトルネックとなっていました。

導入効果

某大手メディアサービスは、この組織的なスケーラビリティの問題を解決するために、GraphQLフェデレーションを全面的に採用しました。これにより、各マイクロサービスチームは独立して自身のデータグラフ(サブグラフ)を管理しつつ、UIチームはそれらが統合された単一のスーパーグラフにアクセスできるようになりました。結果として、UIチームはバックエンドを意識することなく迅速な開発が可能になり、組織全体の生産性が劇的に向上しました。この企業にとって、GraphQLは単なる技術ではなく、大規模な組織をスケールさせるためのアーキテクチャなのです。

5-2. 某大手ECサイト:パートナーエコシステムを支える柔軟性

課題

世界最大級のEコマースプラットフォームである某大手ECサイトは、何十万人ものサードパーティ開発者(パートナー)が、ストアオーナーのためのカスタムアプリを開発するエコシステムを持っています。REST APIでは、パートナーが必要とする多種多様なデータ要求に、効率的かつ柔軟に応えることが困難でした。

導入効果

某大手ECサイトは、主要な公開APIをRESTからGraphQLへと移行しました。これにより、パートナー開発者は、自社のアプリに必要なデータだけを一度のリクエストで正確に取得できるようになりました。これは、パートナーの開発体験を向上させ、某大手ECサイトプラットフォーム上でのイノベーションを加速させる大きな要因となりました。某大手ECサイトの事例は、外部開発者向けのプラットフォームAPIとして、GraphQLがいかに強力であるかを示しています。

5-3. GitHub:開発者のための、より良いAPI体験の提供

課題

開発者プラットフォームであるGitHubにとって、APIは製品そのものです。v3 REST APIは機能豊富でしたが、複雑な情報を取得するためには何度もAPIを呼び出す必要があり、開発者にとって効率的とは言えませんでした。

導入効果

GitHubは、v4 APIで全面的にGraphQLを採用しました。これにより、インテグレーターや開発者は、リポジトリのIssue、Pull Request、コメントといった関連データを、単一のクエリでまとめて取得できるようになりました。ペイロードサイズとリクエスト回数が削減され、より効率的なツール開発が可能になりました。GitHubの採用は、GraphQLが大規模な公開APIとして十分に通用することを証明し、多くの企業が追随するきっかけとなりました。

6. 【結論】結局、どちらを選ぶべきか?未来は「共存」と「統合」にあり

概要

GraphQLは多くの利点を持つ強力な技術ですが、万能薬ではありません。RESTにも依然として明確な強みがあり、どちらか一方を選ぶ「対決」ではなく、それぞれの特性を理解し、プロジェクトの要件に応じて使い分ける「共存」こそが、現実的かつ賢明な戦略です。

6-1. ユースケース別・意思決定フレームワーク

あなたのプロジェクトにどの技術が適しているか、以下のフレームワークを参考に判断してください。

ユースケース / シナリオ推奨される主要API根拠
公開データAPI(例: 天気データ)RESTシンプルさ、HTTPキャッシングの恩恵を最大限に活用できるため。
シンプルな内部CRUDサービスREST確立されたパターンで迅速に開発可能。学習コストが低い。
高性能な内部サービス間通信gRPC低遅延なサーバー間通信に特化。バイナリプロトコルで高速。
モダンなWeb/モバイルアプリGraphQL複雑なUIのデータ要件に柔軟に対応。オーバー/アンダーフェッチを解決。
マイクロサービス集約レイヤーGraphQL (Federation)複数のサービスを束ね、APIの乱立を防ぐ。組織的スケーリングに最適。
サードパーティ開発者プラットフォームGraphQLパートナーに柔軟なデータアクセスを提供し、エコシステムを活性化させる。

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6-2. まとめ:次世代技術への対応力が、未来の競争力を決める

「GraphQLは次世代APIの標準か?」という問いに対する答えは、「イエスでもあり、ノーでもある」です。

GraphQLは、RESTを完全に置き換えるものではありません。しかし、複雑なデータ要件を持つクライアントアプリケーションや、分散したマイクロサービスを統合する分野において、新たな「標準」としての地位を確立したことは間違いありません。

未来のAPIアーキテクチャは、一つの技術がすべてを支配するのではなく、複数の技術が共存するハイブリッドな形になるでしょう。シンプルなサービスにはRESTを、複雑なアプリケーションのフロントエンドにはGraphQLを、といったように、課題に応じて最適なツールを選択する「適材適所」のアプローチが求められます。

重要なのは、システム連携がますます複雑化し、取得すべきデータが増え続けるこれからの時代において、従来技術の限界を認識し、次世代技術を積極的に活用する視点を持つことです。APIの数が増え、管理が複雑化するほど、GraphQLフェデレーションのような技術でその複雑さを吸収し、開発者にシンプルなインターフェースを提供できるプロダクトが、変化への対応力と将来の拡張性において圧倒的な優位性を持つことになります。

技術の選択は、ビジネスの目的を達成するための手段です。それぞれの長所と短所を深く理解し、自社の状況に合わせた戦略的な意思決定を行うことが、これからのデジタル時代を勝ち抜く鍵となります。

多くのシステムが乱立し、それぞれが異なるAPIを持つ現代において、それらをシームレスに連携させ、ビジネス価値を最大化するワークフローの構築はますます重要になっています。ジュガールワークフローは、REST APIはもちろん、GraphQLのようなモダンな技術との連携も柔軟にサポートし、複雑なマイクロサービス環境でも滑らかな業務プロセスを構築します。システムの裏側を意識することなく、現場の担当者が本当に価値のある業務に集中できる環境を提供し、お客様のワークフロー4.0への進化を加速させます。

7. GraphQL/RESTに関するよくある質問(FAQ)

Q1: GraphQLの学習コストは高いですか?

A1: RESTに慣れている開発者にとって、GraphQLは新しい概念(スキーマ、クエリ言語、リゾルバなど)を学ぶ必要があります。しかし、厳格な型システムと優れた開発ツール(GraphiQLなど)のおかげで、一度基本を理解すれば、RESTよりも開発体験が良いと感じる開発者も多いです。初期の学習曲線は存在しますが、長期的な生産性向上を考えれば十分に投資価値のあるものと言えます。

Q2: GraphQLはRESTより常にパフォーマンスが良いのですか?

A2: 一概には言えません。ネットワーク効率(リクエスト回数やデータ転送量)の観点では、GraphQLはRESTより優れていることが多いです。しかし、サーバーサイドの処理負荷は、クエリの複雑さによってはGraphQLの方が高くなる可能性があります。特に「N+1問題」のような典型的なパフォーマンスの罠を理解し、DataLoaderなどの適切な対策を講じることが重要です。

Q3: 小規模なプロジェクトでもGraphQLを使うメリットはありますか?

A3: はい、あります。たとえ小規模でも、将来的に機能が拡張されたり、モバイルアプリ版を開発したりする可能性がある場合、最初からGraphQLで構築しておくことで、将来の変更に柔軟に対応できます。また、強力な型システムによる開発効率の向上は、プロジェクトの規模に関わらずメリットとなります。

Q4: REST APIをGraphQLに移行することはできますか?

A4: 可能です。既存のREST APIを直接呼び出すGraphQLサーバーを「ラッパー」として構築する方法が一般的です。これにより、既存の資産を活かしつつ、クライアントはGraphQLの恩恵を受けることができます。これは、大規模なシステムを一度に刷新することなく、段階的にモダンなアーキテクチャへ移行するための有効な戦略です。

8. 引用・参考文献

  • Postman, “2023 State of the API Report”:
  • GraphQL Foundation:
  • OpenAPI Initiative:
川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。