ワークフローシステム講座

日々の業務プロセスに課題を感じている方へ向けて、ワークフローシステムの選び方から業務改善の確かなヒントまで、完全網羅でお伝えします。

AI時代のUI/UX:なぜ「対話」が次世代ワークフローの標準インターフェースになるのか

目次

この記事のポイント

  • 従来の画面操作(GUI)が、AI時代においてなぜ本質的な限界を迎えているのか。
  • 「対話」を軸とした新しいインターフェース(CUI)が、いかにして業務を「操作」から「委任」へと変革するのか。
  • ソフトウェア開発からクリエイティブ制作まで、すで実用化されている「対話型ワークフロー」の先進的な事例と、その定量的効果。
  • AIがユーザーの意図を先読みし、「インターフェース」の存在すら消滅させる未来のワークフロー体験の姿。

1. はじめに:ソフトウェアの「使い方」が根底から変わる時代

「高機能なワークフローシステムを導入したのに、現場が使いこなせず形骸化している」

「複数のツールに都度ログインするのが面倒で、結局、承認作業が滞ってしまう」

こうした悩みは、多くの企業にとって喫緊の課題です。システムの定着率や投資対効果(ROI)は、機能の豊富さ以上に「使いやすさ(UI/UX)」に大きく左右されます。

しかし、AI技術が急速に社会実装される今、私たちは「使いやすさ」の定義そのものを、根本から見直す必要に迫られています。これまで当たり前だった、マウスでアイコンをクリックし、メニューから項目を選ぶといったグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)による「直接操作」の時代は、大きな転換点を迎えているのです。

【用語解説】GUI(Graphical User Interface)

私たちが普段コンピューターやスマートフォンで目にする、アイコンやボタン、ウィンドウといった視覚的な要素で構成された操作画面のこと。指やマウスで直感的に操作できるのが特徴です。

本記事の目的は、単なるデザイントレンドを解説することではありません。AIが自律的に業務を遂行する『ワークフロー4.0』時代において、人間とテクノロジーの関係性がどう変わるのか、その本質を解き明かすことにあります。

なぜ従来のGUIが限界を迎えつつあるのか。それに代わる対話型ユーザー・インターフェース(CUI)、すなわちAIとの「対話」が、なぜ次世代ワークフローの標準インターフェースとなるのか。最新の技術動向と具体的なビジネス事例を深く掘り下げ、すべてのビジネスパーソンが理解すべき未来の働き方を提示します。

2. 第1部 GUIの陳腐化:なぜ「優れた画面」だけでは不十分なのか?

この章では、AIの登場によって従来のGUIがなぜその価値を相対的に低下させているのかを解説します。価値の中心が、ピクセル単位で作り込まれた「見た目」から、その裏側で動く「AIの性能」へとシフトしているからです。かつて有効だった「紙の帳票の再現」というアプローチも、今やモバイル時代の柔軟な働き方を阻害する足かせとなりつつあります。

2-1. 価値の逆転:UIの「見た目」から、AIの「賢さ」へ

これまで、優れたUI/UXとは、直感的に操作できる美しい画面デザインを指すことがほとんどでした。しかし、AIがアプリケーションの中核を担うようになると、この価値観は根底から覆ります。

「アイスバーグUXモデル」という概念が、この変化を的確に示しています。ユーザーが直接目にするUI(画面デザイン)は、巨大な氷山の水面から出ているほんの一角に過ぎません。本当に重要な価値は、水面下に隠された広大な部分、すなわち「AIがどうデータを解釈し、判断しているか」というロジックに存在するのです。

【用語解説】UI(User Interface)とUX(User Experience)

  • UIは、ユーザーが製品と接する部分(画面、ボタンなど)。
  • UXは、その製品を通じてユーザーが得る「体験」全体(使いやすい、心地よいなど)。

例えば、経費申請ワークフローを考えてみましょう。ボタンの色や配置がどれだけ洗練されていても、AIが領収書の記載ミスや社内規定違反の可能性を自動で検知し、差し戻してくれる機能がなければ、ユーザーにとっての真の価値は生まれません。ユーザー満足度は、もはやインターフェースの美しさではなく、AIが生成するアウトプットの質、正確性、有用性に直結するのです。

【図表1】UI価値のパラダイムシフト

項目従来の価値観(GUI中心)新しい価値観(AI中心)
価値の源泉見た目の美しさ、操作の分かりやすさAIの判断の質、アウトプットの有用性
ユーザーの評価基準「直感的に使えるか」「デザインは良いか」「期待通りの答えをくれるか」「賢いか」
設計の焦点ピクセルパーフェクトな画面レイアウトAIの思考ロジック、データ連携、信頼性
ビジネスへの貢献学習コストの低減業務判断の自動化、見えないコストの削減

2-2. ビジネスインパクト:なぜ「見えないUX」が経営コストを左右するのか?

この価値のシフトは、単なる設計思想の変化に留まりません。企業の競争力に直接影響を与える、重大なビジネスインパクトをもたらします。

主張:これからのツール選定は、「画面の美しさ」ではなく「AIの賢さ」を最優先すべきである。

なぜなら、「賢いAI」は、目に見えないコストを劇的に削減するからです。

  • 問い合わせコストの削減:「このケースはどう申請すればいい?」といった問い合わせをAIが自己解決することで、管理部門の負担を軽減します。
  • 手戻りコストの削減:申請段階での不備をAIが未然に防ぐことで、承認者の確認・差し戻しにかかる時間を削減します。
  • コンプライアンスリスクの低減:AIが社内規定や法規制との整合性をチェックすることで、人為的ミスによる不正やコンプライアンス違反のリスクを低減します。

これらの「見えないUX」の改善こそが、真の生産性向上を実現します。だからこそ、私たちジュガールワークフローは、単なる画面の使いやすさだけでなく、AIによるバックグラウンドでのチェック機能を強化し、企業の「見えないコスト」削減に貢献することを目指しています。

【図表2】「賢いAI」が削減する見えないコスト

削減されるコスト具体例ビジネスインパクト
① 問い合わせ対応コスト申請方法や規定に関する質問にAIが自動回答。管理部門の工数を削減し、より戦略的な業務へシフト可能に。
② 手戻り・修正コスト申請内容の不備や計算ミスをAIが提出前に指摘。承認プロセスのリードタイムを短縮し、意思決定を迅速化。
③ 機会損失コスト承認遅延による支払い遅れや契約の遅滞を防止。取引先との関係悪化を防ぎ、ビジネスチャンスを逃さない。
④ コンプライアンスコスト不正経費の兆候や規定違反をAIが自動検知。監査対応の工数を削減し、ガバナンスを強化。企業の信頼性を向上。

2-3. 「紙の再現」という罠からの卒業

多くの日本製ワークフローシステムは、ユーザーの心理的ハードルを下げるため、慣れ親しんだ紙の帳票レイアウトをそのまま画面上に再現してきました。これはデジタル化の過渡期において、非常に有効なアプローチでした。

しかし、この「紙の再現」は、現代のビジネス環境において、深刻な足かせとなっています。

  1. モバイル体験の阻害:A4縦のレイアウトはスマートフォンの小さな画面では致命的に使いにくく、場所を選ばない柔軟な働き方を阻害します。
  2. 非効率性の継承:紙の帳票は、役割に関わらず全員にすべての項目を見せてしまいます。システム化の最大のメリットである「必要な人に、必要な情報だけを見せる」という動的な制御の恩恵を自ら放棄しているのです。

これからのUI/UXは、申請者には入力を促すシンプルなフォームを、承認者には全体を俯瞰できる確認画面を、といったように役割に応じて最適なインターフェースを提供することが最適解となります。GUIが前提としてきた固定的なレイアウト思想そのものから、私たちは卒業する必要があるのです。

【本章の関連情報】

  • 関連記事: 『ワークフローシステムのUI/UXが重要な理由|現場が本当に使いたいツールの条件
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3. 第2部 CUIの解剖学:「対話」がUIの主役になる理由

この章では、CUI(対話型ユーザーインターフェース)が、いかにして人間とソフトウェアの関係性を根本から変えるのかを解説します。GUIとCUIの長所・短所を理解した上で、CUIが抱える現実的な課題と、その解決策についても深く掘り下げていきます。

3-1. パラダイムシフト:なぜ「操作」から「委任」への移行が重要なのか?

CUI(Conversational User Interface)とは、テキストや音声による自然な言葉を通じて、ユーザーがシステムと対話できるようにするインターフェースです。これは単なるチャットボットを超え、ユーザーとソフトウェアの関係を「操作」から「委任」へと変える、根本的なパラダイムシフトを意味します。

【用語解説】CUI(Conversational User Interface)

チャットや音声のように、人間同士が会話するような自然な言葉でコンピューターとやり取りするためのインターフェース。

この違いを、マネジメントに例えてみましょう。

  • GUIの世界(マイクロマネジメント):部下(システム)に、作業の全工程を一つひとつ細かく指示するマネージャーのようなものです。「まずこのボタンを押し、次にこの項目にデータを入力し、それから…」と、ユーザーはタスクの全工程を自ら実行する「作業者」です。
  • CUIの世界(権限移譲):部下(AI)に、「来週の大阪出張の経費を申請しておいて」と目標だけを伝え、具体的なやり方は任せるマネージャーのようなものです。ユーザーは達成したいゴールを伝える「指示者」となり、タスク達成に必要な細かな手順は、AIが自律的に考えて実行します。

この強力な「委任」を可能にするのが、LLM(Large Language Model、大規模言語モデル)やAIエージェントといった中核技術です。AIが人間の言葉の意図を汲み取り、自ら計画を立てて行動することで、人間は煩雑なマイクロマネジメントから解放され、より創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになるのです。

【図表3】GUIとCUI:マネジメントスタイルの違い

比較項目GUIの世界(マイクロマネジメント)CUIの世界(権限移譲)
ユーザーの役割作業者指示者・監督者
システムへの指示操作の全手順を細かく指示達成すべき目標(ゴール)を指示
システムの役割指示された操作を忠実に実行目標達成のために自律的に計画・実行
コミュニケーション一方的な「操作」双方向の「対話」「委任」
ビジネス上の価値定型作業の効率化知的判断を含む業務プロセスの自動化

3-2. GUI vs CUI:根本的なトレードオフを理解する

では、CUIはGUIより常に優れているのでしょうか?答えはノーです。両者には明確な長所と短所があり、そのトレードオフを理解することが、自社の業務に最適なツールを選ぶ上で極めて重要です。

特性グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)対話型ユーザー・インターフェース(CUI)
主要なインタラクション直接操作(ポイント、クリック、ドラッグ)対話と委任(タイプ、発話)
発見可能性高い(視覚的なメニューやアイコンが機能を示す)低い(ユーザーは能力を知るか推測する必要がある)
表現力低い(複雑な意図には多くのステップが必要)高い(複雑な意図を一つの文で表現可能)
最適な用途構造化された反復タスク、視覚的ブラウジング探索的タスク、文脈依存のクエリ、複雑なデータ分析
主な弱点複雑な意図に対して非効率になりがち言語の誤解による失敗が多く、能力が分かりにくい

GUIは「何ができるか」が一目瞭然(発見可能性)な一方、複雑な要求を伝えるには何度も操作が必要です。対してCUIは、「来週火曜のボストン行き、300ドル以下の直行便」といった複雑な意D図を一度に伝えられる(表現力)一方、「何ができるか」が分かりにくいという弱点があります。

3-3. 現実的な課題:CUIは万能ではない

CUIの可能性は大きい一方で、その導入には乗り越えるべき現実的な課題も存在します。これらの課題を理解することは、AIとの協業を成功させる上で不可欠です。

  • 発見可能性の低さ(空白のプロンプト問題):ユーザーは、目の前のチャット画面で「何を命令できるのか」「どう命令すれば良いのか」を知る術がありません。これはユーザーに大きな認知的負荷を強いることになります。
  • 文脈維持の難しさ:複数ターンにわたる複雑な会話で、AIが前の発言内容を忘れてしまい、ユーザーに同じ説明を繰り返させてしまうことがあります。これでは自然な対話とは言えません。
  • エラーハンドリングの難しさ:AIがユーザーの意図を誤解した場合に、いかに自然な形で対話を修正し、ユーザーを正しいゴールに導くか、というエラー処理の設計は非常に高度な技術を要します。

これらの課題に対する最も現実的な解決策が、「マルチモーダル」と「ドメイン特化」という考え方です。

【用語解説】

  • マルチモーダルインターフェース:テキスト、音声、画像、GUIなど、複数の異なる方法(モダリティ)で情報をやり取りできるインターフェースのこと。
  • ドメイン特化:AIの用途を「何でも屋」ではなく、「経費精算」「人事評価」といった特定の業務領域(ドメイン)に限定すること。

例えば、CUIで曖昧な指示を受けた際に、AIがボタン付きの選択肢(GUI)を提示してユーザーの意図を明確にする。あるいは、AIの能力を「ワークフロー」という領域に特化させることで、対話の精度と実用性を飛躍的に高める。このように、CUIとGUIの長所を組み合わせ、AIの役割を明確に定義することが、現在の技術レベルにおける成功の鍵となります。

3-4. ビジネスインパクト:「対話」がいかに業務を変革するか

主張:「対話」は、専門家でない従業員も高度なITツールの能力を最大限に引き出すことを可能にする、最も民主的なインターフェースである。

従来のGUIでは、高機能なツールを使いこなすには、相応のトレーニングと慣れが必要でした。しかしCUIは、誰もが日常的に使っている「言葉」をインターフェースとするため、学習コストを劇的に下げます。

  • 営業部門:営業担当者が移動中のスマートフォンに「A社の過去の取引履歴と、関連する問い合わせ内容を要約して」と話しかけるだけで、AIが複数のシステムから情報を収集・要約し、商談前にインサイトを提供する。
  • マーケティング部門:「過去3ヶ月のキャンペーンデータから、最もコンバージョン率の高かった広告クリエイティブのパターンを分析して」と依頼するだけで、専門のアナリストでなくてもデータに基づいた示唆を得られる。
  • 経営層:「現在の全社のプロジェクト遅延状況と、それが経営目標に与える影響をレポートして」と指示するだけで、リアルタイムな経営判断が可能になる。

ジュガールワークフローは、この「対話による業務の民主化」を実現するため、専門家でなくても直感的にAIとの連携を設定できるアーキテクチャを採用しています。これにより、CUIは従業員とデータの間の壁を取り払い、組織全体の情報活用レベルを底上げし、データドリブンな意思決定を加速させる強力なエンジンとなるのです。

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4. 第3部 実践編:すでに対話型ワークフローは始まっている

対話型インターフェースは、もはや未来の夢物語ではありません。すでに様々な専門分野で導入が進み、ワークフローを劇的に変革し、測定可能な成果を上げています。この章では、その代表的な事例を深掘りします。

4-1. ソフトウェア開発:AIペアプログラマーによる生産性の爆発

ビジネスへのインパクト:開発速度の向上と、ジュニア層の即戦力化

対話型ワークフローの最も成功した事例の一つが、ソフトウェア開発の現場です。GitHub Copilotのようなツールは、開発者と対話する「AIペアプログラマー」として機能します。

  • ワークフローの変化:開発者が「このJSONデータを解析するPythonコードを書いて」とコメントや自然言語で指示すると、AIが瞬時にコードを生成します。開発者の役割は、ゼロからコードを書くことから、AIが生成したコードをレビューし、修正・承認することへと変化しました。
  • 定量的効果:ある調査では、GitHub Copilotを利用した開発者は、タスク完了までの速度が最大55%向上したと報告されています。これは、反復的なコード記述(ボイラープレートコード)から解放され、より創造的で複雑な問題解決に集中できるようになったためです。
  • 能力の平準化:特に注目すべきは、経験の浅い開発者ほど生産性向上の恩恵が大きい点です。AIがベストプラクティスに基づいたコードを提案してくれるため、ジュニア開発者でも質の高いコードを迅速に作成でき、即戦力化までの期間が大幅に短縮されます。

4-2. データ分析:専門家でなくても「データと対話」できる時代

ビジネスへのインパクト:データドリブン経営の全社的な浸透

従来、データ分析はSQLなどの専門知識を持つデータアナリストの専売特許でした。しかし、ThoughtSpotMicrosoft Power BI with Copilotといったツールは、この常識を覆しました。

【用語解説】NLQ(Natural Language Query)

「自然言語クエリ」の略。人間が話すような普通の言葉でデータベースに質問し、データを検索・分析する技術のこと。

  • ワークフローの変化:営業やマーケティング担当者といった非技術系のビジネスユーザーが、分析ツールのダッシュボード上で「売上がトップ10の顧客を教えて」「先月の西日本エリアでの製品Aの売上トレンドをグラフにして」と、平易な言葉で質問できるようになりました。
  • ビジネスへの効果:これにより、現場の担当者が自らの手で迅速にデータからインサイトを得られるようになり、データチームへの問い合わせが激減。意思決定のスピードが飛躍的に向上します。ある銀行では、この「データとの対話」を通じて業務のボトルネックを発見し、収益マージンを約30%向上させたという事例も報告されています。

4-3. プロジェクト管理:「AIチームメイト」の台頭

ビジネスへのインパクト:管理コストの削減と、プロジェクト成功率の向上

プロジェクト管理ツールもまた、対話型AIの導入によって大きく進化しています。AIは単なる機能ではなく、自律的に動く「AIチームメイト」としてワークフローに参加します。

  • ワークフローの変化Asanaなどのツールでは、「このプロジェクトの遅延リスクを洗い出して、担当者にリマインドして」とAIに指示するだけで、AIが各タスクの進捗を分析し、リスクを特定し、関係者に自動で通知を送ってくれます。
  • ビジネスへの効果:これにより、プロジェクトマネージャーは進捗確認や催促といった煩雑な管理業務から解放され、より戦略的な課題解決に集中できます。AIがリスクを事前に特定し、タスクの優先順位を提案してくれるため、プロジェクトの炎上を未然に防ぎ、成功率を高めることができます。

4-4. クリエイティブ制作:「描く」から「言葉で創造する」へ

ビジネスへのインパクト:制作プロセスの圧倒的な高速化と、パーソナライゼーションの実現

クリエイティブな領域でも、対話型AIは革命を起こしています。MidjourneyAdobe Fireflyといった画像生成AIは、制作のプロセスを根本から変えました。

  • ワークフローの変化:デザイナーやマーケターの主な仕事は、ピクセルやベクターを直接操作することから、AIに対して「馬に乗った宇宙飛行士を、フォトリアルなスタイルで」といったテキストプロンプト(指示文)で、創造したいイメージを的確に伝えることへとシフトしました。
  • ビジネスへの効果:これにより、広告キャンペーンのコンセプト画像を何十パターンも数分で生成したり、顧客ごとにパーソナライズされたデザインを大規模に展開したりすることが可能になります。ある飲料メーカーは、この技術を活用して、ユーザーがプロンプトを入力するだけで20万通り以上のオリジナルボトルをデザインできるキャンペーンを実施し、大きな成功を収めました。

【図表4】対話型ワークフローによる変革事例

分野ツール例Before(従来のワークフロー)After(対話型ワークフロー)
ソフトウェア開発GitHub Copilot開発者が一行ずつ手でコードを書く。開発者が「やりたいこと」を指示し、AIがコードを生成。人間はレビューと修正に集中。
データ分析ThoughtSpot専門家がSQLを書き、レポートを作成。現場はそれを待つ。現場担当者が自然言語で直接データに質問し、即座にインサイトを得る。
プロジェクト管理AsanaPMが進捗を手動で確認し、催促の連絡を入れる。AIが進捗を監視し、遅延リスクを検知して自動で関係者に通知する。
クリエイティブ制作Midjourneyデザイナーが時間をかけて一つのビジュアルを作成。担当者が言葉でコンセプトを指示し、AIが多様なビジュアル案を瞬時に生成。

【本章の関連情報】

  • 関連ピラーページ: 『ワークフロー4.0の全貌|自律型AIチームが経営を加速させる未来

5. 第4部 未来展望:対話の先にあるプロアクティブな世界

CUI(対話型UI)へのシフトは、ゴールではありません。それは、より高度な未来への重要なステップです。AI駆動インターフェースの最終的な目標は、ユーザーが指示するのを待つのではなく、ユーザーの意図を先読みし、プロアクティブ(能動的)に行動する自律的なエージェントを創造することにあります。

5-1. AIエージェントの進化段階:制御から自律へ

これは、ピラーページで解説した『ワークフロー4.0』が目指す、エージェンティックAI(AIチーム)が自律的に業務を遂行する世界観と一致します。未来のワークフローは、以下のように3段階で進化していくと考えられます。

  1. ステージ1:高タッチ制御(現在)
    人間がAIに詳細なプロンプトを与え、その出力を都度レビューする段階。現在の生成AIツールがこれにあたります。人間がAIを細かくコントロールする必要があります。
  2. ステージ2:段階的自律性(近い未来)
    AIエージェントが定型タスクを自律的に処理し、複雑な判断が必要な場合のみ人間にエスカレーション(判断を仰ぐ)する段階。人間とAIの本格的な協業が始まります。
  3. ステージ3:バックグラウンド自動化(未来のビジョン)
    AIがユーザーの状況や過去の行動からニーズを予測し、指示される前に行動を起こす段階。例えば、プロジェクトの遅延を検知したAIが、関係者のカレンダーの空き時間を探して自動で会議を再設定する、といったことが可能になります。

【図表5】AIエージェントの進化段階

進化段階主な特徴人間とAIの関係ビジネスインパクト
ステージ1:高タッチ制御人間による頻繁な指示と監督が必要。人間がAIを「使う」特定タスクの効率化
ステージ2:段階的自律性定型業務はAIが自律処理。例外処理を人間が担当。人間とAIが「協業する」業務プロセスの一部自動化
ステージ3:バックグラウンド自動化AIがニーズを予測し、能動的に行動。人間がAIを「監督する」業務プロセスの完全自律化

5-2. 究極のUX:なぜインターフェースは「消滅」する方向へ向かうのか?

ステージ3の世界では、「インターフェース」という概念そのものが希薄化していきます。私たちはソフトウェアを「操作」するためにPCの前に座るのではなく、優秀なAIアシスタントが常にバックグラウンドで働き、私たちの業務を先回りして片付けてくれるのです。

主張:AI時代の究極のUXとは、ユーザーがインターフェースの存在を意識することなく、目的が達成される状態である。

  • 出張手配の未来:あなたのカレンダーに来週の大阪出張の予定が入った瞬間、AIエージェントが自動で新幹線のチケットとホテルを仮予約し、「こちらの内容で確定してよろしいですか?」とチャットで確認を求めてくる。
  • 予実管理の未来:月末になると、AIエージェントが各部門の経費利用状況と売上データを自動で集計・分析し、「営業2部の経費が予算を15%超過する見込みです。原因は交際費の増加によるものです」といったインサイトをレポートしてくれる。

このプロアクティブな支援を実現するためには、AIの高度な推論能力はもちろんのこと、その自律的な行動がユーザーの意図や企業のルールに沿っていることを保証するための、堅牢な信頼とガバナンスの仕組みが不可欠となります。

【本章の関連情報】

  • 関連ピラーページ: 『ワークフロー4.0の全貌|自律型AIチームが経営を加速させる未来

6. まとめ:最高のUXは、ユーザーにその存在を忘れさせること

本記事では、AI時代の新しいUI/UXとして「対話」がなぜ標準となるのかを、その背景、仕組み、具体的なビジネスインパクト、そして未来像に至るまで、深く掘り下げてきました。

  • GUIの限界: 価値の中心が「見た目」から「AIの性能」へ移り、従来の画面中心のインターフェースは本質的な限界を迎えています。
  • 「対話」への移行: AIとの「対話」は、人間がソフトウェアに業務を「委任」する新しい働き方を可能にします。これは、GUIの「発見可能性」とCUIの「表現力」を組み合わせた、より柔軟なマルチモーダルな形で実現されます。
  • 役割の変化: ユーザーの役割は、タスクの「実行者」からAIへの「委任者・監督者」へと変化し、AIと効果的に対話する能力が、あらゆる職種で必須のスキルとなります。
  • 未来の姿: 最終的にAIはユーザーの意図を先読みしてプロアクティブに動くようになり、人間が「インターフェースを操作する」という意識すら不要な、真にシームレスなワークフローが実現します。

結論として、対話型インターフェースへのシフトは、単なるツールの使い方を変えるだけでなく、私たちの働き方そのものを、より創造的で、より人間的なものへと変革する大きな可能性を秘めています。最高のユーザーエクスペリエンス(UX)とは、ユーザーがその存在を意識することなく、自然に目的を達成できる状態です。AIとの対話は、その理想を実現するための、最も確かな一歩なのです。

このような未来の働き方を実現するためには、AI技術への深い理解と、それを誰もが直感的に使える形に落とし込む設計思想が不可欠です。ジュガールワークフローは、まさにこの思想を体現し、複雑なAI技術をシンプルな対話体験へと昇華させることを目指しています。AIが業務を先回りしてサポートし、人間がより付加価値の高い仕事に集中できる。そんな次世代のワークフロー体験を、ジュガールは提供します。

7. よくあるご質問(FAQ)

Q1. 対話型UI(CUI)の導入には、専門のAIエンジニアが必須ですか?

A1. 必ずしも必須ではありません。優れたプラットフォームは、AIの複雑な技術を意識させず、業務担当者がプログラミング知識なしで使えるように設計されています。例えば、ジュガールワークフローのようなツールでは、現場の担当者が直感的な操作で「この申請は〇〇の条件を満たしたら、AIに要約させる」といったルールを設定できます。重要なのは、現場主導でAIを活用できる仕組みを持つプラットフォームを選ぶことです。

Q2. AIとの「対話」は、本当に人間の言葉を正確に理解できるのでしょうか?

A2. 「何でも理解できる」わけではないのが現状です。AIの理解精度は、その用途(ドメイン)をどれだけ限定しているかに大きく依存します。本記事で解説した通り、「経費精算」や「契約書レビュー」のように業務を特化させることで、AIは高い精度で言葉を理解できるようになります。「万能なAI」を求めるのではなく、「専門的なAI」を業務ごとに活用するのが成功の鍵です。

Q3. GUIに慣れた従業員に対して、CUIへの移行をどう進めれば良いですか?

A3. 無理にすべてをCUIに置き換える必要はありません。まずは、GUIの画面内にAIとの対話ウィンドウを設置するなど、両者を組み合わせた「マルチモーダル」なアプローチから始めるのが効果的です。また、「問い合わせ対応」や「レポートの自動生成」など、AIのメリットを実感しやすい業務からスモールスタートし、成功体験を積み重ねながら徐々に適用範囲を広げていくことが、現場の抵抗を和らげる上で重要です。

Q4. 対話型AIに業務データを渡す際の、セキュリティリスクが心配です。

A4. 非常に重要な懸念点です。信頼できるプラットフォームは、入力されたデータがAIモデルの再学習に使われないこと(入力データの非学習利用)を保証しています。また、Azure OpenAI Serviceのように、セキュアな環境で提供されるAIモデルを利用する、あるいは機密情報を含む項目はマスキングするといった対策が不可欠です。導入前には、ベンダーのセキュリティポリシーやデータ取り扱いについて、十分に確認する必要があります。

Q5. すぐに導入できる対話型ワークフローには、どのようなものがありますか?

A5. すでに多くのSaaSツールが対話型AI機能を組み込んでいます。本記事で紹介したGitHub Copilot(開発)、Asana(プロジェクト管理)などが代表例です。ワークフローシステムの領域では、ジュガールワークフローがAIとの対話による申請代行や、承認プロセスの最適化といった機能を提供しており、複雑な設定なしですぐに次世代のワークフローを体験することが可能です。

対話型UI(CUI)の導入には、専門のAIエンジニアが必須ですか?

必ずしも必須ではありません。優れたプラットフォームは、AIの複雑な技術を意識させず、業務担当者がプログラミング知識なしで使えるように設計されています。例えば、ジュガールワークフローのようなツールでは、現場の担当者が直感的な操作で「この申請は〇〇の条件を満たしたら、AIに要約させる」といったルールを設定できます。重要なのは、現場主導でAIを活用できる仕組みを持つプラットフォームを選ぶことです。

AIとの「対話」は、本当に人間の言葉を正確に理解できるのでしょうか?

「何でも理解できる」わけではないのが現状です。AIの理解精度は、その用途(ドメイン)をどれだけ限定しているかに大きく依存します。本記事で解説した通り、「経費精算」や「契約書レビュー」のように業務を特化させることで、AIは高い精度で言葉を理解できるようになります。「万能なAI」を求めるのではなく、「専門的なAI」を業務ごとに活用するのが成功の鍵です。

GUIに慣れた従業員に対して、CUIへの移行をどう進めれば良いですか?

無理にすべてをCUIに置き換える必要はありません。まずは、GUIの画面内にAIとの対話ウィンドウを設置するなど、両者を組み合わせた「マルチモーダル」なアプローチから始めるのが効果的です。また、「問い合わせ対応」や「レポートの自動生成」など、AIのメリットを実感しやすい業務からスモールスタートし、成功体験を積み重ねながら徐々に適用範囲を広げていくことが、現場の抵抗を和らげる上で重要です。

対話型AIに業務データを渡す際の、セキュリティリスクが心配です。

非常に重要な懸念点です。信頼できるプラットフォームは、入力されたデータがAIモデルの再学習に使われないこと(入力データの非学習利用)を保証しています。また、Azure OpenAI Serviceのように、セキュアな環境で提供されるAIモデルを利用する、あるいは機密情報を含む項目はマスキングするといった対策が不可欠です。導入前には、ベンダーのセキュリティポリシーやデータ取り扱いについて、十分に確認する必要があります。

すぐに導入できる対話型ワークフローには、どのようなものがありますか?

すでに多くのSaaSツールが対話型AI機能を組み込んでいます。本記事で紹介したGitHub Copilot(開発)、Asana(プロジェクト管理)などが代表例です。ワークフローシステムの領域では、ジュガールワークフローがAIとの対話による申請代行や、承認プロセスの最適化といった機能を提供しており、複雑な設定なしですぐに次世代のワークフローを体験することが可能です。

開発元「VeBuIn株式会社」について

ジュガールワークフローを開発・提供するVeBuIn株式会社は、AI技術のビジネス実装をリードする専門家集団です。

当社のAIチームは、大学でAIカリキュラムの教授を務めた経験を持つメンバーや、最先端のAI理論を大学で修めてきた若手研究者など、AI理論と豊富な実践経験を兼ね備えたプロフェッショナルで構成されています。この強力な技術基盤を活かし、本記事でご紹介したような次世代のワークフロー体験を実現するだけでなく、お客様独自の課題に合わせたカスタムAI開発案件も積極的に承っております。

引用・参考文献

  1. Gartner, “Gartner Forecasts Worldwide AI Software Revenue to Grow 21.3% in 2023”
    AIソフトウェア市場の成長に関する世界的な調査会社の予測として参照。
  2. 総務省, 「令和5年版 情報通信白書」
    日本国内における企業のDX推進状況やAI導入に関する公的データとして参照。
  3. 情報処理推進機構(IPA), 「AI白書2023」
    AI技術の最新動向や、社会実装における課題に関する国内の専門機関の見解として参照。
  4. Nielsen Norman Group, “Conversational Interfaces: The Guide”
    UI/UX分野における世界的なリサーチ会社による、対話型インターフェースのユーザビリティに関する調査レポートとして参照。
  5. GitHub, “Research: Quantifying GitHub Copilot’s impact in the enterprise”
    対話型AIツールが開発者の生産性に与える影響についての具体的な定量的データとして参照。
川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。