根回しは日本の悪しき文化か?稟議における事前調整の歴史的背景と功罪

目次

この記事のポイント

  • 稟議という公式手続きと、根回しという非公式な慣行の、切っても切れない関係性
  • 根回しが日本の組織文化に深く根付いた歴史的・文化的背景
  • 意思決定の質を高める「功」と、スピードや革新を阻害する「罪」の両側面
  • グローバル化やDX時代において、根回しという文化をどう捉え直すべきか
  • 形骸化した根回しを防ぎ、組織の力を最大化する「健全な根回し」の実践方法

はじめに:その「一手間」、本当に無駄ですか?

「根回し」。この言葉に、どのような印象をお持ちでしょうか。

「非効率で、不透明」「意思決定を遅らせる、日本の悪しき慣習だ」。特に、スピードが重視される現代のビジネス環境において、根回しは時代遅れの「悪」として語られがちです。総務や内部監査のご担当者様の中にも、形骸化した事前調整がコンプライアンスやガバナンスの観点から問題だと感じている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、本当にそうでしょうか。

この言葉の語源は、樹木の移植にあります。移植という大きな変化に木が耐え、新しい土壌にしっかりと根を張れるように、事前に行う丁寧な準備作業。それが本来の「根回し」です。このメタファーは、新しいプロジェクトや改革という「移植」を、組織という「土壌」に拒絶されることなく、スムーズに成功させるための知恵として、日本のビジネス文化を象徴しています。

本記事の中心的な問いは、この根回しという慣行が、現代のビジネス環境において果たしてどのような意味を持つのか、という点にあります。それは、組織の強固な合意形成を築き上げる洗練された配慮のツールなのか。それとも、俊敏性やイノベーションを阻害する不透明で機能不全な過去の遺物なのか。

この記事では、まず稟議という公式な意思決定プロセスと、根回しという非公式なプロセスの共生関係を解き明かします。そして、その歴史的・文化的背景を深く掘り下げ、現代における「功罪」を多角的に分析します。最終的には、単なる善悪二元論に終始するのではなく、これからの時代に求められる「健全な根回し」とは何か、その具体的なあり方を提言します。

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そもそも稟議とは何か?その本質的な意味や目的を理解することで、根回しの役割がより明確になります。

第1章:稟議と根回しの解剖学―公式と非公式の共生関係

日本の組織における意思決定は、公式な制度と非公式な慣行という、表裏一体のメカニズムによって成り立っています。この章では、その両輪である「稟議制度」と「根回し」を詳細に分析し、両者の不可分な関係を明らかにします。

1-1. 稟議制度:公式な意思決定のレール

稟議制度とは、担当者が自身の権限を超える事項について、稟議書という公式文書を用いて上位の決裁権者に承認を求めていく、ボトムアップ型の意思決定プロセスです。これは、組織のガバナンスを支える公式な「レール」に例えることができます。

稟議の本質は、「権限移譲」の公式な手続きであり、その目的は多岐にわたります。以下の表は、稟議制度が組織内で果たす主要な機能を示しています。

表1:稟議制度の主要な機能

機能概要内部統制上の役割
権限逸脱の防止個人の権限を超える決定に、上位者の承認を必須とする。業務の適正性を担保し、個人の独断による不正やミスを防ぐ。
プロセスの証跡化誰が、いつ、何を承認したかを、改ざん困難な文書として記録する。監査や税務調査で、意思決定の正当性を証明する客観的証拠となる。
多角的な視点の確保関連部署への回付・合議を通じて、複数の視点からの検討を促す。計画の網羅性を高め、潜在的なリスクの発見に貢献する。
情報共有の促進決定事項とその背景を、組織内の関係者に公式に伝達する。組織内での認識の齟齬を防ぎ、円滑な業務連携を支援する。

しかし、この公式なレールの上を、稟議書という列車が何の問題もなくスムーズに走るかというと、現実はそう単純ではありません。

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1-2. 根回し:レールを滑らかに動かす潤滑油

根回しとは、稟議書を提出するという公式なアクションの前に、非公式かつ戦略的に、主要な関係者から内々に理解や支持を取り付けておく準備活動です。これは、稟議というレールを滑らかに動かすための「潤滑油」に他なりません。

決裁者や承認者の立場からすれば、何の前触れもなく重要な稟議が回ってきても、その背景や論点を瞬時に理解し、冷静な判断を下すのは困難です。事前の根回しが果たす戦略的な役割は、以下の表のように整理できます。

表2:根回しの戦略的役割

役割具体的なアクション目的・効果
情報伝達・補完稟議書に書ききれない背景や経緯を口頭で補足する。承認者の深い理解を促し、判断の精度を高める。
事前折衝・調整相手の疑問や懸念を事前にヒアリングし、解決策を提示する。公式な場での反論や差戻しを防ぎ、プロセスを円滑化する。
人間関係の構築相手の面子を保ち、敬意を示すことで、心理的な抵抗を和らげる。信頼関係を醸成し、提案への協力的な姿勢を引き出す。
非公式な内諾獲得主要なキーパーソンから、事前に支持を取り付けておく。稟議の承認確度を大幅に高める。

このように、根回しは単なる「ごますり」ではなく、新しい提案という「樹木」が組織にスムーズに受け入れられるための、極めて戦略的な準備活動なのです。

1-3. 「儀式」としての稟議―なぜ事前調整が不可欠なのか

多くの日本企業において、根回しが成功裏に完了した時点で、実質的な意思決定は終わっていると言っても過言ではありません。その後に続く稟議の回付と押印は、非公式に形成された合意を、公式な決定として追認し、記録するための「儀式」としての役割を担います。

この「稟議と根回しの共生関係」は、日本の高コンテクスト文化(言葉以外の文脈を重視する文化)の典型的な現れです。以下の表は、両者の役割分担をまとめたものです。

表3:稟議と根回しの役割分担

観点稟議(公式プロセス)根回し(非公式プロセス)
役割意思決定の「レール」レールを動かす「潤滑油」
目的権限移譲、証跡化、公式な合意形成事前調整、背景共有、懸念解消
手段稟議書(文書)対話、個別説明(コミュニケーション)
性質低コンテクスト(明示的)高コンテクスト(文脈依存)
機能決定を「記録」し「正当化」する儀式実質的な「合意」を形成する交渉

承認者が「冷静な判断」のために事前の説明を求めるという事実は、書かれた言葉以上の文脈や背景理解を重視する文化的な要請を浮き彫りにしています。したがって、このシステムを単なる官僚的な手続きとしてではなく、非公式な社会的儀式が公式なプロセスを支配する「社会・官僚的儀式」として捉えることが、その本質を理解する鍵となります。

第2章:なぜ根回しは生まれたのか?その歴史的・文化的土壌

稟議と根回しの独特な関係性は、決して偶然の産物ではありません。それは、日本の歴史と社会構造の中に深く根差した、文化的な必然でした。この章では、そのルーツを掘り下げていきます。

2-1. 歴史的ルーツ:武家社会の「合議制」と明治の「官僚制」

根回しの文化的ルーツは江戸時代の武家社会に、そして制度的ルーツは明治政府の官僚制に見出すことができます。この二つの歴史的要素が、現代に至る日本型意思決定のDNAを形成しました。

  • 文化的源流:武家社会の「合議制」
    江戸時代の藩運営では、藩主という絶対的なトップは存在しつつも、重要な意思決定は重臣たちの合意によって行われることが多くありました。トップの独断ではなく、家臣団で議論を尽くして合意を形成するこのスタイルが、組織の和を重んじ、一枚岩で物事にあたるための知恵として、日本の組織文化の基層を形成しました。
  • 制度の確立:明治政府の「官僚制」
    現代に直接つながる稟議制度が確立されたのは明治時代です。欧米列強に追いつくべく近代国家建設を急ぐ明治政府が、効率的な行政運営のためにプロイセン(ドイツ)の官僚制を参考に、その意思決定プロセスとして稟議制を導入しました。そして、1873年の太政官布告による印鑑登録制度の導入が、この流れを決定づけます。
  • 稟議が、合意形成の「プロセス」を提供し、
  • ハンコが、そのプロセスにおける各個人の承認という「物理的証拠」を提供する。
    この両輪ががっちりと噛み合ったことで、責任の所在を分散させつつ、組織の総意であることを可視化する、日本独自のボトムアップ型承認文化が形成されたのです。

2-2. 文化的背景:「和」の尊重と「責任」の共有

根回しを駆動する強力な文化的要因は、集団の調和(和)を重んじる価値観と、責任を個人に集中させず、集団で共有しようとする意識です。以下の表は、これらの文化的背景が根回しに与えた影響をまとめたものです。

表4:根回しを育んだ文化的背景

文化的要因概要根回しへの影響
「和」を尊ぶ集団主義個人の意見表明よりも、集団全体の調和を保つことを優先する。公式な場での直接的な対立を避けるため、水面下での事前調整(根回し)が発達した。
「経営家族主義」と責任共有会社を一つの運命共同体と捉え、成功も失敗も全員で分かち合う。責任を分散させるため、多くの関係者の合意を取り付ける稟議・根回しプロセスが定着した。

日本の会議が、活発な議論の場ではなく、事前に調整された合意事項を確認する儀礼的な場となりがちなのは、このためです。根回しは、公式な場の「和」を保ちつつ、集団としての決定を下すための、極めて合理的な安全装置として機能してきたのです。

2-3. ハイコンテキスト文化と根回しの親和性

根回しは、前述の通り、言葉や文書にされていない文脈や人間関係を重視する「ハイコンテキスト」な文化と非常に親和性が高い取り組みです。

「A部長にはまずメリットから、Bさんにはリスク対策を重点的に」といったように、相手の立場や性格、関心事を事前に把握し、それぞれに合わせた説明をすることが求められます。これは、文書という画一的な情報伝達(ローコンテキスト)だけでは成し得ない、高度なコミュニケーション術と言えます。

しかし、このハイコンテキストな性質は、現代の組織において大きな課題も生み出しています。

  • 属人性の高さ:誰にどのような説明をすれば良いかというノウハウは、個人の経験や人間関係に依存します。新入社員や中途社員には、この「暗黙知」を短期間で把握することは困難です。
  • ダイバーシティとの相性:多様なバックグラウンドを持つ人材が増える中で、全員が同じ文脈を共有することは不可能に近くなります。「言わなくても分かるだろう」という前提が崩れ、コミュニケーションの齟齬を生む原因となり得ます。

かつての終身雇用が前提で、「全員が生え抜きの会社」であれば、このハイコンテキストな根回しは有効に機能しました。しかし、人材の流動性が高まった現代においては、根回しの「丁寧な合意形成」という考え方は残しつつも、そのやり方は変えなければならない岐路に立たされているのです。ある程度のことをルールベース、あるいはシステム内で行うという考え方がなければ、組織の意思決定は一部の古参社員にしか担えない、硬直化した取り組みになってしまいます。

第3章:【表で徹底比較】根回しの「功罪」―メリットとデメリット

根回しは、組織に利益をもたらす「功」の側面と、成長を阻害する「罪」の側面を併せ持つ、まさに両刃の剣です。この章では、その功罪を多角的な視点から比較し、その本質に迫ります。

3-1. 根回しがもたらす光と影

適切に運用された「健全な根回し」は、意思決定の質を高め、組織の実行力を最大化する強力なツールとなります。これは、現場の意見を吸い上げて意思決定に反映させるボトムアップ・アプローチの強みと共通します。根回しをするのには、確かに時間がかかります。けれども、事前に合意を得ておくことで、実行フェーズが驚くほどスムーズになるのです。この「決定は遅く、実行は速い」という特徴は、日本型組織の大きな強みとされてきました。

しかし、その光が強ければ強いほど、影もまた濃くなります。本来の目的を見失い、形骸化した「不健全な根回し」は、意思決定の遅延を招き、ビジネスチャンスを逸する原因となります。さらに、根回しが密室で行われるコミュニケーションであるため、対人的な関係性が判断に影響を与えやすいという大きなリスクも存在します。「あの人が言うなら大丈夫だろう」「彼の提案はいつも少し甘いからな」といったように、「何を言ったか」という提案内容そのものよりも、「誰が言ったか」という人間関係や評判が優先されてしまう危険性です。これにより、客観的で公平な議論が阻害され、組織にとって最善ではない意思決定が下される温床となります。

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3-2. 功罪の比較分析

以下の表は、根回しの「功」と「罪」を、具体的な組織活動の側面から徹底的に比較したものです。

表5:根回しの「功罪」徹底比較

比較軸功(メリット)罪(デメリット)
意思決定の質向上する:多様な専門家からの事前フィードバックにより、計画の弱点やリスクを事前に修正できる。低下する:反対意見が潰され、不都合な情報が共有されないため、客観的で最適な判断が困難になる。
スピード実行が速い:「決定は遅いが実行は速い」。事前調整が済んでいるため、実行段階での手戻りや対立が少ない。決定が遅い:関係者全員の合意形成に時間がかかり、市場の変化に対する俊敏性を著しく損なう。
透明性・公正性(限定的):関係者間の丁寧な対話により、相互理解が深まる。著しく低い:プロセスが密室化し、「誰が言ったか」が重視され、客観的な議論が阻害される。
イノベーション(間接的に貢献):部門横断的な対話が、新しいアイデアの結合を促す可能性がある。阻害する:同調圧力が働き、斬新なアイデアや建設的な異論が出にくくなる。「裸の王様」を生む土壌となる。
組織文化一体感を醸成:関係者の「納得感」を高め、決定事項への強いコミットメントと当事者意識を生む。硬直化・形骸化:挑戦よりも前例踏襲が優先され、失敗から学べない無責任な体質を助長する。
ガバナンスリスクを低減:非公式なピアレビュー機能が、内部統制を補完し、潜在リスクの早期発見に繋がる。形骸化する:公式な稟議プロセスが、密室での決定を追認するだけの儀式となり、牽制機能が失われる。

この表からわかるように、根回しの価値は、その運用方法に大きく依存します。組織として、いかに「功」の側面を最大化し、「罪」の側面を抑制するかが、極めて重要な経営課題となるのです。

第4章:現代ビジネスにおける根回しの再評価―DXとグローバル化の波の中で

伝統的な根回し文化は、現代のビジネス環境を特徴づける二つの大きな潮流、「グローバル化」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」によって、そのあり方を根本から問われています。この章では、根回しが直面する課題と、新たな可能性について考察します。

4-1. 日本モデル vs 欧米モデル:意思決定プロセスの比較

グローバルな環境で働く上で、日本のボトムアップ・コンセンサス型モデルと、欧米で主流のトップダウン・個人権限型モデルの違いを理解することは不可欠です。以下の表は、両者の特徴を比較したものです。

表6:意思決定プロセスの国際比較

特徴日本モデル(稟議・根回し)欧米モデル(例:米国トップダウン)
意思決定スピード遅い傾向速い傾向
実行スピード速い傾向遅くなる傾向(実行段階での調整・抵抗)
権限の所在集団的・ボトムアップ個人的・トップダウン
コミュニケーション非公式・高コンテクスト(根回しが中心)公式・低コンテクスト(会議、文書が中心)
会議の目的合意の確認・儀式議論・意思決定
説明責任拡散的・集団的個別的・明確

どちらか一方が絶対的に優れているわけではなく、それぞれに強みと弱みがあります。成功するグローバル組織は、両者の「良いとこ取り」をしたハイブリッドなモデルを構築しつつあります。

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4-2. DX時代における根回しの進化

DXやデータ駆動型経営は、俊敏性と迅速な意思決定を絶対的な要件とします。これは、時間をかけて合意を形成する伝統的な根回しとは、一見して相容れません。しかし、テクノロジーは、このジレンマを解決する「e根回し」とも呼べる進化を可能にします。

表7:「伝統的根回し」と「e根回し」の比較

比較軸伝統的な根回しe根回し(テクノロジー活用型)
手段対面、電話、飲み会ワークフローシステム、ビジネスチャット、共有ドキュメント
スピード遅い、同期的速い、非同期的
透明性低い(ブラックボックス化しやすい)高い(やり取りが記録・可視化される)
対象範囲限定的(物理的な制約)広範囲(時間や場所を選ばない)
メリット丁寧な合意形成伝統的なメリットを維持しつつ、スピードと透明性を向上
課題スピード、透明性、形骸化ツールの導入・定着、プロセス全体の再設計が必要

「e根回し」は、伝統的な根回しの「丁寧な合意形成」というメリットを活かしつつ、「遅さ」「不透明さ」というデメリットを克服する可能性を秘めています。

4-3. 意外な輸出品?世界が学ぶ「NEMAWASHI」の価値

根回しが日本特有の古風な慣習と見なされる一方で、その核となる原則(事前の調整、関係者の支持獲得)が、グローバル企業によって再評価され始めています。欧米企業は、トップダウンによる迅速な決定が、実行段階での頓挫や失敗につながるケースを数多く経験してきました。

彼らは、日本の根回しを「Stakeholder Alignment(ステークホルダーとの認識一致)」や「Pre-Socialization(事前の社会化)」といった言葉で再解釈し、自分たちの組織運営に取り入れています。これは、未来の意思決定モデルが単純な二者択一ではないことを示唆しています。

まとめ:未来の成長のため、「健全な根回し」をデザインする

本記事を通じて明らかになったのは、根回しが本質的に「善」でも「悪」でもなく、その価値が適用方法によって全く異なる、両刃の剣であるという事実です。

根回しが密室でのコミュニケーションに依存する限り、「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」という人間関係が判断を左右するリスクは常に存在します。しかし、だからといって、事前調整や合意形成の文化そのものを否定するのは早計です。むしろ、トヨタやAmazonといったグローバル企業が実践する「A4一枚でプレゼンテーションする」文化に見られるように、多様なステークホルダーに対し、論点を整理し「要するに」とコンパクトに伝える思考法は、稟議文化が本来持っていた優れた側面と通じます。

重要なのは、根回しと稟議というプロセスを、内容本位の健全な議論を行うための「精神」をもって運用することです。それが失われたとき、これらの文化は組織を蝕む毒となり得ます。

以下のフレームワークは、不健全な伝統的根回しを、現代のビジネス環境に適合した「健全な根回し」へと改革するための指針です。

表8:「健全な根回し」のための改革フレームワーク

次元伝統的な根回し(罪)健全な根回し(功)への改革
透明性不透明、密室での取引透明化:共有プラットフォームでプロセスを可視化する。
スピード遅延しがち、無期限迅速化:協議フェーズに厳格な期限を設定する。
目標対立の回避、全員一致の形成最適化:最善の意思決定を目指し、建設的異論を歓迎する。
ツール対面、電話、飲み会デジタル化:ワークフローやチャットツールを戦略的に活用する。
参加者権力者、派閥中心専門家中心:案件に直接関連する専門家やステークホルダーを巻き込む。
結果集団思考、イノベーションの阻害高品質な意思決定強固な実行力の両立。
説明責任曖昧、拡散明確化:最終的な説明責任の所在を個人またはチームに定める。

このような「健全な根回し」を組織に根付かせることが、これからの企業の持続的な成長の鍵を握ります。

そして、この変革を力強く後押しするのが、テクノロジーの力です。「誰が言ったか」という属人的な要素の影響を最小限に抑え、「何を言ったか」という議論の内容そのものを記録・可視化する。例えば、ジュガールワークフローのような統合型ワークフローシステムは、稟議プロセスの可視化と迅速化を実現します。AIが規程チェックなどの判断業務を支援することで、従業員は形骸化した調整作業から解放され、本来注力すべき「提案内容のブラッシュアップ」や「関係者との建設的な対話」といった、質の高い合意形成活動に時間を使うことができるようになります。テクノロジーで「形式」を効率化し、人間が「本質」に集中できる環境を整えること。それこそが、未来のワークフローが目指すべき姿です。

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引用文献

本記事の作成にあたり、以下の公的機関および調査会社の情報を参考にしています。

  1. 金融庁. 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」 (URL: https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20070215.html)
  2. デジタル庁. 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」 (URL: https://www.digital.go.jp/policies/priority-policy-program/)
  3. 法務省. 「押印についてのQ&A」 (URL: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00244.html)
  4. 国税庁. 「電子帳簿保存法一問一答」 (URL:https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/4-3.htm)
  5. 独立行政法人情報処理推進機構(IPA). 「DX白書」 (URL: https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html)

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記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。