稟議書が差し戻された時の正しい対応|修正・再提出で評価を上げる方法

目次

この記事のポイント

  • なぜ稟議書が差し戻されるのか、その根本原因を4つの階層で正確に診断できる。
  • 差し戻し直後に取るべき、信頼を回復し、評価の土台を築くための初動対応が分かる。
  • 単なる修正作業に留まらず、提案に付加価値を与え、承認者の期待を超えるための具体的な技術が身につく。
  • 差し戻しを評価向上の決定打に変える「改善報告書」の書き方を、テンプレート付きで学べる。
  • 将来の差し戻しを未然に防ぎ、組織全体の業務効率を高めるための予防策を立案・実行できる。

この記事では、稟議書の差し戻しという一見ネガティブな事態を、自身の評価を飛躍的に高める機会へと転換するための、戦略的な思考法と具体的なアクションプランを解説します。読み終える頃には、あなたは以下のスキルを習得しているはずです。

【はじめに】

本記事は、差し戻しへの「対応技術」に特化しています。もし、承認される稟議書の基本的な書き方の思考法からテクニックまでを体系的に学びたい方は、まず『【例文テンプレート付】承認される稟議書の書き方|決裁者を動かす論理・心理テクニックとデータ活用術』からお読みいただくことを強くお勧めします。

1. なぜ稟議書は差し戻されるのか?4階層で解き明かす根本原因

【この章の要点】

稟議書が差し戻される原因は、単純なミスから経営戦略とのズレまで、4つの階層に分類できます。表面的な指摘の裏にある「真の懸念」を理解することが、的確な修正への第一歩です。

稟議書の差し戻し通知を受け取った時、「またか…」「何がダメなんだ…」と落ち込んでしまうのは無理もありません。しかし、効果的な対策を講じるためには、まずその原因を正確に診断することが不可欠です。承認者は、必ずしも本当の理由をストレートに伝えてくれるとは限りません。まずはこの4つの階層を理解し、問題の所在を明らかにしましょう。

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差し戻しの原因をさらに深く掘り下げたい方は、まずはこちらをお読みください。決裁者の「本音」を知ることで、アプローチがより的確になります。

第1階層:手続き上の不備 -「誠意」が問われる基本のミス

最も一般的で修正が容易な一方、承認者に「仕事が雑だ」という印象を与えかねない、軽視できないミスです。これらは提出前のチェックで100%防げるはずであり、あなたの仕事の丁寧さが問われます。

【表1:手続き上の不備と承認者が感じること】

不備の具体例承認者の心の声(推測)
内容の誤り:誤字脱字、計算ミス、日付や金額の間違い。「この金額、本当に合っているのか?他の部分も信用できないな…」
情報・添付書類の不足:必要な見積書や参考資料が添付されていない。「判断材料が足りない。これでどうやって承認しろと…」
フォーマットの誤り:古い書式を使っている、様式が違う。「会社のルールを理解していないのか?基本がなっていないな。」
承認ルートの不備:設定された承認経路(ワークフロー)が間違っている。「また差し戻してルート設定からやり直しか。手間をかけさせるな。」

第2階層:内容の不明瞭さ -「伝達力」への疑念

書類の形式は整っていても、内容が難解で一度読んだだけでは理解できないケースです。これはあなたのコミュニケーション能力、特に「専門外の人に分かりやすく説明する能力」への疑念に繋がります。

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説得力を削いでしまう無意識な言葉遣いを避け、よりプロフェッショナルな表現を身につけたい方におすすめです。

【表2:内容の不明瞭さと承認者が感じること】

不明瞭さの具体例承認者の心の声(推測)
要点の欠如:結論や目的が、長く回りくどい文章の中に埋もれている。「で、結局何が言いたいの?結論を先に言ってくれ。」
専門用語の多用:他部署の承認者には理解できない専門用語や略語が注釈なしで使われている。「この横文字は何だ?理解させる気がないのか?」
構造の悪さ:見出しや箇条書きがなく、文章がだらだらと続いている。「どこを読めばいいのか分からない。読む気が失せる…」

第3階層:論理・根拠の不足 -「分析力」の欠如

提案の説得力が根本的に欠けている状態です。これは、あなたの分析力やビジネスパーソンとしての構想力が問われる、より深刻な問題です。承認者は「本当にこの投資は回収できるのか?」という不安を払拭できず、承認のハンコを押すことができません。

  • 客観的データの不足:主張を裏付ける具体的なデータ(市場調査、社内データなど)がなく、主観的な意見や感覚に基づいているように見える。
  • 「なぜ今、これが必要か」の説明不足:提案に至った背景や問題意識が十分に説明されておらず、必要性・緊急性が伝わらない。
  • 効果(メリット)の曖昧さ:「業務効率化が期待できる」といった抽象的な表現に終始し、「年間XX時間の工数を削減し、YY円のコスト削減に繋がる」といった定量的な記述がない。
  • リスク(デメリット)と対策の欠如:想定されるリスクや課題、そしてそれらへの具体的な対策が示されていない。これはリスクを嫌う承認者にとって、承認をためらう最大の要因の一つです。

第4階層:戦略との不一致 – 最も深刻な「視点のズレ」

最も深刻で、修正が困難な理由です。稟議書自体は論理的で分かりやすくても、より大きな組織の目標と合致していないケースです。これは、あなたが「木を見て森を見ていない」状態であることを示唆しています。

  • 事業計画・予算との乖離:会社の年度計画や部署の予算(年初に承認された計画)から逸脱している。
  • タイミングの不適合:他に優先度の高いプロジェクトが進行中である、または市場環境の変化により、今はその投資をすべき時期ではないと判断される。
  • 決裁者の価値観との不一致:主要な決裁者が暗黙のうちに持っている判断基準や「経営上のクセ」に合っていない。
  • 政治的な問題:他部署との縄張り争いや、社内力学が関係している。

承認者は、差し戻しの理由として「予算がないから」と正直に言う代わりに、第3階層の「費用対効果のデータが足りない」といった、より当たり障りのない理由を挙げることがあります。指摘された言葉を鵜呑みにせず、その裏にある真の意図を読み解く必要があります。

【図表3:差し戻し原因の4階層モデル】

階層問題の核心承認者が抱く懸念対応の方向性
第4階層戦略との不一致「会社の目標と合っていない」提案の前提を再検討、上長と戦略を再確認
第3階層論理・根拠の不足「本当に儲かるのか?リスクは?」定量データで再武装、費用対効果・リスク分析を徹底
第2階層内容の不明瞭さ「読むのが面倒、意味が分からない」結論ファースト、図解・箇条書きで視覚化
第1階層手続き上の不備「仕事が雑、誠意がない」チェックリスト活用、ダブルチェックの徹底

2. 差し戻されたらどう動くべきか?信頼を回復する初動の技術

【この章の要点】

差し戻し直後の対応は、スピードと姿勢が重要です。感情的にならず、指摘への感謝を示し、意図を正確に把握するための「協力的な質問」をすることが、評価を守り、回復させる鍵となります。

差し戻しの通知を受けた直後のあなたの対応は、その後の展開、ひいてはあなたの評価を大きく左右します。問われるのは、感情のコントロール、スピード、そしてコミュニケーションの質です。

即座の確認と前向きな受容:まず示すべきは「敬意」

ワークフローシステムやメールで差し戻しの通知を受けたら、まず内容を真摯に確認し、フィードバックの分析を開始します。この時、決して防御的になったり、感情的になったりしてはいけません。

目的は、自分の正当性を主張することではなく、承認者の視点や懸念を正確に理解することにあります。

迅速な反応は、業務への誠実さと、承認プロセスへの敬意を示すことになります。対応が遅れると、「この案件への意欲が低い」と見なされ、心証をさらに悪化させる可能性があります。フィードバックを批判ではなく、提案をより良くするための建設的なアドバイスとして捉え、「会社のために、より良い提案にする機会をいただけた」という前向きな姿勢で受け止めましょう。

評価を上げる「質問力」:どう聞けば意図を引き出せるか?

フィードバックの意図が不明確な場合、質問することは許容されるだけでなく、むしろ推奨されます。ただし、その聞き方には細心の注意が必要です。的外れな修正で再び時間を無駄にしないためにも、「真の懸念」を引き出す質問を心がけましょう。

【表4:評価を左右する質問の仕方】

評価を上げる聞き方(協力型)評価を下げる聞き方(対立型)
例文「〇〇部長、ご指摘ありがとうございます。『費用対効果』に関するご懸念を完全に払拭するため、A案:ROIの詳細計算B案:代替案との比較、どちらをより重視されますでしょうか。ご意向に沿った資料を的確に準備したく、ご教示いただけますと幸いです。」「どういう意味ですか?」
「データは十分だと思いましたが、どこが足りないのでしょうか?」
相手に与える印象承認者の要求に応えようとする協力的な姿勢。具体的な選択肢を提示することで、相手の思考を助け、共に解決しようという意思が伝わる。承認者の判断を疑っているかのような挑戦的な印象。相手に説明責任を押し付け、対話ではなく詰問のような雰囲気を作る。
心理的効果承認者を「コーチ」や「協力者」の立場に引き込み、より建設的なアドバイスを引き出しやすくなる。承認者を「敵」と見なしていると受け取られ、防御的な態度を誘発し、さらなる協力を得にくくなる。

これだけは避けたい!評価を決定的に下げる5つのNG行動

差し戻しという状況で、あなたのビジネスパーソンとしての器が試されます。以下の行動は、一度失った信頼を取り戻すのが非常に困難になるため、絶対に避けましょう。

【図表5:差し戻し対応におけるNG行動ワースト5】

NG行動なぜ評価が下がるのか?
1. 反論・防御的態度承認者を敵に回し、「扱いにくい」「成長意欲がない」というレッテルを貼られる最速の方法です。「でも」「しかし」から会話を始めるのは禁物です。
2. 指摘の無視指摘された本質的な問題を解決せず、誤字脱字など表面的な修正だけで再提出するのは、承認者への侮辱と見なされ、誠実さを疑われます。
3. 他者への責任転嫁「〇〇部のデータが遅れたせいで…」など、他者に原因を押し付けるのは、チームプレーヤーとしての資質と当事者意識の欠如を露呈します。
4. 承認者の飛び越し差し戻した本人と解決を図らずに、その上長に直訴するなどの行為は、組織の秩序を乱す重大なマナー違反であり、信頼を完全に失います。
5. 承認なき実行差し戻されたにもかかわらず、勝手に計画を進めることは、コンプライアンス意識の欠如と判断され、懲戒処分の対象にもなり得る重大な規律違反です。

【まとめ】差し戻し直後の行動チェックリスト

  • 即時確認: 通知を受けたらすぐに内容を確認したか?
  • 感謝の表明: 指摘に対してまず感謝の意を伝えたか?
  • 前向きな姿勢: 批判と捉えず、改善の機会として受け止めているか?
  • 具体的質問: 意図を確認するため、選択肢を提示する形で質問したか?
  • NG行動の回避: 反論、無視、責任転嫁などをしていないか?

3. 単なる修正で終わらない!承認者の期待を超える「付加価値」の生み方

【この章の要点】

差し戻しは、提案をより強力に進化させるチャンスです。指摘の裏にある「真の懸念」を読み解き、定量データやリスク対策で論理を再武装することで、単なる修正を超えた付加価値を生み出せます。

差し戻しへの対応は、単なる「修正作業」ではありません。決裁者から与えられたフィードバックをヒントに、当初の提案を超える「付加価値」を生み出すことで、「この若手は一度指摘しただけで、ここまで深く考えてくるのか」と評価を覆すことができます。

言葉の裏を読む:指摘された「本当の懸念」は何か?

第1章で述べたように、指摘された差し戻し理由が、唯一の理由とは限りません。「データが不十分」という指摘の裏には、「提示された効果が信じられない」「未知のリスクが心配だ」といった、より根深い懸念が隠れている可能性があります。

修正作業は、単に言われたデータを追加するだけでなく、その隠れた不安を払拭する「正しい」データを提供することに主眼を置くべきです。例えば、「ROIのデータが弱い」と指摘された場合、単に計算式を追加するだけでなく、

  • 感度分析:売上予測やコスト削減額が変動した場合、ROIがどう変化するかを示す。
  • 競合製品との比較:なぜこの投資が他の選択肢より優れているのかを、TCO(総所有コスト)の観点から示す。
  • 導入事例:同業他社が同様の投資で成功した客観的な証拠を提示する。

といった、一歩踏み込んだ分析を加えることで、決裁者の「信じられない」という感情にアプローチできます。

論理の再武装:反論の余地なき提案書を構築する3つの武器

決裁者の懸念を払拭し、承認せざるを得ない状況を作り出すためには、提案の論理を再武装する必要があります。特に有効な3つの武器を紹介します。

  1. 武器①:徹底的な定量化
    抽象的な表現を具体的な数値に置き換えます。「業務効率化」を「月間作業時間を20時間(年間240時間)削減」へ。「コスト削減」を「人件費換算で年間〇〇円のコスト削減」へ。可能であれば、複数社からの相見積もりを添付し、コストの妥当性を証明しましょう。関連記事
    決裁者を納得させる「費用対効果」の示し方|ROIの計算方法とアピールのコツ
    費用対効果の計算方法や、より効果的な見せ方を深く学びたい方は必見です。
  2. 武器②:会社計画との整合性
    これは極めて有効な戦術です。あなたの提案が、事前に承認された年度予算や中期経営計画に沿ったものである場合、文書の冒頭で「本件は、年初に承認済みの〇〇計画に基づく実行稟議です。」と明確に記述します。これにより、承認者の心理的負担は「新たなリスクを承認する」から「既存計画の実行を確認する」へと変化し、承認へのハードルが劇的に下がります。
  3. 武器③:リスクの先回り
    潜在的なデメリットから目を背けてはいけません。想定されるリスクを正直に列挙し、それ以上に重要なこととして、具体的かつ現実的な対策を併記します。これは、あなたが多角的に物事を検討している冷静な人物であることを示し、承認者に絶大な安心感を与えます。メリットとデメリットを両論併記することで、客観的な判断に基づいていることをアピールできます。関連記事
    稟議書でリスクをどう書くか?決裁者の不安を払拭する「対策」の示し方
    リスク開示の具体的な書き方と、決裁者の信頼を勝ち取るためのポイントを詳しく解説します。

明快さの追求:承認者の「考える負荷」を極限まで下げる技術

内容がどれだけ論理的でも、読みにくい形式では正しく伝わりません。修正版の稟議書は、単に「正しい」だけでなく、「承認しやすい」ものでなければなりません。承認者が無意識に抱く2つの問い、「これを理解するのにどれだけの時間がかかるか?」そして「これを承認した場合、私にどのようなリスクがあるか?」に答えることが、改訂の最終目標です。

  • 結論から始める(PREP法):多忙な承認者は、要点が先に書かれている文書を好みます。稟議の目的と結論を冒頭に配置しましょう。
  • 視覚的な構造化:長い文章を避け、見出し、箇条書き、番号付きリストで適切に区切ります。データは文章ではなく、表やグラフを用いて視覚的に示しましょう。
  • 平易な言葉を選ぶ:専門用語を排除し、一文を短くし、専門外の人間にも理解できる平易な言葉で記述します。
  • 情報を詰め込みすぎない:目的は、調査量を見せることではなく、意思決定に必要な情報だけを的確に提供することです。補足的な詳細データは、付録や別紙にまとめましょう。

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【表6:三流と一流の修正対応比較】

観点三流の修正対応(言われたことだけやる)一流の修正対応(期待を超える)
データ指摘されたROIの計算式を追加する。ROIに加え、感度分析や競合比較、導入事例を追加し、「確からしさ」を証明する。
リスクリスク項目には「特になし」と書く。想定されるリスクを複数挙げ、それぞれに具体的な対策と対策コストまで明記する。
構成元の文章に追記する形で修正する。構成全体を見直し、結論ファーストの原則と図解を用いて、視覚的に分かりやすく再設計する。
目的「修正すること」が目的。「承認者の不安を完全に取り除き、自信を持って承認させること」が目的。

4. 【テンプレート付】差し戻しを評価に変える最強ツール「改善報告書」の書き方

【この章の要点】

修正した稟議書に「改善報告書」を添付することで、あなたの誠実さ、分析能力、改善意欲を雄弁に伝えられます。この一手間が、差し戻しというピンチを、評価向上の絶好のチャンスへと変えます。

差し戻しという事態を、自身の評価を高めるための決定的なプレゼンテーションの機会に変えるための強力なツールが「改善報告書」です。これは、修正した稟議書に添付するA4一枚程度のカバーレターの役割を果たします。

改善報告書が持つ4つの戦略的価値とは?

この一通の報告書には、以下の4つの戦略的価値があります。

  1. 敬意の表明:承認者のフィードバックに対する敬意と、真摯な受け止めを形式的に示すことができる。
  2. 時間短縮への配慮:変更点を明確に要約することで、承認者が新旧の文書を比較する手間を省き、「仕事ができる人間だ」という印象を与える。
  3. 根本原因の分析力アピール:稟議書本体では表現しきれない「なぜミスが起きたのか」という自己分析と再発防止策を示し、学習能力の高さをアピールする。
  4. 付加価値の提示:「指摘をきっかけに、提案がこれだけ進化した」という、より高次の思考プロセスを示す絶好の舞台となる。

そのまま使える!改善報告書テンプレートと記入例

このテンプレートは単なる書式ではありません。それは、差し戻しという状況下で、自身のプロフェッショナリズムを体系的に証明するためのフレームワークなのです。

【表7:改善報告書テンプレート】

項目内容と戦略的目的記入例
件名元の稟議書を特定し、修正報告であることを明確に伝えます。稟議書「〇〇システム導入について」の修正および再提出のご報告
1. ご指摘事項の要約承認者からの指摘を自身の言葉で簡潔に要約します。これにより、指摘を正確に理解したこと、そして相手の時間と意見を尊重していることを示します。「〇〇部長より、提案されたシステム導入における費用対効果のデータが不十分であり、具体的な数値での効果測定が必要であるとのご指摘をいただきました。」
2. 修正内容の詳細具体的な変更点を、可能であれば「修正前/修正後」の形式やページ番号を引用して記述します。これにより、すべての指摘に誠実に対応したことを証明します。【修正前】 稟議書 P.4: 導入により業務効率化が期待できる。
【修正後】 稟議書 P.4-5: 導入により、関連業務の月間作業時間を20時間(年間240時間)削減可能。人件費換算で年間〇〇円のコスト削減に繋がります。また、代替案B社製品との5年間のTCO(総所有コスト)比較表を追加しました。(詳細は稟議書P.5参照)
3. 根本原因の分析と再発防止策評価を飛躍的に高めるための最重要項目です。 なぜ当初の不備が生じたのかを自己分析し、再発防止のための具体的な行動計画を提示します。これにより、自己客観視能力、問題解決能力、そして継続的改善への意欲という、高く評価される資質を示すことができます。【原因】 自身の視点が提案内容の定性的なメリットに偏ってしまい、決裁者が判断するために不可欠な定量的・客観的データ(投資対効果)を準備する意識が不足しておりました。
【対策】 今後の稟議書作成時は、必ず定量的なKPI(例:コスト削減額)を設定し、その効果を数値で示すことを徹底します。また、部署内で共有されている「稟議書作成チェックリスト」に「定量的効果の明記」の項目を追加し、提出前のセルフチェックを義務付けます。
4. 本改善による付加価値受け身の修正から、能動的な提案へと物語を転換させる項目です。修正作業を通じて、提案が当初よりもいかに「強力に」なったかを説明します。フィードバックを、より深い思考への触媒として活用したことを示します。「ご指摘をいただいた費用対効果の再調査を行う過程で、本システム導入の副次的効果として、従来手作業で行っていたデータ入力におけるヒューマンエラーが年間約50%削減可能であることも判明いたしました。これにより、当初の想定を上回る品質向上と、手戻り作業削減による更なる業務効率化が期待できます。この点を稟議書P.6に追記いたしました。」

5. 二度と差し戻されないために。未来の失敗を防ぐプロアクティブな予防策

【この章の要点】

差し戻しを個人の問題で終わらせず、チームや組織の仕組みとして改善することが重要です。チェックリストの活用やナレッジ共有、ワークフローシステムの改善などを通じて、差し戻しが発生しにくい環境を構築しましょう。

一度きりの「神対応」で終わらせず、将来の差し戻しを未然に防ぐための仕組みを構築することは、あなたの長期的な評価と業務効率を大きく向上させます。

個人・チームで実践する3つの習慣

まずは、自身の足元から差し戻しの芽を摘むための習慣を身につけましょう。

  1. チェックリストの作成と運用
    過去に差し戻された事例を基に、個人またはチームで使える「稟議書提出前チェックリスト」を作成し、運用を徹底します。「添付書類は揃っているか?」「定量的な効果は明記されているか?」といった項目を含め、ヒューマンエラーを仕組みで防ぎます。
  2. 成功事例(承認済み稟議書)の共有
    承認された質の高い稟議書は、最高の教科書です。共有フォルダなどで保管し、誰もが参照できるようにします。これにより、組織全体の稟議書作成スキルが底上げされ、フォーマットの統一も図れます。
  3. 「根回し」の定着
    日本の組織文化において、非公式な事前調整である「根回し」は、円滑な合意形成のための重要なプロセスです。稟議書を提出する前に、主要な関係者や承認者に草案の段階で意見を求めることを習慣化しましょう。これにより、公式な場での「ちゃぶ台返し」を防ぎ、関係者を協力者として巻き込むことができます。関連記事
    稟議を早く通すための「根回し」の技術|事前交渉を成功させる5つのステップ
    「根回し」の具体的な会話例や、相手のタイプ別の効果的なアプローチについて、さらに詳しく解説しています。

組織を動かす:仕組みで差し戻しを撲滅する方法

チームや部署全体で差し戻しが頻発している場合、それは個人的なスキル不足ではなく、組織的な課題を示唆している可能性があります。一担当者の立場を超え、組織全体の効率化に貢献する改善提案を行うことで、あなたのリーダーシップをアピールできます。

  • テンプレート・規程の改善提案:形骸化した古いテンプレートの更新や、曖昧な社内ルールの明確化を主管部署に提案します。
  • ワークフローシステムの活用・改修提案:もし稟議プロセスが紙やメールベースで行われているなら、ワークフローシステムの導入を提案すること自体が価値のある稟議となります。すでにシステムを利用している場合は、必須入力項目の設定、入力エラーの自動検知、承認ルートの自動設定など、根本的なミスを防ぐためのシステム改修を情報システム部門に働きかけましょう。

【表8:差し戻し予防策のレベル別アプローチ】

レベルアプローチ具体的なアクション期待される効果
個人自己防衛・差し戻し事例に基づくチェックリストの作成
・承認済み稟議書のテンプレート化
個人のミスを撲滅し、作成時間を短縮する。
チームナレッジ共有・成功事例の共有と分析会の実施
・チーム内でのピアレビュー(相互確認)の徹底
チーム全体のスキルを底上げし、属人性を排除する。
組織仕組み化・全社共通テンプレートの改訂
・ワークフローシステムの導入・改善提案
差し戻しが発生しにくい業務プロセスを構築し、全社の生産性を向上させる。

稟議書の差し戻しに関するよくある質問(FAQ)

Q1. 差し戻されたら、まず最初に何をすべきですか?

A1. まずは即座に内容を確認し、指摘してくれたことへの感謝を伝えることです。決して感情的にならず、「提案をより良くするための貴重なフィードバックをいただけた」という前向きな姿勢で受け止めましょう。この初動が、その後のコミュニケーションを円滑にし、あなたの評価を守るための第一歩となります。

Q2. 差し戻しの理由が曖昧で、何を修正すれば良いか分かりません。

A2. 率直に、しかし聞き方を工夫して質問しましょう。「どういう意味ですか?」と聞くのではなく、「ご指摘の意図を正確に理解した上で修正したいため、例えばAとBのどちらの観点での情報が不足しておりましたでしょうか?」のように、具体的な選択肢を提示して質問すると、相手も答えやすくなります。これはあなたの問題解決意欲を示すことにも繋がります。

Q3. 改善報告書は、すべての差し戻しで添付すべきですか?

A3. 誤字脱字など、明らかに軽微なミス(第1階層)の場合は必須ではありません。しかし、内容の不明瞭さや論理・根拠の不足(第2・第3階層)を指摘された場合は、添付することを強く推奨します。改善報告書は、あなたの学習能力と誠実さをアピールする絶好の機会であり、決裁者の心証を大きく好転させる効果があります。

Q4. 何度も同じ上司から差し戻されます。どうすれば良いですか?

A4. その上司が特に重視するポイント(「クセ」)がある可能性が高いです。過去の差し戻しコメントを分析し、「コスト意識が非常に高い」「リスクを極度に嫌う」などの傾向を掴みましょう。その上で、草案の段階で「〇〇部長は特にこの点を重視されると思いますので、先にご相談させてください」と「根回し」を行うのが有効です。相手を尊重し、味方につける動きが重要です。

Q5. 差し戻しを避けるために、最も重要なことは何ですか?

A5. 決裁者の視点に立って稟議書を書くことです。あなたは提案の「専門家」ですが、決裁者は会社の資源を配分する「投資家」です。「このツールは便利だ」という視点ではなく、「この投資は、会社のどの課題を解決し、どれだけの利益をもたらすのか?」という視点で全体を構成することが、差し戻しを未然に防ぐ最も本質的な対策です。

まとめ:差し戻しは、あなたを成長させる最高の試金石である

稟議書の差し戻しは、多くのビジネスパーソンが経験する、ありふれた業務上の課題です。しかし、本記事で解説してきたように、その受け止め方と対応次第で、それは単なる手戻り作業ではなく、自身の評価を劇的に向上させ、ビジネスパーソンとして大きく成長するための絶好の機会へと姿を変えます。

差し戻しの原因を多角的に分析し、決裁者への敬意を払った迅速な初動対応を行い、指摘の裏にある真の懸念を読み解いて期待を超える付加価値を提示する。そして、その一連の思考プロセスを「改善報告書」として可視化する。このサイクルを経験することで、あなたは単に稟議を通すスキルだけでなく、問題解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力といった、普遍的なビジネススキルを磨き上げることができるのです。

差し戻しは、もはや恐れるべき失敗ではありません。それは、あなたの誠実さ、分析力、そして成長意欲を上司や経営層に示すための、またとない試金石なのです。

差し戻しを「仕組み」でなくす、次の一手へ

本記事で紹介したテクニックは、あなたの稟議対応能力を飛躍的に高めるでしょう。しかし、これらはあくまで個人のスキルに依存した対策です。組織全体の差し戻しを根本からなくし、意思決定のスピードを上げるためには、属人性を排した「仕組み」によるアプローチが不可欠です。

ジュガールワークフローは、単なる電子承認システムではありません。AIによる入力支援や規程チェック機能が、そもそも差し戻しの原因となるミスを未然に防ぎます。また、過去の稟議データを分析・可視化することで、どこで承認が滞留しているのか、どのような内容が差し戻されやすいのかを組織的に把握し、継続的なプロセス改善を可能にします。個人のスキルアップの次のステップとして、組織の仕組みそのものを変革しませんか?

引用・参考文献

  1. 稟議とは?稟議の目的と意味、承認プロセスについて詳細解説 – ジュガール(https://jugaad.co.jp/workflow/ringi/about-ringi/)
  2. 差し戻しとは?ワークフローで発生することのデメリットや対策を解説 – freee (https://www.freee.co.jp/kb/kb-expenses/remand/)
  3. 通らない稟議書に共通する特徴やうまく通すコツを徹底解説 – HR NOTE (https://hrnote.jp/contents/roumu-ringisyo-rejection-20240328/)
  4. 毎年100本決裁をとり続けた稟議書の書き方5つのコツ (https://project-facilitator.com/how-to-write-approval-documents-technique/)
  5. スムーズに承認される「稟議書」の書き方 – みずほ銀行 (https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_504.html)

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記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。