【例文付】契約稟議書の書き方|新規取引・契約更新時の必須項目と注意点

目次

この記事のポイント

  • 契約稟議がなぜ「単なる手続き」ではなく「企業のガバナンスを支える戦略的行為」なのかを理解できる。
  • 新規取引時に、パートナーの信頼性を評価し、リスクを洗い出すための具体的なチェック項目が分かる。
  • 契約更新時に、過去の実績を客観的に評価し、継続の妥当性を論理的に証明する方法が身につく。
  • 値上げなどの不利な条件変更を伴う更新稟議において、決裁者を納得させる交渉術と資料作成術を学べる。
  • そのまま使えるシーン別の例文・テンプレートを参考に、すぐに質の高い契約稟議書を作成できる。

この記事では、単に契約稟議書のテンプレートをなぞるのではなく、承認を勝ち取り、かつ会社の利益を守るための本質的な「技術」と、その土台となる「思考法」を解説します。読み終える頃には、あなたは以下のスキルを習得しているはずです。

序章:契約稟議書はなぜ重要か?単なる社内手続きではない戦略的役割

「また稟議か…面倒だな」。そう感じた経験は、多くのビジネスパーソンにあるかもしれません。しかし、特に「契約」に関する稟議書は、単なる事務手続きをはるかに超えた、企業のガバナンス、リスク管理、そして意思決定プロセスの根幹をなす戦略的行為です。

稟議書がなければ、各担当者が独断で外部と契約を結ぶことが可能になり、会社全体として以下のような重大なリスクを抱えることになります。

  • 財務リスク: 支払い能力のない会社と取引してしまい、代金が回収できなくなる。
  • 法務リスク: 自社に著しく不利な契約内容に気づかず、将来的な紛争の種をまいてしまう。
  • 信用リスク: 反社会的勢力と関わりのある企業と取引してしまい、企業の社会的信用を失墜させる。

契約稟議書は、こうしたリスクから会社を守るための第一の防衛線です。法務、財務、経理といった専門部署が多角的に契約内容をチェックするプロセスを経ることで、一人の担当者では見抜けなかった潜在的なリスクを洗い出し、組織としての集合的な判断を下すことができます。

つまり、契約稟議書を作成する行為は、「ハンコをもらうための作業」ではなく、「会社の資産と信用を守り、健全な成長を支えるための重要な責務」なのです。この本質を理解することが、承認される質の高い稟議書を作成するための第一歩となります。

【より深く知りたい方へ】

稟議の基本を体系的に学ぶ

そもそも稟議とは何か、その歴史的背景や関連用語から学びたい方は、まず『稟議の教科書』をお読みください。本記事は、より実践的な契約稟議に特化した内容です。

第1章:すべての契約稟議書の基礎|承認されるための必須構成要素とは?

契約稟議書のフォーマットは企業によって様々ですが、決裁者が承認判断を下すために必要とする情報は普遍的です。ここでは、どのような契約稟議書にも共通する必須の構成要素と、それぞれが決裁者のどのような疑問に答えるべきかを解説します。

決裁者は、あなたの稟議書を手に取ったとき、頭の中で無数の問いを投げかけています。優れた稟議書とは、これらの問いに先回りして、明確かつ論理的に答えるものです。

必須構成要素決裁者の頭の中の「問い」あなたが記載すべきこと
件名「これは何の案件だ? 優先度は高いか?」誰と、何を、どうする契約なのかが一目でわかるように、具体的かつ簡潔に記載します。(例:「株式会社〇〇との新規取引契約締結の件」)
目的・背景「なぜ、今この契約が必要なんだ? 会社の目標にどう繋がる?」この契約を締結することで、どの部門の、どのような課題が解決され、ひいては会社のどの戦略目標達成に貢献するのかを明確に述べます。
契約相手の概要「取引する相手は、本当に信頼できる会社なのか?」会社名、所在地といった基本情報に加え、与信調査の結果やインボイス登録番号など、パートナーとして信頼に足る客観的な情報を示します。
契約内容「具体的に、何を承認すればいいんだ? 条件は?」契約の種類、期間、金額、支払い条件、業務範囲など、承認を求める契約の骨子を5W1Hで正確に記述します。
金額・費用「いくらかかるんだ? 予算はあるのか?」初期費用、ランニングコスト、年間総額などを正確に記載します。見積書との整合性は必須です。どの予算から支出するのかも明記します。
期待される効果「この投資で、会社にどんなリターンがあるんだ?」「コストが〇〇円削減できる」「売上が〇%向上する」など、可能な限り具体的な数値(定量効果)で示します。顧客満足度向上などの定性効果も重要です。
リスクと対策「考えられる問題点は? 失敗したらどうするんだ?」想定されるリスク(納期遅延、品質問題など)を正直に列挙し、それぞれに対する具体的な対策や代替案を提示することで、計画の堅牢性を示します。
添付資料「その主張の根拠(エビデンス)はどこにある?」見積書(相見積もりが望ましい)、契約書案、取引先の会社概要・信用調査レポートなど、判断に必要な証拠資料をすべて添付します。

【この章のまとめ】

契約稟議書は、決裁者との「対話」のツールです。上記の表は、その対話を円滑に進めるための「会話のシナリオ」と言えます。各項目が「決裁者のどの問いに答えているか」を常に意識することで、独りよがりではない、説得力のある稟議書を作成することができます。

【より深く知りたい方へ】

稟議書の「型」をマスターする

本記事で紹介した構成要素を、より説得力のある文章に落とし込むための具体的な書き方や論理構成術については、以下の記事で詳しく解説しています。

  • 【例文テンプレート付】承認される稟議書の書き方|決裁者を動かす論理・心理テクニックとデータ活用術
  • 稟議書の「目的」と「背景」の書き分け方|決裁者が最初に知りたいこと
  • 稟議書の件名(タイトル)の付け方|内容が一瞬で伝わるネーミングの法則

第2章:【新規取引編】パートナー選定の妥当性とリスク管理の証明方法

新規取引の稟議書で最も重要なミッションは、「なぜ、数ある選択肢の中から、この特定の相手と取引することが会社にとって最善なのか」を、客観的な証拠に基づいて証明することです。決裁者は、未知のパートナーがもたらすリスクを最も警戒しています。その不安を払拭することが、承認への鍵となります。

2-1. なぜ「その相手」なのか?パートナー選定の正当性を示す方法

「昔からの付き合いで…」「担当者が良い人だから…」といった主観的な理由では、決裁者を納得させることはできません。パートナー選定の正当性は、以下の観点から論理的に説明する必要があります。

  • 戦略との整合性: 今回の取引が、会社の事業戦略や部門目標(例:「海外市場への販路拡大」「部品供給網の多様化によるリスク低減」)にどう貢献するのかを明確に示します。
  • 比較検討のプロセス: 複数の候補を比較検討したことを、具体的な比較表などを用いて「見える化」します。価格だけでなく、品質、納期、技術力、サポート体制といった多角的な観点で評価し、総合的に今回のパートナーが最適であると結論付けます。特に、相見積もりを添付することは、価格の妥当性を証明する上で極めて有効です。

2-2. 「信頼できる相手」だとどう証明する?デューデリジェンスの必須項目

「デューデリジェンス」とは、取引相手を調査し、その価値やリスクを適正に評価する手続きのことです。新規取引の稟議書は、このデューデリジェンスを徹底的に行ったことの「証明書」でもあります。決裁者は、以下の項目がきちんとチェックされているかを見ています。

財務の健全性

取引を継続的に行える体力があるかを確認します。倒産リスクのある会社と取引を始めてしまっては、代金未回収などの損害に繋がりかねません。

  • 確認方法: 上場企業であればIR資料、非上場企業であれば帝国データバンク東京商工リサーチといった信用調査会社のレポートを取得し、財務状況(自己資本比率、流動比率など)を確認します。

コンプライアンスと評判

法令を遵守し、社会的な信用を保っている企業かを確認します。

  • 確認方法:
  • 反社会的勢力との関係: 専門のデータベース照会や、相手方からの「確約書」の提出を求めます。これは最も重要なチェック項目の一つです。
  • 許認可: 事業に必要な許認可(建設業許可、古物商許可など)を取得しているかを確認します。
  • 評判: 業界内での評判や、過去の訴訟歴、行政処分歴などを調査します。

業務遂行能力

契約内容を確実に実行できる能力があるかを見極めます。

  • 確認方法: 品質管理体制(ISO認証の有無など)、生産能力、過去の納期遵守実績などをヒアリングや資料で確認します。必要であれば、工場視察なども行い、その結果を報告します。

管理体制(インボイス制度への対応)

現代のビジネスにおいて、事務的な管理体制のチェックは不可欠です。特に2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応は、自社の税務処理に直接影響を与えるため、契約前に必ず確認しなければならない最重要事項です。

  • IT用語解説:インボイス制度とは?
    簡単に言うと、消費税の計算を正確に行うための新しいルールです。国に認められた「適格請求書(インボイス)」でなければ、買い手側は支払った消費税分を、自社が納める消費税から差し引くこと(仕入税額控除)ができません。
  • 業務への影響: もし取引相手が「適格請求書発行事業者」として登録していない場合、自社はその取引で支払った消費税分の控除が受けられず、実質的なコスト増(消費税分の負担増)に繋がります。
  • 確認方法: 国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で、相手方の登録番号が有効かを確認します。この登録番号は、稟議書にも必ず記載すべき項目です。

これらのデューデリジェンス項目を網羅したチェックリストを作成し、稟議書に添付することで、決裁者は「このパートナー選定は、客観的かつ網羅的なプロセスを経て行われたものである」と確信し、安心して承認印を押すことができます。

【図表】新規パートナー・デューデリジェンス・チェックリスト

カテゴリチェック項目検証方法ステータス備考
財務健全性財務諸表の分析(自己資本比率など)信用調査レポート、IR資料完了主要な財務指標を記載
過去3年間の収益性・成長性同上完了増収増益基調か、安定しているか等
コンプライアンス反社会的勢力との関係の有無専門DB照会、確約書完了確約書の取得日を記載
法令遵守体制(必要な許認可等)登記情報、Webサイト完了許認可の有無を確認
業務遂行能力品質管理体制(ISO認証等)Webサイト、会社案内完了認証取得状況を確認
安定供給・納期遵守の実績業界評判、ヒアリング完了
管理体制適格請求書発行事業者登録の有無国税庁公表サイト完了登録番号を必ず記載
情報セキュリティ体制(Pマーク等)Webサイト、会社案内完了個人情報等の取り扱いがある場合に重要

2-3. 【テンプレート付】新規取引稟議書の書き方と例文

以下に、これまでのポイントを盛り込んだ、汎用的なテンプレートと具体的な例文を紹介します。

新規取引稟議書テンプレート(注釈付き)

件名: 株式会社〇〇との新規取引契約締結に関する稟議

1. 目的

【ポイント】 まず結論として、この稟議のゴールを明確に述べます。その目的が、会社全体の戦略にどう貢献するのかを紐づけることが重要です。

本稟議は、

会社の戦略目標や課題(例:主力製品の安定生産と原価低減)

を達成するため、株式会社〇〇(以下、甲)と新たに

契約の種類(例:売買基本契約)

を締結することの承認を求めるものである。

2. 背景と理由

【ポイント】 「なぜ今、この取引が必要なのか」「なぜこの会社でなければならないのか」を論理的に説明します。他社比較の結果を示すことで、選定プロセスの客観性をアピールします。

現在、当部では

現状の課題(例:主要原材料をサプライヤーS社一社に依存しており、供給遅延リスクが顕在化している)

という課題に直面している。この課題を解決するためには、

甲との取引によって得られる解決策(例:供給元を複線化し、安定した生産体制を構築する)

ことが急務である。

複数の候補(A社、B社、甲)を比較検討した結果、

品質、コスト、納期などの観点

から、甲が最も優位であると判断した。(詳細は添付の比較表を参照)

3. 取引先概要

【ポイント】 基本的な会社情報と、デューデリジェンスの主要な結果を簡潔に記載し、信頼できるパートナーであることを示します。

  • 会社名: 株式会社〇〇
  • 所在地: 〇〇県〇〇市…
  • 資本金: 〇〇円
  • 事業内容: 〇〇
  • 適格請求書発行事業者登録番号: T〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
  • その他: 信用調査レポートによれば財務状況は健全であり、反社チェックにおいても問題ないことを確認済み。(詳細は添付資料参照)

4. 契約内容の概要

【ポイント】 契約の骨子となる情報を正確に記載します。金額は見積書と完全に一致させます。

  • 契約の種類:業務委託契約、売買契約など
  • 契約期間: 〇〇年〇月〇日 ~ 〇〇年〇月〇日
  • 契約金額:初期費用〇〇円、月額〇〇円、年間総額〇〇円など
  • 支払条件:月末締め、翌月末払いなど
  • 主要な業務・納品物:具体的な業務内容や納品物をリストアップ

5. 期待される効果

【ポイント】 メリットを可能な限り数値で示します。決裁者はこの投資対効果(ROI)を最も重視します。

  • 定量的効果:例:年間約250万円の原材料費削減。供給元の複線化による生産停止リスクの低減。
  • 定性的効果:例:価格交渉力の向上。BCP(事業継続計画)の強化。

6. 想定されるリスクと対策

【ポイント】 考えうるリスクを正直に列挙し、それぞれに対する具体的な対策を示すことで、計画の堅牢性と起案者のリスク管理能力をアピールします。

  • リスク①:例:新規取引先への切り替えに伴う、初期の品質不安定化
  • 対策①:例:契約書に詳細な品質保証条項と検収基準を明記。最初の3ヶ月間は受入検査を強化する。
  • リスク②:例:情報伝達のミスによる仕様誤認
  • 対策②:例:週次の定例会議を設定し、両社の担当者間で密なコミュニケーションを行う。

7. 添付資料

  1. 株式会社〇〇 会社概要・信用調査レポート
  2. 見積書(3社比較表含む)
  3. 契約書(案)
  4. デューデリジェンス・チェックリスト

例文:SaaSツール導入の稟議

件名: 営業支援システム「Sales-X」導入による営業プロセス効率化に関する稟議

1. 目的

営業部門の顧客情報管理を標準化・効率化し、データに基づいた営業戦略を推進するため、GHIソリューションズ社のクラウド型営業支援システム(SaaS)「Sales-X」を導入することの承認を求める。

2. 背景と理由

現在、顧客情報は各営業担当者が個別のExcelファイルで管理しており、以下の問題が発生している。

  • 情報の属人化: 担当者不在時に、他のメンバーが顧客対応を迅速に行えない。
  • データ不整合: 報告書作成時に手作業で集計するため、ミスが発生しやすく、正確な営業実績の把握が困難。
  • 機会損失: 上記の結果、対応の遅れやミスの発生により、年間推定〇〇円の機会損失が発生している。

競合3社のSaaS(A、B、Sales-X)を比較した結果、「Sales-X」は当社の会計システムとのAPI連携機能が最も充実しており、導入後のサポート体制も評価が高い。(詳細は添付の機能比較表を参照)

IT用語解説:SaaS、APIとは?

  • SaaS (Software as a Service): インターネット経由で利用するソフトウェアのこと。自社でサーバーを持つ必要がなく、手軽に導入・利用できるのが特徴です。
  • API (Application Programming Interface): 異なるソフトウェア同士を連携させるための「つなぎ口」のこと。API連携により、例えば営業システムに入力した売上データを、自動で会計システムに反映させることが可能になり、二重入力の手間を省けます。

5. 期待される効果

  • 定量的効果:
  • 営業担当者の報告業務時間を月間平均10時間/人削減(年間〇〇万円の人件費削減効果)。
  • 休眠顧客へのアプローチ自動化により、年間売上5%向上を見込む。
  • 定性的効果:
  • 顧客情報の一元管理による、組織的な営業力の底上げ。
  • 営業ノウハウの属人化解消とナレッジ共有の促進。

【より深く知りたい方へ】

IT投資・システム導入に特化した稟議の書き方

本例文のようなIT投資に関する稟議は、専門用語も多く、決裁者の理解を得るのが難しい場合があります。IT投資に特化した計画書の書き方や注意点については、以下の記事でより詳しく解説しています。

  • IT投資・システム導入の稟議を通すための完全ガイド|失敗しない計画書の書き方

第3章:【契約更新編】実績評価と継続の合理性をいかに示すか?

契約更新の稟議は、新規取引とは全く異なるアプローチが求められます。ここでは、「これまでの取引は成功だったのか?」という過去の実績評価と、「なぜパートナーを変更せず、継続することが会社にとって最善なのか?」という未来への合理性の2点を証明することがミッションとなります。

3-1. 「継続が最善」だとどう証明する?実績評価と更新判断フレームワーク

たとえ契約書に「自動更新条項」があったとしても、定期的に稟議にかけて取引内容を見直すことは、ガバナンス上非常に重要です。決裁者は、「前例踏襲」で安易に契約が継続されることを嫌います。

ステップ1:過去の実績を客観的データで評価する

更新の是非を判断する最初のステップは、過去の契約期間におけるパフォーマンスを、主観ではなく客観的なデータやKPI(重要業績評価指標)に基づいて評価することです。

  • 良い例:
  • 「IT保守契約において、サーバー稼働率99.98%(SLA目標: 99.9%)を達成した」
  • 「業務委託において、処理ミス率を目標の0.1%以下である0.05%に抑制できた」
  • 「サプライヤー契約において、納期遵守率99.5%を維持した」
  • 悪い例:
  • 「特に問題なくやってもらえた」
  • 「対応が良かった」

これらの実績データは、パートナーが契約上の義務を果たし、期待された価値を提供したことの何よりの証拠となります。

ステップ2:契約継続の合理性を論証する

良好な実績を示した上で、なぜ「契約を更新する」という選択が最善なのかを論理的に説明します。ここでは、「継続するメリット」と「パートナーを変更するデメリット(スイッチングコスト)」を天秤にかけて提示するのが効果的です。

  • 継続のメリット: 業務の安定性、長年の取引で培われたノウハウの活用、コミュニケーションコストの低さなど。
  • 変更のデメリット(スイッチングコスト): 新規パートナーの探索・選定コスト、導入・研修コスト、業務プロセスの変更に伴う一時的な生産性低下、データ移行のリスクなど。

これらの要素を比較し、「現時点では、契約を更新することが最も合理的かつ低リスクな選択である」と結論付けます。

【図表】契約更新評価マトリクス

このマトリクスは、評価と判断を体系的に整理し、決裁者に明確な根拠を示すための強力なツールです。

評価基準前契約期間の目標/SLA前契約期間の実績 (データ)次契約期間の目標正当化/コメント
品質成果物のエラー率 0.5%未満エラー率 0.3%エラー率 0.3%未満を維持安定した品質を維持しており、継続により品質の安定が見込める。
コスト年間費用 1,200万円1,200万円(予算内)年間費用 1,200万円競合他社見積もり(1,300万円)と比較し、コスト優位性を維持。
納期納期遵守率 99%以上納期遵守率 99.7%納期遵守率 99.5%以上常に納期目標を達成。サプライチェーンの信頼性が高い。
サポート問い合わせ応答時間 4時間以内平均応答時間 2.5時間問い合わせ応答時間 4時間以内迅速かつ的確なサポート体制が確立されており、問題解決が早い。
総合評価A (優)結論:契約更新を推奨。 全項目で目標を達成し、コスト競争力も有する。パートナー変更に伴うスイッチングコスト(推定〇〇万円)を考慮すると、現行契約の更新が最も合理的。

3-2. 値上げ・条件変更を求められたら?交渉を有利に進める稟議の書き方

契約更新時に、相手方から価格改定(値上げ)や業務範囲の変更といった、自社に不利な条件変更を求められるケースは少なくありません。この場合、稟議のハードルは格段に上がります。決裁者は「なぜ、その変更を受け入れなければならないのか」について、より厳格な説明を求めます。

ポイント1:変更点を明確に分離して「見える化」する

稟議本文中に変更点を紛れ込ませてはいけません。決裁者が見落とすことなく、何がどう変わるのかを正確に理解できるよう、新旧の条件を並記した比較表を用いるのが鉄則です。

【図表】新旧契約条件 比較表

項目現行契約更新後契約(案)変更理由
契約金額月額 80万円月額 85万円①2024年4月からの法改正に伴うインボイス制度対応業務の追加、②最低賃金の上昇(前年比4%)を反映するため。(詳細は後述)
業務範囲請求書発行、入金消込請求書発行、入金消込、適格請求書番号の照合・管理上記①の法改正対応のため、業務範囲の明確化と追加を行う。

ポイント2:各変更点の妥当性を客観的事実で証明する

すべての変更点について、その理由を個別に、かつ具体的に説明する必要があります。

  • 値上げの正当化: 単に「コストが上がったから」では通用しません。「市場全体のインフレ率(〇%)」「原材料費の高騰(〇%)」「最低賃金の上昇」といった客観的な外部要因や、「追加された新機能」「強化されたサービスレベル(SLA)」といった提供価値の向上に紐づけて、値上げ幅の妥当性を証明します。相手方から提示された根拠資料も、そのまま添付しましょう。
  • 業務範囲変更の正当化: なぜ業務範囲を変更する必要があるのかを、自社の事業戦略や新たな業務要件と関連付けて説明します。「新規事業の立ち上げに伴い、委託業務に〇〇を追加する必要が生じた」といった具体的な理由が求められます。

条件変更を伴う稟議は、実質的に「一部新規契約」の要素を含みます。変更される部分については、新規取引稟議書と同様のレベルで、その必要性と妥当性をゼロベースで証明する姿勢が求められます。

3-3. 【テンプレート付】契約更新稟議書の書き方と例文

契約更新稟議書テンプレート(注釈付き)

件名: 株式会社〇〇との

契約名

契約の更新に関する稟議

1. 目的

現在締結中の株式会社〇〇との

契約名

契約(契約期間満了日:〇〇年〇月〇日)について、下記内容にて契約を更新することの承認を求める。

2. 契約更新の理由と背景

2-1. 過去契約期間における実績評価

【ポイント】 まず、過去の実績を具体的なデータで示し、このパートナーが信頼に値することを証明します。

前契約期間(〇〇年〇月〇日~)において、株式会社〇〇は以下の通り、契約上の義務を良好に履行し、当社の事業に貢献した。

  • 品質面:例:サーバー稼働率99.99
  • コスト面:例:予算内で〇〇の成果を達成
  • 納期面:例:納期遅延0件

    (詳細は添付の「契約更新評価マトリクス」を参照)

2-2. 契約更新の必要性

【ポイント】 継続することのメリットと、変更することのデメリット(スイッチングコスト)を比較し、更新の合理性を論証します。

上記実績に加え、本契約を更新することにより、

業務の継続性確保、ノウハウの維持

等のメリットがある。仮に他社へ切り替えた場合、

新規選定コスト、導入・研修コスト

など約〇〇万円のスイッチングコストが発生する見込みである。したがって、現行契約を更新することが最も合理的であると判断する。

3. 更新後の契約内容

  • 契約期間: 〇〇年〇月〇日 ~ 〇〇年〇月〇日
  • 契約金額:年間〇〇円など
  • 支払条件:月末締め、翌月末払いなど
  • 主要な業務内容: 現行契約に同じ

【条件変更がある場合】

4. 現行契約からの変更点と理由

【ポイント】 変更点を表形式で明確に示し、それぞれの変更理由を客観的な事実に基づいて説明します。

本更新にあたり、相手方より以下の通り契約条件の変更要請があった。交渉の結果、下記内容にて合意したため、承認を求める。

項目現行契約更新後契約(案)変更理由
契約金額年間1,000万円年間1,050万円市場のインフレ率(前年比3%)および、新規追加機能(〇〇)の開発コストを反映したものであるとの説明を受けている。値上げ幅は妥当な範囲と判断する。(詳細は添付の相手方提出資料を参照)

5. 添付資料

  1. 契約更新評価マトリクス
  2. 現行契約書(写し)
  3. 更新契約書(案)
  4. 【条件変更がある場合】変更後の見積書および相手方からの説明資料

例文:IT保守契約の標準更新

件名: 株式会社テックサポートとのサーバー保守契約の更新に関する稟議

2-1. 過去契約期間における実績評価

前契約期間において、株式会社テックサポートは、サーバー稼働率99.99%(SLA目標99.9%)、障害発生時の一次対応時間平均30分(SLA目標1時間)と、極めて高いパフォーマンスを維持した。

2-2. 契約更新の必要性

同社の迅速なサポートにより、過去1年間、サービス停止に至る重大な障害は発生していない。当社の事業継続性の観点から、同社との安定した関係を維持することが不可欠である。スイッチングコストは約〇〇万円と試算される。

3. 更新後の契約内容

  • 契約期間: 2025年4月1日 ~ 2026年3月31日
  • 契約金額: 年間360万円(現行契約と同額)
  • 業務内容: 現行契約に同じ

第4章:承認率をさらに高めるための注意点と+αのテクニック

優れた契約稟議書を作成するための基本はこれまで解説した通りですが、ここでは承認率をもう一段階引き上げるための、より実践的な注意点とテクニックを紹介します。これらは、一般的な稟議書作成にも通じる重要なポイントです。

テクニック具体的なアクション決裁者への効果
① 決裁者の視点に立つ提案を「投資」と捉え、ビジネス上の価値(ROI)を分かりやすく説明する。専門用語は避ける。「この提案は、会社にとって儲かる話だ」と直感的に理解できる。
② 結論ファーストを徹底するPREP法(結論→理由→具体例→結論)を用い、最初に「何を承認してほしいか」を明確に述べる。多忙な中でも、短時間で要点を把握できる。
③ リスクを正直に開示する考えられるリスクと、それに対する具体的な対策をセットで提示する。「計画の穴まで考えているな」と、起案者への信頼感が増す。
④ 戦略的に「根回し」する提出前に主要な関係者に内容を説明し、意見を聞いておく。「聞いていない」という反発を防ぎ、承認の場で味方になってもらえる。
⑤ 添付資料を見やすく整理する本文は要点に絞り、詳細データは添付資料へ。通し番号を振り、本文と連携させる。判断に必要な根拠を、ストレスなく確認できる。

【この章のまとめ】

承認率を高めるためのテクニックは、一言で言えば「決裁者への徹底的な配慮」です。決裁者の時間を奪わないよう結論から話し、判断に必要な情報を整理して提供し、抱くであろう不安に先回りして答え、事前に相談して驚かせない。この配慮の積み重ねが、最終的な承認へと繋がります。

【より深く知りたい方へ】

説得の技術を磨き上げる

ここで紹介したテクニックの具体的な実践方法や、決裁者の心理を動かすためのより高度なアプローチについては、以下の記事で詳しく解説しています。

  • 決裁者を納得させる「費用対効果」の示し方|ROIの計算方法とアピールのコツ
  • 稟議書でリスクをどう書くか?決裁者の不安を払拭する「対策」の示し方
  • 稟議を早く通すための「根回し」の技術|事前交渉を成功させる5つのステップ
  • 稟議書の説得力が倍増する「添付資料」の作り方|相見積書から市場調査データまで

第5章:契約稟議の「失敗」から学ぶ|差し戻し・却下を防ぐプロセス改善

完璧な準備をしても、稟議が承認されないケースは起こり得ます。しかし、その「失敗」は、貴重な学びの機会です。稟議の失敗には大きく分けて2種類あり、その原因と対策は全く異なります。

失敗の種類定義主な原因起案者の対応策組織としての改善策
差し戻し手続き上の失敗
提案内容はOKだが、書類に不備がある状態。
・記入漏れ、誤記
・添付資料の不足
・承認ルートの間違い
指摘された箇所を正確に修正し、速やかに再申請する。・マニュアルの整備
・テンプレートの標準化
・入力チェック機能を持つワークフローシステムの導入
却下戦略的な失敗
提案内容そのものが認められない状態。
・目的、必要性の説明不足
・費用対効果が不明確
・リスク対策が不十分
・会社方針との不一致
却下理由を詳細に確認し、提案を根本から見直す。必要であれば、上位者と戦略について再協議する。・部署目標と全社戦略の整合性確認
・決裁者との定期的なコミュニケーション機会の設定

【この章のまとめ】

「差し戻し」が頻発する場合、それは「ルールの問題」であり、マニュアル整備やシステム導入で解決できます。一方で、「却下」が続く場合は、より深刻な「戦略のズレ」を示唆しています。自分の提案がなぜ却下されたのかを分析することは、会社の戦略や決裁者の考えを理解する絶好の機会です。失敗を恐れず、学びの糧とすることが重要です。

【より深く知りたい方へ】

失敗をチャンスに変える

差し戻しや却下は、正しく対応すれば、むしろ自身の評価を高めるチャンスになります。具体的な対応方法や、逆境を乗り越えるための交渉術を学びましょう。

  • 稟議書が差し戻された時の正しい対応|修正・再提出で評価を上げる方法
  • 赤字部門・予算未達でも稟議を通すための逆転交渉術

契約稟議に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 新規取引で、相見積もりが取れない場合はどうすればよいですか?

A1. 相手方が特許技術を持っているなど、代替のいない「一社購買」となるケースですね。その場合は、「なぜその一社でなければならないのか」という理由を、より詳細に説明する必要があります。「市場調査の結果、同様の技術を持つ企業は他に存在しないことを確認した」といった客観的な事実や、「価格交渉の経緯(複数回の交渉で〇%の引き下げに成功したなど)」を示すことで、選定プロセスの妥当性をアピールしましょう。

Q2. 契約更新時に、相手方から大幅な値上げを要求されました。どう対応すればよいですか?

A2. まず、値上げの根拠となる客観的なデータ(市場価格の推移、人件費や原材料費の高騰を示すデータなど)の提出を相手方に求めます。その上で、値上げ幅の妥当性を冷静に評価します。もし妥当性が低いと判断すれば、他社への切り替え(スイッチングコストを含む)を視野に入れながら、粘り強く価格交渉を行います。その交渉経緯自体が、稟議書における重要な説得材料となります。

Q3. 秘密保持契約(NDA)を締結する際にも、稟議は必要ですか?

A3. 必要です。秘密保持契約は金銭の発生しないケースが多いですが、情報漏洩時の損害賠償リスクなど、法務上の重要なリスクを伴います。どのような情報を、どの範囲で、どれくらいの期間秘密にするのかといった契約内容は、法務部門のチェックが不可欠です。安易に考えず、必ず正式な稟議プロセスにかけましょう。

Q4. 契約書のレビューは、法務部門に任せきりで良いのでしょうか?

A4. いいえ、危険です。法務部門は法律の専門家ですが、取引の実態(ビジネス上の背景やリスク)を最も理解しているのは、起案者であるあなた自身です。法務部門は契約書の「法的リスク」をチェックしますが、あなたが「ビジネス上のリスク」(例:「この納期では現実的に不可能だ」「この仕様では求めている品質にならない」など)を伝えなければ、実態にそぐわない契約書になってしまう可能性があります。必ず法務部門と連携し、ビジネスと法務の両面からレビューを行いましょう。

まとめ:優れた契約稟議は、企業の成長を加速させる

本記事では、新規取引と契約更新という二つの主要なシーンに焦点を当て、承認される契約稟議書の書き方を、必須項目、具体的な例文、そして決裁者の心理を踏まえたテクニックに至るまで、網羅的に解説してきました。

優れた契約稟議書とは、単にハンコをもらうための書類ではありません。それは、会社の未来を守り、成長を加速させるための「事業計画書」であり、「リスク管理報告書」であり、そして「投資提案書」でもあります。

  • 新規取引では、客観的なデューデリジェンスを通じて未知のリスクを管理し、会社の成長に貢献する優良なパートナーシップを築くための第一歩となります。
  • 契約更新では、過去の実績を冷静に評価し、惰性による継続を避けることで、取引関係を常に最適化し、コストパフォーマンスを最大化する機会となります。

この記事で紹介したフレームワークやチェックリストを活用し、決裁者の視点に立った論理的な文書を作成するスキルは、あなたのビジネスパーソンとしての価値を大きく高めるはずです。

しかし、個人のスキルアップだけでは、稟議プロセスにまつわる根本的な課題は解決しません。「そもそも稟議書の作成に時間がかかりすぎる」「承認がどこで止まっているか分からず、ビジネスのスピードが落ちる」といった悩みは、多くの企業が抱える共通の課題です。

こうした組織全体の課題を解決するには、個人の努力に加えて、業務プロセスそのものを変革する「仕組み」が不可欠です。Jugaad(ジュガール)ワークフローは、AIとBIを搭載し、稟議書の作成から承認、保管、そしてデータ活用まで、企業の意思決定プロセス全体を最適化するソリューションです。AIによる入力支援で作成の手間を削減し、柔軟な承認フロー設定でプロセスを自動化。蓄積された稟議データは、経営判断に活かせる貴重な資産へと変わります。個人のスキルと組織の仕組み、両輪で稟議プロセスを改革し、企業の成長をさらに加速させませんか。

引用・参考文献

  1. 経済産業省. (n.d.). 標準契約書・利用規約. Retrieved 2025-08-14, from https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/keiyaku_guidelines/
  2. 国税庁. (n.d.). インボイス制度 特設サイト. Retrieved 2025-08-14, from https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm
  3. 中小企業庁. (n.d.). 中小企業・小規模事業者のための経営相談窓口「ミラサポ」. Retrieved 2025-08-14, from https://www.mirasapo.jp/
  4. 東京商工リサーチ. (n.d.). 企業情報・与信管理サービス. Retrieved 2025-08-14, from https://www.tsr-net.co.jp/
  5. 帝国データバンク. (n.d.). 企業情報サービス | TDB. Retrieved 2025-08-14, from https://www.tdb.co.jp/

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記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。