ワークフローシステム講座

日々の業務プロセスに課題を感じている方へ向けて、ワークフローシステムの選び方から業務改善の確かなヒントまで、完全網羅でお伝えします。

働き方改革推進支援助成金とは?ワークフロー導入で活用するためのポイント【2025年版】

目次

この記事のポイント

  • 【2025年版】働き方改革推進支援助成金の全体像と、予算・制度拡充の戦略的意味合い
  • 「ワークフローシステム」の導入を、助成対象として論理的に位置づける方法
  • 事業実施計画書に盛り込むべき、審査官を納得させるための「物語」の作り方
  • 助成金の上限額を大幅に引き上げる「賃上げ加算」の具体的な活用法
  • 申請を確実に成功させるための、社労士との効果的な連携ポイント

1. はじめに:なぜ今、働き方改革推進支援助成金なのか?

「決裁後の文書が『野良ファイル』と化していないか?」「内部統制は形骸化していないか?」。総務部門や内部監査部門の責任者として、日々、このような課題に直面していることと存じます。これらの課題は、単に非効率を生むだけでなく、情報漏洩や法令違反といった深刻なリスクの温床となります。

この根深い課題を解決し、生産性向上と強固な内部統制を同時に実現するための強力な手段が、「働き方改革推進支援助成金」です。特に2025年度は、制度が大きく拡充され、単なるコスト削減ツールから、より戦略的な経営改革を後押しするパートナーへと進化しました。

本稿は、この助成金をワークフローシステム導入と紐づけ、いかにして活用すべきかを、貴社の立場から徹底的に解説します。この記事で紹介する考え方は、企業の重要な情報資産を統制するための土台となる「文書ライフサイクル管理とは?ワークフローで実現する堅牢な内部統制システム構築ガイド」と密接に連携するものです。ぜひ、あわせてご参照ください。

2. 第1章:【2025年版】助成金制度の全体像と戦略的活用法

2.1 制度の戦略的目的と2025年度の主要な拡充点

働き方改革推進支援助成金とは、厚生労働省が管轄する、中小企業の生産性向上を支援するための制度です。その目的は、生産性向上を「手段」として、長時間労働の削減や有給休暇の取得促進といった「労働環境の改善」を「目的」に結びつける企業を重点的に支援することにあります。

特に、2025年度(令和7年度)は、92億円という大規模な予算が計上され、政府の強い意志が示されています。この拡充の背景には、単なる法規制の遵守(コンプライアンス)を促す段階から、より積極的な「生産性向上」と「人材への投資(賃上げ)」を同時に行う企業を後押しする戦略へのシフトがあります。

主な拡充点は以下の2点です。

  • 賃上げ加算の強化: 従来の賃金引上げ率3%・5%に加え、新たに7%以上の賃上げを行った場合の助成上限額の加算が新設・強化されました。
  • 設備投資要件の緩和: 恒常的な長時間労働が認められる企業に対し、生産性向上に資する設備投資の助成対象要件が一部緩和されます。

これらの変更は、助成金が単なるIT投資の補助金ではなく、企業価値向上を目的とした包括的な経営改革プロジェクトへの共同出資制度として機能することを示唆しています。申請の締め切りは2025年11月28日とされていますが、予算には限りがあるため、早期の計画策定と申請が成功の鍵を握ります。

2.2 個別企業向け助成金コースの選択ガイド

本助成金は、企業の目的や課題に応じて複数のコースに分かれています。ワークフローシステム導入を検討する企業が主に活用するのは、以下の3つのコースです。

特徴労働時間短縮・年休促進支援コース勤務間インターバル導入コース業種別課題対応コース
主な目的時間外労働の削減、年次有給休暇・特別休暇の取得促進勤務終了から翌日始業までの休息時間の確保建設・運輸・医療等の業界特有の長時間労働是正
助成上限額(基本)最大150万円最大120万円最大250万円以上
主要な成果目標36協定の時間外労働時間数の短縮、計画的付与制度の導入など9時間以上のインターバル制度の新規導入・拡充週休2日制の推進(建設業)、勤務間インターバル導入(運輸業)など
最適な企業汎用的な業務プロセスの改善を目指す企業交代制勤務や夜間勤務が多い企業建設業、運輸業、病院・医療業、砂糖製造業

2.3 申請の前提となる「3つの必須要件」

いずれのコースを選択するにせよ、全ての企業が満たさなければならない基本的な申請資格が存在します。これらの要件は、いわば「入場券」であり、一つでも欠けていると申請自体が受理されません。

  1. 労働者災害補償保険の適用事業主であること: 労働者を一人でも雇用しているほとんどの企業が該当する基本的な要件です。
  2. 年5日の年次有給休暇取得に向けた就業規則の整備: 労働基準法の改正により義務化された「年5日の年休取得」を確実に実施できるよう、就業規則等にその旨を定めている必要があります。
  3. 成果目標設定の前提条件を満たしていること: 申請時に選択する「成果目標」には、それぞれ前提条件が設定されています。例えば、時間外労働時間数を短縮する目標には、有効な36協定が労働基準監督署に届け出られている必要があります。

この章のまとめ

  • 2025年度は制度拡充: 助成金は「IT投資」と「賃上げ」を同時に行う企業を後押しする制度へと進化しました。
  • 汎用的な活用法: ワークフロー導入を目的とする場合、最も汎用性が高く、多くの企業に適用できる「労働時間短縮・年休促進支援コース」が第一候補となります。
  • 早期申請が重要: 予算には限りがあるため、申請締め切りの2025年11月28日よりも前倒しで計画を進めることが成功の鍵です。

3. 第2章:中核戦略:ワークフローシステム導入を助成対象として認めさせる論理構築

3.1 決定的な接点:「労働能率の増進」という名目での申請

助成金のガイドラインに「ワークフローシステム」という言葉は明記されていません。しかし、その導入費用を助成対象として認めさせることは可能です。その鍵となるのが、支給対象となる取組の一つである「労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新」という項目です。

この項目は、「労働者が直接行う業務の負担を軽減するもの」や「生産性の向上によって労働時間の縮減に資するもの」と定義されており、特定の用途に限定されない、より広範な生産性向上ツールを包含する「受け皿」として機能します。

ワークフローシステムは、まさにこの定義に合致するツールです。例えば、経費精算や稟議、休暇申請といった、これまで紙ベースで行われていた非効率な手作業を電子化・自動化することで、従業員の業務負担を劇的に軽減し、生産性を飛躍的に向上させます。その結果として生まれる時間的余裕が、労働時間の短縮に直結するという強力な論理的根拠が生まれます。

したがって、申請書では「ワークフローシステム」という製品名を前面に出すのではなく、「紙ベースの申請・承認業務を電子化・自動化し、労働能率を増進させるための業務システム」として位置づけ、その導入がなぜ「労働能率の増進」に寄与するのかを具体的に説明することが極めて重要です。

3.2 システム導入と「成果目標」達成のストーリー構築

助成金を受給するためには、単にシステムを導入するだけでなく、その導入を通じて具体的な労働条件の改善目標、すなわち「成果目標」を達成しなければなりません。申請書は、この「手段」(システム導入)と「目的」(労働環境改善)を結びつける、一貫性のある説得力のある物語(ナラティブ)でなければなりません。

審査官を納得させるストーリーは、以下の4つの要素で構成されます。

  • 課題(Problem): 例)「当社の稟議プロセスは全て紙ベースであり、承認までに平均5営業日を要している。このため、管理部門では月間20時間の残業が発生している。」
  • 解決策(Solution): 例)「この課題を解決するため、本助成金を活用し、申請から承認までを電子化するワークフローシステムを導入する。」
  • 効果(Result): 例)「システム導入により、稟議の承認期間は平均1日に短縮され、管理部門の関連業務時間は月あたり12時間削減される見込みである。」
  • 成果目標達成(Achievement): 例)「この業務時間削減により、『時間外労働時間数を月60時間以下に短縮する』という成果目標を達成する。」

この一連の流れを、具体的な数値や事実に基づいて記述することが、承認を勝ち取るための絶対条件です。

3.3 事業計画の策定:対象経費と対象外経費の峻別

事業計画を立てる上で、どの費用が助成対象となり、どの費用が対象外となるのかを正確に把握することは、資金計画の根幹をなします。

経費カテゴリ対象となる経費(例)対象外となる経費(例)
ソフトウェアワークフローシステムの購入費用、初期ライセンス費用プロジェクト期間終了後の月額利用料(サブスクリプション費用)
ハードウェア(原則として対象外)パソコン、スマートフォン、タブレット(原則として対象外と明記)
導入関連サービスベンダーによる初期設定費用、導入コンサルティング費用インターネット回線利用料
人件費・研修費従業員に対する新システムの使用方法に関する研修費用(外部講師への謝礼など)プロジェクトに従事する自社従業員の給与
専門家への報酬社会保険労務士やITコンサルタントへの相談・指導費用(特になし)

この章のまとめ

  • 「労働能率の増進」で申請: ワークフローシステムの導入は「労働能率の増進に資する設備」として申請する。
  • 「物語」で説得力を: 「課題→解決策→効果→成果目標達成」という論理的な物語を具体的な数値で描く。
  • 経費は厳格に: 汎用的な備品やランニングコストは対象外。購入費用や初期設定費用など、対象となる経費を正確に把握する。

4. 第3章:助成金獲得を最大化し、承認を確実にするための実践ガイド

4.1 計画から受給まで:4ステップ申請プロセスの完全解説

助成金の申請から受給までの流れは、大きく4つのステップに分かれています。

ステップ名称時期と内容注意点
1交付申請事業開始前。「このような計画で働き方改革に取り組みます」と申請する最初のステップ。交付決定前の契約や発注は、全て助成対象外。期限は2025年11月28日(金)必着
2事業の実施交付決定通知書を受け取ってから原則2026年1月30日(金)まで。計画書通りにシステム導入などを実行。契約書、請求書、振込記録など、全ての証拠書類を厳重に保管する。
3支給申請事業実施期間が終了した日から30日以内、または2026年2月6日(金)のいずれか早い日まで。事業実施結果報告書と証拠書類を提出する。
4審査・支給決定支給申請後、数ヶ月かかる場合あり。審査が通れば、指定口座に助成金が振り込まれる。

4.2 承認を勝ち取る事業実施計画書の作成術

事業実施計画書は、申請の成否を分ける最も重要な書類です。審査官が重視するのは、論理的で、定量的な改善ストーリーです。

成功する計画書は、以下の流れで記述します。

  • 現状と課題: 「当社の経費精算は5種類の紙帳票を使用しており、承認まで平均7日間を要している。このため、経理担当者には毎月平均15時間の時間外労働が発生している。」といった具体的な数値を用いて問題を明確に描写します。
  • 提案する解決策: 「本助成金を活用し、ワークフローシステムを導入することで、これら5種類の帳票の申請・承認プロセスを完全に電子化する。」と簡潔に述べます。
  • 期待される効果: 「これにより、承認プロセスは平均1日に短縮され、経理担当者の関連業務時間は月あたり12時間削減される見込みである。」と定量的に予測します。

この「現状の課題 → 解決策 → 期待される効果」という論理的な連鎖を、誰が読んでも納得できるように記述することが、承認への最短ルートです。

4.3 財務リターンを最大化する:賃上げ加算の戦略的活用

賃上げ加算制度は、助成金の上限額を大幅に引き上げることができる強力なツールです。特に2025年度は7%以上の加算枠が新設されました。

この加算額は、賃上げ率、対象人数、企業の従業員規模によって決まります。

  • 常時使用する労働者数が30人以下の事業主の場合、加算額が2倍になる。
賃上げ率対象人数労働者数30人超の企業労働者数30人以下の企業(加算額2倍)
3%以上1~3人6万円12万円
4~6人12万円24万円
7~10人20万円40万円
11~30人1人あたり2万円(上限60万円)1人あたり4万円(上限120万円)
5%以上1~3人24万円48万円
4~6人48万円96万円
7~10人80万円160万円
11~30人1人あたり8万円(上限240万円)1人あたり16万円(上限480万円)
7%以上1~3人36万円72万円
4~6人72万円144万円
7~10人120万円240万円
11~30人1人あたり12万円(上限360万円)1人あたり24万円(上限720万円)

出典: 厚生労働省の情報を基に作成

この章のまとめ

  • 4ステップを厳守: 交付申請前の発注は厳禁。期限を正確に守り、証拠書類を厳重に保管する。
  • 計画書は物語: 審査官に「この会社は本気で課題を解決しようとしている」と納得させる、論理的な計画書を作成する。
  • 賃上げ加算をフル活用: 賃上げはIT投資の原資になり得る。従業員数30人以下の企業は特に大きな恩恵を得られるため、積極的に活用を検討する。

5. 第4章:実例から学ぶ成功の法則:採択事例の徹底分析

5.1 ワークフローとプロセス自動化の成功事例

ワークフローシステムそのものの導入事例は限定的ですが、その機能や目的に酷似した「業務プロセス改善システム」の導入事例は、申請ロジックを学ぶ上で極めて有益です。

企業・団体課題解決策成果
社会福祉法人日報作成や請求業務の二重作業利用者情報管理システムの導入二重入力の手間が完全に排除され、大幅な労働時間削減を実現。
建設業異なる設計ソフトによるワークフローの停滞属人化統合設計ソフトウェアの導入データ変換作業が不要となり、業務プロセスが円滑化。特別休暇の取得促進に繋がった。
病院フィルム現像・運搬といった手作業による残業デジタル画像診断システムの導入フィルム運搬が不要に。月あたり約4時間の作業時間を削減し、時間外労働の短縮に貢献。
医療機関会計・レセプト請求業務が手作業中心で残業最新の電子カルテシステムへの切り替え患者一人の対応時間が10~15分短縮。日々の締め作業が50分から1分へと劇的に改善。

これらの事例から学べるのは、「特定の、時間のかかる、手作業によるタスク」を明確に特定し、テクノロジーでそれを自動化・効率化することで、定量的な時間削減を証明するという論理です。ワークフローシステムが紙ベースの申請・承認業務を自動化する効果と全く同じ構造です。

5.2 より広範な効率化投資に学ぶ「根底にある論理」

これらの成功事例に共通する本質的な法則は、申請の成功がテクノロジーの先進性にあるのではなく、「従業員の具体的な苦痛(ペインポイント)を解消する物語」を語れるかどうかにある、ということです。非効率な業務は、従業員に残業を強いる「働きにくさ」の直接的な原因です。ワークフローシステムの申請においては、社内で最も不満の声が大きいプロセスをターゲットに定め、その「苦痛」を解消する特効薬としてシステムを位置づけることが、承認を得るための最も効果的な戦略です。

この章のまとめ

  • 非効率な「ペインポイント」を特定: 業務プロセスのどこで、どのような手作業が、どれだけの時間を奪っているかを明確にする。
  • 「二重入力」「情報の分断」がキーワード: 採択事例に共通するのは、非効率な手作業をテクノロジーで撲滅している点。
  • 時間削減を定量的に示す: 「年間○○時間」や「月間○○時間」など、具体的な数値で改善効果を証明する。

6. 第5章:専門家の役割:社会保険労務士との連携が成功を左右する

6.1 専門家による支援が不可欠な成功要因である理由

本助成金の申請プロセスは複雑かつ厳格であり、専門知識なしで完璧に遂行することは容易ではありません。社労士への依頼は、プロジェクトの成功確率を高めるための戦略的な投資です。

専門家への依頼が成功確率を高める理由依頼しない場合の潜在的リスク
コンプライアンスとリスク回避労務関連帳票の不備による申請不受理
時間と労力の劇的な削減申請準備に忙殺され、本業が停滞する
成功確率と受給額の最大化説得力のある事業計画が作成できず、不採択となる
加算要件の見落とし防止賃上げ加算など、見落としがちな加算要件により受給額が減少する

6.2 最適なパートナー(社会保険労務士)の選び方

全ての社労士が助成金申請に精通しているわけではありません。以下のポイントを慎重に確認し、最適なパートナーを見極めましょう。

  • 助成金申請における実績の確認: 「働き方改革推進支援助成金」に関する、具体的で検証可能な実績を持つ事務所を選びましょう。
  • 明確な料金体系の確認: 助成金が支給された場合にのみ報酬が発生する「完全成功報酬型」を採用している事務所が望ましいです。
  • サポート範囲の広さと深さ: 書類作成だけでなく、戦略的なアドバイスや、申請後の労働局からの問い合わせ対応まで一貫したサポートを提供してくれるかを確認しましょう。

この章のまとめ

  • 社労士は戦略的投資: 複雑な手続きやコンプライアンスリスクを回避し、時間と労力を節約するための賢明な投資である。
  • 実績と料金体系を重視: 成功報酬型で、働き方改革推進支援助成金の具体的な実績を持つ事務所を選ぶ。
  • パートナーシップを築く: 長期的な視点で、企業の状況を親身にヒアリングしてくれる信頼できる相手を探す。

7. 第6章:働き方改革を「次」のステージへ導くAIとの協業

7.1 働き方改革は「労働時間短縮」から「創造性の最大化」へ

働き方改革の本質は、単に労働時間を短縮することではありません。「業務の属人化」や「情報の断絶」といった非効率をなくし、それによって生み出された時間を、人間でなければできない創造的・戦略的な仕事に振り向けることにあります。

この変革を加速させるのが、AIとワークフローの連携です。AIは、これまで人間に依存していた定型的な「作業」や「判断」を代替し、人間をルーティンワークから解放します。これは、バックオフィスをコストセンターから、企業の成長を牽引する「戦略部門」へと変革する道筋でもあります。

関連: ワークフローが駆動する真の働き方改革|データで現場を動かし、間接部門を戦略部門へ

7.2 業務の「属人化」解消が、AI時代の働き方改革を加速させる

多くの企業が抱える「業務の属人化」は、AI導入を阻む最大の障壁です。業務の手順や判断基準が個人の頭の中にしかない「暗黙知」のままでは、AIは学習できず、その真価を発揮できません。

働き方改革推進支援助成金を活用したワークフロー導入は、この属人化解消の第一歩となります。

属人化の課題ワークフロー導入による解決策
手順のブラックボックス化業務プロセスを可視化し、誰でも同じ手順で業務を遂行できるよう標準化する。
「暗黙知」の組織知化ベテラン社員の判断基準やノウハウを、マニュアルや規程として言語化(形式知化)し、AIが学習可能なデータとする。
問い合わせの集中AIがナレッジベースから定型的な問い合わせに自動回答し、担当者の負担を軽減する。

この地道な取り組みこそが、AIが自律的に判断・行動する「エージェンティックAI」の時代を迎え撃つための、最も重要な「土台作り」なのです。

関連: 業務の属人化はなぜ問題?AI時代のナレッジ共有とワークフロー活用術

7.3 業務の「断絶」解消が、データガバナンスの基盤となる

AIは、与えられたデータの質に依存します。不正確で、分断された「ゴミ」のようなデータを学習すれば、AIは誤った判断を下してしまいます。これが「ガーベージイン・ガーベージアウト(GIGO)」の原則です。

関連: ガーベージイン・ガーベージアウトとは?AI時代のデータ品質が経営を左右する理由

ワークフローシステムが各業務プロセスで生成するデータは、AIにとって貴重な学習資源となります。しかし、従来のシステムのように、承認プロセスと文書管理が分断され、データが散在している状態では、AIは会社の全体像を把握できません。

この「断絶」をなくし、信頼できるデータを一元管理する仕組みこそが「データガバナンス」です。働き方改革推進支援助成金を活用してワークフローを導入することは、データガバナンスを確立し、AIが信頼できる判断を下すための強固な基盤を築く第一歩となるのです。

関連: データガバナンス入門:AI時代の企業経営に不可欠なデータ統制とは

この章のまとめ

  • 真の働き方改革: 労働時間短縮に留まらず、ルーティンワークをAIに任せ、人間が創造的な仕事に集中することである。
  • 属人化解消: ワークフロー導入は、AIが学習するための「暗黙知」を「形式知」に変え、属人化を解消する。
  • データガバナンス: データの断絶をなくし、質の高いデータを一元管理することで、AI活用の成否を左右するデータガバナンスの基盤を築く。

8. 結論:2025年度助成金活用のための戦略的提言

本レポートで詳述した通り、2025年度の働き方改革推進支援助成金は、単なるコスト削減ツールではなく、中小企業が生産性向上、労働環境改善、そして人材への投資(賃上げ)という三位一体の改革を断行するための、極めて強力な戦略的パートナーです。

ワークフローシステムの導入を成功させるためには、以下の3つの戦略的要点を押さえることが不可欠です。

  1. 助成金の目的を再定義する: 単なる「ITツールの割引券」ではなく、「IT投資と人事制度改革を組み合わせた、包括的な経営改革プロジェクトへの共同出資制度」と捉えるべきです。特に強化された賃上げ加算を積極的に活用し、IT投資と人材投資を同時に行うことで、財務的リターンと企業価値の両方を最大化する視点が求められます。
  2. 物語(ナラティブ)で申請する: 申請の成否は、テクノロジーの先進性ではなく、「社内の具体的な『苦痛(ペインポイント)』を、テクノロジーによって解消し、その結果生まれた余裕を、いかにして公式な労働条件の改善に結びつけるか」という、一貫性のある説得力のある物語を語れるかどうかにかかっています。
  3. 専門家を戦略的パートナーとして活用する: 複雑な手続き、厳格なコンプライアンス要件、そして見落としがちな加算要件といった数々のハードルを乗り越えるために、社会保険労務士への依頼はリスク回避とリターン最大化のための賢明な投資です。

ジュガールワークフローの紹介

本稿で見てきたように、多くの企業はワークフローと文書管理が分断され、文書が統制不能な「野良ファイル」と化すリスクに直面しています。この「プロセスとアーカイブの断絶」こそが、非効率とリスクを生む根本原因です。

ジュガールワークフローは、この市場の根深い課題を解決し、本記事で解説した理想的な業務プロセスを実現する、唯一の「統合型・社内文書統制基盤」です。文書の作成から廃棄までの全ステージを一つのプラットフォーム上でシームレスに連携。さらに、AIエージェントが規程チェックや入力支援を行い、人間をインテリジェントにサポートすることで、バックオフィスを「守り」の部門から「攻め」の戦略部門へと変革させます。

9. 働き方改革推進支援助成金に関するよくある質問(FAQ)

QA
Q1: 助成金申請は自社で行えますか?A1: 申請は自社でも可能ですが、提出書類の不備や要件の見落としなど、専門知識がないと予期せぬリスクが発生する可能性があります。社労士に依頼することで、書類作成の手間を省き、申請の成功率を高め、受給額を最大化できるメリットがあります。
Q2: 賃上げ加算はどのように計算するのですか?A2: 賃上げ加算額は、賃上げ率(3%、5%、7%)と、賃上げを行う従業員数、企業の従業員規模によって決まります。例えば、従業員数が30人以下の企業は、加算額が2倍になる優遇措置があります。詳しくは第3章の表をご参照ください。
Q3: 助成金で導入したシステムは、いつから利用できますか?A3: 導入するシステムの発注・契約は、労働局からの「交付決定通知書」を受け取った後でなければなりません。交付決定前に発生した費用は、助成対象外となるため、注意が必要です。
Q4: 業務効率化の効果を、どうやって定量的に証明すれば良いですか?A4: 助成金申請の際には、システム導入前後の業務時間を比較することが重要です。例えば、「経費精算業務にかかる時間が、導入前の月間20時間から、導入後の月間5時間に削減される」といった具体的な数値を、客観的なデータ(タイムスタンプなど)に基づいて示すことが求められます。
Q5: 助成金はいつ頃受け取れますか?A5: 助成金は、事業が完了し、支給申請を行った後、労働局の審査を経てからの支給となります。申請から支給までには数ヶ月かかる場合があるため、資金計画を立てる際にはその点を考慮しておく必要があります。

10. 引用文献

  1. 【令和7年度拡充!】働き方改革推進支援助成金とは。4つのコースの内容や支給額などを解説 | 創業手帳
  1. 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース) | 厚生労働省
  1. 働き方改革推進支援助成金の 解説と導入事例について
  1. 働き方改革推進支援助成金について – (令和4年4月21日)
  1. 助成金活用のプロが教える!これだけは押さえたい審査ポイント

川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。