この記事のポイント
- なぜ、契約書管理に「規程」というルールブックが不可欠なのか
- 規程に盛り込むべき必須条項と、そのまま使える詳細なひな形
- 会社法・法人税法が定める契約書の「正しい」保存期間
- 電子契約の有効性を支える「電子署名法」と、保存ルールを定める「電子帳簿保存法」のポイント
- 規程を形骸化させず、全社に定着させるための具体的なステップ
はじめに:その契約書管理、「担当者まかせ」になっていませんか?
【概要】
「契約書の最新版はどこ?」「更新期限はいつだっけ?」――こうした混乱の根本原因は、契約書管理に明確なルールがないことにあります。本記事では、契約書管理規程という「会社の公式ルール」を策定し、文書のライフサイクル全体を統制することで、いかにしてリスクを未然に防ぎ、業務効率を最大化するか、その具体的な方法を弁護士が解説します。
「あの取引先との契約書、どこに保管したかな…」
「契約の自動更新、担当者が退職して引き継がれていなかった…」
「監査で急に必要になったけど、すぐに見つからない…」
このような経験は、多くの企業にとって他人事ではありません。契約書管理が個々の担当者のスキルや記憶に依存している状態は、企業の根幹を揺るがしかねない重大なリスクの温床です。
契約書は、企業の権利と義務を定める最も重要な文書の一つです。その管理不備は、不利な条件での契約自動更新による金銭的損失、コンプライアンス違反による法的制裁、さらには情報漏洩による社会的信用の失墜といった、深刻な事態を引き起こしかねません。
この問題の根本的な解決策は、個人の努力に頼るのではなく、組織としての統一ルール、すなわち「契約書管理規程」を策定し、運用することです。
本記事では、単に規程のひな形を示すだけではありません。なぜ規程が必要なのかという本質的な理由から、会社法や電子帳簿保存法といった法律への具体的な対応、そして規程を形骸化させないための運用方法まで、弁護士の視点から網羅的に解説します。この記事を読めば、あなたの会社をリスクから守り、持続的な成長を支える強固な契約管理体制を構築するための、全ての知識とツールが手に入ります。
【関連】文書ライフサイクル管理とは?ワークフローで実現する堅牢な内部統制システム構築ガイド
契約書もまた、作成から保管、廃棄という一生をたどる重要な文書です。契約書管理をより広い視点である「文書ライフサイクル管理」の一環として捉えることで、より堅牢な内部統制を構築できます。詳しくは、こちらのまとめ記事をご覧ください。
「文書ライフサイクル管理とは?ワークフローで実現する堅牢な内部統制システム構築ガイド」
第1章 なぜ契約書管理規程は企業の生命線なのか?
【概要】
契約書管理規程の目的は、単なる書類整理ではありません。「リスクマネジメントの強化」と「業務効率の最大化」という2つの経営課題を解決するための戦略的ツールです。規程がない状態は、法務・財務・情報セキュリティの各方面に深刻なリスクをもたらします。
課題:規程がないことで企業が晒される4つの経営リスク
契約書管理に明確なルールがない状態は、企業を以下のような具体的なリスクに晒します。
- コンプライアンス・法的リスク: 会社法や法人税法は、契約書を含む重要書類の保存を義務付けています。これを怠ると、過料などの罰則が科される可能性があります。また、契約内容を巡る取引先との紛争や訴訟に発展するリスクも高まります。
- 情報セキュリティリスク: 契約書には、取引価格や技術情報、個人情報といった機密情報が満載です。管理ルールがなければ、これらの情報が容易に紛失・漏洩し、企業の信用を著しく損なう恐れがあります。
- 財務・機会損失リスク: 契約の更新期限や解約通知期限の見落としは、直接的な金銭的損失につながります。例えば、ある中小企業では、利用実態のないソフトウェアの契約が自動更新され続け、年間数百万円の不要なコストが発生していたケースもあります。
- 事業継続性リスク: 特に紙の契約書は、火災や地震などの災害に脆弱です。バックアップがなければ、企業の権利義務の根拠を失い、事業の継続が困難になる可能性があります。
解決策:規程がもたらす戦略的メリット
契約書管理規程を策定し、正しく運用することは、これらのリスクに対する最も効果的な処方箋となります。
- 業務の標準化: 契約書の作成からレビュー、承認、保管、廃棄に至るプロセスが標準化されます。これにより、担当者のスキルに依存せず、誰でも一貫した品質で業務を遂行でき、人事異動時の引き継ぎもスムーズになります。
- 検索性とアクセスの向上: 必要な契約書を「いつでも」「すぐに」探し出せるようになります。これにより、取引条件の確認や過去の経緯把握が迅速化し、スピーディーな意思決定を支援します。
- ナレッジマネジメントの推進: 契約情報が一元管理されることで、業務の属人化が解消されます。過去の契約経緯や交渉のポイントが組織の知識として蓄積され、より有利な条件での契約締結につながります。
【この章のまとめ】
課題(リスク) | 規程による解決策(メリット) |
法令違反、訴訟リスク | コンプライアンス遵守の徹底 |
情報漏洩、信用失墜 | セキュリティレベルの向上 |
不利な契約更新、機会損失 | 厳格な期限管理による財務リスクの低減 |
災害による原本喪失 | 事業継続性の確保 |
業務の属人化、非効率 | 業務プロセスの標準化と効率化 |
第2章 効果的な契約書管理を支える4つの基本原則
【概要】
実効性のある契約書管理体制は、「一元管理」「管理台帳」「期限管理」「アクセス制御」という4つの基本原則の上に成り立ちます。これらの原則が一体となって機能することで、規程は初めて生きたルールとなります。
- 一元管理:信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth)
社内に存在する全ての契約書を、物理的・電子的かを問わず、指定された一つの場所やシステムに集約して管理する原則です。契約書が各部署や個人のPCに散在している状態は、管理の崩壊を意味します。一元管理を実現するには、法務部や総務部といった主管部署と責任者を明確に定めることが不可欠です。 - 契約書管理台帳:管理体制の中枢神経
個々の契約書の重要情報を一覧化したマスターデータです。これがあることで、契約書本文を開かずとも、必要な情報を迅速に検索・分析できます。Excelでも作成可能ですが、契約件数が多い場合は専用システムの導入が望ましいでしょう。
▼表:契約書管理台帳に必須の管理項目
管理項目 | 説明 | 関連情報 |
管理番号 | 各契約書を一位に識別するための社内番号。 | 検索キー |
契約書名 | 契約書の正式名称(例:「業務委託基本契約書」)。 | |
契約の種類 | 内容による分類(例:秘密保持契約、売買契約)。 | 分類・分析 |
契約相手方 | 契約を締結した相手方の正式名称。 | |
担当部署・担当者 | 社内の責任部署および担当者名。 | 責任の明確化 |
契約締結日 | 当事者双方が署名・押印した日付。 | |
契約開始日・終了日 | 契約の効力が発生・満了する日付。 | 期限管理の要 |
自動更新の有無 | 自動更新条項の有無(「有」「無」で記載)。 | 最重要リスク項目 |
解約通知期限 | 契約を終了させる場合に通知が必要な期限。 | |
契約金額 | 契約に関わる金額や取引規模。 | 重要度判断 |
原本保管場所 | 原本の保管場所(例:「法務部キャビネットA-1」)。 | |
備考 | 関連契約の管理番号など、特記事項を記載。 |
- 期限管理:受動的な管理から能動的な戦略へ
契約の更新期限や解約通知期限を体系的に追跡・管理することです。管理台帳に基づき、期限が近づいた契約を自動で通知するアラート機能などを活用することで、意図しない契約の自動更新や、重要な契約の失効といった財務的損失を未然に防ぎます。 - アクセス制御:機密情報への「門番」
契約書へのアクセス権を、業務上「知る必要のある者」に限定する原則です。役職や職務内容に応じて閲覧・編集権限を厳格に設定し、誰が、いつ、どの契約書にアクセスしたかのログ(履歴)を記録・保管することが、情報漏洩に対する強力な抑止力となります。
【この章のまとめ】
- 一元管理: 全ての契約書を1ヶ所に集める。
- 管理台帳: 契約書の「カルテ」を作成し、情報を可視化する。
- 期限管理: 更新・解約のタイミングを逃さない仕組みを作る。
- アクセス制御: 「見るべき人」だけが見られるように制限する。
第3章 【ひな形付】弁護士が教える!契約書管理規程に盛り込むべき必須条項
【概要】
ここでは、企業の即時利用を想定した、包括的で詳細な契約書管理規程のひな形を提示します。各条文の【運用ポイント】を参考に、自社の実情に合わせてカスタマイズしてください。不明な点があれば、顧問弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
契約管理規程(ひな形)
第1章 総則
- 第1条(目的)
本規程は、当社における契約に関する業務(以下「契約業務」という)の基本的事項を定めることにより、契約リスクの適切な管理と業務の効率化を図り、もって当社の健全な事業運営に資することを目的とする。 - 第2条(適用範囲)
本規程は、当社が当事者となるすべての契約(契約書、覚書、合意書その他名称の如何を問わず、当事者間の権利義務を定める文書および電磁的記録をいう。以下「契約書」という)の管理に関し、当社のすべての役員および従業員(契約社員、派遣社員を含む)に適用する。 - 第3条(定義)
本規程において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
- 主管部署:契約業務を統括的に管理する部署をいい、原則として法務部とする。
- 担当部署:個別の契約の締結および履行について、主たる責任を負う部署をいう。
- 契約書管理台帳:すべての契約書の管理項目を記録した台帳をいう。
第2章 契約業務のプロセス
- 第4条(レビューおよび承認)
- 担当部署は、契約を締結する前に、契約書案を主管部署に提出し、法務的観点からのレビューを受けなければならない。
- 契約の承認は、別途定める「職務権限規程」に基づき、所定の承認権限者の決裁を得なければならない。
【運用ポイント】
職務権限規程では、「契約金額100万円未満は部長決裁、500万円未満は役員決裁」のように、金額や重要度に応じて承認者を階層的に設定することが一般的です。
- 第5条(締結および押印)
- 契約書の締結は、会社の代表権を有する者、または正当な権限を委譲された者が行う。
- 契約書への押印は、別途定める「印章管理規程」に従い、適切に行わなければならない。
- 電子契約を締結する場合は、別途定める「電子署名管理規程」に従うものとする。
【運用ポイント】
誰がどの印章を使用する権限を持つのか、電子署名を誰が付与できるのかを明確に定めておくことが、無権代理行為(権限のない者が契約を結んでしまうこと)のリスクを防ぎます。
- 第6条(契約書管理台帳への登録)
担当部署は、契約締結後、5営業日以内に当該契約書に関する所定の事項を契約書管理台帳に登録しなければならない。
第3章 契約書の管理
- 第7条(原本の保管)
- 締結済みの契約書原本は、すべて主管部署において一元的に保管する。
- 担当部署は、契約締結後、速やかに契約書原本を主管部署に引き渡さなければならない。
- 電子契約は、主管部署が指定するサーバーまたはクラウドストレージに、電子帳簿保存法の要件を満たす形で保管する。
- 第8条(保管期間)
契約書の保管期間は、原則として当該契約の有効期間満了後10年間とする。ただし、法令に別途定めがある場合、または訴訟等の特別な事由がある場合はこの限りでない。 - 第9条(アクセス管理)
- 契約書へのアクセスは、業務上必要最小限の範囲に限定する。
- 契約書の閲覧または貸出を希望する者は、主管部署の許可を得なければならない。主管部署は、アクセス記録を保管するものとする。
- 第10条(期限管理)
主管部署は、契約書管理台帳に基づき、契約の更新期限および解約通知期限を管理し、期限到来の3ヶ月前および1ヶ月前に担当部署へ通知するものとする。 - 第11条(廃棄)
- 保管期間が満了した契約書は、主管部署がリストアップし、担当部署の確認を得た上で廃棄する。
- 廃棄は、シュレッダー処理、または復元不可能なデータ削除等の方法により、確実に行い、その記録を保管しなければならない。
第4章 その他
- 第12条(規程の改廃)
本規程の改廃は、取締役会の決議によるものとする。 - 第13条(管轄部署)
本規程に関する主管部署は法務部とする。
附則
本規程は、YYYY年MM月DD日より施行する。
【発展】規程のカスタマイズと専門家への相談
このひな形はあくまで一般的なモデルです。自社の事業内容、組織規模、取引の特性に合わせて内容を調整する必要があります。例えば、製造業であれば製造物責任(PL)法を考慮した条項が、IT企業であれば知的財産権に関する条項が必要になるかもしれません。
規程の策定や見直しにあたっては、法的な妥当性を確保するため、必ず顧問弁護士や弁理士などの専門家に相談しましょう。専門家の視点を取り入れることで、自社では気づきにくいリスクを洗い出し、より実効性の高い規程を作成することができます。
第4章 契約書の保存期間、会社法・法人税法上の義務とは?
【概要】
契約書の保存期間は、企業が任意で決められるものではなく、会社法や法人税法など複数の法律で厳格に定められています。これらの複雑な要件を理解し、実務上最も安全な「10年ルール」を採用することが、コンプライアンス違反のリスクを回避する鍵となります。
課題:なぜ保存期間の管理は複雑なのか?
企業が遵守すべき主要な法律と、それが定める保存期間は以下の通り、それぞれ起算点(いつから数え始めるか)や期間が異なります。
- 会社法: 「事業に関する重要な資料」として10年間の保存を義務付けています。違反すると100万円以下の過料が科される可能性があります。
- 法人税法: 原則として7年間の保存を義務付けています。ただし、赤字(欠損金)が生じた事業年度の書類は10年間に延長されます。
- 労働基準法: 雇用契約書などは5年間の保存が必要です。
これらの異なるルールを契約書ごとに個別に管理するのは非常に煩雑で、誤って早期に廃棄してしまうリスクが常に伴います。
解決策:「10年ルール」という戦略的セーフハーバー
この複雑さを解決する最も合理的かつ安全な戦略は、すべての契約書に対して、一律で最も長い法定保存期間である「10年間」を適用するという社内ルール(通称「10年ルール」)を設けることです。
▼表:主要法令と契約書保存期間の比較
根拠法令 | 対象文書(例) | 保存期間 | 起算点 |
会社法 | 事業に関する重要資料(契約書) | 10年 | 会計帳簿の閉鎖の時 |
法人税法 | 契約書、請求書、領収書等 | 原則7年(欠損金発生年度は10年) | 事業年度の確定申告期限の翌日 |
労働基準法 | 雇用契約書、労働者名簿 | 5年 | 労働者の退職・死亡等の日 |
【この章のまとめ】
- 複数の法律が関与: 契約書の保存期間は、会社法、法人税法など複数の法律で定められている。
- 期間と起算点がバラバラ: 各法律で要求される保存期間や数え始めの時点が異なり、管理が複雑。
- 「10年ルール」が最適解: 最も長い期間である「10年」を社内統一ルールとすることで、法令遵守を確実にし、管理を簡素化できる。
【関連】法定保存文書の一覧【2025年最新版】|会社法・税法で定められた書類の保存期間まとめ
契約書以外にも、企業には様々な法定保存文書が存在します。それぞれの保存期間を網羅的に確認したい方は、こちらの記事をご参照ください。
「法定保存文書の一覧」
第5章 電子契約時代のコンプライアンス:電子署名法と電子帳簿保存法への対応
【概要】
電子契約の導入は、単なるペーパーレス化ではありません。契約の「成立」の有効性を担保する電子署名法と、契約書の「保存」方法を定める電子帳簿保存法という、2つの法律への対応が不可欠です。これらの法的要件を正しく理解し、規程に反映させることが、デジタル時代のコンプライアンスの鍵となります。
5.1 電子契約を支える二つの法的支柱
電子契約に関わる二つの法律は、目的もリスクも異なります。両者の違いを理解することが、適切な対応の第一歩です。
▼表:電子署名法と電子帳簿保存法の比較
特徴 | 電子署名法 | 電子帳簿保存法 |
主たる目的 | 契約の「成立の真正」を法的に担保し、民事上の有効性を確立すること。 | 国税関係書類のデータ保存を認め、税務上の証拠能力を確保すること。 |
違反時のリスク | 契約の有効性が争われ、訴訟で不利になる「民事リスク」。 | 青色申告の承認取消し、追徴課税などの「税務リスク」。 |
5.2 電子契約の有効性を支える「電子署名法」
電子契約が、紙の契約書への署名・押印と同等の法的効力を持つためには、電子署名法が定める要件を満たす必要があります。
- 電子署名とは?: この法律が認める「電子署名」とは、①本人だけが行えること(本人性)、②改ざんされていないことが確認できること(非改ざん性)の2つの要件を満たすものを指します。
- なぜ重要か?: これらの要件を満たす電子署名が付与された電子契約は、裁判において「本人の意思に基づいて真正に成立した」と法的に推定(推定効)され、強力な証拠能力を持ちます。これにより、万が一の訴訟の際に自社の立証負担が大幅に軽減されます。
- 規程への反映: 「電子署名管理規程」を別途設け、利用できる電子契約サービスの種類、署名権限者、管理方法などを具体的に定めることが重要です。
5.3 電子データの保存ルールを定める「電子帳簿保存法」
電子署名法が契約の「成立」に関わるのに対し、電子帳簿保存法は契約の「保存」に関するルールを定めます。
- 何が対象か?: 多くの人が「領収書」や「請求書」をイメージしますが、法律上の「電子取引」に該当するデータはすべて対象です。これには、電子メールで授受したPDFの契約書や、クラウドサービス上で締結した電子契約も含まれます。
- 何をすべきか?: 2024年1月1日以降、これらの電子取引データは、原則として電子データのまま、以下の要件を満たして保存することが義務付けられました。
- 真実性の確保: データが改ざんされていないことを証明する措置。(例:タイムスタンプの付与、訂正削除の履歴が残るシステムの利用、または訂正削除防止の事務処理規程の策定・遵守)
- 可視性の確保: 税務調査などでデータを速やかに検索・表示できる状態にしておくこと。(例:「取引年月日」「取引金額」「取引先」での検索機能の確保)
5.4 【最重要】見落としがちな「受領側」の保存義務
実務上、最も見落とされがちなのが、契約書を受け取った側(受領側)の法的義務です。発行側がどのような高機能な電子契約サービスを利用していても、受領側には、受け取った電子契約書を自らの責任で電子帳簿保存法に準拠して保存する、独立した法的義務が発生します。
- 受領側の具体的なアクション
- 契約書と監査証跡ログをダウンロード: 締結完了後、契約書本体のPDFだけでなく、締結プロセスが記録された「監査証跡ログ(合意締結証明書など)」も必ず一緒にダウンロードします。
- 検索要件を満たして保存: ダウンロードしたファイルを、単に共有フォルダに保存するだけでは不十分です。「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できるよう、ファイル名の規則を定めたり、Excelで索引簿を作成したり、あるいは専用の文書管理システムに格納したりする必要があります。
【この章のまとめ】
- 電子契約は2つの法律で考える: 「成立」は電子署名法、「保存」は電子帳簿保存法。
- 電子署名法: 訴訟リスクに備え、法的効力のある電子署名サービスを利用し、その管理規程を定める。
- 電子帳簿保存法: 税務リスクに備え、PDFで受け取った契約書も真実性と可視性の要件を満たして電子保存する。
- 受領側の義務を忘れない: 契約書を受け取った側も、自社で電子帳簿保存法に対応する義務がある。
【関連】【2025年改正】電子帳簿保存法をワークフローで乗り切る完全ガイド
電子帳簿保存法の詳細な要件や、具体的な対応方法については、こちらの解説記事が役立ちます。
「電子帳簿保存法をワークフローで乗り切る完全ガイド」
第6章 規程の形骸化を防ぐ導入・運用5ステップ
【概要】
優れた規程も、作って終わりでは意味がありません。全社に浸透させ、継続的に運用していくための計画的な導入プロセスが不可欠です。ここでは、構想から実践までの具体的なロードマップを5つのステップで示します。
- ステップ1:現状把握と課題整理
まず、既存の契約書管理フローを可視化し、「誰が」「何を」「どのように」行っているかを把握します。その上で、「契約書の検索に時間がかかる」「更新漏れが発生している」といった問題点やリスクをすべて洗い出します。 - ステップ2:主管部署と責任者の任命
契約管理プロセス全体を統括する部署(例:法務部、総務部)と、その責任者を正式に任命します。これが、一元管理体制を確立するための第一歩です。 - ステップ3:契約書の棚卸と台帳作成
社内に散在するすべての契約書(紙・電子)を収集し、第2章で示した管理台帳に情報を入力していきます。この「棚卸」作業は最も労力がかかりますが、管理体制の基盤を築く上で絶対に避けては通れないプロセスです。 - ステップ4:ツールの選定と導入
企業の規模や契約件数に応じて、管理ツールを選定します。Excelでの管理から、専用の契約書管理システムや、後述する統合型ワークフローシステムの導入まで、自社のニーズに合ったツールを検討します。 - ステップ5:全社への周知と研修
新しい規程とシステムの運用方法について、全従業員を対象とした研修会を実施します。規程の目的や、ルールを守らない場合のリスクを丁寧に説明し、全社の協力を得ることが、円滑な運用への鍵となります。
【この章のまとめ】
- As-Is(現状)の把握: まずは自社の現状の問題点を洗い出す。
- 体制の構築: 責任部署と責任者を明確にする。
- 情報の集約: 全ての契約書を集め、管理台帳を作成する。
- ツールの活用: 効率的な管理を実現するツールを導入する。
- 教育と浸透: 全社員にルールを周知し、研修を行う。
第7章 契約書管理に関するよくある質問(FAQ)
【概要】
ここでは、契約書管理の実務担当者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
A1: 企業の規模や組織体制によりますが、法的な観点からのレビューが重要であるため、法務部が主管部署となるのが理想的です。ただし、日常的な台帳管理や保管業務は総務部が担うなど、役割を分担するケースも多く見られます。重要なのは、規程で責任の所在を明確にすることです。
A2: 明確な基準はありませんが、一般的に「契約件数が年間50〜100件を超える」「更新期限の管理漏れが発生した」「監査対応に時間がかかりすぎる」といった課題が出てきたら、システム導入を検討するタイミングです。特に、電子帳簿保存法の検索要件への対応を考えると、早期のシステム化が望ましいでしょう。
A3: 電子契約は双方の合意があって初めて成立します。相手方が拒否した場合は、従来通り紙の契約書を締結することになります。ただし、その際は電子契約のメリット(コスト削減、迅速化)を丁寧に説明し、相手方のセキュリティ懸念などを解消することで、同意を得られる場合もあります。無理強いは禁物です。
A4: はい、可能です。ただし、その場合は電子帳簿保存法の「スキャナ保存」の要件を満たす必要があります。これには、一定以上の解像度でのスキャンやタイムスタンプの付与など、厳格なルールが定められています。単にPDF化してサーバーに置くだけでは不十分なため、注意が必要です。
まとめ:規程は「守り」から「攻め」のガバナンス基盤へ
本記事では、契約書管理規程の策定について、その戦略的重要性から、具体的な条文、法的義務、そして電子化への対応までを網羅的に解説しました。
- 規程の目的: リスク管理と業務効率化という経営課題を解決する。
- 法的要件: 会社法や法人税法が定める複雑な保存期間には「10年ルール」で対応する。
- 電子化対応: 電子署名法と電子帳簿保存法の両方を遵守し、特に受領側の保存義務に注意する。
- 運用の鍵: 計画的な導入と全社的な周知・教育で、規程の形骸化を防ぐ。
適切に整備された契約書管理規程は、単にリスクから会社を「守る」だけではありません。契約という企業の重要資産を正確に把握し、戦略的に活用することで、ビジネスを加速させる「攻め」のガバナンス基盤となり得ます。
契約書の作成、レビュー、承認、そして保管・管理という一連のプロセスは、まさに文書のライフサイクルそのものです。このライフサイクル全体をシームレスに連携させ、統制の取れた状態に保つことが、現代企業には求められています。
ジュガールワークフローのような統合型プラットフォームは、契約書の承認プロセスから、決裁後の自動保管、保存期間に基づいた管理、そして期限管理のアラートまで、契約書のライフサイクル全体を一つのシステムで完結させることが可能です。これにより、規程で定めたルールがシステムによって自動的に実行され、ヒューマンエラーの介在しない、強固な契約管理体制を構築できます。
引用文献
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)」: 電子契約の保存要件に関する詳細なQ&Aが掲載されており、実務上の疑問点を解決するための最も信頼できる一次情報源です。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/4-3.htm - 国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」: 電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程のひな形が公開されています。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm - e-Gov法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」: 電子署名の法的効力について規定されています。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102 - e-Gov法令検索「会社法」: 第432条で会計帳簿及びその事業に関する重要な資料(契約書を含む)の保存義務について規定されています。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086 - 金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」: 契約書管理を含む、企業の内部統制の基本的な考え方について述べられています。
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20190719/01.pdf