AI-OCRの進化と限界|手書き文字の読み取り精度はどこまで来たか?【2025年最新版】

目次

この記事のポイント

  • 従来型OCRとAI-OCRの技術的な違いと、AI-OCRがなぜ高精度なのか、そのビジネス上の意味
  • ベンダーが謳う「認識率99%」の本当の意味と、実際の業務で精度を最大化する現場の工夫
  • 手書き文字認識の現状と、AI-OCRが読み間違える典型的なパターンへの具体的な対策
  • AI-OCRの導入を成功させ、会社の利益に繋げるための具体的な方法。

はじめに:なぜ今、AI-OCRの「本当の実力」を知るべきなのか?

「AI-OCRを導入すれば、紙の書類処理から解放される」

「手書き文字も99%以上の精度で読み取れる」

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の切り札として、AI-OCR(光学的文字認識)への期待は高まる一方です。総務省の「令和5年版 情報通信白書」によれば、多くの日本企業が人手不足や生産性向上を課題として認識しており(1)、AI-OCRのような具体的な業務効率化ツールへの関心は年々高まっています。

しかし、その一方で「導入してみたが、期待したほど精度が出ず、結局手作業がなくならない」といった声が聞かれるのも事実です。

この差はどこから生まれるのでしょうか?

その答えは、AI-OCRの能力と限界を正しく理解し、「自社の業務にどう組み込むか」を具体的に描けているかどうかにかかっています。AI-OCRは、AIが自律的に業務を遂行する『ワークフロー4.0』の世界を実現する上で欠かせない基盤技術ですが、決して「魔法の杖」ではありません。

本記事では、小難しい技術論ではなく、ビジネスの視点からAI-OCRの真実に迫ります。その驚異的な認識精度は、どのような条件下で発揮され、どこに限界があるのか。そして、そのポテンシャルを最大限に引き出し、退屈な入力作業をなくし、あなたのチームが付加価値の高い仕事に集中できる環境をどう作るか

この記事を読み終える頃には、AI-OCRの「本当の実力」を見極め、自社のDXを成功に導くための確かな知見が得られているはずです。

第1章:OCRからAI-OCRへ:何が革命的に変わったのか?

概要

AI-OCRの革命性は、AI、特にディープラーニング(深層学習)の導入にあります。人間が設定した固定的な「ルール」で文字を照合していた従来型OCRに対し、AI-OCRは大量のデータから文字の特徴を自ら「学習」します。この**「学習能力」こそが、ビジネス現場で発生する手書き文字や多様な帳票フォーマットといった、現実世界の厄介な課題を解決する原動力**となったのです。

1-1. 従来型OCRの限界:なぜ「使えない」と言われたのか

AIが登場する以前のOCR技術は、「ルールベースのパターンマッチング」という手法に依存していました。これは、あらかじめ登録された文字の形(テンプレート)と、スキャンした画像の文字を比較し、最も形が近いものを探すという、いわば「文字の神経衰弱」のような仕組みです。

このアプローチには、ビジネスで使うには致命的な「脆弱性」がありました。

  1. フォーマットの柔軟性の欠如:取引先ごとに書式が異なる請求書のような「非定型帳票」の処理は事実上不可能でした。読み取る文字の位置を事前に細かく定義した「テンプレート」が少しでもずれると、途端に読み取れなくなるためです。
  2. 手書き文字への絶望的な弱さ:書き手によって千差万別な手書き文字のパターンを、限られたテンプレートで網羅することは不可能でした。そのため、手書き文字の認識精度は著しく低く、実用には耐えられませんでした。
  3. 環境への感度:スキャン時のノイズ、傾き、かすれ、あるいは帳票の罫線と文字の重なりといった「汚れ」に非常に弱く、精度を著しく低下させる原因となっていました。

これらの限界により、従来型OCRは郵便番号など、極めて限定された用途でしか活用できず、多くの企業にとって「期待外れの技術」と見なされてきました。

1-2. AI-OCRのコア技術:ビジネスの現場で「使える」ようになった理由

AI-OCRは、この状況を根本から覆しました。その心臓部にあるのが、人間の脳の神経回路網を模した「ディープラーニング」です。専門用語を恐れる必要はありません。要するに、AIに「目」と「文脈を読む能力」を与えたのです。

  • 畳み込みニューラルネットワーク (CNN): これは、AIに文字の形を認識する「目」を与える技術です。文字を構成する縦線、横線、曲線といった部品レベルの特徴を自動で捉えます。これにより、人間が文字を認識するように、多少の変形や傾きがあっても、文字の構造を頑健に認識できるようになりました。
  • 再帰型ニューラルネットワーク (RNN): こちらは、AIに「文脈を読む能力」を与える技術です。例えば、「パン」と「ーセージ」のように、前後の文字の流れから、形が似ている文字(「ン」と「ソ」)を高い精度で見分けることができます。

要するに、AI-OCRは、単に文字の形を機械的に照合するのではなく、人間のように「これは、この文脈だから、この文字のはずだ」と推測できるようになったのです。 これこそが、これまで機械が苦手としてきた、曖昧で多様な手書き書類を、ついにビジネスの現場で扱えるようになった最大の理由です。

【図表1】従来型OCRとAI-OCRの決定的違い

特徴従来型OCRAI-OCR
中核技術ルールベースのパターンマッチングディープラーニング (AI)
手書き文字認識精度が非常に低い、または非対応高精度、継続的な学習で向上
フォーマット対応厳格なテンプレートが必要(定型のみ)柔軟、テンプレート不要(非定型に対応)
学習能力なし(静的)あり(データから自律的に学習・改善)
ビジネスへの影響限定的で、使えない場面が多い現実の多様なビジネス文書に対応可能

第2章:バックオフィス業務はこう変わる!AI-OCRによる「入力作業」の消滅

概要

AI-OCRは、単なる技術ではありません。経理、人事、総務、そして現場のあらゆる「手入力」を撲滅し、従業員をより創造的な仕事へと解放する、経営改革のエンジンです。ここでは、AI-OCRがあなたの会社の日常業務をどのように変えるのか、具体的なシーンを描写します。

2-1. 経理・会計業務の変革:請求書・領収書処理の完全自動化

多くの企業の経理部門では、今も「手入力と二重確認」という非効率なプロセスが根強く残っています。AI-OCRは、このプロセスを根底から覆します。

【図表2】請求書処理業務のBefore/After

比較項目【Before】これまでの経理業務【After】AI-OCR導入後の未来
主要プロセス①紙を整理②Excelへ手入力③目視で二重確認④ハンコのために奔走⑤会計システムへ再入力スキャンするだけ②AIが自動で読み取り&入力③システムが自動チェック④PC/スマホで電子承認⑤会計システムへ自動連携
時間・手間膨大。月末に業務が集中し、残業が常態化。90%以上削減も可能。月末のピークが平準化される。
リスク転記ミス、確認漏れなどのヒューマンエラーが頻発ヒューマンエラーを原理的に排除。内部統制も強化。
担当者の役割データ入力と確認に追われる「作業者」。AIの確認と、予算分析や資金繰り改善を担う「戦略担当者」

もはや、人間がキーボードを叩いて請求書の内容を入力する必要は一切ありません。 経理担当者の仕事は、AIが「この部分の読み取りに自信がありません」と提示した箇所を確認・修正するだけになります。

例えば、私たちの「ジュガール経費精算」では、領収書や請求書を読み取るだけでなく、AIが過去のデータから勘定科目を自動で提案し、重複した申請がないかを自動でチェックします。まさに「入力レス」の世界を実現し、担当者を月末の繁忙期から解放し、より戦略的な業務に時間を使えるようにするのです。

2-2. 【新ユースケース】現場の生産性を飛躍させる「作業日報」のデジタル化

AI-OCRの活用範囲は、バックオフィスに留まりません。建設業、製造業、保守メンテナンス業など、現場の生産性向上にも絶大な効果を発揮します。

【図表3】作業日報プロセスのBefore/After

比較項目【Before】これまでの現場業務【After】AI-OCR導入後の未来
作業内容①現場で手書き作成②事務所で回収③監督がExcelへ転記・集計①現場で手書き作成②スマホで撮るだけ③AIが瞬時にデータ化&自動集計
担当者・時間監督・マネージャーが毎日1〜2時間の残業で対応。転記・集計作業がゼロに。残業を大幅に削減。
データ活用データ化が遅れ、リアルタイムな状況把握が困難。リアルタイムで進捗・コストを可視化。迅速な経営判断が可能に。

これにより、現場監督やマネージャーの転記・集計作業は完全にゼロになります。 さらに、経営層はリアルタイムで各プロジェクトの正確な進捗やコストを把握できるようになり、迅速な経営判断を下すことが可能になるのです。

関連記事: 『ワークフローのデータをBIで分析する方法|バックオフィスを戦略部門に変える』

2-3. 人事・総務業務の効率化:年末調整から契約書管理まで

人事・総務部門もまた、大量の紙書類を扱う業務の代表格です。

  • 年末調整:従業員から提出される大量の扶養控除申告書や保険料控除申告書をAI-OCRで読み取り、人事給与システムへの入力を自動化。
  • 入社手続き:新入社員から提出される身分証明書や各種届出書をデータ化し、従業員マスタへの登録を効率化。
  • 契約書管理:過去に締結した大量の紙の契約書をAI-OCRでデータ化し、契約データベースを構築。契約期間や自動更新条項などを抽出し、管理を自動化する。

このように、AI-OCRは部門を問わず、あらゆる「紙と手入力」が発生する業務を効率化するポテンシャルを秘めています。

第3章:AI-OCRの精度検証:「99%」の真実と手書き文字の壁

概要

多くのAI-OCRベンダーが謳う「認識率99%」という数値は、理想的な条件下での最高値であり、あらゆる状況で保証されるものではありません。ビジネスで重要なのは、この数値を鵜呑みにするのではなく、自社の業務環境でいかに精度を高めるかという「現場の工夫」です。特に、製品間の実力差が最も顕著に現れるのが「手書き文字」の認識能力です。

3-1. 「認識率99%」は本当か?精度指標の正しい読み解き方

「手書き文字認識率99.22%」――このような驚異的な数値を目にすると、もはや手作業は不要になると期待してしまいます。しかし、この数値を鵜呑みにしてはいけません。

重要なのは、その数値が「どのような条件下で測定されたか」です。多くの場合、これらの数値は、研究用に整備された、ノイズが少なく、丁寧に書かれた文字を読み取らせた場合の結果です。

実際のビジネス現場で扱う帳票は、

  • 癖のある文字、崩れた文字
  • インクのかすれや、にじみ
  • 記入枠からはみ出した文字
  • スキャン時の影や傾き

など、精度を低下させる要因に満ちてています。したがって、ベンダーが提示する精度は「最高のポテンシャル」として捉え、必ず自社の帳票でトライアルを行い、実環境での精度を確認することが不可欠です。

3-2. 【比較】活字 vs 手書き文字:第三者機関による客観的データ

AI-OCRの実力を測る上で、「活字」と「手書き文字」は分けて考える必要があります。

  • 活字: 印刷された活字であれば、どのAI-OCR製品でも非常に高い認識精度が期待できます。文字の形が統一されているため、AIにとっては比較的簡単なタスクです。
  • 手書き文字: ここが製品の真価が問われる領域です。 個人差が大きく、無限のバリエーションが存在するため、製品によって精度に顕著な差が生まれます。

ある独立した機関による性能比較検証では、その現実が浮き彫りになっています。比較的フォーマットが整った「申込書」では、主要なAI-OCRサービスがほぼ完璧な精度を記録した一方で、手書きと活字が混在する非定型な「発注書」では、文字の誤り率が30%以上に悪化するケースも見られました。

【図表4】AI-OCR製品の精度ベンチマーク比較(第三者機関による検証例)

AI-OCR製品ドキュメント種別文字誤り率 (CER) (低いほど高精度)
製品A申込書0.67%
発注書33.30%
製品B申込書0.67%
発注書0.68%
製品C申込書19.66%
発注書56.67%

出典:boxil.jp/mag/a9960/ のデータを基に作成

このデータは、AI-OCRが「万能」ではなく、帳票の複雑性や手書きの有無によって性能が大きく左右されるという現実を明確に示しています。自社の業務で扱う帳票に手書き文字がどれだけ含まれるかを分析し、手書き認識に強みを持つ製品を見極めることが重要です。

3-3. AIはなぜ読み間違えるのか?エラーの分類と現場でできる対策

AI-OCRの誤認識はランダムに発生するわけではなく、特定の条件下で起こりやすい傾向があります。これらの典型的なエラーパターンを理解することは、対策を講じる上で重要です。

【図表5】AI-OCRの典型的なエラーパターンと対策

エラーパターン原因の例現場でできる対策
類似形状の文字「ソ」と「ン」、「O」と「0」など、形が酷似している。・AIの文脈理解機能に頼る。・修正データをAIに学習させる。
手書き文字の品質癖の強い文字、乱筆、かすれ、筆圧の弱さ。・記入者に丁寧な記入を依頼する(ガイドライン作成)。・筆記用具(黒のボールペンなど)を指定する。
レイアウトの問題罫線と文字の重なり、記入枠からのはみ出し。帳票フォーム自体の改善(記入枠を大きくする、罫線を点線にするなど)。
画像の品質低解像度、影、傾き、照明のムラ。・高解像度(300dpi推奨)のスキャナを導入する。・スキャン時のガイドラインを徹底する。
特殊な文字旧字体の漢字、業界特有の記号など、学習データ不足。・辞書登録機能がある製品を選ぶ。・特定の帳票に追加学習を行わせる。

ここでの重要な教訓は、「AIの性能は、AIエンジンだけでなく、入力される『帳票の品質』に大きく左右される」という事実です。 AI-OCRの導入は、IT部門だけの仕事ではありません。例えば、帳票の記入枠を少し大きくする、記入者にはっきりとした文字で書いてもらうよう依頼する、高品質なスキャナを導入するといった「上流工程」での小さな改善が、最終的な認識精度を劇的に向上させ、業務全体の効率を大きく左右するのです。

第4章:AI-OCR導入を成功させる実践ガイド

概要

AI-OCRの価値は、RPAと連携させることで最大化され、業務プロセス全体の自動化を実現します。導入成功の鍵は、「AI-OCRは人間を補助する賢い部下である」と理解し、完璧を求めずに業務フローを設計することです。金融、医療、公共など様々な業界での成功事例は、その高い投資対効果を証明しています。

4-1. AI-OCRは単体で使わない。RPA連携で「業務全体」を自動化する

AI-OCRの真価は、他のテクノロジーと組み合わせることで爆発的に高まります。特に、PC上の定型作業を自動化するRPA (Robotic Process Automation、ロボットによる業務自動化)との連携は、絶大な相乗効果を生み出します。

  • AI-OCR: 紙の書類からデータを読み取る「目」の役割
  • RPA: 読み取ったデータを会計システムなどに入力する「手」の役割

この連携により、請求書の受領から支払い処理、基幹システムへの登録まで、一連の業務プロセスを人の手を介さずに完結させる「エンドツーエンドの自動化」が可能になります。

要するに、AI-OCRで自動化できるのは「入力」という一つの作業ですが、RPAと組ませることで「請求書処理」といった「業務そのもの」を丸ごと自動化の対象にできるのです。 これは、単なる効率化を超え、業務のあり方そのものを変革する「ハイパーオートメーション」への第一歩です。

関連記事: 『AI-RPAとは?従来のRPAとの違いと導入メリットを徹底解説』

4-2. 【業界別】AI-OCRはこう使われている!金融・医療・公共の成功事例

AI-OCRは、すでに多くの業界で目覚ましい成果を上げています。

【図表6】業界別ケーススタディと定量的成果

業界導入組織の例導入成果
金融ある地方銀行住宅ローン関連書類の入力業務に導入し、年間約1,000時間の業務時間を削減。
医療ある大学病院AI-OCRとRPAを連携させ、様々な事務作業を自動化。年間約9,800時間という驚異的な時間削減を達成。
医療ある総合病院AI搭載の問診システムを導入し、患者の院内滞在時間を約50%短縮
公共ある地方自治体ふるさと納税の申請書処理やアンケート集計業務に導入し、作業時間を最大約83%削減

これらの事例が示すのは、AI-OCRが従業員を反復的なデータ入力作業から解放し、より付加価値の高い業務(顧客対応の改善や企画立案など)に集中させるための強力な武器になるという事実です。

4-3. 失敗しないための選定ポイントと運用のコツ

AI-OCR導入を成功に導くためには、以下の点を押さえることが重要です。

  1. チェック体制の変革:「人間 vs AI」ではなく「人間 + AI」へ
    「AIの精度は100%ではない」という事実は、導入をためらう理由にはなりません。なぜなら、人間の作業精度もまた100%ではないからです。疲労による見落とし、思い込みによる転記ミス、そもそも記入者による記入漏れなど、ヒューマンエラーは常に発生します。これまで企業は、このヒューマンエラーを防ぐために、担当者と上長による「人間同士のダブルチェック」という、多大な時間とコストのかかる方法に頼ってきました。
    AI-OCRの導入は、このチェック体制を「AIによる一次チェック + 人間による最終確認」という、より高度で効率的な体制へと進化させる絶好の機会です。AIは疲れ知らずで、ルール通りのチェックを瞬時に実行します。人間は、AIが「自信がない」と判断した箇所や、そもそもルール化できないような例外的な判断に集中する。この「AIと人間の協業」こそが、ヒューマンエラーを最小化し、業務全体の品質とスピードを飛躍的に向上させる鍵なのです。
  2. AIを「育てる」という視点を持つ: AI-OCRの真価は、その学習機能にあります。導入初期の精度が全てではありません。ユーザーが誤認識を修正すると、その内容をAIが学習し、使えば使うほど自社の業務(特定の帳票の癖や専門用語など)に最適化され、賢くなっていきます。この**「フィードバックループ」**を回し、AIを自社の優秀な新入社員のように「育てていく」という長期的な視点が、投資対効果を最大化します。
  3. 手書き・非定型帳票への対応力で選ぶ: 自社で扱う帳票の種類を分析し、特に手書き文字や多様なフォーマットへの対応力が高い製品を選定します。必ず自社の実際の帳票でトライアルを行い、実用的な精度が出るかを確認しましょう。
  4. 「明日からできる」スモールスタートを意識する: 全社一斉の壮大な計画は、しばしば頓挫します。まずは「経理部門の請求書処理だけ」「特定の営業所の交通費精算だけ」のように、成果が出やすく、関係者も少ない業務に絞って導入しましょう。小さな成功体験を積み重ね、その効果を社内に示すことが、全社展開をスムーズに進める最も確実な方法です。

第5章:AI-OCRの未来:生成AIとの融合が拓く次なる地平

概要

AI-OCRは、単なる文字の読み取りツールから、文書の「意味」を理解するインテリジェントなプラットフォームへと進化しつつあります。Grand View Researchの調査によれば、インテリジェント・プロセス・オートメーション市場は今後も力強い成長が見込まれており(4)、その中核を担うのが、ChatGPTなどで知られる「生成AI」との融合です。これは、企業内に眠る契約書や報告書といった「情報の宝の山」から、ビジネス価値を引き出す時代の幕開けを意味します。

5-1. 現在の課題と研究の最前線

AI-OCRは目覚ましい進化を遂げましたが、まだ克服すべき課題も残されています。

  • コストと複雑性: 高機能な製品は導入・運用コストが高く、中小企業にとっては障壁となる場合があります。また、既存システムとの連携には専門知識が求められることもあります。
  • 法的・倫理的考察: 医療記録のような機密情報を扱う際のプライバシーとデータ保護は最重要課題です。また、情報処理推進機構(IPA)の「AI白書」でも指摘されているように(2)、AIの学習データに偏りがあることで生じる「アルゴリズムのバイアス」(例えば、特定の書き方の文字だけを苦手とするなど、不公平な結果を生むリスク)は、倫理的な観点から継続的に監視・是正していく必要があります。

研究の最前線では、より高性能なAIアーキテクチャ(Transformerモデル:文脈理解能力がさらに高い、より賢いAIの脳みそ)への移行や、本物そっくりの手書き文字をAIに生成させて学習データを増やすといった、現在の限界を突破するための研究が活発に進められています。

5-2. 「文字を読む」から「意味を理解する」へ。生成AIとの融合

AI-OCRの次なる進化の方向性は、生成AIとの融合にあります。

従来のAI-OCRが得意としてきたのは、請求書番号や日付といった決まった項目を正確に抽出(Extract)することでした。

しかし、生成AIと融合することで、AI-OCRは契約書の条文や顧客からの問い合わせメールといった、形が決まっていない文章(非構造化データ)の意味を理解(Understand)する能力を獲得します。

【図表7】AI-OCRの進化:「抽出」から「理解」へ

比較軸従来のAI-OCR【未来】生成AIと融合したAI-OCR
主要な能力抽出 (Extract)理解 (Understand)
処理対象請求書番号、日付、金額などの「構造化データ」契約条文、メール本文、報告書などの「非構造化データ」
提供価値データ入力の自動化、効率化文書内容に基づく判断支援、知見の創出
実現するタスク・支払伝票への自動転記・顧客リストの作成契約書のリスク要約問い合わせ内容の自動分類マニュアル内容に関する対話応答

これがビジネスに何をもたらすのか? まさにゲームチェンジです。

未来のAI-OCRは、世界的な調査会社であるGartnerも提唱する「インテリジェント・ドキュメント・プロセッシング(IDP: Intelligent Document Processing)」(3)、すなわち「知的な文書処理」の中核となり、企業内に眠る膨大な文書という“知の資産”を解き放ち、ビジネスの意思決定を直接支援する“賢い相談役”へと進化していくのです。

関連記事: 『生成AIはワークフローをどう変えるか?申請・承認業務の未来予測』

結論:AI-OCRは単なる効率化ツールから、企業の知見を引き出すエンジンへ

本記事では、AI-OCRがディープラーニングによって従来技術の限界をいかにして克服し、手書き文字や非定型帳票の認識という長年の課題を解決したかを、ビジネスの視点から解説しました。ベンダーが謳う「99%」の精度はあくまで理想値ですが、その能力と限界を正しく理解し、適切な運用プロセスを設計すれば、AI-OCRは多くの業界で絶大な投資対効果を発揮する実用的なソリューションです。

総務省の調査が示すように、日本企業にとって生産性の向上は待ったなしの課題です(1)。 AI-OCRは、その解決策の第一歩として、最も導入しやすく、かつ効果を実感しやすいテクノロジーの一つと言えるでしょう。

しかし、AI-OCRの導入を単なる「紙業務の効率化」で終わらせてはなりません。

RPAとの連携によるハイパーオートメーションの実現、そして生成AIとの融合による「文書理解」への進化。AI-OCRは、企業のデジタルトランスフォーメーション戦略において、より広範で戦略的な役割を担う礎石です。それは、社内に眠る膨大な非構造化データという“資産”から価値ある知見を引き出し、データ駆動型の意思決定と真の業務変革を実現するための強力なエンジンとなるでしょう。

この進化の最前線で、私たちVeBuIn株式会社は、お客様のビジネスを加速させるためのAIソリューションを提供しています。VeBuIn株式会社のAIチームは、大学でAIカリキュラムを取得し、最先端のAI理論を学んだ技術者、AI理論を学んだメンバーで構成されています。私たちは、お客様のビジネスに最適化された独自のAI開発も積極的に承ります。特にAI-OCRや映像認識ソリューションの分野では豊富な経験を有しており、お客様のDXを強力にサポートします。

私たちが提供する「ジュガール経費精算」は、すでに領収書や請求書の読み取り、AIによる自動仕訳や重複申請チェックといった高度な機能で、経理部門の「入力レス」を実現しています。

そして、私たちはさらにその先を見据えています。現在、「ジュガールワークフロー」には、あらゆる帳票に対応する「汎用AI-OCR」の搭載を予定しています。これにより、経費精算に留まらず、人事、総務、営業、製造といったあらゆる部門で発生する、多種多様な紙の帳票を、部門横断でデジタル化し、業務プロセスを根底から変革します。これは、真の全社的なDXを実現するための、私たちからの約束です。まずは身近な帳票処理の自動化から、私たちと共に未来への一歩を踏み出しませんか。

AI-OCR導入に関するよくある質問(FAQ)

Q1: AI-OCRの導入には、どのくらいの費用がかかりますか?

A1: 費用は、読み取る帳票の枚数に応じた従量課金制が一般的ですが、初期費用や月額基本料が必要な場合もあります。クラウド型かオンプレミス型か、またRPAなど他ツールとの連携の有無によっても大きく異なります。まずは複数のベンダーから見積もりを取り、自社の利用規模に合った料金プランを比較検討することが重要です。

Q2: 導入までには、どのくらいの期間が必要ですか?

A2: クラウド型のサービスで、対象帳票が少ない場合は、契約から数週間で利用開始できることもあります。しかし、基幹システムとの連携や、複雑な帳票の読み取り設定が必要な場合は、数ヶ月単位のプロジェクトになることもあります。「スモールスタート」で特定の業務から始めることで、導入期間を短縮できます。

Q3: セキュリティは安全ですか?クラウド上のデータはどのように保護されますか?

A3: 非常に重要なポイントです。信頼できるベンダーは、データの暗号化、厳格なアクセス制御、IPアドレス制限、監査ログの取得といった多層的なセキュリティ対策を講じています。また、ISO27001(ISMS)などの第三者認証を取得しているかも、選定の際の重要な指標となります。

Q4: どんな帳票でも読み取れますか?苦手な帳票はありますか?

A4: 活字で書かれた標準的な帳票は得意ですが、極端に崩れた手書き文字、デザイン性の高い帳票、背景に濃い色や模様がある帳票、あるいはFAXで受信した不鮮明な画像などは、認識精度が低下する傾向があります。導入前に、自社で最も多く扱う帳票でトライアルを行い、実用的な精度が出るかを確認することが不可欠です。

Q5: 導入後、自社で運用していくことは可能ですか?専門のIT担当者は必要ですか?

A5: 多くのクラウド型AI-OCRツールは、プログラミング知識がなくても直感的に操作できるように設計されています。そのため、基本的な運用は現場の担当者でも十分可能です。ただし、会計システムなど他システムとの高度な連携(API連携など)を行う場合は、IT部門やベンダーのサポートが必要になることがあります。

引用・参考文献

  1. 情報処理推進機構(IPA), 「AI白書2023」 https://www.ipa.go.jp/publish/wp-ai/ai-2023.html
    (AI技術の最新動向や社会実装における課題に関する専門機関の見解として参照)
  2. Gartner, “Magic Quadrant for Intelligent Document Processing Platforms” (インテリジェント・ドキュメント・プロセッシング(IDP)市場の技術トレンドや主要ベンダーの評価に関するグローバルなリサーチとして参照。具体的なURLはサブスクリプションに依存するため、レポート名で記載)
  3. Grand View Research, “Intelligent Process Automation Market Size, Share & Trends Analysis Report” https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/intelligent-process-automation-market
    (AI-OCRを含むインテリジェント・プロセス・オートメーション市場の規模と成長予測に関するデータとして参照)
  4. MarketsandMarkets, “AI-powered OCR Market – Global Forecast” (AI-OCR市場に特化した市場規模、成長ドライバー、技術トレンドに関する分析として参照。具体的なURLはサブスクリプションに依存するため、レポート名で記載)

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記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。

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