【構造整理】脱ハンコがうまくいかない理由と、設計で見直すべき視点

目次

この記事のポイント

  • 脱ハンコがうまくいかない原因は、ツールではなく「判断と承認の設計」が整理されていないことにある
  • 業務単位ではなく、承認構造全体で考えないと分断が生まれる
  • 脱ハンコを成功させる鍵は、「人が判断する領域」と「仕組みに任せる領域」を切り分けること

はじめに

脱ハンコに着手した企業が感じやすい停滞感

脱ハンコに取り組み始めた企業の多くが、途中で似たような違和感に直面します。
紙の書類は確かに減った。押印のための出社も少なくなった。それでも、「思ったほど業務が楽になっていない」「承認は相変わらず滞る」という感覚が残るのです。

当初は前向きだった現場からも、「結局、何が変わったのか分からない」「以前より分かりにくくなった」といった声が上がり始めます。

「紙は減ったが、業務は前に進んでいない」現実

この停滞感の正体は、決して珍しいものではありません。
多くの企業で起きているのは、紙を減らすこと自体には成功したが、業務の進み方は変わっていないという状態です。

申請や承認の画面はデジタルになっても、確認の回数や判断の重さ、差戻しの多さは以前と同じ。結果として、「紙のときより楽になった」と実感できないまま、形だけの電子化が続いてしまいます。

本記事のスタンス|失敗はツールではなく設計で起きている

こうした状況に直面すると、「選んだツールが悪かったのではないか」と考えがちです。
しかし本記事では、その見方を取りません。問題の多くは、ツールそのものではなく、業務や承認の設計が整理されないまま電子化が進んでいることにあります。

どこでつまずくのかを構造で整理する

本記事では、「脱ハンコがうまくいかない理由」を個別の事例や感覚論ではなく、構造として整理していきます。
なぜ進めているのに止まるのか。どこで判断が詰まり、何が変わらないまま残っているのか。

ツール選定の前に立ち止まり、設計のどこにズレがあるのかを一緒に見ていきましょう。

1. よくある脱ハンコの失敗パターン

PDF化で止まる、電子承認を入れても紙が残る、メール・口頭承認が復活する──脱ハンコが進まない三つの典型例と、その原因が「判断」と「承認」の設計不足にあることを示した図解。

脱ハンコに取り組んだものの、「思ったほど変わらなかった」「結局元に戻った」という声は少なくありません。そこには、特定のツールや人の問題ではなく、共通した失敗パターンがあります。この章では、現場でよく見られる三つのつまずきを整理します。

PDF化で止まってしまう

最も多いのが、「まずは紙をPDFにする」という段階で止まってしまうケースです。
印刷や押印は不要になったものの、書類の内容や承認の流れは従来のまま。単に提出方法が変わっただけで、判断や確認の負荷は何も変わっていません。

この状態では、「紙を印刷しないだけ」の電子化に留まります。承認者は結局、A4前提の資料を画面で読み、これまでと同じ判断を求められます。結果として、「紙の方が見やすかった」「確認しづらい」という不満が生まれ、電子化そのものが評価されなくなります。

電子承認を入れたのに紙が残る

次によくあるのが、電子承認を導入したにもかかわらず、紙が完全にはなくならないケースです。
一部の申請や承認だけを電子化し、残りは従来通り紙で運用していると、業務が分断されます。

たとえば、申請はシステム上で行うものの、最終決裁は紙の稟議書を回す。あるいは、添付資料だけは印刷して確認するといった運用です。この分断がある限り、承認者は二つの世界を行き来することになり、結果として「どちらも中途半端」な状態になります。

メール・口頭承認が復活する

もう一つの典型的な失敗が、メールや口頭での承認が復活するケースです。
「急ぎだから」「後でシステムに入れるから」といった理由で、正式な承認ルートを飛ばす対応が常態化します。

これは、電子化された承認フローが現場のスピード感や例外に対応できていないサインです。一度でも非公式ルートが便利だと認識されると、正式なフローは使われなくなります。結果として、脱ハンコ以前よりも判断の記録や責任の所在が曖昧になるという逆転現象が起きます。

これらの失敗に共通しているのは、紙をなくすことに意識が向き、判断や承認の設計が置き去りにされている点です。

2. なぜ失敗するのか|設計が抜け落ちるポイント

脱ハンコがうまくいかない現場を見ていくと、ツールや制度以前に、業務の捉え方そのものに共通したズレがあることが分かります。
この章では、特に失敗につながりやすい三つの設計上のポイントを整理します。

業務単位で考えてしまう落とし穴

脱ハンコの検討では、「まずは経費精算から」「次は稟議を電子化しよう」と、業務ごとに切り分けて考えられることが多くあります。一見、段階的で合理的に見える進め方ですが、ここに落とし穴があります。

経費、稟議、各種申請は、表面上は別の業務に見えても、裏側では同じ承認構造を共有しています。誰が確認し、誰が判断し、どこで責任を持つのか。この軸を整理しないまま、業務単位で電子化を進めると、部分最適に陥ります。

結果として、「経費は電子化されたが、最終判断は紙の稟議」「申請はオンラインだが、承認は別のルート」といった分断が生まれ、全体としては業務が前に進まなくなります。脱ハンコが進まない理由の多くは、業務を点で捉えてしまうことにあります。

「承認」の意味を定義していない

もう一つの大きな要因が、「承認とは何か」が曖昧なまま運用されていることです。
多くの現場では、確認と判断が同じ「承認」という言葉で扱われています。

たとえば、「内容を見ました」という確認と、「この内容で進めてよい」という判断は、本来まったく別の行為です。しかし紙の運用では、ハンコ一つで両方がまとめて処理されてきました。この状態のまま電子化すると、ハンコが画面上のボタンに置き換わるだけで、行為の重さは変わりません。

その結果、誰が責任を持って判断しているのかが見えにくくなり、承認者は慎重になり、差戻しや確認が増えます。ハンコをなくしても「承認が重い」ままなのは、意味が整理されていないからです。

例外を人で吸収し続けている

三つ目は、例外処理が人に依存したままになっていることです。
「このケースは急ぎだから」「今回は特別だから」といった判断が、特定の担当者や上司の経験に委ねられている現場は少なくありません。

紙の運用では、このような属人的な調整が暗黙のうちに機能してきました。しかし電子化すると、その曖昧さが一気に表に出ます。仕組みとして定義されていない例外は、電子フローの中では処理できず、結局メールや口頭に戻ってしまいます。

属人化している部分こそ、本来は設計で吸収すべき領域です。ここを整理しないまま脱ハンコを進めると、電子化はかえって業務を壊す結果になりかねません。

この三つのポイントに共通しているのは、紙をなくす前に、判断と責任の構造を整理できていないという点です。

脱ハンコが進まない要因として、業務単位で考えてしまうこと、承認の意味が曖昧なこと、例外対応を人が吸収していることが、結果的に形だけの電子化や承認の重さにつながっている構造を示した図解。

3. 紙の業務をそのまま電子化すると何が起きるか

脱ハンコに取り組む中で、多くの企業が選びがちな道があります。それが、「これまでの紙の業務を、そのまま画面に置き換える」という方法です。一見すると違和感が少なく、導入もしやすいのですが、この進め方は思わぬ負荷を生み出します。

押印欄を再現したフォームの弊害

電子申請のフォームに、紙の帳票と同じレイアウトを再現するケースは少なくありません。押印欄をそのまま残し、「どこにハンコを押していたか」が分かるようにする設計です。

しかし、この方法は見た目の安心感と引き換えに、本質を見失いやすくなります。紙の帳票は、物理的な制約や慣習の中で形作られてきました。その構造をそのまま持ち込むと、「なぜこの項目が必要なのか」「誰が見るための情報なのか」が整理されないまま残ります。

結果として、入力項目は多く、承認者は何を見て判断すればよいのか分からない。見た目は電子化されていても、業務の中身は紙のままという状態に陥ります。

A4前提の設計が承認者を疲弊させる

紙の帳票は、当然ながらA4サイズを前提に設計されています。この前提を引きずったまま電子化すると、特に承認者の負担が大きくなります。

スマートフォンやタブレットでは文字が小さく、全体像を把握しづらい。スクロールや拡大を繰り返しながら確認する作業は、判断の質を下げる原因にもなります。リモート環境では、なおさら「確認しづらい」という印象が強くなります。

判断に必要な情報が一目で把握できない画面構造は、承認者にとってストレスです。その結果、確認が後回しになったり、差戻しが増えたりと、承認が滞る要因になります。

承認者の負荷が増える逆転現象

紙の業務をそのまま電子化した場合、申請者と承認者の負荷のバランスが崩れることがあります。申請者は入力や提出が楽になる一方で、承認者は確認や判断がしづらくなるという逆転現象です。

申請件数が増えれば増えるほど、承認者の負担は蓄積します。「電子化したのに忙しくなった」という声が上がるのは、この構造が原因です。承認者が使いづらい仕組みは、やがて形骸化し、紙や口頭での処理が復活してしまいます。

脱ハンコを成功させるためには、申請者だけでなく、承認者が判断しやすい設計が不可欠です。次章では、こうした問題を避けるために、本当に整理すべき視点は何なのかを掘り下げていきます。

4. 脱ハンコで本当に整理すべき3つの視点

ここまで見てきたように、脱ハンコがうまくいかない原因は、紙やツールそのものではなく、判断や承認の前提が整理されていないことにあります。
この章では、電子化に進む前に必ず立ち止まって考えるべき三つの視点を整理します。

誰が判断しているのか

承認ルートには複数の名前が並んでいても、実際に判断している人は限られていることが多くあります。
形式的に回覧されている承認と、意思決定としての判断が混在している状態です。

紙の運用では、「とりあえず回す」「念のため見てもらう」といった曖昧な承認が許容されてきました。しかし電子化すると、その曖昧さがボトルネックになります。誰が判断責任を持つのかが見えないままでは、承認は重くなり、滞留します。

脱ハンコを進める上では、承認者の数を減らすこと自体が目的ではありません。重要なのは、「誰が最終的に判断しているのか」を明確にし、形式的な承認と切り分けることです。

どこまでを承認とするのか

次に考えるべきは、「どこまでを承認と呼ぶのか」という点です。
内容を確認した段階で承認とみなすのか、それとも責任を持って判断した時点なのか。この境界が曖昧なままでは、脱ハンコは進みません。

ハンコがあった時代は、押印という行為がその曖昧さを覆い隠してきました。しかし、ボタン一つで承認できるようになると、行為の意味が問われます。

承認とは何を引き受ける行為なのか。どこまで責任を持つのか。この整理ができて初めて、承認ルートや差戻しの扱いが現実に即したものになります。

どこからを仕組みに任せるのか

すべてを人が判断し続ける設計では、承認業務はいつまでも重たいままです。一方で、何でも仕組みに任せてしまうと、現場の柔軟性が失われます。

重要なのは、人がやるべき判断と、仕組みに任せられる業務を切り分けることです。
金額や条件で機械的に分岐できるもの、過去の判断と同じ処理ができるものは、仕組みで吸収できます。

一方、例外的な判断やリスクを伴う決定は、人が担うべき領域です。この境界を整理することで、承認業務は「止める工程」ではなく、「前に進めるための判断プロセス」に変わっていきます。

これら三つの視点が整理されていれば、脱ハンコは単なる電子化ではなく、業務設計の見直しとして機能します。

こうした整理ができないままツール導入に進むと、紙をなくしただけの「形だけ電子化」になりがちです。

ジュガールは、承認や判断を業務単位ではなく構造として捉えることを前提に、業務が分断されず、承認が前に進む状態を支えることを重視しています。失敗パターンを避けたい段階で、考え方の延長として検討されるケースが多いサービスです。

ここまで見てきたように、脱ハンコが失敗する理由は、「紙か電子か」ではなく、判断と承認をどう設計しているかにあります。

では、こうした失敗を避けるために、どこから、どの順番で設計を考えるべきなのか。

次の記事では、後戻りしにくい承認設計の考え方を、判断の順番という視点から整理します。

▶︎「脱ハンコを失敗させない承認設計の考え方はこちら」

5. ツール選定で間違えると戻れない理由

脱ハンコを進める段階になると、多くの企業が「どのツールを使うか」という判断に迫られます。しかし、この判断を誤ると、あとから設計を見直すことが難しくなります。
この章では、なぜツール選定が分岐点になるのかを整理します。

ツール先行が生む「形だけ電子化」

ツール選定の場面では、どうしても機能比較から入りがちです。
承認機能があるか、帳票が作れるか、電子署名に対応しているか。条件を並べていくと、要件は満たしているように見えます。

しかし、業務や承認の前提が整理されていないままツールを当てはめると、起きるのは「形だけ電子化」です。
紙の帳票やフローを、そのままシステムに移しただけでは、詰まりどころも責任の曖昧さも残ります。

一度ツールに業務を合わせてしまうと、「このやり方が前提」という空気が生まれ、後から構造を直しづらくなります。ツール先行は、改善の余地を自ら狭めてしまう選択でもあります。

続けられるかどうかという視点

ツール選定で見落とされがちなのが、「続けられるか」という視点です。
導入時に評価されるのは申請者の使いやすさですが、実際に毎日向き合うのは承認者や管理側です。

申請は楽になったが、承認は見づらい。管理側は運用調整に追われる。
こうした分断が起きると、現場は次第にツールを避け、紙やメール、口頭承認が復活します。

脱ハンコを成功させるには、現場、承認者、管理側のいずれかに負荷が偏らない設計が不可欠です。「導入できるか」ではなく、「無理なく使い続けられるか」が判断基準になります。

承認業務を前提から支えるという考え方

ジュガールでは、ツールを業務改善の出発点とは考えていません。
先にあるべきなのは、「誰が、何を判断し、どこで責任を持つのか」という承認構造の整理です。

ツールは、その判断構造を支えるための存在です。
判断を分かりやすくし、承認を滞らせず、例外にも対応できる。そうした前提を受け止められる器でなければ、脱ハンコは定着しません。

ジュガールが目指しているのは、紙をなくすことではなく、承認業務が前に進む状態をつくることです。
ツール選定を「最後の工程」と捉え直すことで、脱ハンコは単なる電子化ではなく、業務設計の改善として機能し始めます。

おわりに

本記事のまとめ

本記事では、脱ハンコがうまくいかない理由を、ツールや制度の問題ではなく、設計の抜け落ちという視点から整理してきました。
業務単位で考えてしまうこと、承認の意味を定義していないこと、例外を人に任せ続けていること。これらが重なると、電子化は形だけのものになり、現場はかえって疲弊します。

失敗は事前に避けられる

重要なのは、こうした失敗の多くが「導入してみないと分からないもの」ではないという点です。
判断や責任の構造を事前に整理し、どこで人が関与し、どこを仕組みに任せるのかを考えておけば、脱ハンコは無理なく進められます。

川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。