【2025年最新版】内部統制と効率を両立する承認フロー設計ガイド|失敗しない7つのステップと実践事例

目次

この記事のポイント

  • 承認フローが遅延・形骸化してしまう構造的な原因
  • 内部統制と業務効率を両立させるための具体的な設計原則
  • 現状分析からシステム導入まで、承認フローを改善するための実践的な5ステップ
  • 自社に最適なワークフローシステムを選び抜くための9つのチェックポイント
  • 導入後の定着化と、継続的に改善を続けるためのPDCAサイクルの回し方

はじめに:その「承認フロー疲れ」、個人の努力で解決できますか? 

「重要案件の承認が、担当役員の出張で1週間も止まっている」

「申請の進捗が分からず、関係部署に何度も確認の連絡を入れている」

「些細な不備で差し戻され、また一からやり直す羽目になった」

多くの企業で、このような「承認フロー疲れ」とも言うべき状況が常態化しています。この非効率性は、単なる現場のストレスに留まらず、組織全体の生産性を蝕み、時には重要なビジネスチャンスを逸失させる深刻な経営課題です。

多くの現場では、この問題の原因を「承認者が多忙で後回しにしている」「ルールが複雑すぎる」といった、個人や個別のルールに帰結させがちです。しかし、それは問題の表層を捉えているに過ぎません。一人の担当者の不在が組織全体の意思決定を停滞させてしまうという事実そのものが、個人の問題ではなく、より根深い「仕組み」の欠陥を示唆しています。

特に、稟議プロセスにおける遅延は多くの企業が抱える共通の悩みです。その根本的な原因は、業務プロセスと情報がバラバラに管理されている「情報とプロセスの分断」にあります。

本稿は、承認フローの設計に特化し、単なる対症療法ではない、組織改革のための具体的な指南書です。「内部統制の強化」と「業務効率の向上」という、本質的に二律背反の関係にある二つの要求をいかに両立させるか。そのための戦略的な設計原則から、実践的な導入・改善ステップ、そしてそれを支えるテクノロジーの選び方までを網羅的に解説します。

第1章:なぜ、あなたの会社の承認フローは機能しないのか? 

概要

多くの承認フローが機能不全に陥る根本原因は、その戦略的重要性が理解されず、場当たり的に設計・運用されているからです。承認フローは単なる事務手続きではなく、企業のガバナンスと競争力を支える経営基盤そのものであるという認識の欠如が、非効率とリスクの温床となっています。

1-1. 承認フローと承認ルートの定義を正しく理解していますか?

承認プロセスの設計を論じる上で、まず「承認フロー」と「承認ルート」という二つの基本用語を正確に理解することが不可欠です。これらはしばしば混同されますが、その概念には明確な階層関係が存在します。

用語焦点業務上の捉え方
承認フロー (Flow)業務プロセス全体 (What/Why)「旅行全体のプラン」
目的達成のための開始から完了までの一連の流れ。業務全体の設計図。
承認ルート (Route)個別の承認者・順番 (Who/How)「具体的な移動経路」
プラン内の各ステップにおける、具体的な承認者の道筋。設計図の部品。

多くの改革プロジェクトが陥りがちな失敗は、業務プロセス全体(フロー)を見直さずに、現状の承認者のハンコの流れ(ルート)をそのままシステム化してしまうことです。本来あるべきアプローチは、まず「この業務は、最終的にどのような状態になるべきか」というビジネスプロセス全体(=フロー)を定義し、その上で必要な承認ステップ(=ルート)を論理的に組み込む「フローを先に、ルートを後に」という原則です。

1-2. 承認フローが果たすべき3つの戦略的目的とは?

適切に設計された承認フローは、単なる事務手続きの効率化ツールではなく、企業のガバナンスと経営品質を支える戦略的な基盤として機能します。

目的WHAT:何を目指すか?HOW:どのように実現するか?(具体例)
内部統制の強化不正や誤謬を防ぎ、組織として適切な意思決定を担保する。複数人によるチェック、職務分掌の徹底、権限規程の遵守。
記録の明確化とトレーサビリティ意思決定の経緯を、改ざん不可能な客観的証拠として残す。「誰が・いつ・何を・なぜ」承認したかの監査ログを自動記録する。
適切な意思決定の促進専門部署のレビューなどを通じ、判断の精度を高める。契約書は法務部、予算超過は経理部など、合議ルートを設計する。

1-3. 不適切な承認フローがもたらす深刻な経営リスクとは?

前述の戦略的目的が達成されない、すなわち不適切に設計・運用されている承認フローは、組織に深刻な経営リスクをもたらします。

リスクの種類具体的な内容企業への影響
プロセスの非効率性紙の回覧や承認者不在により、業務が頻繁に停滞する。意思決定が遅延し、ビジネスチャンスを逸失。組織全体の生産性が低下する。
透明性の欠如申請の進捗がブラックボックス化し、状況把握が困難になる。進捗確認という付加価値のない業務が増加。不正やミスの温床となる。
ガバナンス・コンプライアンス形骸化したルールが守られず、権限のない承認が行われる。監査での指摘や、企業の社会的信用の失墜に繋がり、経営基盤を揺るがす。

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第2章:監査にも耐えうる「守り」の承認フロー設計原則とは? 

概要

内部統制の観点から堅牢な承認フローを設計するには、①職務権限規程との完全な整合性、②改ざん不可能な証跡管理の徹底、③職務分掌に基づく牽制機能のシステム的な組み込み、という3つの原則が不可欠です。これらは、組織の公式ルールに基づき、不正を許さない仕組みを構築するための土台となります。

2-1. なぜ「職務権限規程」がすべての基本となるのか?

承認フロー設計における絶対的な拠り所は、社内で定められた「職務権限規程」です。この規程は、各役職がどのような事項について、どの範囲まで自己の責任で決定できるかを定めた、組織の権限体系の憲法とも言える文書です。

したがって、設計されるすべての承認ルートは、この職務権限規程の内容を忠実に反映したものでなければなりません。

【職務権限規程のサンプル(抜粋)】

決裁事項金額決裁権者備考
物品購入100万円未満部長
100万円以上 500万円未満事業部長
500万円以上取締役会
契約締結300万円未満部長新規取引先は法務合議必須
300万円以上事業部長法務・経理合議必須

もし、この規程が存在しない、あるいは形骸化している場合、それは承認フロー設計以前のガバナンス上の重大な欠陥です。その場合は、承認フローの電子化プロジェクトを、職務権限規程を再整備する絶好の機会と捉えるべきです。

2-2. どのような「証跡(監査ログ)」を管理すべきか?

内部統制の有効性を事後的に証明するためには、客観的で改ざん不可能な証跡(監査ログ)が不可欠です。ワークフローシステムを導入する場合、以下の項目が全ての操作に対して自動的に、かつ変更不可能な形で記録される機能が必須となります。

  • 誰が (Who): 操作を行ったユーザーID
  • いつ (When): 操作が行われた日時(タイムスタンプ)
  • どの申請に対して (What): 一意に識別可能な申請ID
  • どのような操作を (Action): 申請、承認、差し戻し、決裁等の具体的なアクション
  • どのような理由で (Why): 承認者や差し戻し者が付記したコメント

これらのログは、J-SOX対応で作成が求められる「3点セット(業務記述書、フローチャート、RCM)」の有効性を裏付ける直接的な証拠となります。監査対応の効率化と信頼性向上に直結する、極めて重要な機能です。

2-3. なぜ「職務分掌」と「牽制機能」をシステムに組み込むべきか?

内部統制の基本原則の一つに「職務分掌(Segregation of Duties)」があります。これは、業務プロセスを複数の担当者に分離することで、相互に牽制させ、エラーや不正を防止する考え方です。

  • 申請者と承認者の分離: 申請者自身が自分の申請を承認できる(自己承認)フローは、原則として認められるべきではありません。
  • プロセス全体の分掌: 例えば、購買業務において、「取引先の登録」「発注申請」「納品検収」「支払い依頼」をそれぞれ異なる担当者が担うようにフローを設計します。

最新のワークフローシステムは、こうした組織のガバナンスルールをプログラムのロジックとしてシステムに実装します。これにより、ルール遵守は従業員の注意力に依存するのではなく、システムが逸脱を許さない動的な仕組みへと昇華され、J-SOX法などが求める内部統制の信頼性を飛躍的に向上させます。

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【第2章のまとめ】内部統制を担保する3つの設計原則

原則具体的なアクション目的
職務権限規程との整合性規程に基づき、決裁金額や申請内容に応じた承認ルートを設計する。規程がなければ再整備する。組織の公式な権限体系をフローに反映させ、正当性を担保する。
証跡(監査ログ)管理「5W1H」に基づき、誰が・いつ・何をしたかの記録を自動的かつ改ざん不能な形で保存する。プロセスの透明性を確保し、監査対応を効率化。不正の抑止力とする。
職務分掌と牽制機能申請者と承認者を分離し、一連の業務を複数担当者で分担するルールをシステムに組み込む。相互牽制により、エラーや不正のリスクを低減する。

第3章:意思決定を加速させる「攻め」の承認フロー設計原則とは? 

概要

内部統制を確保しつつビジネスのスピードを阻害しないためには、①ボトルネックとなる冗長なステップの徹底的な排除、②申請内容に応じて最適な承認ルートパターンを戦略的に活用すること、③適切な権限移譲と代理承認ルールを整備することが求められます。これらは、承認フローからあらゆる非効率性を排除し、業務の流れを最適化するための原則です。

3-1. 承認フローのボトルネックをどう特定し、排除するか?

承認フロー効率化の最初のステップは、現状のプロセスを批判的な視点で見直し、冗長なステップや不要な承認者を洗い出すことです。特に、「慣例として承認者に含まれているだけで、実質的なチェック機能を果たしていない」形骸化した承認者は、プロセスの遅延を招く最大の要因です。

承認ルートは、その申請内容を判断するために必要最小限の人数で、可能な限りシンプルに構成するのが基本原則です。各承認ステップの必要性を再定義し、不要と判断されたステップは大胆に削減する勇気が求められます。

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3-2. 効率と統制を両立させる承認ルートパターンとは?

すべての申請が一律のルートを辿る必要はありません。申請の種類や重要度に応じて、最適な承認ルートパターンを戦略的に使い分けることで、効率と統制を両立させることが可能になります。

  • 直線型 (Linear): 申請から決裁までが一方向に進む最もシンプルな形式。日常的な経費精算や休暇申請に適しています。
  • 条件分岐型 (Conditional Branching): 申請書に入力された内容、特に「金額」に応じて、承認ルートがシステムによって自動的に分岐する形式。少額案件の迅速化と高額案件の統制を両立させる上で極めて有効です。
  • 並列型(合議型)(Parallel/Concurrent): 複数の部門や担当者が、順番を待つことなく同時に承認作業を進める形式。決裁までの時間を大幅に短縮できます。全員の承認が必要な「AND承認」や、誰か1名の承認で進む「OR承認」などがあります。
  • 指名型 (Appointer-Designated): 承認者が案件の内容に応じて、次の承認者を指名または追加できる柔軟な形式。専門的な知見を取り入れられますが、ルートが長期化するリスクもあります。

【第3章のまとめ】承認ルートタイプ別 比較分析表

ルート種別概要主な用途メリットデメリット・注意点
直線型事前に定められた承認者を一方向に順に進む。日常的な経費精算、休暇申請・プロセスがシンプルで分かりやすい
・導入と管理が容易
・承認者が多いと時間がかかる
・承認者不在時の停滞リスクが高い
条件分岐型申請内容(金額など)に応じてルートが自動分岐。購買申請、稟議決裁・不要な承認ステップを削減
・適切な権限者へ直接回付され迅速化
・分岐条件の設計が複雑になる場合がある
・職務権限規程との厳密な整合性が必要
並列型-AND承認複数の承認者が同時に作業し、全員の承認が必要。新規プロジェクト計画、重要契約・多角的なレビューが可能
・リードタイムを短縮できる
・承認者の一人がボトルネックになりやすい
・意見調整が必要になる場合がある
並列型-OR承認複数の承認者が同時に作業し、1名の承認で完了。複数担当者で対応可能な定型業務・意思決定が非常にスピーディ
・承認者の負荷を分散できる
・責任の所在が曖昧になる可能性
・重要な意思決定には不向き
指名型承認者が次の承認者を都度指名または追加。専門的な知見が必要な案件・状況に応じた柔軟な対応が可能
・判断の質を向上できる
・ルートが長くなり遅延の原因になりやすい
・乱用は避けるべき

3-3. なぜ「権限移譲」と「代理承認」のルールが重要なのか?

  • 権限移譲の明確化
    すべての決裁を経営層に集中させるのではなく、現場に近い役職者へ適切に権限を委譲することが、組織全体の意思決定スピードを向上させる鍵となります。このルールは職務権限規程に明記し、条件分岐型の承認ルートとしてシステムに実装されるべきです。
  • 代理承認ルールの整備
    承認プロセスにおける最大の遅延原因の一つが「承認者の不在」です。担当者の出張や休暇によって承認が滞る事態を避けるため、各承認者に対して、不在時に誰がその権限を代行するかを事前にシステム上で設定しておくことが極めて重要です。これにより、個人の都合に左右されない、安定した業務フローが保証されます。

第4章:【実践ガイド】承認フロー設計・改善を成功させる5つのステップ 

概要

成功する承認フロー改革は、思いつきや部分的な修正ではなく、体系的なアプローチによって実現します。①現状業務の可視化 → ②課題の特定と目標設定 → ③新承認フローの設計 → ④関係者レビューと調整 → ⑤規程・マニュアルへの反映という5つのステップを踏むことで、現場の実態に即した、実効性の高いプロセスを構築できます。

  1. 現状業務の可視化 (As-Is Analysis)

    いかなる改善も、まずは現状を正確に把握することから始まります。関係者へのヒアリングを通じて、社内に存在するあらゆる申請業務を洗い出し、現在のプロセスをフローチャートとして図示します。この作業は、J-SOX対応で求められる「3点セット」のうち、業務記述書とフローチャートの現状(As-Is)版を作成するプロセスそのものです。これにより、「誰が」「何をして」「誰に渡しているか」という一連の流れが客観的に可視化され、問題の所在が明確になります。

  2. 課題の特定と目標設定 (KPI)

    可視化されたフローチャートを基に、「無駄なフロー」「滞りやすいプロセス(ボトルネック)」「不要な承認ステップ」といった課題を特定します。次に、改善のゴールを具体的かつ定量的な目標、すなわちKPI(Key Performance Indicator)として設定します。
    効率性KPIの例:
    平均承認リードタイム: 申請から最終決裁までの平均時間(目標:5営業日→2営業日)
    品質KPIの例:
    差し戻し率: 内容不備で差し戻された申請の割合(目標:15%→5%未満)
    コストKPIの例:
    ペーパーレス化率: 電子化された申請件数の割合(目標:10%→90%以上)

  3. 新承認フローの設計 (To-Be Design)

    設定したKPIを達成するための、理想的な新しい承認フロー(To-Beモデル)を設計します。第3章で解説した承認ルートパターン(直線型、条件分岐型、並列型)を、申請の種類や金額に応じて最適に組み合わせ、ゼロベースで最も効率的かつ統制の取れたプロセスを構想します。

  4. 関係者レビューと調整

    設計した新承認フローは、あくまで「仮説」です。現場の申請者、各部門の承認者、管理部門の担当者など、関係者によるレビューとフィードバックを通じて、机上の空論を現実的で実行可能なものへと磨き上げます。この合意形成のプロセスが、導入後のスムーズな定着と現場の抵抗を最小限に抑える鍵となります。

  5. 規程・マニュアルへの反映

    最終的に決定した新承認フローは、必ず公式な文書に反映させます。変更された決裁権限や承認ルートを「職務権限規程」に追記・修正し、新しい申請・承認の手順を「業務マニュアル」として整備します。これにより、新しい承認フローは組織の公式なルールとして位置づけられ、その正当性が担保されます。

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【第4章のまとめ】承認フロー改革 5つのステップ

ステップ主な活動内容成功のポイント
1. 可視化ヒアリングとフローチャートで現状の業務プロセス(As-Is)を正確に把握する。思い込みを排除し、事実ベースで作成する。関係者を巻き込む。
2. 目標設定ボトルネックを特定し、「承認時間50%削減」など定量的なKPIを設定する。具体的で測定可能な目標を設定し、改革のゴールを明確にする。
3. 設計KPI達成のため、最適な承認ルートパターンを組み合わせた理想のフロー(To-Be)を設計する。現状の制約に囚われず、ゼロベースで最も効率的なプロセスを構想する。
4. 調整設計案を関係者とレビューし、現場の実態に合わせて調整・合意形成を行う。現場の意見を尊重し、実用的なプロセスへと磨き上げる。
5. 公式化決定した新フローを職務権限規程や業務マニュアルに反映させ、組織の公式ルールとする。改革を一過性で終わらせず、組織の制度として定着させる。

第5章:失敗しないワークフローシステムの選び方とは? 概要

最適なワークフローシステムを選定するためには、まず「稟議の承認時間を50%削減する」といった具体的な導入目的(KPI)を明確にすることが不可欠です。その上で、①機能要件、②操作性、③連携性、④セキュリティ、⑤サポート体制という多角的な基準で候補製品を客観的に評価し、自社のニーズに最も合致するシステムを見極める必要があります。

5-1. なぜ、導入目的の明確化が最も重要なのか?

「業務効率化」「ペーパーレス化」といった漠然としたスローガンだけでは、関係者間でゴールの認識がずれ、導入自体が目的化してしまいます。

「購買稟議の平均承認リードタイムを、現状の5営業日から2営業日へ60%削減する」

「経費精算の差し戻し率を、現状の15%から5%未満に低減させる」

このように定量的な目標を設定することで、後の機能要件定義や製品選定において、判断のブレない明確な軸を持つことができます。

5-2. 自社に最適なシステムを見極める9つのチェックポイント

市場には多種多様なワークフローシステムが存在します。その中から自社に最適な一社を選び抜くためには、以下のチェックリストを活用した多角的な視点からの評価が有効です。特に、システムの連携性は、業務全体の自動化を実現する上で極めて重要なポイントとなります。

【第5章のまとめ】ワークフローシステム選定チェックリスト

カテゴリチェックポイント確認すべきこと
1. 機能要件複雑な承認ルートへの対応金額や申請内容に基づく条件分岐、並列承認(AND/OR)に柔軟に対応できるか?
柔軟なフォーム設計プログラミング知識なしで、直感的に申請フォームを作成・修正できるか?
2. 操作性 (UI/UX)直感的なインターフェースITに不慣れな従業員でもマニュアルなしで操作できるほどシンプルか?
モバイル対応スマートフォンアプリの操作性は高く、外出先からでもストレスなく申請・承認が可能か?
3. 連携性既存システムとの連携利用中の会計・人事システム、ERPなどと標準で連携できるか?
APIの提供汎用的なAPIが提供されており、個別開発による高度な業務自動化が可能か?
4. セキュリティ・統制監査ログ機能J-SOX法の要件を満たすレベルの監査ログが取得・保管されるか?
アクセス制御役職や部門に応じた詳細なアクセス権限設定や、IPアドレス制限などが可能か?
5. サポート体制導入・運用サポート導入時の初期設定支援や、運用開始後の問い合わせ対応は手厚いか?

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5-3. よくある導入失敗の典型パターンとその回避策

失敗パターンどのような問題か?どうすれば回避できるか?
現状プロセスの単純電子化導入目的が曖昧なまま、非効率な紙の承認ルートをそのままシステム化し、効果を実感できない。導入前に具体的なKPIを設定し、単なるツール導入ではなく「業務改革プロジェクト」であることを全社で共有する。
現場ニーズとの乖離機能の豊富さだけでシステムを選び、実際に使う現場の使いやすさを無視した結果、使われないシステムとなる。選定段階から現場のキーパーソンを巻き込み、複数製品のトライアル利用を必須とし、操作性を徹底比較する。
経営層の非協力経営層が「自分は紙で」と主張し電子化の例外となることで、システム全体の効果を著しく損なう。導入初期から経営メリットを具体的に提示し、トップダウンで改革を推進。トップ自身が率先して利用するよう働きかける。

第6章:導入して終わりではない!継続的な改善(PDCA)の仕組みとは? 

概要

ワークフローシステムの導入はゴールではなく、継続的な業務改善のスタートラインです。その価値を最大化し続けるには、①丁寧なコミュニケーションによる定着化支援、②KPIに基づく客観的な効果測定、そして③PDCAサイクルによる継続的な改善の仕組みを組織に根付かせることが不可欠です。

6-1. 導入したシステムをどうやって組織に定着させるか?

  • コミュニケーションと教育: 「なぜ変えるのか」「どう便利になるのか」を繰り返し丁寧に説明し、階層別の研修を実施して操作の不安を取り除きます。
  • スモールスタートと段階的展開: まずは特定の部署や業務から導入を開始し、成功事例を作ってから全社に展開することで、リスクを最小限に抑えつつスムーズな移行を促します。
  • フィードバックチャネルの確立: 現場からの改善要望を収集する公式なチャネルを設け、迅速にシステム改善に反映させていくことで、ユーザーの満足度と継続利用を高めます。

6-2. 導入効果を客観的に評価する方法とは?

導入前に設定したKPI(平均承認リードタイム、差し戻し率など)を、導入後も定期的にモニタリングします。「導入後、平均承認時間が48時間から24時間に短縮された」といった具体的な数値データは、プロジェクトの成功を経営層に報告するための最も説得力のあるエビデンスとなり、次なる改善への投資を正当化します。

6-3. なぜ、PDCAサイクルによる継続的改善が必要なのか?

ビジネス環境や組織は常に変化するため、一度設計した承認フローが永遠に最適であり続けることはありません。ワークフローシステムが自動的に蓄積する客観的な実行データを活用し、以下のPDCAサイクルを回す文化を醸成することが重要です。

  1. Plan (計画): KPIの測定結果や現場からのフィードバックを分析し、次の改善目標と具体的な改善策を計画する。
  2. Do (実行): 計画した改善策をシステム設定に反映させ、実行に移す。
  3. Check (評価): 一定期間後、再度KPIを測定し、計画通りに効果が現れたかを客観的に評価する。
  4. Action (改善): 評価結果に基づき、効果が確認された施策は定着させ、不十分であれば原因を分析し、次の計画へと繋げる。

このデータ駆動型のPDCAサイクルにより、業務改善はもはや個人の経験や勘に頼る属人的な活動ではなく、客観的なデータに基づいた科学的かつ継続的な経営活動へと進化するのです。

【第6章のまとめ】承認フロー改善のためのKPI指標例

評価軸KPI指標定義と計算式改善目標の例
効率性平均承認リードタイム申請提出から最終決裁までの経過時間の平均値48時間 → 24時間へ短縮
品質差し戻し率(差し戻し発生件数 ÷ 総申請件数) × 10015% → 5%未満へ削減
コストペーパーレス化率(電子化された申請書の件数 ÷ 全申請書の総件数) × 10020% → 95%へ向上
ユーザー満足度システム利用満足度スコア従業員へのアンケート調査による満足度評価平均3.5点 → 平均4.5点へ向上

結論:未来志向の承認フロー構築に向けた提言 

本稿で詳述してきたように、承認フローの設計は、単なる事務手続きの改善に留まりません。それは、内部統制効率性という、時に相反する二つの経営目標の最適なバランスポイントを見出す、高度な戦略的活動です。

成功の鍵は、以下の3つの要素を統合することにあります。

  1. 厳格なルール設計: 「職務権限規程」を拠り所とし、監査に耐えうる統制の取れたプロセスを定義すること。
  2. 柔軟なルート選択: 業務の実態に合わせ、最適な承認ルートパターンを戦略的に組み合わせ、ボトルネックを解消すること。
  3. 適切なテクノロジー活用: 設計した理想のフローを現実のものとし、継続的な改善を可能にする、自社に最適なワークフローシステムを選定・導入すること。

承認フローの改革は、組織の意思決定プロセスそのものを再設計し、ガバナンスを強化し、市場の変化に迅速に対応できるアジャイルな組織文化を醸成するための、極めて重要な経営改革です。

本稿で解説した「統制」と「効率」を高次元で両立し、さらにAIによる「知能」を加えて業務プロセス全体の最適化を実現するのが、統合型ワークフローシステム「ジュガールワークフロー」です。単なる電子化に留まらず、蓄積されたデータを経営判断に活かすことで、企業の持続的な成長を支援します。この改革を全社的な経営課題として位置づけ、強力なリーダーシップをもって推進することが、今まさに求められています。

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承認フローの設計に関するよくある質問(FAQ)

Q1: 承認フローを見直す上で、最も重要な最初のステップは何ですか?

A1: 「職務権限規程」を整備・確認することです。この規程が、誰が何をどこまで決定できるかという全てのルールの土台となります。規程が曖昧だったり、実態と乖離していたりすると、どんなに優れたシステムを導入しても効果は半減します。まずはこの「組織の憲法」を、現状に合わせて見直すことから始めてください。

Q2: 内部統制を厳しくすると、どうしても業務スピードが落ちてしまいます。どうすれば両立できますか?

A2: 「リスクベース・アプローチ」が鍵となります。全ての申請に同じレベルの厳格な承認フローを適用するのではなく、案件の金額や重要度に応じてルートを動的に変える「条件分岐型」や、複数部署のレビューを同時に進める「並列型」の承認ルートをシステムで構築します。これにより、低リスク案件は迅速に処理し、高リスク案件は慎重にレビューするという、統制と効率のバランスを取ることが可能になります。

Q3: ワークフローシステムを導入する予算がありません。何かできることはありますか?

A3: はい、システム導入前でもできることはたくさんあります。まずは①稟議書テンプレートの標準化、②承認ルートのルール明確化、③代理承認ルールの周知徹底から着手しましょう。これらを実行するだけでも、情報不備による差し戻しや、承認者不在による停滞を大幅に削減できます。業務プロセスそのものを見直すことが、システム導入効果を最大化する上でも不可欠です。

Q4: ワークフローシステムを導入すれば、承認フローの問題はすべて解決しますか?

A4: いいえ、ツール導入だけでは不十分です。最もよくある失敗は、現状の非効率な紙のプロセスをそのままシステムに置き換えてしまうことです。システムはあくまで業務改革を支援する「道具」です。導入を「業務プロセスをゼロから見直す絶好の機会」と捉え、本記事で解説したような業務改革とセットで進めることが成功の絶対条件です。

Q5: 承認フローを設計する上で、最も陥りがちな失敗は何ですか?

A5: 「現状の紙の承認ルートを、疑いなくそのまま電子化してしまうこと」です。長年の慣習で追加されてきた、本来は不要な承認ステップや形骸化したチェック項目が温存され、根本的な効率化に至りません。改革の際は、「この承認ステップは、本当に意思決定の質を高める上で付加価値があるのか?」と、全てのステップの存在意義を問い直す批判的な視点が不可欠です。

引用文献 

  1. タイトル: DX白書2023
  1. タイトル: 令和5年版 情報通信白書
  1. タイトル: DXレポート2.2(追補版)

川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。