はじめに:稟議書の成否は「目的」と「効果」で9割決まる
稟議書は、単なる事務手続きのための書類ではありません。個人の権限を超える事案について、組織としての公式な意思決定を得るための戦略的コミュニケーションツールです。その本質については、『稟議の教科書|意味・目的・歴史から書き方の基本まで、最初に読むべき一冊』で体系的に理解を深めていただくことをお勧めします。
数多ある稟議書の項目の中でも、その成否を分ける心臓部と言えるのが「目的(なぜやるのか)」と「効果(やるとどうなるのか)」の二つです。この二つのセクションが、単なる「お願い」を、決裁者が承認せざるを得ない説得力のある「ビジネスケース」へと昇華させます。
稟議の「目的」は「なぜ今、これを行う必要があるのか」という正当性を示し、「効果」は「これを承認することで、会社にどのような利益がもたらされるのか」という価値を明示します。この二つが論理的に、そして強力に結びついたとき、稟議書は決裁者の心を動かす力を持ちます。
本稿は、この「目的」と「効果」の記述に特化し、単なるテンプレートの紹介に終わらない、決裁者を納得させるための本質的な文章術と戦略的思考法を提示することを目的とします。承認を勝ち取るための、より深く、戦術的な知見を提供することで、稟議書を作成するすべての方々が自らの提案を実現するための羅針盤となることを目指します。
第1章:決裁者の関門:承認の戦略的背景を理解する
この章では、稟議書を評価する決裁者(社長や役員など、最終的な判断を下す人)の視点と、稟議制度が会社全体で果たす役割を解説します。なぜ「目的」と「効果」が重要なのか、その背景を理解することが、説得力のある文書を作成するための第一歩です。
1-1. 形式主義を超えて:稟議書が会社で果たす3つの重要な役割
稟議書は、日本企業特有の文化と見なされがちですが、その背景には会社を守るための、とても合理的な機能が存在します。
稟議書の役割 | 概要 | なぜ重要か? |
① 合意形成と情報共有 | 提案内容を関係部署に回覧し、事前に意見を集約する。 | 組織としての意思統一を図り、実行段階での手戻りや対立を防ぐため。 |
② エビデンスと説明責任 | 「誰が、いつ、何を、なぜ承認したか」を公式な記録として残す。 | 監査や税務調査に対し、意思決定の正当性を証明する客観的証拠となるため。 |
③ 組織的リスク管理 | 複数の視点から提案を多角的に検討し、潜在的なリスクを洗い出す。 | 担当者の独断による不正やミス、コンプライアンス違反を未然に防ぐため。 |
1-2. 決裁者の思考:上司や役員は稟議書のどこを見ているのか?
決裁者は、日々たくさんの稟議書に目を通しています。彼らが提案を評価する際には、主に以下の3つの視点(レンズ)で、その内容を厳しくチェックしています。
レンズの種類 | 決裁者の問い | 稟議書で示すべきこと |
戦略的レンズ | 「この提案は、会社の目標や計画と合っているか?」 | 会社の大きな目標達成にどう役立つか。なぜ「今」やる必要があるのかという理由。 |
財務的レンズ | 「これにお金をかける価値はあるか?(投資対効果は?)」 | かかる費用と、それによって得られる利益(リターン)を具体的な数字で示すこと。 |
リスクレンズ | 「何か問題が起きる可能性はないか?その準備はできているか?」 | 考えられるリスクを正直に書き、それに対する具体的な対策を示すこと。 |
決裁者の最も大切な仕事は、会社の財産を守り、会社を成長させることです。新しい提案には必ず「本当にうまくいくか分からない」というリスクが伴うため、彼らが慎重になるのは当然です。良い稟議書とは、これらの問いに先回りして答えを用意し、決裁者を安心させてあげるものなのです。
1-3. 承認されない稟議書の解剖学:却下と差し戻しの典型例
稟議が承認されない場合、その結果は大きく「却下(もう一度出すのは難しい)」と「差し戻し(修正すればOK)」に分けられます。その原因を知っておくことで、失敗を未然に防ぐことができます。
結果 | 主な原因 | 特徴 |
却下 | ・戦略的不整合: 会社の経営方針と矛盾。 ・実行不可能性: 非現実的な計画、過大なリスク。 ・重大な手続き違反: 承認ルートの誤りなど。 | 提案の根本的な問題であり、修正が困難なケースが多い。 |
差し戻し | ・説明不足: 背景や必要性が伝わらない(最多)。 ・情報欠落: 判断に必要なデータや添付資料の不足。 ・効果の曖昧さ: メリットが抽象的で、数値的根拠がない。 ・リスク未検討: 懸念点への言及や対策がない。 ・基本ミス: 誤字脱字、計算間違い。 | 最も頻繁に発生し、かつ予防可能な失敗。文書の品質に起因する。 |
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第2章:説得の構造:効果的な稟議書の4つの基礎原則
この章では、稟議書の具体的な内容に関わらず、承認されるために絶対に押さえておきたい共通の原則を解説します。これらは、分かりやすく、筋が通っていて、信頼される稟議書を作るための土台となります。
原則 | WHAT(何をするか) | WHY(なぜ重要か) |
① 明確性 | 結論を先に書き、簡潔で平易な言葉で、視覚的に分かりやすく構成する。 | 多忙な決裁者が、短時間で内容を正確に理解できるようにするため。 |
② 客観性 | 主張を客観的なデータで裏付け、根拠となる資料を添付する。 | 「個人の意見」ではなく「事実に基づく提案」であることを示し、信頼性を高めるため。 |
③ 信頼性 | メリットだけでなく、リスクやデメリットも正直に開示し、その対策を示す。 | 多角的な視点で検討していることを示し、決裁者の不安を払拭するため。 |
④ 事前調整 | 提出前に、主要な関係者に提案の趣旨を説明し、意見を聞いておく(根回し)。 | 「不意打ち」を防ぎ、関係者を協力者として巻き込み、プロセスを円滑にするため。 |
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第3章:「目的」セクションの習得:説得力ある論理の構築
この章では、稟議書で最も重要な「目的」をどう書けばいいのか、具体的な方法を解説します。単なる「これが欲しい」というお願いから、「会社にとってこれが必要です」という説得力のあるストーリーに変えることが目標です。
3-1. 要望から論理へ:共感を呼ぶ「目的」の定義
稟議書における「目的」とは、単に「何をしたいか」(例:「新しいパソコンが欲しい」)ではありません。それは「その行動が、会社のどんな目標達成につながるのか」(例:「作業効率を上げて、もっと多くのお客様に対応できるようになるため」)を明確にすることです。決裁者が抱く「なぜ、これをやる必要があるんだ?」という根本的な疑問に、すぐに答えなければなりません。
3-2. 物語(ナラティブ)で伝える:「目的」を論理的に構成するフレームワーク
「ナラティブ」とは、単なる事実の羅列ではなく、聞き手が感情移入し、納得しやすいように構成された「物語」のことを指します。説得力のある「目的」は、多くの場合、この物語のフレームワーク(枠組み)に沿って構成されています。具体的には、以下の3部構成でストーリーを組み立てると、読み手は提案の必要性を自然に理解しやすくなります。
ステップ | 内容 | 役割 |
1. 背景 (Background) | 現状を簡潔に説明し、文脈を設定する。 | 読み手の前提知識を揃える。 |
2. 課題 (Problem) | 現状における問題点や機会を明確に指摘する。 | 行動を起こす必要性、すなわち「緊急性」を創出する。 |
3. 解決策 (Solution) | 提示した問題に対する論理的な解決策として、自らの提案を位置づける。 | 提案の正当性を論理的に示す。 |
3-3. 「目的」を強化する高度なテクニック
この基本のストーリーに加えて、以下のテクニックを使うと、「目的」の説得力が格段にアップします。
- 全社戦略との明確な連携: 自分の提案を、会社全体の目標と結びつけます。「社長が言っていた今年の目標達成のために、これが必要です」と伝えることで、提案の重要度が「個人的なお願い」から「会社全体の重要事項」に変わります。例:「このタブレット導入は、今年度の売上拡大戦略の一環であり、新規顧客の開拓に欠かせません。」
- 緊急性や機会損失によるフレーム設定: ただ問題点を言うだけでなく、「もし、これをやらなかったら、こんなに損をしますよ」と伝えます。「この稟議が通らなかったら、どうなってしまうか?」を具体的に示すことで、決裁者に「早くなんとかしないと」と思わせることができます。例:「このままでは、ライバル会社にどんどんお客様を奪われてしまいます」「今のシステムはもうすぐサポートが切れるので、何もしないと情報漏洩のリスクがあります」
第4章:「効果」セクションの習得:価値の定量化と信頼の醸成
このセクションは、提案が承認された後の「ごほうび」をアピールする部分です。決裁者が最も気にする「で、それをやると、いくら儲かるの?(投資対効果)」を、いかに分かりやすく、説得力をもって示すかを解説します。
4-1. 影響のスペクトル:行動をビジネスの成果に転換する
「効果」セクションは、決裁者の「これを承認したら、具体的にどんないいことがあるの?」という疑問に、ストレートに答えなければなりません。その効果は、コストが減るといった直接的なものから、社員のやる気が上がるといった間接的なものまで様々ですが、すべてが「会社にとっての価値」という視点で語られる必要があります。
4-2. 定量化(数値化)の技術:説得力ある「効果」の礎
なぜ数字は言葉よりも説得力があるのでしょうか。それは、数字が客観的で、誰にでも分かりやすく、比べやすいからです。「すごく効率が上がる」というフワッとした言葉よりも、「作業時間が年間で500時間減る」という具体的な数字の方が、はるかに心を動かします。
定量化の切り口 | 具体的なアプローチ例 |
時間削減 → コスト削減 | 削減される作業時間を算出し、人件費に換算する。 例:「年間〇〇時間の業務削減は、人件費換算で〇〇円のコスト削減に相当する」 |
プロセス改善 → 売上向上 | 改善されるプロセスを、直接的な業績指標に結びつける。 例:「広告出稿により、売上〇〇円増、認知度〇〇%向上を見込む」 |
エラー削減 → コスト回避 | 現在発生しているエラー(手戻り、無駄など)にかかるコストを算出し、それが削減されることを示す。 例:「システム導入でヒューマンエラーが減り、年間〇〇円の損失を回避できる」 |
4-3. 定量的効果と定性的効果の戦略的活用法
数字で示す「定量的効果」が話の中心ですが、数字では表せない「定性的効果」も重要です。定性的効果は、提案のストーリーを豊かにし、決裁者の共感を呼びます。この2つをうまく組み合わせることで、より説得力のある主張ができます。
効果の種類 | 定義と役割 | 具体例 | 戦略的組み合わせ |
定量的(Quantitative) | 「何が」。数字で測れる成果。客観的な証拠となる。 | ・年間30万円の人件費削減 ・生産性が15%向上 ・不良品率が3%→0.5%に低減 | 定量的効果でリード: 「このシステムの導入で、まず年間30万円のコストが削減できます…」 |
定性的(Qualitative) | 「どのように」「だから何」。数字で表せない成果。物語性や共感を生む。 | ・従業員の負担が減る ・お客様の満足度が上がる ・会社のイメージが良くなる | 定性的効果で補足: 「…さらに、面倒な手作業がなくなるので、社員のストレスが減り、お客様への対応に集中できるようになります。」 |
4-4. 全体像の提示:信頼性を高めるためのリスクへの言及
「効果」のセクションや関連する項目で、あえてマイナスの影響やリスクにも触れることが、逆に信頼を高めます。例えば、新しいシステムを導入するリスクとして「最初は操作に慣れなくて、逆に仕事が遅くなるかもしれない」と正直に書き、その対策として「事前にみんなで研修会を開いて、スムーズに使えるようにします」と付け加える。これは、あなたが浮ついた考えでなく、現実的に計画を立てていることを示し、決裁者の不安を取り除く効果があります。
第5章:実践的応用:注釈付きケーススタディ
ここでは、これまでに学んだ原則を、具体的な稟議書の書き方の例に当てはめて見ていきましょう。はじめて稟議書を書く方にも分かりやすいように、よくある3つのケースを想定しました。
5-1. ケーススタディ:ITツール導入に関する稟議書
焦点: 業務効率化、コスト削減、そしてデータ管理の改善といった効果をアピールする。
【目的】
現在、当社の顧客情報は各営業担当者が個別のファイルで管理しており、情報がバラバラです(背景)。このため、担当者がいない時に他のお客様の対応ができなかったり、部署全体で営業活動がどれくらい進んでいるか分からなかったりする問題があります(課題)。
これらの課題を解決し、営業活動をもっと効率的にするため、顧客情報を一つにまとめて管理できるCRM(顧客関係管理)システムの導入を申請します(解決策)。
【期待される効果】
- 営業活動の効率化によるコスト削減(定量的効果)
- 営業担当者が報告書作成や情報探しに使っている時間は、平均で週2時間です。このシステムで作業が自動化され、週1.5時間の削減が見込めます。
- 営業部員10名で計算すると、年間で720時間の労働時間削減となり、人件費に換算すると年間約216万円のコスト削減に相当します。
- データに基づいた営業戦略の精度向上(定性的効果)
- 顧客情報が一つにまとまることで、データ分析がしやすくなり、より効果的な営業戦略を立てられます。
- チーム全体でお客様の状況を共有できるため、サポートが手厚くなり、顧客満足度の向上が期待できます。
【リスクと対策】
- リスク: 導入したばかりの頃は、操作に慣れずに一時的に効率が落ちる可能性がある。
- 対策: システム会社の研修を受けると共に、社内に質問窓口を設けて、みんながスムーズに使えるようにサポートします。
5-2. ケーススタディ:設備投資(備品購入)に関する稟議書
焦点: 高額な買い物を、長期的に見ればコスト削減や品質向上につながる、というロジックで正当化する。
【目的】
現在、工場で使っている製造装置A(15年目)は古くなっており、頻繁に故障して生産が止まったり、修理代が高くついたりしています(背景・課題)。このまま修理を続けると、今後3年で約500万円もかかると見積もられています(添付資料1)。
そこで、生産性を上げ、コストを削減し、製品の品質を安定させるため、この古い装置を新しい製造装置Bに買い替えることを申請します(解決策)。
【期待される効果】
- 運営コストの大幅な削減(定量的効果)
- 修理費用: 新しい装置には3年保証が付いているため、修理代500万円が不要になります。
- 電気代: 省エネ設計のため、年間で約120万円の電気代削減が見込めます(添付資料2)。
- これらを合わせると、購入費用(2,000万円)は4年以内に元が取れる計算です。
- 生産性と品質の向上(定性的・定量的効果)
- 生産能力が20%アップし、もっと多くの注文に対応できるようになります。
- 製品の精度が上がり、不良品率が現在の3%から0.5%以下に下がる見込みです。
【リスクと対策】
- リスク: 装置の入れ替え作業中(約2週間)、生産が止まってしまう。
- 対策: 注文が少ない時期を狙って作業し、事前に製品の在庫を多めに作っておくことで、お客様への影響を最小限にします。
5-3. ケーススタディ:増員(新規採用)に関する稟議書
焦点: 人件費が増えるというコストを、事業の成長やサービス品質を守るために必要な投資である、と説明して正当化する。
【目的】
現在、当社の主力サービス「〇〇」の利用者が急増しており、お客様サポート部門の仕事が非常に増えています(背景)。今の3人体制では、問い合わせに返信するまで平均48時間もかかっており、お客様の不満が高まり、解約につながる危険性があります(課題)。
そこで、サービス品質を保ち、お客様に満足していただき、会社が成長し続けるために、サポート担当の正社員を1名増やすことを申請します(解決策)。
【期待される効果】
- サービス品質の向上と解約率の低減(定量的・定量的効果)
- 人が増えることで、問い合わせへの返信時間を平均8時間以内に短縮し、顧客満足度を向上させます。
- これにより、現在の解約率(月1.5%)を1.0%に下げることを目指します。これは、年間で約600万円の売上損失を防ぐことと同じ価値があります(添付資料:計算の根拠)。
- 組織能力の向上(定性的効果)
- 今いるメンバーの負担が減ることで、マニュアル作成などの業務改善に取り組む時間ができ、チーム全体の生産性が上がります。
【リスクと対策】
- リスク: 新しく採用した人が、すぐに辞めてしまう可能性がある。
- 対策: OJT(実務を通した研修)の期間をしっかり設け、先輩がサポートするメンター制度を導入して、新しい人が会社に馴染めるように支援します。
第6章:提出前・説得力チェックリスト
稟議書を提出する前に、最後にこのリストで確認しましょう。決裁者の視点に立ってチェックすることで、承認される確率がグッと上がります。
カテゴリ | チェック項目 |
明確性・構造 | 結論(お願い)は、最初にハッキリと書かれているか? 専門用語を使いすぎず、誰にでも分かる簡単な言葉で書かれているか? 箇条書きなどを使って、見た目がスッキリしていて読みやすいか? |
目的(なぜ) | 「背景→課題→解決策」のストーリーで、必要性が分かりやすく説明されているか? 会社の目標とどう関係があるか、ちゃんと結びつけられているか? 「今やらないとマズい」という緊急性や、やらない場合の損が示されているか? |
効果(どうなる) | メリットは、具体的な数字(金額、時間など)で示されているか? その数字の計算の根拠は、信頼できるか?(証拠の資料は添付したか?) 数字以外の良い効果(やる気アップなど)も、説得力をもって書かれているか? |
信頼性・信用 | 書かれていることは、客観的なデータや事実で裏付けられているか? 見積書など、判断に必要な資料はすべて添付したか? 考えられるリスクやデメリットを、正直に全部書いているか? それぞれのリスクに対して、「こうすれば大丈夫」という対策が示されているか? |
プロセス・体裁 | 誤字脱字や計算ミスがないか、何度も確認したか? 関係する上司に、事前に「こういう稟議を出します」と話を通したか? |
まとめ:稟議書は、組織を動かすためのビジネスケースである
本稿では、決裁者を納得させる稟議書の「目的」と「効果」の書き方について、その考え方から具体的なテクニック、例文までを解説してきました。
承認される稟議書とは、単に「お願い」をする書類ではありません。それは、決裁者の視点を理解し、彼らが気にするであろう「会社の目標」「お金」「リスク」といった問いに、前もって答えてあげる「緻密な提案書(ビジネスケース)」なのです。客観的なデータという土台の上に、会社の目標とつながる説得力のあるストーリーを描き、考えられるリスクさえも「ちゃんと準備しています」とアピールする材料に変える。このプロセスこそが、あなたの提案に説得力をもたらします。
多くの企業で、稟議は面倒な作業と捉えられがちです。しかし、稟議の本質は、会社の健全な成長を支える「しっかり話し合って決めること」と「ルールを守って会社を運営すること」にあります。この大切な目的を理解して初めて、便利なツールも本当に役立ちます。
例えば、統合型ワークフローシステムであるジュガールワークフローは、単に紙の業務を電子化するだけではありません。文書の作成から承認、保管、廃棄に至るまでのライフサイクル全体を統制し、AIが判断を支援することで、稟議の「形式」を未来の形へと進化させます。これにより、従業員は形骸化した作業から解放され、「質の高い合意形成」という本来の目的に集中できるようになり、組織全体の意思決定の質を本質から高めることを支援します。
この記事が、あなたの初めての稟議書作成、そしてこれからのビジネスキャリアにおける大きな一歩を後押しできれば幸いです。
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作成した稟議書が、その後どのように管理されていくべきか。会社の「公式文書」を管理する重要性について学べます。
稟議書の「目的」と「効果」に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 稟議書の「目的」と「理由」はどう違うのですか?
A1. 「理由」は、その行動を起こす直接的なきっかけ(例:PCが壊れたから)を指すことが多いのに対し、「目的」は、その行動によって達成したい、より大きなゴール(例:業務効率を改善し、生産性を向上させるため)を指します。稟議書では、単なる「理由」に留まらず、会社にとっての「目的」まで踏み込んで記述することが重要です。
Q2. 期待される「効果」が、具体的な数字で示しにくい場合はどうすれば良いですか?
A2. 金銭的な効果が算出しにくい案件(例:福利厚生の充実、社内イベントの開催など)は確かに存在します。その場合は、「効果」を別の測定可能な指標に結びつけましょう。例えば、「従業員満足度調査のスコア向上」「離職率の低下」「採用応募者数の増加」などを目標として設定します。これらの指標の改善が、長期的には会社の成長に繋がるという論理で説明することがポイントです。
Q3. 稟議の差し戻しが多くて困っています。「目的」と「効果」の観点で、すぐできる対策はありますか?
A3. 差し戻しの原因が「説明不足」や「効果の曖昧さ」である場合、組織全体で「良い稟議書」の基準が共有されていない可能性があります。対策として、過去にスムーズに承認された優れた稟議書を「お手本」としていくつかピックアップし、社内のポータルサイトなどで共有することをお勧めします。具体的な成功例を見ることで、起案者全体のスキルアップに繋がります。
「理由」は、その行動を起こす直接的なきっかけ(例:PCが壊れたから)を指すことが多いのに対し、「目的」は、その行動によって達成したい、より大きなゴール(例:業務効率を改善し、生産性を向上させるため)を指します。稟議書では、単なる「理由」に留まらず、会社にとっての「目的」まで踏み込んで記述することが重要です。
金銭的な効果が算出しにくい案件(例:福利厚生の充実、社内イベントの開催など)は確かに存在します。その場合は、「効果」を別の測定可能な指標に結びつけましょう。例えば、「従業員満足度調査のスコア向上」「離職率の低下」「採用応募者数の増加」などを目標として設定します。これらの指標の改善が、長期的には会社の成長に繋がるという論理で説明することがポイントです。
差し戻しの原因が「説明不足」や「効果の曖昧さ」である場合、組織全体で「良い稟議書」の基準が共有されていない可能性があります。対策として、過去にスムーズに承認された優れた稟議書を「お手本」としていくつかピックアップし、社内のポータルサイトなどで共有することをお勧めします。具体的な成功例を見ることで、起案者全体のスキルアップに繋がります。
引用文献
本記事の作成にあたり、以下の公的機関および調査会社の情報を参考にしています。
- 金融庁. 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
(URL: https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20070215.html)
稟議制度が内部統制において果たす役割を理解する上で基本となる公的基準。 - デジタル庁. 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」
(URL: https://www.digital.go.jp/policies/priority-policy-program/)
官民のDX推進に関する方針であり、稟議プロセスの電子化や効率化の社会的背景を理解する上で参考となる。 - 法務省. 「押印についてのQ&A」
(URL: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html)
電子署名や電子印鑑の法的効力に関する公式見解。脱ハンコと稟議の電子化を考える上で必須の情報。 - 国税庁. 「電子帳簿保存法一問一答」
(URL: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/denshi-choho/jirei/index.htm)
決裁済み稟議書を電子データとして保存する際の法的要件について解説。証跡管理の観点から重要。 - 独立行政法人情報処理推進機構(IPA). 「DX白書」
(URL: https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/index.html)
日本企業のDXの進捗や課題に関する包括的な調査レポート。稟議DXの位置づけや重要性を客観的に把握できる。