ワークフローシステム講座

日々の業務プロセスに課題を感じている方へ向けて、ワークフローシステムの選び方から業務改善の確かなヒントまで、完全網羅でお伝えします。

【規程サンプル付】文書管理規程の作り方と、形骸化させない運用ポイント

目次

1. はじめに:文書管理規程はなぜ今、経営の要なのか

現代の企業経営において、文書管理は単なる事務作業の一部ではなく、コーポレート・ガバナンスの根幹をなす戦略的な機能としての重要性を増しています。適切に整備された文書管理体制は、法的リスクの低減や業務効率の向上にとどまらず、企業が保有する「情報」という無形の資産を、潜在的な負債(情報漏洩、コンプライアンス違反など)から戦略的な価値へと転換させる力を持つからです。

特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)やリモートワークが浸透する中で、紙媒体と電子データが混在する業務環境は常態化しています。このような状況下で、一貫性のある明確なルール、すなわち文書管理規程が存在しなければ、情報はサイロ化し、管理は属人化し、重大なセキュリティインシデントや法令違反を引き起こす温床となりかねません。

本記事では、文書管理を単なる「管理」作業としてではなく、企業の競争力を支える「情報ガバナンス」の基盤として捉え、その構築と運用に必要な知識を網羅的に解説します。法的要件の遵守から、鉄壁のセキュリティ体制の構築、実務に即した規程の作成手順、そしてテクノロジーの活用に至るまで、文書管理のライフサイクル全般にわたる専門的かつ実践的な指針を提供することを目的とします。

【関連】文書ライフサイクル管理とは?

文書管理規程は、文書が「作成」されてから「廃棄」されるまでの一生、すなわち「文書ライフサイクル」のルールを定めるものです。このより上位の概念について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

▶ 文書ライフサイクル管理とは?ワークフローで実現する堅牢な内部統制システム構築ガイド

2. 第1部:規程策定の基礎知識

2.1 文書管理規程の定義と目的

文書管理規程とは、企業内で取り扱われるあらゆる文書の作成、保管、廃棄に至るまでのプロセスを統一的に管理するために定められた社内規則です。その本質は、文書の取り扱いに関する共通言語と行動規範を組織全体で確立することにあります。

【文書管理規程の主要な目的】

  • 取り扱い手順の統一化: 部署ごとにバラバラだった文書の管理方法を標準化し、全社的な混乱や非効率を排除します。
  • 情報への迅速なアクセス: 必要な時に、必要な情報を、権限を持つ者が迅速かつ正確に引き出せる体制を整備します。これは、監査対応や訴訟などの有事において極めて重要です。
  • リスクの防止: 情報漏洩、文書の紛失、改ざんといった不正行為や不適切な取り扱いを未然に防ぎます。
  • 業務効率化とコスト削減: 文書を探す無駄な時間や、不要な文書の保管にかかるコストを削減します。

2.2 適用範囲の明確化:紙と電子の包括的管理

効果的な文書管理規程を策定する上で、最初に着手すべき最も重要なステップは、その「適用範囲」と「文書の定義」を明確にすることです。この定義が曖昧であると、規程に意図せざる抜け穴が生じ、セキュリティやコンプライアンス上の重大なリスクにつながる可能性があります。

現代のビジネス環境では、文書は紙媒体に限定されません。したがって、規程における「文書」の定義は、「会社の業務上の必要に応じて作成、収集、参照し、または他に提出されるすべての書類・図面・写真・磁気媒体・その他電磁的記録等」といったように、物理的な媒体とデジタルデータを包括するものとしなければなりません。

この定義の広範さがなぜ重要なのか。仮に「文書」を「紙の書類」と狭く定義してしまった場合、機密情報を含むExcelファイルをUSBメモリにコピーして社外に持ち出しても、それは規程で禁止されている「文書」には当たらないという主張が成り立ってしまう余地が生まれます。これは致命的なセキュリティギャップです。広範かつ包括的な定義を定めることは、潜在的なリスクの抜け穴を最初から塞ぐための意図的な戦略なのです。

【まとめ表:文書管理規程策定の基礎】

項目目的と要点業務への影響
定義企業内の文書管理に関する共通ルールを定める。組織全体の文書管理業務が標準化される。
適用範囲紙媒体と電子データを問わず、全ての業務文書を対象とする。情報漏洩やコンプライアンス違反のリスクが低減する。
目的コンプライアンス強化、業務効率化、リスク管理、コスト削減。内部統制が強化され、企業の信頼性が向上する。

3. 第2部:規程策定に必須の法的要件

文書管理は、単なる社内ルールの問題ではなく、法律によって遵守が義務付けられている事項を内包しています。特に「法定保存文書」の管理と、近年重要性が増している「電子帳簿保存法」への対応は、コンプライアンス経営の根幹を揺るがしかねない重要なテーマです。

3.1 法定保存文書の徹底ガイド

企業は、会社法、法人税法、労働基準法など、様々な法律に基づき、特定の文書を定められた期間保存する義務を負っています。これらの文書を「法定保存文書」と呼び、その管理は文書管理規程の中核をなします。

これらの法律はそれぞれ異なる目的で制定されているため、同じような文書であっても保存期間が異なる場合があります。例えば、会計帳簿や計算書類(決算書)について、会社法では10年間の保存を義務付けているのに対し、法人税法では原則7年間と定めています。このような場合、企業が遵守すべき原則は**「より長い方の保存期間に従う」**ことです。これにより、両方の法律の要件を同時に満たすことができます。

また、保存期間のカウントが始まる「起算日」も文書によって異なるため、注意が必要です。例えば、株主総会議事録は「株主総会の日」から、会計帳簿は「帳簿閉鎖の時」から起算されます。

【法定保存文書の例】

  • 永久保存: 定款、株主名簿、新株予約権原簿など(会社法)
  • 10年保存: 株主総会議事録、取締役会議事録、計算書類、会計帳簿など(会社法)
  • 7年保存: 取引に関する帳簿・証憑書類(契約書、領収書、請求書など)(法人税法)
  • 5年保存: 労働者名簿、賃金台帳、労働関係の重要書類など(労働基準法)

これらの複雑な要件を整理し、実務で活用できるよう、主要な法定保存文書を一覧表にまとめる必要があります。この表は、文書管理規程の別表として添付したり、運用マニュアルに記載したりすることで、各部署の担当者が遵守すべきルールを明確にするための実践的なツールとなります。

【関連】法定保存文書の一覧を詳しく知る

法定保存文書の保存期間について、より詳細かつ網羅的に確認したい場合は、こちらの記事が役立ちます。

法定保存文書の一覧【2025年最新版】|会社法・税法で定められた書類の保存期間まとめ

3.2 電子帳簿保存法の要件詳解

デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、電子データでやり取りされる文書の管理は、避けて通れない課題となっています。この領域を規律するのが「電子帳簿保存法(電帳法)」です。電帳法は、企業の経理業務のデジタル化を促進する法律であり、その要件を正しく理解し対応することは、現代の文書管理において不可欠です。

電帳法が定める保存区分は、大きく以下の3つに分類されます。

  1. 電子帳簿等保存: 会計ソフトなどで最初から一貫して電子的に作成した帳簿や書類を、データのまま保存する場合のルール。
  2. スキャナ保存: 紙で受領または作成した書類を、スキャナなどで読み取って画像データとして保存する場合のルール。
  3. 電子取引: メール添付のPDF請求書や、Webサイトからダウンロードした領収書など、電子的に授受した取引情報をデータで保存する場合のルール。

この中で、特にすべての事業者に関わるのが「電子取引」です。2022年1月の改正により、電子取引で授受したデータは、紙に出力して保存する方法が原則として認められなくなり、電子データのまま保存することが義務化されました。これは、従来の紙ベースの業務フローを根本的に見直す必要があることを意味する、極めて重要な変更点です。

電子データを保存する際には、主に以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • 真実性の確保: データが改ざんされていないことを証明するための要件。タイムスタンプの付与や、訂正・削除の履歴が残るシステムの利用などが求められます。
  • 可視性の確保: 保存したデータを、税務調査などで必要になった際に、明瞭な状態で速やかに確認できるようにするための要件。「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目で検索できる機能を確保することが求められます。

電帳法への対応は、単なるITシステムの導入問題ではなく、財務・経理部門の業務プロセス、内部統制のあり方、そして文書管理規程そのものを見直すことを企業に強制する、経営レベルの課題です。

【まとめ表:法的要件のポイント】

法令名文書の種類保存期間の原則運用上の注意点
会社法議事録、計算書類など10年(定款などは永年)より長い保存期間を優先する。
法人税法契約書、請求書など7年電子取引のデータ保存が義務化
労働基準法労働者名簿、賃金台帳など5年退職日などを起算日とすることに注意。
電子帳簿保存法国税関係書類真実性・可視性の確保法律に対応したシステム導入を検討。

4. 第3部:情報漏洩を鉄壁に防ぐセキュリティ体制の構築

法的要件の遵守が「守りのコンプライアンス」であるとすれば、情報漏洩対策は企業の生命線である情報資産を積極的に保護する「攻めのセキュリティ」です。情報漏洩は、金銭的損失や信用の失墜だけでなく、企業の存続そのものを脅かす可能性があります。鉄壁のセキュリティ体制は、技術的、物理的、そして人的な対策を組み合わせた多層防御によってのみ実現可能です。

4.1 情報漏洩の主要因と対策の全体像

情報漏洩の原因は多岐にわたりますが、主として以下の4つに大別されます。効果的な対策を講じるためには、これらの原因を網羅的にカバーする必要があるのです。

  • 誤操作(Human Error): メールの誤送信、不適切なファイル添付など、悪意のない人為的ミス。
  • 紛失・盗難(Loss/Theft): PCやUSBメモリ、紙の書類自体の紛失や盗難。
  • 不正アクセス(Unauthorized Access): マルウェア感染やハッキングといった外部からのサイバー攻撃。
  • 内部不正(Insider Threats): 従業員による意図的な情報の持ち出しや改ざん。

【関連】なぜ「野良ファイル」が危険なのか?

個人のPCや管理の甘い場所に存在する「野良ファイル」は、情報漏洩の温床となります。野良ファイルが生まれる原因と、それがもたらすリスクについて詳しく知りたい方は、こちらの記事が参考になります。

「野良ファイル」はなぜ生まれる?文書管理の属人化に潜む5つのリスクと対策

4.2 技術的・物理的・人的対策

多層的なセキュリティを構築するためには、以下の対策を組み合わせることが不可欠です。

  • 技術的対策: アクセス制御、暗号化、ログ監視、ネットワークセキュリティ、データ損失防止(DLP)など、テクノロジーを活用した防御。
  • 物理的対策: 施錠可能なキャビネットでの保管、クリアデスク・ポリシーの徹底、監視カメラの設置など、物理的な情報資産の保護。
  • 人的対策: 従業員への定期的なセキュリティ教育・研修、秘密保持契約(NDA)の締結など、最も脆弱な「人」を強化する対策。

【関連】個人情報保護法とセキュリティ対策

個人情報保護法が求める安全管理措置(組織的、人的、物理的、技術的)について、より詳細な解説はこちらをご覧ください。

▶ 個人情報保護法と文書管理|漏洩リスクと企業が取るべき対策を詳細解説

4.3 安全な廃棄プロセス

文書のライフサイクルは、安全な廃棄によって完了します。保存期間が満了した文書を安易に廃棄することは、情報漏洩の直接的な原因となります。

  • 廃棄方法: 紙文書はシュレッダーや溶解処理、電子データは専用のデータ消去ソフトウェアによる完全削除が求められます。
  • 廃棄業者の選定: 外部業者に委託する場合、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の認証を取得しているか、廃棄証明書が発行されるかなど、信頼性を慎重に確認する必要があります。

【関連】文書廃棄規程の作り方を詳しく知る

文書廃棄規程の具体的な作り方や、安全な廃棄プロセスについては、こちらの記事でさらに深く解説しています。

▶ 【サンプル付】文書廃棄規程の作り方|法的要件と情報漏洩を防ぐ手順

5. 第4部:実践的・文書管理規程の作成手順

文書管理規程の策定は、単にテンプレートを流用するだけでは不十分です。自社の業務実態に即し、かつ法規制やセキュリティ要件を満たした、実効性の高い規程を作り上げるには、体系的なアプローチが必要となります。

  1. Step 1: 現状分析と目的の明確化
    各部署の文書の種類、形式、保管場所などを洗い出し、規程によって「何を達成したいのか」という目的(例:「情報検索時間の30%削減」「情報漏洩リスクの撲滅」)を明確にします。
  2. Step 2: 文書分類基準の策定
    効率的な文書管理の根幹をなすのが、論理的で分かりやすい「文書分類基準」です。全社共通のルールを定める「ワリツケ式」と、現場の実態に合わせた「ツミアゲ式」を組み合わせた「ハイブリッド式」が多くの企業で効果的です。
  3. Step 3: 文書ライフサイクルに沿ったルール設計
    文書には、発生(作成・取得)、伝達・共有、活用、保管、保存、廃棄という一連の「ライフサイクル」があります。この各段階に沿って、命名規則、承認ルート、保存期間、廃棄方法などのルールを設計することで、管理の抜け漏れを防ぐことができます。
  4. Step 4: 規程の条文作成と運用マニュアルの作成
    ここまでのステップで固めた方針を、法的な拘束力を持つ「規程」の条文として明文化します。また、規程だけでは抽象的であるため、具体的な操作手順を定めた「運用マニュアル」を別途作成し、従業員が迷わず業務を行えるようにします。
  5. Step 5: 周知と教育の徹底
    どれほど優れた規程とマニュアルを作成しても、従業員に知られていなければ意味がありません。規程の施行日を明確にし、全従業員に対して公式に通知・周知徹底します。なぜこのルールが必要なのかを丁寧に説明し、全社的な理解と協力を得ることが、規程を形骸化させないための鍵となります。

6. 第5部:【サンプル付】文書管理規程(詳細解説付)

本章では、これまでの解説を踏まえ、企業の規模や業種を問わずカスタマイズして利用できる文書管理規程のサンプルを提示します。各条項には、その目的や法的背景、カスタマイズのポイントを解説する注釈を付しており、自社の状況に合わせた規程を作成するための実践的な雛形として活用できます。

文書管理規程

第1章 総則

(目的)

第1条 本規程は、当社における文書の管理に関して必要な事項を定め、もって文書に関する業務の正確化と円滑化を図るとともに、文書の取扱いに起因するリスクの防止に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 本規程において、各用語の定義は次の各号に定めるところによる。

  1. 「文書」とは、当社の役職員が職務上作成し、または取得した文書、図面、写真、その他一切の記録媒体に記録された情報(電磁的記録を含む)をいう。
  2. 「文書管理」とは、文書の発生(作成・取得)、整理、伝達、活用、保管、保存、および廃棄に至る一連の業務をいう。
  3. 「保管」とは、現用中の文書を、業務に支障のないよう執務室内等で管理している状態をいう。
  4. 「保存」とは、保管期間が終了した文書を、法令または社内規程に基づき、書庫等の指定された場所で所定の期間保有することをいう。

(適用範囲)

第3条 本規程は、当社のすべての役職員および当社内で業務に従事するすべての者に対し、その雇用形態を問わず適用する。また、本規程は当社が管理するすべての文書に適用する。

(私有禁止および帰属)

第4条 役職員は、職務上作成または取得した文書を私有してはならない。文書に関する所有権その他一切の権利は、当社に帰属する。

第2章 文書管理の組織

(文書管理統括責任者)

第5条 当社における文書管理を統括するため、文書管理統括責任者を置く。文書管理統括責任者は、管理部門を管掌する取締役がこれにあたる。

2. 文書管理統括責任者を補佐し、文書管理に関する実務を統括する部門として、文書管理統括部署を置き、総務部がこれにあたる。

(文書管理責任者)

第6条 各所管部に文書管理責任者を置く。文書管理責任者は、当該所管部の長がこれにあたる。

2. 文書管理責任者は、所管部における文書管理が本規程および関連規程に基づき適正に実施されるよう、指導・監督する責任を負う。

第3章 文書の取扱い

(文書のライフサイクル管理)

第7条 すべての文書は、発生から廃棄に至るライフサイクルを通じて、本規程および別途定める文書管理マニュアルに従い、適切に管理されなければならない。

(文書の保管および保存)

第8条 文書は、その重要度、利用頻度、機密性に応じて、指定された場所に施錠等の適切なセキュリティ措置を講じた上で保管または保存しなければならない。

(文書の持ち出しおよび複製)

第9条 文書を社外に持ち出すこと、および複製することは、原則として禁止する。ただし、業務上やむを得ない事由により文書管理責任者の許可を得た場合は、この限りではない。

(文書の廃棄)

第10条 保存期間が満了した文書は、文書管理責任者の承認を得た上で、速やかに廃棄しなければならない。

2. 文書の廃棄にあたっては、機密性に応じてシュレッダー処理、溶解処理、データ完全消去等の復元不可能な方法で行わなければならない。

第4章 文書の保存期間

(保存期間)

第11条 文書の保存期間は、法令に定めのあるものを除き、業務上の必要性および重要性を勘案して、文書管理統括部署が定める。

2. 具体的な文書ごとの保存期間は、別表「文書保存期間基準表」に定める。

第5章 雑則

(罰則)

第12条 本規程に違反した役職員は、就業規則の定めるところにより懲戒処分の対象とする。

附則

(施行)

第13条 本規程は、YYYY年MM月DD日より施行する。

7. 第6部:規程の実効性を高める運用とテクノロジー

文書管理規程は、策定して終わりではありません。そのルールを日々の業務に根付かせ、継続的に維持・改善していくための運用体制と、それを支えるテクノロジーの活用が、規程の実効性を左右します。

7.1 文書管理システム(DMS)の選定と活用

現代の文書管理において、文書管理システム(DMS: Document Management System)やコンテンツクラウドプラットフォームの活用は、規程を遵守し、業務を効率化するための強力な武器となります。DMSは、規程で定めたルール(アクセス権限、バージョン管理、保存期間、廃棄プロセスなど)をシステム上で自動的に適用・強制することを可能にします。

【文書管理システム選定の比較検討ポイント】

比較項目確認すべきポイント理由・重要性
導入形態クラウド型か、オンプレミス型か予算、拡張性、セキュリティポリシーに合わせて選択。
機能検索、バージョン管理、ワークフロー機能など導入目的を達成するために必要な機能が過不足なく搭載されているか。
セキュリティ詳細なアクセス権限、操作ログ、暗号化、二要素認証など機密情報を扱う上で最も重要。自社のセキュリティ基準を満たすか。
操作性直感的で分かりやすいインターフェースか従業員がストレスなく使えるかどうかが利用定着の鍵。
コスト初期費用、月額利用料、カスタマイズ費用など長期的な運用コストを含めて比較検討する。
法令対応電子帳簿保存法などの規制に対応しているかコンプライアンスを確保するための必須要件。

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7.2 継続的な改善プロセス

文書管理を取り巻く環境は、法改正、技術の進歩、事業内容の変化など、常に変動しています。したがって、一度策定した文書管理規程もまた、「生きた文書」として定期的に見直し、改善していく必要があります。

具体的には、年に一度などの頻度で、以下の点について監査・レビューを実施することが望ましいです。

  • 規程の遵守状況
  • 有効性の評価
  • 法改正への対応
  • 業務実態との乖離

これらのレビュー結果に基づき、規程や運用マニュアルを適宜更新していくことで、文書管理体制の陳腐化を防ぎ、その実効性を永続的に維持することができます。

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8. 第7部:文書管理に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 文書管理規程の策定には、どのくらいの時間がかかりますか?

A1. 企業の規模や規程に盛り込む内容によって大きく異なります。一般的な目安として、現状分析から規程の条文作成、運用マニュアルの整備、全社展開まで含めると、約3ヶ月から6ヶ月程度の期間を要することが多いです。特に、部門横断的なヒアリングや、現場の業務実態に合わせたルールのすり合わせに時間がかかる傾向があります。

Q2. 規程を策定しても、現場が守ってくれないのではないかと不安です。

A2. 規程の形骸化は、多くの企業が直面する課題です。これを防ぐためには、単にルールを押し付けるのではなく、「なぜこのルールが必要なのか」を丁寧に説明し、従業員の理解と共感を得ることが不可欠です。また、規程を遵守することが「面倒」ではなく「楽」になるようなITツールを導入したり、積極的にルールを守っている従業員を評価する制度を設けたりすることも有効な手段です。

Q3. 文書管理システムを導入するべきタイミングはいつですか?

A3. 明確な基準はありませんが、**「書類の検索に時間がかかりすぎる」「契約書の更新漏れが発生した」「情報漏洩のリスクを感じる」「電子帳簿保存法への対応が間に合わない」**といった課題が顕在化したタイミングが、システム導入を検討する良い機会です。特に、業務の属人化が進んでいる、あるいはコンプライアンス上のリスクが放置されていると感じた場合は、早急な対応が求められます。

9. まとめ:持続可能な情報ガバナンス体制への道筋

本記事では、文書管理規程の策定と運用について、その戦略的重要性から法的要件、セキュリティ対策、具体的な作成手順、そしてテクノロジーの活用に至るまで、包括的に解説しました。

結論として、現代企業における文書管理は、もはや単なる書類整理の技術ではありません。それは、明確な指針としての「文書管理規程」、実効性を担保する「文書管理システム」、そして文化を醸成する「継続的な教育と改善」が有機的に連携した、持続可能な「情報ガバナンス」体制そのものです。

多くの企業では、承認プロセスを管理するワークフローシステムと、文書を保管する文書管理システムが分断され、決裁後の文書が統制不能な「野良ファイル」と化す課題を抱えています。ジュガールワークフローは、この課題を解決する統合型ワークフローシステムです。文書の作成から廃棄までのライフサイクル全体を一つのプラットフォームでシームレスに管理し、AIが規程チェックや入力支援を行うことで、ガバナンスと業務効率を両立させます。これにより、企業は情報を守りながら、その価値を最大限に引き出すことができます。

【関連】レコードマネジメントとの違いを理解する

文書管理と混同されがちな「レコードマネジメント」の概念、目的、導入ステップについては、こちらの記事が参考になります。

▶ レコードマネジメントとは?文書管理との違いと導入の4ステップ

10. 引用

  1. 「電子帳簿保存法一問一答(Q&A)」
    提供元:国税庁
    URL:https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
  2. 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
    提供元:金融庁
    URL:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/kijun/20230407_naibutousei_kansa.pdf
  3. 「DX白書2023」
    提供元:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
    URL:https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html
  4. 「ITR Market View:ワークフロー市場2023」
    提供元:株式会社アイ・ティ・アール(ITR)
    URL:https://www.itr.co.jp/report-library/M-23001500
  5. 「文書管理規程 作成時の留意点」
    提供元:組織の知カラ(株式会社ニッセイコム)
    URL:https://alpaca.nichimy.co.jp/news/098

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記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。