ワークフローシステム講座

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「2025年の崖」を越え、AIエージェント時代へ。レガシーシステム刷新が未来の競争力を決める理由

目次

この記事のポイント

この記事を読んでわかること

  • 「2025年の崖」が、なぜ「AIエージェント時代」への準備期間として捉えるべきなのか、その本質。
  • レガシーシステムが抱える技術的負債やデータのサイロ化が、AI活用において致命的な足かせとなる理由。
  • AIエージェントを最大限に活用するために不可欠な「データレディ」なIT基盤と、それを支える「DX人材」の重要性。
  • 自社の状況に合わせて選択すべき、レガシーシステム近代化の具体的な手法と、その先の未来像。
  • グローバル競争や異業種参入が激化する中で、IT基盤の刷新が企業の生存に不可欠であるという事実。

1. はじめに:問われているのは「危機回避」ではなく、「未来への準備」である

概要

本記事は、「2025年の崖」を単なる過去のITシステム問題としてではなく、来るべき「AIエージェント時代」への備えという未来志向の視点から捉え直すものです。レガシーシステムの刷新が、なぜ今、企業の競争力を左右する最重要の経営課題なのか、その理由と具体的な戦略を解説します。

詳細

2018年に経済産業省が「2025年の崖」という言葉で警鐘を鳴らしてから数年が経ちました。多くの企業がDXの重要性を認識し、ペーパーレス化やSaaSツールの導入に取り組んできました。

しかし、その一方で、多くの経営者がこう感じているのではないでしょうか。

「DXに取り組んでいるはずなのに、なぜか生産性が劇的に上がらない」

「部分的な効率化はできても、ビジネスモデルの変革にまで至らない」

その原因の多くは、企業の心臓部である基幹システムが、長年の「ツギハギ」で複雑化したレガシーシステムのままであることに起因します。

しかし、この問題の本質は、単に「古いシステムを放置すると危険だ」という危機回避の物語ではありません。むしろ、2025年が「AIエージェント元年」とも呼ばれる、大きな時代の転換期に、日本企業がどう備えるべきかという、未来に向けた問いかけなのです。

自律的に思考・行動する「AIエージェント」がビジネスのあらゆる場面で活用される時代が、すぐそこまで来ています。この革命的なテクノロジーの恩恵を最大限に享受できるか、それとも指をくわえて眺めているだけになるのか。その分水嶺となるのが、AIが学習し、活動するための土台となる、質の高いデータ基盤・IT基盤が整備されているかどうかなのです。

この記事は、私たちが発行した記事『ワークフロー4.0の全貌|自律型AIチームが経営を加速させる未来【2025年最新版】』で描く、AIが自律的に業務を遂行する未来への、現実的な第一歩を示すものです。

本稿では、「2025年の崖」という言葉を客観的に捉え直し、レガシーシステムという「過去の課題」が、なぜ「未来の機会」を掴む上での最大の障壁となるのか、そして、この障壁を乗り越え、AI時代を勝ち抜くためのIT基盤をいかに構築すべきかを、体系的かつ具体的に解説していきます。

【第1章】再定義する「2025年の崖」~過去の課題から未来の分岐点へ~

概要

「2025年の崖」とは、レガシーシステムに起因する諸問題を放置した場合の経済的損失リスクを示した、2018年時点での予測です。その本質は、単なるIT化の遅れではなく、ビジネスモデルの変革を伴う真のDX、特に来るべきAI時代への適応を阻害する「技術的負債」という経営課題として捉えるべきです。

2.1. 経済産業省レポートの客観的レビュー:「12兆円の損失」が意味するもの

2018年に経済産業省が公表した『DXレポート』は、既存のITシステム課題を克服できない場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性を指摘しました。この「崖」という言葉は、問題の深刻さを伝える上で大きな役割を果たしましたが、今、私たちはこれを冷静に捉え直す必要があります。

この12兆円という試算は、以下の3つの要素から構成されています。

  1. 守りのITコストの増大:システムの維持管理費の高騰。
  2. 直接的な損害:システム障害やサイバー攻撃による損失。
  3. 機会損失:新しいデジタルサービスを迅速に投入できないことによる、得べかりし利益の逸失。

重要なのは、この中で最も大きな割合を占めるのが「機会損失」であるという点です。つまり、「2025年の崖」問題の本質とは、「何かが起きるから危険だ」というリスク論以上に、「何もしなければ、世界の成長から取り残される」という機会損失の物語なのです。

2.2. 「IT化」のゴールと、その先の「DX」

この問題を理解する上で、「IT化」と「DX」の違いを明確にすることが重要です。

  • IT化(デジタル化):既存業務の効率化を目的とし、アナログな作業をデジタルに置き換えること。
  • 例:紙の稟議書をワークフローシステムで電子化する。
  • DX(デジタルトランスフォーメーション):新たな価値創造を目的とし、データとデジタル技術でビジネスモデルそのものを変革すること。
  • 例:蓄積されたワークフローデータをAIが分析し、経営判断を支援する。

多くの日本企業は「IT化」を達成し、一定の業務効率化を実現しました。しかし、その先の「DX」へ進めずにいます。なぜなら、そのIT化を支えてきたシステムそのものが、次の変革の足かせとなっているからです。

関連記事:『ペーパーレス化が失敗する本当の理由|「紙の再現」という罠

2.3. レガシーシステム:未来への成長を阻む「技術的負債」

DXへの移行を阻む元凶、それが「レガシーシステム」です。これは単に古いシステムではなく、以下のような特徴を持つ、経営上の「負債」となっているシステムを指します。

  • 技術の老朽化:COBOLなど、対応できる技術者が減少している技術で構成されている。
  • 複雑化・肥大化:長年の「ツギハギ」改修で、誰も全体像を把握できないスパゲッティ状態。
  • ブラックボックス化:仕様書がなく、改修の影響範囲が予測不能。
  • データの分断:部門ごとにデータが孤立し、全社横断での活用が不可能。

経済産業省のレポートでは、2025年には日本企業の約6割が、稼働から21年以上経過した基幹システムを抱えることになると予測されていました。これらのシステムは、過去の業務を支えることには成功しましたが、未来のビジネスモデルを支える柔軟性も拡張性も持ち合わせていないのです。

【この章のまとめ】

  • 「2025年の崖」の本質:危機回避ではなく、何もしなければ世界の成長から取り残されるという「機会損失」のリスク。
  • DXへの壁:多くの企業が「IT化」で満足し、ビジネスモデル変革を伴う真の「DX」に進めていない。
  • レガシーシステム:未来の成長の足かせとなる「技術的負債」。AI時代への適応を根本から阻害する。

【第2章】なぜレガシーシステムがAI時代の足かせになるのか?

概要

レガシーシステムが抱える「技術的負債」「ブラックボックス化」「データのサイロ化」といった根深い問題は、AIエージェントが活躍する時代において、企業の競争力を奪う致命的な足かせとなります。AIという高性能なエンジンを動かすための「質の高い燃料(データ)」と「整備された道路(IT基盤)」、そして「優秀なドライバー(DX人材)」が揃わなければ、宝の持ち腐れに終わります。

3.1. 【技術的負債】AIの学習コストを増大させる負の遺産

AI、特にAIエージェントが賢く働くためには、過去の膨大な業務データから「成功パターン」や「リスクの兆候」を学習する必要があります。しかし、技術的負債を抱えたシステムでは、データが不正確であったり、形式がバラバラであったりするため、AIが学習する前の「データクレンジング(掃除)」に莫大な時間とコストがかかります。これは、AI活用プロジェクトの成否を分ける、見えざるコストです。

3.2. 【ブラックボックス化】AI連携を阻む「触れられない」システム

AIエージェントは、API連携を通じて様々なシステムと会話し、業務を遂行します。しかし、内部構造が不明なブラックボックス化したレガシーシステムは、安全なAPIを外部に公開することが極めて困難です。無理に連携させようとすれば、予期せぬシステム障害を引き起こしかねません。結果として、AIエージェントは企業の最も重要なデータや機能にアクセスできず、その能力を限定されてしまいます。

3.3. 【データのサイロ化】AIの知能を曇らせる「分断された記憶」

AIの判断精度は、与えられるデータの質と量に比例します。「ガーベージイン・ガーベージアウト(ゴミを入れればゴミしか出てこない)」の原則通り、質の低いデータからは質の低い判断しか生まれません。

特に、データが部門ごとにサイロ化(分断)されている状況は致命的です。AIはビジネスの全体像を把握できず、あたかも「分断された記憶」しか持たない状態になります。これでは、営業情報と在庫情報を組み合わせた高度な需要予測など、部門を横断するような賢い判断は到底不可能です。

3.4. 【人的資本の危機】AI時代に対応できる組織への変革の壁

レガシーシステムは、技術的な問題だけでなく、AI時代に対応できる「人」と「組織」への変革をも阻害します。

  • スキルの固定化と人材不足:IT部門の人材は、レガシーシステムの維持管理に忙殺され、AIやデータサイエンスといった新しいスキルを習得する時間も機会もありません。一方で、日本全体でIT人材、特に高度なデジタル技術を扱える人材は慢性的に不足しています。
  • ベンダーへの過度な依存:自社にノウハウがないため、システムに関する全てをベンダーに依存する構造が、ブラックボックス化とコスト高騰を招き、新たな挑戦への足かせとなります。
  • 経営層のコミットメント不足:経営層がITをコストセンターとしか認識していない場合、AI活用に不可欠なデータ基盤整備や、それを担う人材への戦略的投資の意思決定が遅れます。

どんなに優れたIT基盤やAIツールを導入しても、それを使いこなし、ビジネス価値へと転換できる人材がいなければ意味がありません。技術、データ、そして「人」が三位一体となって初めて、企業はAI時代の競争を勝ち抜くことができるのです。

関連記事:『DX人材不足の真実と、AI時代に企業がとるべき採用・育成戦略

【この章のまとめ】

レガシーの問題点AI活用における障壁
技術的負債AIの学習データ準備に莫大なコストと時間がかかる。
ブラックボックス化API連携ができず、AIが基幹システムと協働できない。
データのサイロ化AIがビジネスの全体像を把握できず、判断精度が著しく低下する。
人的資本の危機AI時代に必要なスキルを持つ人材の育成や、戦略的投資、組織変革を阻害する。

【第3章】IT基盤の遅れが招く、新たな経営リスク

概要

レガシーシステムを放置するリスクは、もはや社内の非効率にとどまりません。AIを駆使する競合の台頭、巧妙化するサイバー攻撃、そしてビジネスモデル変革の機会損失という形で、企業の存続そのものを脅かす外部リスクへと変化しています。

4.1. リスク1:AI武装する競合に対する「競争力の相対的低下」

もはや競争相手は国内の同業者だけではありません。海外の競合企業は、潤沢な資金を投じて最新のIT基盤を構築し、AIを活用した製品開発やマーケティングを猛烈なスピードで進めています。また、業界の垣根を越えて、GAFAMのような巨大テック企業が、データとAIを武器に全く新しいサービスで市場を破壊しにくる可能性も常にあります。旧態依然のIT基盤のままでは、彼らと同じ土俵で戦うことすらできません。

4.2. リスク2:巧妙化するサイバー攻撃への「防御力の不足」

サポートが終了したレガシーシステムは、既知の脆弱性に対する「無防備な的」です。近年、サイバー攻撃はAIを用いてさらに巧妙化・自動化されており、旧来のセキュリティ対策では防ぎきれません。事業停止や情報漏洩といったインシデントは、企業の信頼を根底から揺るがします。

4.3. リスク3:ビジネスモデル変革の「機会損失」

最も深刻なリスクは、やはり「機会損失」です。ITリソースがレガシーシステムの維持管理に費やされる限り、企業はAIを活用した新しいビジネスモデル、例えば「製品のサービス化(XaaS)」や、データに基づいた高度なパーソナライゼーションといった、未来の収益源を創造するための投資ができません。これは、企業の成長エンジンを自ら止めてしまうに等しい行為です。

【この章のまとめ】

  • 競争力の相対的低下:AIを活用する海外企業や異業種参入者に対し、スピードと質で太刀打ちできなくなる。
  • 防御力の不足:サポート切れのシステムが、AIで巧妙化するサイバー攻撃の格好の標的となる。
  • 機会損失:未来の収益源となる、AIを活用した新しいビジネスモデルへの挑戦権を失う。

【第4章】AI時代に備えるためのIT基盤刷新ロードマップ

概要

レガシーシステムの刷新は、AI時代を勝ち抜くための戦略的投資です。目的を明確にし、現状を正確に把握した上で、未来への投資対効果を最大化する近代化手法を選択し、AI活用の土台となる柔軟で拡張性の高いIT基盤を構築することが求められます。

5.1. ステップ1:ゴール設定 – AIで何を実現したいのか

IT基盤の刷新は、それ自体が目的ではありません。最初のステップは、経営層が主導し、「AIやデータを活用して、自社のビジネスをどう変革したいのか」という明確なゴールを設定することです。「顧客体験を向上させたいのか」「製品開発のリードタイムを短縮したいのか」「新たな収益モデルを構築したいのか」によって、目指すべきIT基盤の姿は変わってきます。

5.2. ステップ2:現状分析 – IT資産の「見える化」と課題認識

次に、自社のIT資産とデータの現状を正確に把握する「見える化」を行います。どのシステムがブラックボックス化しているのか、データはどこにどのような品質で存在しているのかを客観的に評価し、ゴールとのギャップを明らかにします。

5.3. ステップ3:近代化手法の選択 – 未来への投資対効果で判断する

現状とゴールが明確になれば、具体的な近代化手法を選択します。重要なのは、単なるコスト削減ではなく、**未来のAI活用を見据えた投資対効果(ROI)**で判断することです。

表:レガシーシステム近代化手法の比較分析(AI活用視点)

手法概要AI活用への貢献度判断のポイント
リホスト (Rehost)インフラのみをクラウドへ移行。とにかくハードウェアの保守切れを回避したい場合の延命措置。AI活用への道は遠い。
リライト (Rewrite)古い言語を現代的な言語へ書き換え。ビジネスロジックの価値は高いが、言語がボトルネックの場合に有効。API連携が容易になる。
リプレース (Replace)業務要件を再定義し、システムを再構築。抜本的なビジネスプロセス変革と、AIによる価値創造を本気で目指す場合の選択肢。

関連記事:『クラウドか、オンプレミスか?ワークフローシステム導入における経営判断のポイント

関連記事:『ワークフローのAPI連携で業務自動化

【第5章】2025年、私たちは「AIエージェント元年」のどこにいるのか?

概要

2025年は、単なる期限ではなく、自律的に思考・行動する「AIエージェント」がビジネスを本格的に変え始める「元年」と目されています。この大きな変化の波に乗れるか否かは、企業の「データレディネス」、すなわちAI活用への準備度に懸かっています。

6.1. AIエージェントは、ビジネスをどう変えるのか?

AIエージェントとは、与えられた目標に対し、自ら計画を立て、様々なツール(API)を使いこなし、業務を遂行する自律型AIです。これは、単なる作業の自動化(RPA)や対話(チャットボット)とは次元が異なります。

例えば、「競合A社の新製品に関する調査レポートを作成して」と指示すれば、AIエージェントは自律的にWebを検索し、社内データを分析し、グラフを作成してレポートを完成させます。これは、業務プロセスそのものの自動化であり、知的労働のあり方を根底から変革します。

6.2. 深刻化する「AI活用企業」と「取り残される企業」の二極化

このAIエージェントの活用度合いによって、企業の生産性や競争力には、これまでとは比較にならないほどの格差が生まれます。これが「AI格差(AI Divide)」です。

  • AI活用企業:AIエージェントに定型的な知的労働を任せ、人間はより創造的で戦略的な業務に集中することで、成長を加速させる。
  • 取り残される企業:レガシーシステムが足かせとなりAIを活用できず、人間が非効率な業務に忙殺され、競争力を失っていく。

この二極化は、すでに始まっています。

6.3. 業界の垣根を越える競争と、その備え

AI時代には、業界の垣根は意味をなさなくなります。「自社は国内市場中心で、海外との競合は少ないから安泰だ」という考えは、もはや通用しません。データとAIを持つ異業種のプレイヤーが、ある日突然、あなたの市場のディスラプター(破壊的競争者)として現れるかもしれないのです。この非対称な競争に備える唯一の方法は、自らもデータとAIを使いこなせる企業へと変革することです。

6.4. AI時代を勝ち抜く条件:「データレディ」とは何か?

AIエージェントという強力なエンジンを動かすには、質の高い燃料、すなわち「データ」が不可欠です。しかし、ただデータがあれば良いというわけではありません。AIを真に活用できる企業になるためには、組織が「データレディ (Data Ready)」な状態、つまり「AIがいつでもデータを活用できる準備が整っている状態」であることが絶対条件となります。

「データレディ」な状態は、主に以下の4つの要素で構成されます。

表:「データレディ」を構成する4つの要素

要素概要なぜAIエージェントに不可欠か?
1. データ品質とガバナンスデータが正確、完全、最新であり、誰がどのようにデータを管理・利用するかのルール(データガバナンス)が明確に定められている状態。「ゴミを入れればゴミしか出てこない」の原則通り、不正確なデータはAIに誤った判断をさせ、ビジネスに損害を与える。
2. データのアクセス性と統合データがサイロ化せず、必要な時に必要な人が安全にアクセスでき、APIなどを通じてシステム間で容易に連携・統合できる状態。複数のシステムを横断して業務を遂行するAIエージェントにとって、データが分断されている状態は致命的。全体像を把握できない。
3. データ基盤(インフラ)AIの膨大な計算処理や高速なデータアクセスに耐えうる、スケーラブルでモダンなIT基盤(クラウド、データベース等)が整備されている状態。旧式のインフラでは、AIの処理速度が極端に低下したり、そもそも動作しなかったりする。F1カーに未舗装路を走らせるようなもの。
4. データリテラシーと文化経営層から現場まで、全従業員がデータを基に意思決定することの重要性を理解し、実践している状態。AIが導き出した分析結果や提案を、人間が理解し、信頼し、活用できなければ意味がない。AIと人間が協業するための土台となる。

レガシーシステムの刷新とは、まさにこの「データレディ」な状態を組織的に作り上げるための、最も重要かつ根本的な取り組みなのです。

6.5. あなたの会社はAI時代に対応できるか?「データレディネス」簡易診断

重要なのは、自社がAIを活用できる状態、すなわち「データレディ」な状態にあるかです。以下の簡易診断で、自社の準備度(データレディネス)を確認してみましょう。

質問はいいいえ
1. AIが学習可能な、全社で統一・整理されたマスターデータが存在する。
2. 経営層が、データに基づいた意思決定を日常的に行っている。
3. 主要な業務システムは、外部サービスと安全に連携するためのAPIを備えている。
4. IT部門だけでなく、事業部門にもデータを活用できる人材がいる。
5. AI活用を前提とした、中長期的なIT投資戦略が策定されている。
6. 小さなAIプロジェクトを迅速に試せる、実験的な文化や予算がある。

診断結果

  • 「はい」が5~6個【準備万端】 AIエージェント時代をリードするポテンシャルがあります。
  • 「はい」が3~4個【準備中】 AI活用の基盤は整いつつあります。データガバナンスの強化と人材育成が次の課題です。
  • 「はい」が0~2個【要警戒】 レガシーシステムの課題がAI活用の大きな障壁となっています。IT基盤の刷新が急務です。

【第6章】明日から始める、レガシーシステム刷新への3つのステップ

概要

レガシーシステムの刷新は壮大なプロジェクトに聞こえるかもしれませんが、最初の一歩はごく身近なところから始められます。ここでは、読者の皆様が明日からでも取り組める、具体的なアクションプランを3つのステップでご紹介します。

  • Step 1: 課題の棚卸し(1週間)
    まずは、あなたの部署で「時間がかかっている」「属人化している」「ミスが多い」と感じる手作業のデータ入力や集計業務を3つ、具体的に書き出してみましょう。ポイントは、完璧を目指さず、まずは課題を「見える化」することです。
  • Step 2: 情報収集(2週間)
    次に、IT部門やシステムに詳しい同僚に、Step1で書き出した業務で使われているシステムの「課題」と「API連携の可否」をヒアリングしてみましょう。「このデータをCSVで出力できますか?」といった簡単な質問からで構いません。現状の制約を把握することが目的です。
  • Step 3: スモールスタートの企画(1ヶ月)
    最後に、ヒアリング結果を基に、その業務をSaaSツールで代替する場合の簡単な企画書をA4一枚にまとめてみましょう。「このSaaSを使えば、あの手作業がなくなり、月20時間削減できる」といった具体的なメリットを提示し、上司に提案してみることが、大きな変革への小さな、しかし確実な一歩となります。

【第7章】レガシーを脱し、ワークフロー4.0が拓く未来へ

概要

レガシーシステムの刷新は、過去の「負債の返済」であると同時に、未来の価値創造に向けた「資産への投資」です。そのゴールは、AIと人間が協業し、継続的に進化し続ける組織、すなわち「ワークフロー4.0」の世界を実現することにあります。

8.1. 「負債の返済」から「未来資産への投資」へ

レガシーシステムからの脱却は、守りのITコストを削減する「負債返済」の側面を持ちます。しかし、その本質的な価値は、それによって解放された経営資源を、AI活用基盤という「未来の資産」へと再投資できる点にあります。

整備されたIT基盤と、そこに蓄積される質の高いデータは、AIエージェントを動かすための燃料となり、企業の競争力を継続的に生み出す、最も重要な無形資産となるのです。

8.2. 崖を越えた企業が目指すべき組織像とは?

一度IT基盤を刷新すれば終わり、ではありません。ビジネス環境やテクノロジーは、これからも絶えず変化し続けます。目指すべきは、その変化に対応し、**AIと人間が互いに学び合い、共に賢くなっていく「共進化する組織」**です。

そして、その組織の神経系として機能するのが、私たちのピラーページで詳述している『ワークフロー4.0の全貌』です。AIが人間の「判断」を支援し、AIエージェントが自律的に業務を遂行する世界。レガシーシステムという足枷を外して初めて、この新しい次元の働き方への扉が開かれます。

まとめ:「崖」の議論を終え、AI時代の新たなスタートラインに立つ

「2025年の崖」という言葉が提起した問題は、今もなお多くの企業にとって重要な課題です。しかし、その議論の焦点を「危機回避」から「未来創造への準備」へと移すべき時が来ています。

真の課題は、過去のレガシーシステムにあるのではなく、AIエージェントがビジネスの中心となる未来に、自社がどのような役割を果たせるか、という点にあります。グローバルな競争、異業種からの挑戦が激化する中で、AIを活用できる柔軟で強靭なIT基盤を持つことは、もはや選択肢ではなく、企業の生存を賭けた必須条件です。

ジュガールワークフローは、単に紙を電子化するだけのツールではありません。レガシーシステムが抱えるデータのサイロ化やプロセスの硬直性といった課題を解決し、来るべきAIエージェント時代を見据えた、柔軟でデータレディな業務基盤を構築します。私たちは、お客様が過去の課題を乗り越え、AIと共に未来を創造する、そのワクワクする変革の旅路を力強く支援することをお約束します。

この歴史的な転換点に、共に立ち向かいましょう。

10. よくある質問(FAQ)

レガシーシステムの刷新は、どの部署が主導すべきですか?

レガシーシステムの刷新は、単なるITプロジェクトではなく、全社的な経営改革です。そのため、IT部門だけでなく、経営企画、事業部門を巻き込み、経営トップがオーナーシップを持って推進することが成功の鍵となります。

中小企業で、刷新に大きな予算を割けません。何から始めるべきですか?

全面的なリプレースではなく、まずはクラウドサービスを活用した「リホスト」から着手し、サーバー維持管理コストを削減することをお勧めします。また、本記事の導入事例のように、経費精算など特定の業務領域からSaaSを導入し、スモールスタートで成功体験を積むことも非常に有効です。

AIエージェントを活用するために、今から準備しておくべきことは何ですか?

まずは本記事で解説した「データレディ」な状態を目指すことが最優先です。特に、社内に散在する顧客データや製品データを統合・整備する「マスターデータ管理」から始めることが、将来のAI活用のための最も確実な一歩となります。

レガシーシステム刷新プロジェクトが失敗する、最も多い原因は何ですか?

技術的な問題よりも、「現状の業務を変えたくない」という現場の抵抗や、経営層のコミットメント不足といった、組織・文化的な問題が失敗の主因となるケースが多く見られます。関係者を早期に巻き込み、変革の目的とメリットを丁寧に共有することが不可欠です。

刷新には、どのくらいの期間がかかりますか?

対象システムの規模や複雑さ、選択する近代化手法によって大きく異なります。一部の機能をSaaSに置き換えるようなスモールスタートであれば数ヶ月で可能ですが、基幹システム全体の刷新となると、数年単位の期間が必要になるのが一般的です。

11. 引用・参考文献

  1. 経済産業省 (2018年9月7日). 『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』. URL: https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf
  2. 独立行政法人情報処理推進機構(IPA) (2023年5月31日). 『DX白書2023』. URL: https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html
  3. PwC Japanグループ (2024年3月27日). 『日本企業のDX推進実態調査2024(速報版)』. URL: https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/dx-survey2024.html
  4. 総務省 (2023年7月). 『令和5年版 情報通信白書』. URL: https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/
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記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。