ワークフローシステム講座

日々の業務プロセスに課題を感じている方へ向けて、ワークフローシステムの選び方から業務改善の確かなヒントまで、完全網羅でお伝えします。

ワークフローのAPI連携で業務自動化|SaaSの分断をなくしDXを加速させる方法

目次

この記事のポイント

  • スタンドアロンのワークフローシステムだけでは不十分な理由
  • API連携の基本的な仕組みと、ビジネスにもたらす真の価値
  • 財務・人事・営業など、部門別の具体的なAPI連携ユースケースと成功事例
  • API連携の限界と、システム統合という戦略的な視点
  • API連携を成功させるためのプラットフォーム選定基準と導入ステップ
  • AIや「業務視点のノーコード」が拓く、ワークフロー自動化の未来

なぜ、ワークフローシステムだけでは業務自動化が完結しないのか?

多くの企業が、意思決定の迅速化やペーパーレス化を目指してワークフローシステムを導入します。これにより、申請・承認プロセスは確かに効率化されます。しかし、多くの現場では「承認されたデータを、結局別のシステムに手で入力している」という課題が残ります。

この問題の根源は、業務プロセスがシステムごとに分断されている「部分最適」の罠にあります。具体的には、以下の3つの課題が挙げられます。

課題①:データのサイロ化

経費精算データは会計システムに、顧客情報はCRMに、従業員データは人事システムに、というように、それぞれの業務データが異なるシステム内に孤立して保管されてしまう状態です。これにより、システム間で情報を連携させるために、手作業でのデータ転記や二重入力が常態化し、非効率と入力ミスの温床となります。

課題②:プロセスの分断

例えば、契約業務を一つとっても、「社内での契約書レビュー・承認」はワークフローシステム、「取引先との契約締結」は電子契約サービス、「締結済み契約書の保管」はファイルサーバーと、一連の業務がシステムごとに分断されています。これにより、業務の全体像が把握しにくくなり、管理が煩雑になるだけでなく、プロセス間の連携がボトルネックとなって業務遅延を引き起こします。

課題③:承認者のジレンマ

承認依頼が、ビジネスチャット、メール、人事ポータル、経費精算システムなど、様々なツールに散在してしまいます。その結果、管理職などの承認者は、複数のシステムを常に巡回して確認する必要に迫られます。この頻繁な「コンテキストスイッチ(作業の切り替え)」は、集中力を削ぎ生産性を低下させるだけでなく、重要な申請の見落としという重大なリスクにも繋がります。

これらの課題は、単体のワークフローシステムだけでは解決できません。承認プロセスという「点」の効率化はできても、業務全体の「線」の流れが滞ったままでは、真の業務自動化は実現しないのです。このシステム間の分断を解消し、シームレスな情報の流れを創り出す鍵こそが「API連携」です。

この章のまとめ

  • ワークフローシステム単体では、申請・承認プロセスの効率化はできるが、システム間のデータ転記といった手作業は残りがち。
  • 原因は、システムごとにデータとプロセスが分断される「部分最適」と、それに伴う「承認者のジレンマ」にある。
  • この分断を解消し、業務プロセス全体を繋ぐ技術が「API連携」である。

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APIとは何か?システム同士を繋ぐ「通訳」の仕組みを理解する

API(Application Programming Interface)と聞くと、技術的な専門用語に聞こえるかもしれません。しかし、その役割は非常にシンプルです。APIとは、異なるソフトウェアやシステム同士が、ルールに従って情報をやり取りするための「通訳」や「連絡係」のようなものです。

APIの仕組み:レストランの例え

ステップ登場人物(役割)処理内容
1. 注文あなた(システムA)メニューを見て料理を注文(リクエスト)する。
2. 伝達ウェイター(API)注文内容を厨房に正確に伝達する。
3. 調理厨房(システムB)注文通りに料理を調理(処理)する。
4. 配膳ウェイター(API)完成した料理をあなたの元へ配膳(レスポンス)する。

この一連の流れにおいて、あなたは厨房の仕組みを詳しく知る必要はありません。ウェイター(API)という決められた窓口を通じて、必要なやり取りが完結します。

ビジネスの現場では、このAPIによって、例えば「ワークフローシステムで経費精算が承認されたら、その情報を会計システムに自動で登録する」といった連携が可能になります。人間が介在することなく、システム同士がリアルタイムで対話し、業務を自動で進めてくれるのです。

この章のまとめ

  • APIは、異なるシステム間で情報をやり取りするための「通訳」や「窓口」の役割を果たす。
  • APIを利用することで、開発者は他のシステムの内部構造を深く知らなくても、その機能やデータを安全に利用できる。
  • この仕組みにより、システム間の手作業によるデータ連携をなくし、自動化を実現できる。

API連携がもたらす3つの真価|「部分最適」から「全体最適」へ

API連携は、単に手作業を減らすだけでなく、企業のIT戦略そのものを変革するほどの大きな価値をもたらします。スタンドアロンのワークフローが「承認ステップ」という点の効率化であるのに対し、API連携されたワークフローは「ビジネスプロセス全体」という線の効率化を実現します。

価値①:エンドツーエンドの業務自動化

API連携は、システム間のデータの「橋渡し」を完全に自動化します。例えば、営業担当者がCRMで見積を作成し、それがワークフローで承認され、会計システムで請求書が発行され、電子契約システムで契約が締結されるまで、一連のプロセスが途切れることなく流れていきます。これにより、二重入力や転記ミスといったヒューマンエラーを撲滅し、業務プロセス全体の生産性を飛躍的に向上させます。

価値②:「車輪の再発明」を防ぎ、全社的なガバナンスを強化

新しい業務システムを導入するたびに、承認機能をゼロから開発するのは、時間とコストの大きな無駄、すなわち「車輪の再発明」です。ワークフローシステムの承認機能を「部品」としてAPI経由で呼び出せるようにすれば、承認プロセスを全社で標準化できます。これにより、IT部門の開発コストを削減できるだけでなく、ユーザーは使い慣れたインターフェースで承認作業を行え、企業のガバナンスも一元的に強化することが可能になります。

価値③:俊敏で回復力のあるシステム基盤の構築

ビジネス環境の変化に迅速に対応するためには、システムの柔軟性、すなわちアジリティが不可欠です。APIを前提としたアーキテクチャでは、各システムが疎結合(そけつごう:特定のシステム変更が他に影響しにくい、しなやかな繋がり方)で連携しているため、特定のシステムを新しいものに入れ替えたり、新たなSaaSを追加したりすることが容易になります。これにより、市場の変化や新たなニーズに対して、俊敏に対応できるIT基盤を構築できます。

API主導型アーキテクチャのメリット・デメリット

項目メリットデメリット(リスク)
効率性開発時間とコストを劇的に削減できる(車輪の再発明の回避)。連携先のAPI仕様変更やサービス停止により、自社システムが影響を受ける(ベンダー依存)。
専門性決済や認証など、専門性の高い機能を自社開発なしで利用できる。複数のAPIを連携・維持管理するには、専門的な技術知識や継続的なメンテナンス工数が必要になる。
UXシングルサインオンなど、ユーザーの利便性を高める機能を容易に実装できる。APIの利用料(サブスクリプションや従量課金)が、事業規模の拡大に伴い増大する可能性がある。

【部門別】ワークフローAPI連携の戦略的ユースケース5選

API連携が具体的にどのように業務を変革するのか、部門別の代表的なユースケースを見ていきましょう。これらは、API連携された統合型ワークフローシステムが、いかにして企業の「業務のハブ」として機能するかを示しています。

業務領域連携対象システム自動化されるプロセス例主要なビジネス便益
財務・会計ERP, 会計システム承認済みの経費精算データを自動で仕訳伝票として起票する。購買依頼の承認後、ERPに発注データを自動作成する。経理部門のデータ入力作業を撲滅し、月次決算を早期化する。リアルタイムな予算実績管理を実現する。
人事・労務人事情報システム (HRIS)人事異動情報に基づき、各種申請の承認ルート(上長など)を自動でメンテナンスする。組織変更時の膨大なメンテナンス工数を削減し、承認ルートの設定ミスを防ぐ。
営業・顧客管理SFA, CRMCRMで作成した割引率の高い見積書を、ワークフローシステムで自動的に承認申請する。承認結果はリアルタイムでCRMに反映される。承認の遅れによる販売機会の損失を防ぎ、営業サイクルを短縮する。営業担当者のデータ再入力の手間をなくす。
コラボレーションチャットツール, クラウドストレージ承認依頼をSlackやMicrosoft Teamsに通知し、チャット上で承認を完結させる。承認済みの契約書を、監査証跡と共にGoogle DriveやBoxに自動保管する。意思決定のスピードを劇的に向上させ、承認漏れを防ぐ。文書のライフサイクル管理を自動化し、コンプライアンスを強化する。
法務・購買電子契約システム社内での契約書レビュー・承認後、自動で電子契約システムに連携し、取引先へ送信する。署名完了後、契約書を自動でアーカイブする。契約締結までのリードタイムを大幅に短縮し、印紙代や郵送コストを削減する。

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API連携の成功を左右する、戦略と実践

5.1 API連携の限界と「システム統合」という視点

APIは強力なツールですが、「何でもAPIで繋げば良い」という考え方は危険な罠をはらんでいます。SaaSの導入が進み、システム間の連携が増えれば増えるほど、API連携の全体像は複雑化し、まるでスパゲッティのように絡み合った状態、いわゆる「APIスパゲッティ」を引き起こすリスクがあります。

比較:「APIスパゲッティ」 vs 「統合プラットフォーム」

比較項目Before: APIスパゲッティ状態After: 統合プラットフォームによる整理
システム構成各SaaSが個別に、複雑に連携。全体像の把握が困難。統合型ワークフローを中心に、連携を整理・集約。シンプルな構成。
管理コスト連携ポイントごとに管理が必要で、コストが増大。連携の管理を一元化でき、コストを抑制。
障害対応障害発生時の原因特定と切り分けに時間がかかる。問題箇所が特定しやすく、迅速な対応が可能。
データ整合性複雑な連携の途中で、データの不整合が発生するリスクが高い。データ連携のハブが明確なため、整合性を保ちやすい。

この課題に対する答えは、API連携と並行して「システムの整理・統合」を進めるという戦略的な視点です。特に、経費精算、勤怠管理、文書管理といった間接業務の領域では、機能が重複するSaaSが乱立しがちです。これらの個別最適化されたシステム群を、よりシンプルな構成へと見直すことが不可欠です。

この文脈において、「統合型ワークフローシステム」は、単にシステムを繋ぐハブとしてだけでなく、乱立しがちな間接業務アプリケーションの機能を包含し、システムランドスケープ全体をシンプルにする「統合プラットフォーム」としての役割を担います。API連携による「柔軟な接続」と、システム統合による「シンプルな管理」。この両輪を回すことこそが、持続可能なIT基盤を構築する鍵なのです。

5.2 プラットフォーム選定の6つの重要基準

上記の戦略的視点を踏まえ、プラットフォーム選定では以下の6つの基準を評価することが重要です。

  1. 豊富なAPIと連携実績: 自社で利用中の主要なSaaS(会計、人事、CRMなど)との連携コネクタが標準で用意されているか。
  2. APIの信頼性とサポート体制: APIは常に正常に動くとは限りません。詳細なAPIドキュメント(Swagger/OpenAPI仕様書など)が整備されているか、そして、エラー発生時の原因究明や復旧を支援するエラーハンドリングのサポート体制が充実しているかは、安定運用の生命線です。ベンダーの安定稼働実績も併せて確認しましょう。
  3. 利用者の使いやすさ (UI/UX): IT部門だけでなく、現場の従業員が直感的に操作できるシンプルなインターフェースか。特にスマートフォンでの利用に完全に対応しているかは必須要件です。
  4. 柔軟性と拡張性: 企業の成長や組織変更に追従できるか。金額による条件分岐や並列承認など、自社の複雑な承認フローを再現できる柔軟性が求められます。
  5. コストと価値のバランス: 月額利用料だけでなく、導入後の運用コストや、将来的なシステム入れ替えのリスクまで含めた総所有コスト(TCO)で判断する必要があります。
  6. ベンダーのサポート体制: API関連だけでなく、導入プロセス全体や運用開始後の活用促進まで、手厚いサポートが受けられるかを確認しましょう。

5.3 導入を成功に導く3つのステップ

API連携プロジェクトの成功は、技術だけでなく、組織的な取り組みにかかっています。

  • Step1:業務プロセスの見直し(BPR)が前提: 最も重要なのは、既存の非効率な業務プロセスをそのままデジタル化しないことです。それは単に「牛が踏み固めた道を舗装する」に等しく、根本的な問題解決には至りません。システム導入を機に、「この承認は本当に必要か?」といった本質的な問いを立て、あるべき業務フローを再設計することが成功の鍵です。この見直しは、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」を乗り越え、レガシーシステムから脱却するための第一歩でもあります。
  • Step2:スモールスタートで成功体験を積む: 全社一斉導入ではなく、特定の部門や業務(例:経理部の経費精算)から小さく始め、API連携による具体的な効果を実証します。この成功事例が、全社展開への強力な説得材料となります。
  • Step3:現場を巻き込み、改善サイクルを回す: 実際にシステムを利用する現場の従業員を設計段階から巻き込み、フィードバックを収集する仕組みを設けます。システムは導入して終わりではなく、継続的に改善していく「育てる」文化を醸成することが重要です。

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未来への展望:AIと「業務視点のノーコード」が拓く次世代の自動化

API連携によって構築された「業務のハブ」は、さらに進化していきます。ここでは、ワークフローの未来を形作る2つの重要なトレンド、「AIの統合」と「現場主導の業務改善」について解説します。

AIの統合:自動化から「自律化」へ

AI技術がワークフローシステムに統合されることで、単なるプロセスの自動化を超え、よりインテリジェントな「自律化」へと進化します。

  • 予測的な意思決定支援: AIが過去の膨大な承認データを分析し、「類似案件と比較して異常値を含む申請」を自動でフラグ立てしたり、「この稟議にはこのようなリスクが潜んでいる」といった示唆を承認者に提供したりします。
  • 承認ルートの最適化: 将来的には、AIが承認者の業務負荷や在席状況などをリアルタイムに考慮し、動的に最適な承認者へリクエストを回付するといった、より高度な運用が期待されます。

現場主導の業務改善を加速する「業務視点のノーコード」

ローコード/ノーコード(LCNC)という言葉が注目されていますが、その実態を正しく理解することが重要です。「誰でも開発者になれる」というイメージがありますが、多くのツールは依然として相応のIT専門知識を必要とします。

真に現場主導の業務改善を加速するのは、ITの先進性よりも「業務視点」で設計されたノーコードツールです。

  • IT視点のツール: 高度な機能を持つが、設定にはデータベース構造やAPIの知識が求められることが多い。
  • 業務視点のツール: 業務担当者が「普段の業務ルールを登録する」感覚で、直感的に申請フォームや承認フローを設定できる。

重要なのは、業務部門が自律的に改善を回せる「業務視点の使いやすさ」と、IT部門が安心して全体統制を行える「高度なIT基盤(堅牢なセキュリティ、豊富なAPI、Webhookなど)」が両立されていることです。このようなツールを選ぶことで、IT部門は「構築者」から、全社の業務改善を安全かつ効率的に推進するための「統制者(ガバナー)」へと、その役割を進化させることができるのです。

この章のまとめ

  • AIとの連携により、ワークフローはデータに基づき示唆を与える、よりインテリジェントなシステムへと進化する。
  • 現場主導の改善には、IT知識より業務知識で設定できる「業務視点のノーコード」ツールが不可欠。
  • IT部門は、現場の自律的な改善を支え、統制する「ガバナー」としての役割が求められる。

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まとめ:API連携とシステム統合で、真の業務改革を実現する

本記事では、ワークフローシステムと各種SaaSをAPIで連携させることが、いかにして真の業務自動化を実現するかを解説しました。

しかし、その成功は「何でもAPIで繋ぐ」ことにあるのではありません。無秩序な連携は「APIスパゲッティ」という新たな技術的負債を生み出します。真のゴールは、APIによる「柔軟な接続」と、戦略的な「システム統合」を両立させ、企業全体のIT基盤をシンプルかつ強靭にすることにあります。

この文脈において、ワークフローシステムは単なる「電子決裁ツール」から、あらゆる業務プロセスが交差する「業務ハブ」、そして乱立するSaaSを束ねる「統合プラットフォーム」へと進化します。このプラットフォームを中心に、データがよどみなく流れ、AIによる高度な意思決定支援や、「業務視点のノーコード」による現場主導の業務改善が加速していくのです。これは、単なるコスト削減や効率化に留まらず、変化に強い、回復力のある企業体を構築するための、未来への投資と言えるでしょう。

ジュガールワークフローは、高度なIT基盤の上に構築された「業務視点のツール」です。豊富なAPIやWebhook、詳細なAPIドキュメント、そして手厚いサポート体制により、お客様の安定したシステム連携と、現場主導の継続的な業務改善を両面から支援します。単なる部分最適に留まらない、企業全体の生産性向上を実現するために、ぜひ一度ご相談ください。

引用・参考文献

Global Market Insights, “Workflow Management System Market Size”, 2024年.

Business Research Insights, “Workflow Management System Market Size, Share, Growth Report-2033”, 2024年.

川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。