ワークフローシステム講座

日々の業務プロセスに課題を感じている方へ向けて、ワークフローシステムの選び方から業務改善の確かなヒントまで、完全網羅でお伝えします。

ワークフローのデータをBIで分析する方法|バックオフィスを戦略部門に変える

目次

この記事のポイント

  • なぜ、多くの企業でワークフローデータが活用されずに眠っているのか
  • ワークフローデータを分析するために必要なテクノロジー(AI、BIツールなど)
  • 部門別(業務改善、営業、財務、人事、安全管理など)の具体的なデータ活用事例と分析手法
  • データ分析プロジェクトを成功に導くための実践的な3つのステップ
  • バックオフィスがデータドリブンな戦略部門へ変わるためのロードマップ

はじめに:バックオフィスは「コストセンター」から「戦略部門」へ

多くの企業で、経理や人事、総務といったバックオフィス部門は、長らく「コストセンター」と見なされてきました。その主な役割は、業務をいかに効率化し、コストを削減するかという点に置かれがちでした。

しかし、その効率化の追求の裏側で、企業にとって最も価値ある資産の一つである「データ」が、その真価を発揮できないまま眠り続けています。日々の申請・承認プロセスで蓄積される統合型ワークフローシステムのデータには、「どの製品のクレームが多いのか」「なぜ特定のプロジェクトの承認は遅れるのか」といった、経営判断の根拠となる「なぜ(Why)」の情報が詰まっています。

この記事では、これまで活用されてこなかったワークフローデータに光を当て、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールやAI(人工知能)を用いて分析し、企業の競争力を高めるための「インテリジェンス」へと転換する方法を解説します。

本記事を読み終える頃には、あなたの会社のバックオフィスを、単なる業務処理部門から、データに基づき未来を予測し、経営に戦略的な提言を行う「プロフィットセンター」へと変革させるための、具体的な道筋が見えているはずです。

なぜ、ワークフローデータは「宝の山」なのに活用されないのか?

多くの企業が、ERP(統合基幹業務システム)などを導入しデータ活用を目指しているにもかかわらず、なぜワークフローシステムのデータは分析対象から外されてしまうのでしょうか。その背景には、2つの根深い課題が存在します。

課題①:ERP中心経営がもたらす「結果データ」の限界

現代の経営管理において中心的な役割を担うERPは、売上高や在庫数といった構造化された「結果データ(What)」を管理することに長けています。しかし、その結果に至るまでの背景や原因といった「文脈データ(Why)」を捉えることは不得意です。

例えば、ERPは「A製品の売上が前月比10%減少した」という事実は示せても、その原因が「競合の値下げ」なのか「顧客の不満」なのかという理由は、営業日報や稟議書といったワークフロー内の文書を読まなければ分かりません。

この結果データと文脈データの分断が、データに基づいた本質的な原因究明を妨げているのです。

課題②:「承認されたら終わり」という非構造化データの罠

稟議書、報告書、申請書といったワークフロー上の文書は、承認や報告といった目的が達成されると、その価値は急速に失われているように見えます。

承認済みの文書はPDF化され、ファイルサーバーの奥深くに眠る「ダークデータ」と化します。そこに記された戦略的根拠、リスク評価、担当者の所感といった貴重なコンテキストは、組織の集合知として活用されることなく忘れ去られてしまいます。これは、組織が自らの経験から学べなくなる「組織の健忘症」とも言える状態です。

この健忘症は、過去の失敗を繰り返したり、非効率な業務を放置したりする原因となり、組織の成長を静かに蝕んでいきます。

【まとめ】ワークフローデータが眠る2つの理由

課題内容結果
ERP中心経営の限界売上などの「結果(What)」は分かるが、その背景にある「理由(Why)」が分からない。データが分断され、表面的な分析に留まる。
非構造化データの罠稟議書や報告書が承認後に活用されず、「ダークデータ」化してしまう。過去の知見が失われ、同じ失敗を繰り返す「組織の健忘症」に陥る。

ワークフローデータを戦略に変える「IN/OUT」テクノロジーとは?

眠っているワークフローデータを価値あるインテリジェンスへと転換するためには、データを「入力(IN)」し、それを「分析・出力(OUT)」するための新たな技術的エコシステムの構築が不可欠です。

「Garbage in, garbage out(ゴミを入れれば、ゴミしか出てこない)」という言葉が示す通り、AIや人間の判断を最適化するための大前提は、分析の元となる「正しい情報」をストレスなく、かつ確実に収集できる環境です。この「IN」の品質が、後続の「OUT」の価値を決定づけます。

IN:データ投入のゲートウェイを構築する技術

高度な分析(OUT)は、質の高いデータ入力(IN)なくしては成り立ちません。あらゆる業務データを正確かつ効率的に収集・デジタル化するための、洗練されたデータ投入アーキテクチャが基盤となります。

  • モダンなワークフローシステム
    紙やメールベースの承認プロセスをデジタル化し、監査証跡を残すことは基本です。しかし真に重要なのは、システムが「業務アプリ構築ツール」として機能し、現場のニーズに合わせた入力フォームを柔軟に作成できる点にあります。PCだけでなく、スマートフォンアプリからの情報収集にも対応することで、現場担当者がストレスなく、正確な一次情報を入力できる環境を構築します。この質の高いデータ収集こそが、高度な分析の第一歩です。後述するBIツールや他システムと柔軟に連携できるAPI連携機能も欠かせません。
  • AI-OCR(人工知能搭載の光学的文字認識)
    請求書や領収書、手書きの申込書など、多様なフォーマットの紙文書を高精度にテキストデータ化します。手作業によるデータ入力の工数を劇的に削減し、ヒューマンエラーを最小化します。

OUT:生データから戦略的洞察を生み出す技術

収集・デジタル化されたデータは、「OUT」のエンジンによって初めて意味のあるインテリジェンスへと昇華します。

  • AIによるテキストマイニング
    稟議書や報告書に眠る非構造化テキストデータ、つまり「なぜ」のデータを解読する核心技術です。
  • トピックモデリング:大量の文書から「競合の価格圧力」「新機能の要望」といった主要な話題(トピック)を自動で発見します。
  • 感情分析:文章に込められた感情(ポジティブ、ネガティブなど)を高精度に判定し、従業員の士気や顧客満足度の変化といった組織の「体温」を可視化します。
  • BI(ビジネスインテリジェンス)ツール
    ワークフローシステム、ERP、テキストマイニングの結果など、複数のデータソースに接続し、分析結果を直感的でインタラクティブなダッシュボード上に可視化します。これにより、経営層や各部門のリーダーは、リアルタイムで状況を把握し、データに基づいた意思決定を行えるようになります。

【まとめ】ワークフローデータ分析のテクノロジースタック

レイヤー目的主要技術・ツール例
データ投入(IN)業務プロセスのデジタル化とデータの一元化ワークフローシステム, AI-OCR, モバイルアプリ
データ分析(AI)非構造化データから潜在的なトピックや感情を抽出テキストマイニング, トピックモデリング, 感情分析
データ可視化(BI)KPIモニタリング、深掘り分析、レポーティングBIツール (Tableau, Power BI, Looker Studioなど)

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【部門別】ワークフローデータ分析の具体的な6つの活用事例

テクノロジーを導入するだけでは不十分です。ここでは、各部門が直面する具体的な課題に対し、ワークフローデータをどのように活用できるのか、6つのユースケースを紹介します。

事例①:オペレーション改善|プロセスのボトルネックを特定し、業務を効率化する

ワークフローのプロセス自体が生成する「メタデータ(申請から承認までの時間、差戻し回数など)」は、業務改善の貴重な鉱脈です。

  • 分析するデータ:承認リードタイム、差戻し率、部門・承認者ごとの滞留時間
  • アクションに繋がる洞察:
    BIダッシュボードでKPIを可視化した結果、「法務部門が承認する契約稟議の差戻し率が突出して高い」ことが判明。差し戻しコメントをテキスト分析すると、原因が「契約情報の記載不備」に集中していることが分かりました。
    この洞察に基づき、申請フォームに必須項目を網羅したチェックリストを設けるなどのプロセス改善を実施。結果、差戻し率が劇的に低下し、契約締結までのリードタイムが大幅に短縮されました。

事例②:営業支援|日報データを分析し、「勝ちパターン」を特定する

形骸化しがちな営業日報も、データソースとして捉え直すことで、営業戦略を強化する武器に変わります。

  • 分析するデータ:日報の活動内容(訪問件数など)、商談化率・受注率(CRMデータ)、日報の「課題・所感」欄のテキストデータ
  • アクションに繋がる洞察:
    日報の活動データとCRMの成果データを掛け合わせ、受注に繋がりやすい「勝ちパターン」を特定。さらに、日報のテキストデータをAIで分析し、「競合X社の新価格戦略」「製品Yの機能不足」といった現場の課題をリアルタイムで抽出します。
    これにより、経営層は憶測ではなくデータに基づき、「A地域で競合の価格に関する言及が急増している」といった変化を察知し、迅速な戦略的対応(対抗キャンペーンなど)を打つことが可能になります。

事例③:財務管理|経費データを分析し、コスト構造を最適化する

経費精算、出張申請、購買申請など、財務関連のワークフローは、コスト構造を解明し、不正を検知するための貴重なデータソースです。

  • 分析するデータ:申請種別ごとの費用、勘定科目、申請理由、添付された見積書
  • アクションに繋がる洞察:
    通勤費を単なる総額ではなく、利用交通機関や経路別に分解して分析し、より安価な経路を推奨。また、AIが全従業員の申請パターンを学習し、通常とは異なる申請(深夜のタクシー利用が異常に多いなど)を自動でフラグ立てし、不正を未然に防ぎます。
    これにより、単なる経費削減だけでなく、コンプライアンス強化とガバナンス向上にも繋がります。

事例④:経営企画|稟議データを分析し、意思決定の質とスピードを向上させる

日本の組織でボトルネックになりがちな稟議プロセスも、データを分析することで「スピードとインテリジェンスの源泉」へと変革できます。

  • 分析するデータ:稟議の承認リードタイム、滞留している承認者・部門、過去の類似稟議の内容
  • アクションに繋がる洞察:
    BIダッシュボードで、どの部門・承認者で稟議が恒常的に滞留しているかを特定し、プロセスの見直しや権限委譲を検討します。
    さらに、過去の稟議データは「企業の意思決定ナレッジベース」となります。新たなプロジェクトを起案する際、担当者は過去の類似稟議を検索し、その背景や議論されたリスクを学ぶことで、提案の質を劇的に向上させ、車輪の再発明を防ぎます。

事例⑤:人事・労務管理|福利厚生の利用状況を可視化し、従業員満足度を向上させる

従業員のエンゲージメント向上に不可欠な福利厚生制度も、データ分析によって効果を最大化できます。

  • 分析するデータ:各種福利厚生制度の申請データ(申請数、利用者属性、部署、利用時期など)
  • アクションに繋がる洞察:
    BIダッシュボードで制度ごとの利用率を可視化し、「特定の部署や年代で利用率が低い制度」を特定。その原因(制度の認知度不足、利用手続きの煩雑さなど)を分析し、制度の見直しや的を絞った広報活動に繋げます。これにより、従業員の真のニーズに合った、より価値の高い福利厚生を実現できます。

事例⑥:安全衛生管理|ヒヤリハット報告を分析し、労働災害を未然に防ぐ

現場から報告されるヒヤリハット情報は、重大な事故を未然に防ぐための最も重要なデータです。

  • 分析するデータ:ヒヤリハット報告書の内容(発生場所、作業内容、状況、原因などのテキストデータ)
  • アクションに繋がる洞察:
    AIのテキストマイニングを活用し、膨大な報告書の中から「特定の機械での作業中」「高所での作業時」といった頻出するリスクパターンを自動で抽出・分類します。これにより、これまで担当者の経験則に頼りがちだった分析がデータに基づいて行えるようになり、より客観的で効果的な安全対策(マニュアル改訂、保護具の導入、研修の実施)に繋がります。

【まとめ】部門別データ活用事例

部門活用データ得られる洞察・アクション
オペレーション承認リードタイム、差戻し率業務プロセスのボトルネックを特定し、効率化を実現する。
営業営業日報、CRMデータ受注の「勝ちパターン」を発見し、市場の変化をリアルタイムで把握する。
財務経費・購買申請データコスト構造を最適化し、不正利用のリスクを低減する。
経営企画稟議データ意思決定のスピードを向上させ、過去の知見を未来の戦略に活かす。
人事・労務福利厚生申請データ従業員のニーズを把握し、より効果的な制度運用を行う。
安全衛生ヒヤリハット報告データ潜在的な労働災害リスクを特定し、未然に事故を防止する。

データ分析プロジェクトを成功に導く3つの実践ステップ

優れたテクノロジーを導入しても、それが組織に根付かなければ意味がありません。ここでは、データ分析プロジェクトを成功させるための実践的な3つのステップを紹介します。これは、統合型ワークフローシステムの導入ステップとも共通する重要な考え方です。

Step1:目的の明確化と課題の特定

まず、「何のために分析するのか」という目的を明確にします。「コストを削減したい」「意思決定を速くしたい」など、具体的なゴールを設定しましょう。その上で、経理、営業といった主要な関係者を巻き込み、彼らが現場で直面している最も切実な課題(ペインポイント)をヒアリングすることが不可欠です。

  • ポイント:自動化の前に、まず現状の業務プロセスを可視化し、不要なステップがないか見直すこと。

Step2:テクノロジー選定とスモールスタート

課題が明確になったら、それを解決するためのテクノロジー(ワークフローシステム、BIツールなど)を選定します。そして、いきなり全社展開するのではなく、特定の部門や業務(例:経費精算)でパイロットプロジェクトとして「スモールスタート」します。

  • ポイント:小さな成功体験を積み重ね、その効果を社内に示すことが、全社展開への強力な推進力となります。

Step3:全社展開と「データドリブン文化」の醸成

パイロットプロジェクトの知見を活かし、他部門へと段階的に展開していきます。しかし、本当のゴールはシステムの導入完了ではありません。データに基づいて業務改善を提案し、議論することが当たり前になる「データドリブンな文化」を醸成することです。

  • ポイント:データ分析による貢献を評価する仕組みを設けたり、経営会議では必ずBIダッシュボードのデータを用いることをルールにしたりするなど、新しい働き方を組織文化として根付かせることが重要です。

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まとめ:データ分析で経営の「次の一手」を照らす

本記事で解説してきたように、ワークフローデータはもはや単なる業務の記録ではありません。それは、企業の神経系を流れる生きた情報であり、経営の健全性、市場への適応力、そして未来の成長可能性を示すインテリジェンスの宝庫です。

これまでERPの死角や非構造化データの扱いにくさから、この宝の山は手つかずのまま放置されてきました。しかし、AIやBIといったテクノロジーの進化により、誰でもこのデータにアクセスし、価値を引き出せる時代が到来しています。

バックオフィスを、過去の処理を行うだけの受動的な存在から、現在を分析し、未来を形作るための洞察をプロアクティブに提供する戦略的資産へと変革させる。この挑戦は、単なるITシステムの刷新ではなく、企業の競争力そのものを再定義する、重要な経営課題なのです。

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引用

1.総務省「令和5年版 情報通信白書」

川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。