この記事のポイント
- 働き方改革が、法遵守だけでなく「企業の競争力」に直結する理由
- テレワーク導入を成功させる絶対条件としての「業務標準化」の重要性
- ワークフローシステムが、ルーティンワークを削減し、創造的な時間を生み出す仕組み
- 「統合型ワークフロー」が、間接部門を”PCの前”から”戦略の現場”へ解放するプロセス
- 働き方改革を実現するための、ワークフロー導入の具体的なロードマップ
働き方改革が「対応必須の経営課題」である本当の理由とは?
多くの企業にとって「働き方改革」は、法律で定められた義務、という受け身のイメージが強いかもしれません。しかし、その本質は、少子高齢化による生産年齢人口の減少という、日本が直面する構造的な課題を乗り越え、企業が持続的に成長するための「攻めの経営戦略」です。
政府が主導する働き方改革は、以下の三つの柱で構成されています。これらは個別の課題ではなく、相互に深く関連しあっています。
- 長時間労働の是正: 時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間)や、年5日の年次有給休暇の取得義務化などが定められました。単に労働時間を減らすだけでなく、限られた時間で成果を出すための生産性向上が求められます。
- 正規・非正規間の不合理な待遇差の解消: 「同一労働同一賃金」の原則に基づき、雇用形態に関わらず、仕事内容が同じであれば同じ待遇を保証することが義務付けられました。これは全従業員の意欲を高め、組織全体の生産性を底上げする土台となります。
- 多様で柔軟な働き方の実現: テレワークやフレックスタイム制の活用を推進し、育児や介護といった個々の事情に応じて、誰もが能力を発揮し続けられる環境を整備することを目指します。
これらの法改正は、企業に対して「客観的なデータに基づく労務管理」を強く要請しています。例えば、管理監督者を含む全労働者の労働時間を、PCの使用記録などの客観的な方法で把握することが義務化されました。これは、従来の性善説に基づいた曖昧な管理から、「証拠に基づき、いつでもコンプライアンスを証明できる体制」への移行を意味します。
この変化に対応できない企業は、法的なリスクを負うだけでなく、多様な人材から選ばれなくなり、結果として競争力を失っていくでしょう。だからこそ、働き方改革は、旧来の業務プロセスを抜本的に見直す絶好の機会なのです。
【この章のまとめ】
- 働き方改革は、法遵守という守りの側面だけでなく、企業の持続的成長に不可欠な「攻めの経営戦略」である。
- 「長時間労働の是正」「公正な待遇」「柔軟な働き方」の三本柱は、生産性向上という共通の目標で繋がっている。
- 客観的なデータに基づく労務管理が必須となり、業務プロセスの見直しが不可避となっている。
テレワーク成功の鍵は「業務標準化」にあり
働き方改革の柱である「柔軟な働き方」を実現する上で、テレワークは極めて有効な手段です。優秀な人材の確保、コスト削減、事業継続計画(BCP)への貢献など、多くのメリットが期待できます。
しかし、多くの企業がテレワーク導入で「コミュニケーション不足」「労務管理の困難さ」「人事評価の難しさ」といった壁に直面します。これらの問題の根源をたどると、多くの場合「業務の属人化」に行き着きます。
属人化とは、特定の業務の進め方やノウハウが個人にしか分からず、その人がいないと仕事が止まってしまう状態です。オフィスでは、何気ない会話や上司の目配りといった「潤滑油」が、属人化の問題を覆い隠してきました。しかし、テレワークではその潤滑油が失われ、隠れていた問題が一気に表面化するのです。
この課題を根本から解決するのが「業務標準化」です。「誰が、いつ、どこで実施しても、同じ手順・品質で業務を遂行できる」ようにルールを定め、最適化することを指します。
テレワークで顕在化する課題 | 業務標準化による解決策 |
コミュニケーションの課題 「あの件、どうなってる?」の確認が増える。 | プロセスの可視化 業務の流れが明確になり、進捗状況を誰でも確認できるため、不要なコミュニケーションが削減される。 |
品質・生産性の課題 人によって成果物の品質やスピードにバラつきが出る。 | 手順の統一化 ムリ・ムダ・ムラが排除され、作業の抜け漏れがなくなることで、業務品質と生産性が安定・向上する。 |
リスク管理の課題 担当者の急な離脱で業務が停止する。 | ノウハウの形式知化 マニュアルやルールが整備されるため、スムーズな引き継ぎが可能になり、事業継続性が高まる。 |
マネジメントの課題 部下の働きぶりが見えず、公正な評価が難しい。 | 評価基準の明確化 プロセスと成果が明確になるため、客観的な基準に基づいた公正な人事評価が可能になる。 |
業務標準化は、従業員から創造性を奪うものではありません。むしろ、定型的な業務を標準化することで、従業員は「作業のやり方」に悩む時間から解放され、より付加価値の高い創造的な仕事に集中できるようになるのです。
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【この章のまとめ】
- テレワークの課題の多くは、既存の「業務の属人化」が顕在化したものである。
- 「業務標準化」は、場所を問わず業務品質を担保し、テレワークを成功させるための絶対的な前提条件となる。
- 標準化は創造性を奪うのではなく、むしろ従業員を定型業務から解放し、創造的な仕事へ集中させる土台となる。
なぜワークフローシステムが働き方改革の「エンジン」になるのか?
テレワークの推進と業務標準化。この二つの重要な取り組みを技術的に支え、実現を加速させるのがワークフローシステムです。
ワークフローシステムとは、稟議申請や経費精算といった社内の様々な業務手続きを電子化し、「申請→確認→承認→決裁」という一連の流れをシステム上で完結させるツールです。
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その機能は、単なるペーパーレス化やスピードアップに留まりません。働き方改革の目標達成に直結する、より本質的な価値を提供します。
- 業務プロセスの電子化と自動化: 申請フォームの作成、条件に応じた承認ルートの自動設定、進捗の可視化、通知・催促などを自動で行います。これにより、場所や時間に縛られない業務環境が実現します。
- ガバナンス・内部統制の強化: システム上で定義されたルールは、個人の判断で逸脱することができません。「誰が・いつ・何を承認したか」という全履歴が改ざん不可能な形で記録されるため、不正を抑止し、内部統制を大幅に強化します。
- コンプライアンス・監査対応の効率化: 電子化されたデータは一元管理され、いつでも検索・参照が可能です。これにより、監査対応の負荷が劇的に軽減され、「客観的な証拠」に基づく説明責任を果たせます。
- データに基づいた業務改善: 各申請がどこでどれだけ滞留したか、といったデータが蓄積されます。このデータを分析することで、業務プロセスのボトルネックを客観的に特定し、継続的な改善につなげることができます。
このように、ワークフローシステムは、これまで個人の経験や暗黙知に頼っていた業務プロセスを、可視化・測定・管理可能な「企業のデジタル資産」へと変革させる力を持っています。
【この章のまとめ】
- ワークフローシステムは、業務プロセスを電子化・自動化し、場所にとらわれない働き方を実現する。
- 承認履歴の記録やルールの強制により、内部統制を強化し、法改正が求める「客観的な証拠に基づく管理」を可能にする。
- 蓄積されたデータを分析することで、継続的な業務改善のサイクルを回す基盤となる。
ワークフローがテレワークと業務標準化を加速させる仕組み
ワークフローシステムは、テレワークと業務標準化をそれぞれ個別に支援するだけでなく、両者を強力に結びつけ、相乗効果を生み出す「ハブ」として機能します。
1. テレワークの障壁を直接的に解消する
ワークフローシステムは、テレワーク導入時に発生する典型的な課題を解決します。
- 「ハンコ出社」の撲滅: 物理的な押印や署名のために出社する必要性を根本からなくし、真に場所の制約から解放します。
- プロセスの透明性確保: リモート環境で不安になりがちな「あの申請、今どうなってる?」という状況を、進捗の可視化によって解決します。確認のための不要なコミュニケーションが削減されます。
- 物理的書類の排除: 紙の書類の回覧、受け渡し、保管、検索といった、チームが分散している状況では不可能な物理的作業を完全に排除します。
2. 業務標準化を強制的に推進する
「全社で業務プロセスを見直しましょう」という掛け声だけでは、現場の抵抗に遭い、改革が進まないケースは少なくありません。しかし、ワークフローシステムの導入プロセスそのものが、強力な標準化の推進力となります。
- 強制的なプロセスの明確化: システムに承認ルートを設定するためには、まず既存の業務プロセスを正確に定義し、洗い出す必要があります。この過程で、各部署に存在する「ローカルルール」や曖昧な慣行が可視化され、全社的な統一ルールを策定せざるを得なくなります。
- システムによる標準の徹底: 一度システムが稼働すれば、そのルールが「業務標準」となります。ユーザーは古い書式を使ったり、決められた承認ルートを逸脱したりすることが物理的に不可能になるため、標準化が設計通りに徹底されます。
つまり、ワークフローシステムは「ペーパーレス化による業務効率化」という分かりやすいメリットを入り口にしながら、その裏で「業務プロセスの分析・定義・標準化」という、より本質的で価値のある組織変革を成し遂げるための「トロイの木馬」のように機能するのです。
【この章のまとめ】
- ワークフローシステムは、「ハンコ出社」の撲滅やプロセスの可視化を通じて、テレワークの物理的・心理的な障壁を取り除く。
- システム導入のプロセス自体が、業務プロセスの棚卸しと統一ルールの策定を促し、業務標準化を強力に推進する。
- 「効率化」という分かりやすい目的を掲げながら、より本質的な「標準化」という組織変革を同時に実現することができる。
働き方改革を実現するワークフロー導入の具体的な進め方
優れたシステムを導入しても、現場で使われなければ意味がありません。成功の鍵は、技術的な導入だけでなく、組織的な変革プロセスとして計画的に進めることです。
Step1:現状分析と目的の明確化
まず、ベンダーの製品カタログを見る前に、自社の内部を深く見つめます。
- 業務プロセスの洗い出し: 社内に存在する申請・承認業務をリストアップし、「誰が、何を、どのように」処理しているかを可視化します。
- 優先順位付け: 発生頻度、関わる人数、非効率の度合いなどを評価し、費用対効果が最も高い業務からシステム化の優先順位を決定します。
- 目的の明確化: 「承認スピードを3日から1日に短縮する」「テレワーク移行を阻む紙業務をゼロにする」など、導入によって何を達成したいのか、具体的なゴールを設定します。この目的が、後のシステム選定や効果測定のブレない軸となります。
▶ 関連: ワークフロー導入の第一歩|失敗しないための業務プロセスの棚卸し方法
Step2:スモールスタートと段階的な展開
いきなり全社一斉に導入するのはリスクが伴います。
- 対象を絞って開始: 特定の部門(例:情報システム部、経理部)や、全社共通で課題の大きい業務(例:経費精算、稟議書)から「スモールスタート」します。
- 成功体験の横展開: 小さな成功体験を積み重ね、そこで得られた知見や設定のノウハウを他部門へ展開していくことで、全社的な混乱を避けつつ、着実に導入を進めることができます。
Step3:定着のための支援と改善サイクルの構築
導入後が本当のスタートです。
- 「習慣化」の支援: 丁寧な研修の実施や、問い合わせ窓口の設置はもちろん、チャットツールへの通知連携など「忘れさせない」工夫で、新しいプロセスを日常業務に定着させます。
- 改善サイクルを回す: 利用状況をレポートで可視化し、現場からのフィードバックを収集する仕組みを設けます。これにより、形骸化を防ぎ、業務プロセスを継続的に改善していく「育てる」文化を醸成します。
▶ 関連: ワークフローシステムが定着しない理由と導入を成功させる5つのステップ
【この章のまとめ】
- Step1: 分析と目的設定 – 既存業務を可視化し、具体的な導入目的を定める。
- Step2: スモールスタート – 対象を絞って開始し、成功体験を積み重ねながら段階的に展開する。
- Step3: 定着と改善 – 利用を習慣化させる工夫と、継続的に改善する仕組みを構築する。
【発展】統合型ワークフローが実現する「真の働き方改革」とは?
従来のワークフローシステムがもたらす業務効率化は、働き方改革の重要な第一歩です。しかし、改革のポテンシャルはそこで終わりません。その先にあるのが、AIや他システムとの連携を前提とした「統合型ワークフローシステム」が実現する、より本質的な変革です。
「真の働き方改革」とは、単に労働時間を短縮することではありません。ルーティンワークを徹底的に自動化し、それによって生み出された時間を、人間でなければできない創造的・戦略的な仕事に振り向けることで、仕事の「質」そのものを高め、企業の競争力を向上させることにあります。
間接部門を「タスク実行」から「戦略サポート」へ
この変革の鍵を握るのが、間接部門(バックオフィス)の役割再定義です。統合型ワークフローは、タスクの自動化と経営状況の分析に必要なデータ提供を通じて、間接部門を日々の作業から解放し、ヒト・モノ・カネの側面から経営を支える戦略部門へと進化させます。
部門 | Before:タスク実行 | After:戦略サポート(ヒト・モノ・カネの観点から) |
経理 | ・仕訳実行、財務諸表作成 ・税務対応、予算管理 | 「計画/実績データ」の自動提供 ・事業部門と連携したコスト分析(単価、数量、品質) ・経営戦略に沿った資金配分 |
財務 | ・入金/支払管理 ・資金繰り表作成 | 変動/固定分析の自動化 ・営業状況や投資案件に応じた資金政策シナリオ作成 ・投資の意思決定情報の共有 |
人事 | ・給与計算、勤怠管理 ・社会保険手続き | 制度の活用状況データ提供 ・働きやすい環境整備に向けたPDCAサイクル ・経営戦略に沿った人材戦略の推進(採用/教育) |
総務 | ・オフィス施設、備品の管理 ・社内行事、株主総会の運営 | 報告レポートの自動提供 ・リスクマネジメントプランの策定と実行 ・最適な間接材調達戦略の策定と実行 |
統合型ワークフローシステムは、これまで人間が担っていたデータ入力、集計、レポート作成といった定型業務を代替します。これにより、間接部門の従業員は、PCの前での作業から解放され、「データをもってフィールドに出る」ことが可能になります。
例えば、経理担当者は、自動生成されたコスト分析レポートを手に、製造現場で「なぜこの部品のコストが上昇しているのか」をヒアリングする。人事担当者は、勤怠データから特定の部署の残業時間の多さを発見し、現場のマネージャーと共に対策を練る。
これこそが、間接部門をコストセンターから、企業の成長を牽引する「戦略部門」へと変革する道筋であり、「統合型ワークフローシステム」が目指す「真の働き方改革」の姿です。
▶ 関連: 統合型ワークフローシステムとは?選び方・比較検討方法まで詳細解説!
【この章のまとめ】
- 「真の働き方改革」とは、労働時間の短縮だけでなく、仕事の「質」を高め、創造的な時間を最大化することである。
- 統合型ワークフローは、タスク自動化とデータ提供により、間接部門をPCの前から解放する。
- 「データをもってフィールドに出る」働き方を実現し、間接部門をヒト・モノ・カネの観点から経営を支える「戦略部門」へと変革させる。
まとめ:ワークフローで、働き方改革を「次」のステージへ
本記事では、ワークフローシステムが、法改正への対応という守りの側面だけでなく、テレワークの推進と業務標準化を通じて、企業の生産性と競争力を高める「攻めの働き方改革」を実現するための強力なエンジンとなることを解説しました。
- 働き方改革の本質は、法遵守を超えた生産性向上と、多様な人材が活躍できる環境の構築にあります。
- テレワーク成功の鍵は、場所を問わず業務品質を担保する「業務標準化」です。
- ワークフローシステムは、その第一歩として、テレワークの障壁を取り除き、業務標準化を推進します。
- そして「統合型ワークフローシステム」は、ルーティンワークを自動化し、人間がより創造的な仕事に集中できる環境、すなわち「データをもってフィールドに出る」働き方を創出することで、働き方改革を次のステージへと引き上げます。
もし、貴社が「働き方改革」や「テレワーク推進」の掛け声だけで、具体的な業務プロセスの変革に至っていないのであれば、ワークフローシステムの導入はその突破口となり得ます。
ジュガールワークフローは、本記事で解説したような、企業の制度運用を根底から支えるための強固な基盤を目指し、飛躍的に機能を拡張させています。単なるペーパーレス化に留まらず、業務プロセスの標準化と可視化を徹底し、データに基づいた継続的な業務改善を支援します。貴社の働き方改革を「絵に描いた餅」で終わらせないために、ぜひ一度ご検討ください。
引用・参考文献
- 「働き方改革」の実現に向けて|厚生労働省
- 情報通信統計データベース|テレワークの動向と課題について – 総務省