【判断の順番】脱ハンコを失敗させない承認設計の考え方

目次

この記事のポイント

  • 脱ハンコの失敗は、判断内容ではなく「考える順番」を誤ることで起きる
  • 承認業務は業務名ではなく「判断単位」で棚卸しする必要がある
  • ツール選定は最後。判断と責任の設計が先にある

はじめに

検討が進むほど、決めなければならないことが増えていく

脱ハンコの検討が進むと、「紙をやめるかどうか」ではなく、「この業務をどう回すか」「承認をどう扱うか」といった論点が前に出てきます。
この段階では、ちょっとした決定が業務全体に影響するようになります。承認ルートの置き方や、判断の考え方ひとつで、日々の運用の重さが変わってしまうからです。

一度決めた前提は、意外と長く残る

承認の流れや仕組みは、一度定まると簡単には変えられません。
「とりあえず今のやり方で」「一旦これで回してみよう」と決めた内容が、そのまま定着し、数年後も使われ続けるケースは珍しくありません。
結果として、違和感があっても見直されないまま、「こういうものだから」と受け入れられてしまいます。

手順よりも、順番が重要になる段階

この段階で必要なのは、細かな設定方法や操作の話ではありません。
どこから考え、何を先に決めるべきか。その順番を誤らないことが重要になります。
業務をどう捉え、承認をどう位置づけるか。その前提が整理されていないまま進むと、後から調整が難しくなります。

設計の順を誤らないために

脱ハンコを進めるうえでの失敗は、多くの場合、判断そのものではなく、考える順番のズレから生まれます。
この先では、後戻りしにくい段階だからこそ、どのような順で設計を考えるべきかを整理していきます。

脱ハンコを失敗させない承認設計の判断順を示した図。①判断が発生している業務を、業務名ではなく判断単位で洗い出す。②承認・合意・最終判断など、誰が何を決めているかを整理する。③例外とルールの境界を定め、人が判断する部分と仕組みに任せる部分を切り分ける。④承認を止める工程ではなく、前に進めるための判断として承認フローを設計する。⑤最後に、その判断構造を支えられるツールを選ぶ。順番を誤ると、形だけの電子化になることを示している。

本記事では、承認設計を考える「順番」に焦点を当てました。

もし、
・なぜ脱ハンコが話題になるのか
・なぜ電子化しても業務が楽にならないのか

といった背景から整理したい場合は、脱ハンコの全体像をまとめた記事から読むと理解しやすくなります。

▶︎「脱ハンコの全体像を整理した解説はこちら」

1. 承認業務を「判断単位」で棚卸しする

業務一覧では見えないもの

脱ハンコを考える際、最初に作られがちなのが「業務一覧」です。
経費精算、稟議、各種申請といった業務を並べ、どれから電子化するかを検討する。しかし、この見方だけでは重要な点が抜け落ちます。
これらの業務は別々に見えても、実際には同じ承認や判断の構造を共有しています。誰が確認し、誰が決め、どこで責任を持つのか。その構造を整理しないまま業務単位で分けてしまうと、電子化しても全体の流れは変わりません。業務の名前ではなく、そこで何が起きているかを見る必要があります。

判断が発生しているポイントを洗い出す

次に行うべきは、「判断が発生している場面」を洗い出すことです。
承認と一言でまとめられていても、その中身はさまざまです。
内容を確認しているだけなのか。関係者として合意しているのか。それとも、リスクを引き受ける判断をしているのか。
これらが混在したままでは、承認は重くなり、差戻しも増えます。どの場面でどの種類の判断が行われているのかを切り分けることで、承認の役割が見えてきます。

誰が本当に決めているのかを可視化する

承認ルートには多くの名前が並んでいても、実際に決めている人は限られていることが少なくありません。
形式的に回っている承認と、実質的に判断している承認を分けて考えることが重要です。
ここで見るべきなのは個人名ではなく役割です。どの役割の人が、どの判断を担っているのか。その整理ができると、承認構造は一気にシンプルになります。
判断単位で棚卸しすることで、脱ハンコは単なる電子化ではなく、承認業務そのものを見直す取り組みへと変わっていきます。

2. 失敗しない承認フロー設計の考え方

承認を「止める工程」にしない

承認という言葉には、「止める」「チェックする」といった印象がつきまといます。実際、多くの現場で承認は業務を一時停止させる工程として扱われてきました。
しかし本来、承認は業務を前に進めるための判断です。内容を精査し、進めてよいかを決める行為であり、単なる確認作業ではありません。
承認を止める工程として設計すると、確認のための情報が過剰になり、判断は後回しにされがちです。一方、前に進めるための判断プロセスとして再定義すると、必要な情報と不要な情報の線引きが明確になります。
承認フロー設計の出発点は、「何を決めるための承認なのか」を明らかにすることです。

例外をどう扱うか

承認業務が重くなる原因の一つが、例外の扱いです。
すべてのケースを想定して設計しようとすると、フローは複雑になります。かといって、例外をすべて人の判断に委ねると、属人化が進みます。
ここで重要なのは、想定内と想定外を切り分けることです。
金額や条件で判断できるもの、過去と同じ処理ができるものは想定内として整理できます。一方、リスクを伴う判断や影響範囲が読めないものは、あらかじめ人が判断すべき領域として残します。
すべてを仕組みに寄せるのではなく、判断が必要な部分を意識的に残すことが、現実的なフローにつながります。

差戻し・修正が多いフローの共通点

差戻しや修正が頻発するフローには、いくつか共通した特徴があります。
一つ目は、判断に必要な情報が揃っていないことです。申請内容が不足していたり、背景や前提が共有されていなかったりすると、承認者は判断できず、差戻しが発生します。
二つ目は、判断基準が明文化されていないことです。どこまで許容されるのかが曖昧なままでは、承認者ごとに判断がばらつきます。
三つ目は、責任の境界が不明確なことです。誰がどこまで責任を持つのかが曖昧だと、判断は慎重になり、結果として業務が滞ります。
これらを整理することで、承認フローは止まる工程ではなく、業務を前に進めるための仕組みとして機能し始めます。

3. ツール選定で見るべき本当の判断軸

機能比較では見抜けないポイント

ツール選定の場面では、どうしても機能一覧の比較から入ってしまいがちです。
承認フローが作れるか、帳票が柔軟か、電子署名に対応しているか。こうした項目は確かに重要ですが、それだけでは判断を誤ります。
見るべきなのは、そのツールが承認を「処理」するだけでなく、「判断を支える構造」を持っているかどうかです。
情報が分断されず、承認者が状況を理解したうえで判断できる設計になっているか。申請、承認、差戻しが単なる作業の往復になっていないか。この視点を欠いたままでは、どれだけ高機能でも業務は前に進みません。

続けられる設計になっているか

脱ハンコが定着しない理由の多くは、「導入できたか」ではなく「続けられなかったか」にあります。
申請者にとって入力が楽でも、承認者が判断しづらければ承認は滞ります。管理側が運用調整や例外対応に追われれば、仕組みは形骸化します。
重要なのは、承認者、管理側、現場のいずれかに負荷が偏らないことです。
日々使われる前提で、無理なく回り続けるかどうか。この視点で見直すと、ツール選定の見え方は大きく変わります。

承認業務を前提から支えるという思想

ジュガールは、ツールを「業務改善の出発点」とは考えていません。
先にあるべきなのは、誰が何を判断し、どこで責任を持つのかという承認構造の整理です。
ツールは、その判断構造を受け止め、支えるための器にすぎません。判断が滞らず、情報が分断されず、例外も吸収できる。その前提がなければ、脱ハンコは定着しません。
ジュガールが目指しているのは、紙をなくすことではなく、承認業務が自然に前へ進む状態をつくることです。
ツールを選ぶという行為は、機能を選ぶことではなく、自社の判断構造をどう支えるかを選ぶことだと言えるでしょう。

おわりに

本記事のまとめ

本記事では、脱ハンコを進めるうえで見落とされがちなポイントを、判断と設計という視点から整理してきました。
業務をそのまま電子化するのではなく、承認を判断単位で捉え直し、誰が何を決めているのかを明確にすること。これができていないまま進めると、どれだけ整ったツールを導入しても、業務は前に進みません。

判断と設計が先、ツールは最後

脱ハンコの成否を分けるのは、ツール選定そのものではありません。
判断の構造をどう設計するか、承認をどのような役割として位置づけるか。その整理が先にあり、ツールはそれを支える手段として最後に選ばれるべきものです。順序を誤らなければ、多くの失敗は避けられます。

改善が回り続ける状態へ

脱ハンコは、一度終わらせる取り組みではありません。
判断や承認のあり方を見直し、業務が前に進みやすい状態をつくり続けることが目的です。正しい順序で設計されていれば、脱ハンコは単なる電子化ではなく、改善が自然に回り続ける状態へとつながっていきます。

川崎さん画像

記事監修

川﨑 純平

VeBuIn株式会社 取締役 マーケティング責任者 (CMO)

元株式会社ライトオン代表取締役社長。申請者(店長)、承認者(部長)、業務担当者(経理/総務)、内部監査、IT責任者、社長まで、ワークフローのあらゆる立場を実務で経験。実体験に裏打ちされた知見を活かし、VeBuIn株式会社にてプロダクト戦略と本記事シリーズの編集を担当。現場の課題解決に繋がる実践的な情報を提供します。