【完全解説!】稟議の目的と役割|日本企業の効果的な意思決定プロセス 

稟議(りんぎ)とは、日本の企業や組織における特有の意思決定プロセスであり、重要な意思決定を行う際に経営層をはじめとした上層部の承認を得るために行われる手続きです。このプロセスは、特定の提案やプロジェクトが組織の目標や戦略に適合しているかを確認するため、そしてそれが適切にリソース(会社のお金や人員体制など)を使用して実行されることを保証するために重要です。 

稟議とは

稟議の歴史的背景:日本独自の承認プロセス

欧米企業が「トップダウン型」のマネジメントを行うのに対して、日本企業は歴史的に「ミドルアップダウン型」のマネジメントを行う企業が少なくありません。

トップダウン型マネジメント
意思決定の流れ: 上層部(トップマネジメント)が戦略や目標を決定し、その指示が下層の管理職や従業員に伝えられ、実行されます。 
指揮命令系統: 明確な上下関係があり、指示は一方向に流れることが多い。
メリット: 迅速な意思決定が可能であり、戦略の一貫性が保たれやすい。
デメリット: 下層の意見や創意工夫が反映されにくく、現場の状況に合わない指示が出されることがある。

ミドルアップダウン型マネジメント
意思決定の流れ: 中間管理職(ミドルマネジメント)が現場の意見や情報を集約し、上層部とともに意思決定を行う。そして、その決定が再び現場に伝えられ、実行されます。
双方向コミュニケーション: 現場の声を重視し、双方向のコミュニケーションが促進される。
メリット: 現場の実情を反映した意思決定が可能であり、従業員のモチベーションが向上する。
デメリット: 意思決定に時間がかかることがある。また、ミドルマネジメントの能力に大きく依存する。 

稟議プロセスの概要

稟議プロセスにおいては、現場の責任者である課長クラスなどが起案を行い、部の責任者である部長クラスが承認した提案を関連部署に回覧し、経営層から決裁をもらうプロセスとなります。広く合意形成が行われ、決裁が得られた稟議は起案者に対する「実行指示」に転換され、決裁者の後ろ盾があることで起案者は自信をもって安心して提案を実行に移すことができ、他部署との調整もスムーズになります。 

稟議の目的と組織内での役割

稟議は、単なる形式的な手続きではなく、組織内の戦略的意思決定において中心的な役割を果たします。このプロセスを通じて、異なる部門やチーム間での広範な情報共有が行われ、組織全体としてより良い決定が下されるようになります。 

透明性の確保

稟議は、提案や計画に関する情報を関係者全員に共有するプロセスです。これにより、情報の透明性が確保され、組織全体で意思決定の背景や理由が明確になります。透明性は信頼関係の構築に寄与し、後々のトラブルを防ぐ効果があります。 

合意形成

複数の関係者が稟議書に意見を述べたり、承認を行ったりすることで、広範な合意を形成することができます。関係者全員が意見を出し合い、納得のいく決定をすることで、後のプロジェクト推進がスムーズになります。 

リスク管理

稟議を通じて、提案や計画に対する様々な視点からの意見や懸念が集められます。これにより、潜在的なリスクや問題点を事前に把握し、適切な対策を講じることができます。リスク管理の強化により、プロジェクトの成功率が高まります。

責任の明確化

稟議プロセスを経ることで、誰がどの段階で何を承認したのかが明確になります。これにより、意思決定の責任が明確化され、問題が発生した際の責任の所在がはっきりします。責任の明確化は、組織内のガバナンス向上にも寄与します。 

ミドル起点での合意形成プロセス

日本の企業において、中間管理職は合意形成のプロセスにおいて重要な役割を担います。現場の状況と経営の意向の双方を理解する中間管理職が主導して橋渡しの役割を担い、組織全体の利益に合致する意思決定が行われるよう努めます。 

中間管理職の役割とその重要性

中間管理職は、提案が実行可能であり、組織の目標に適合していることを保証するために、現場の意見やデータを収集し、それを組織の上層部に効果的に伝える責任を持ちます。この役割は、組織内のスムーズな情報流通と意思決定の質の向上に寄与します。 

ミドル起点の合意形成の流れとその効果

ミドル起点の合意形成の流れ 

  1. 現場からの情報収集
    中間管理職は、まず現場からの意見やデータを収集します。これには、従業員からのフィードバック、日常業務での観察、定期的なミーティングなどが含まれます。現場の具体的なニーズや問題点を把握することが重要です。 
  1. 初期提案の作成
    現場から収集した情報を基に、中間管理職が初期提案を作成します。この提案には、現場の課題、解決策の概要、期待される成果などが含まれます。提案は具体的で、関係者にとって理解しやすい形にすることが求められます。 
  1. 関係者との協議と調整
    初期提案を関係者と共有し、意見を交換します。ここでは、他の部門の中間管理職や専門家との協議が行われ、提案の修正や補完が行われます。意見の異なる関係者間の調整が重要なステップです。 
  1. 稟議書の作成
    協議と調整を経て、最終的な提案がまとまったら、稟議書を作成します。稟議書には、提案の詳細、目的、必要なリソース、期待される成果、リスクとその対策などが明記されます。 
  1. 稟議プロセスの実施
    稟議書を関係者に回覧し、順次承認を得ます。中間管理職はこの過程で、稟議書の内容に対する質問や懸念に対応し、必要に応じてさらに調整を行います。全員の承認が得られるまでこのプロセスは続きます。 
  1. 決定と実施
    稟議が承認されると、提案が正式に採択され、実施フェーズに移行します。中間管理職は、実施プロセスの管理と進捗確認を行い、必要に応じて修正やサポートを提供します。 

ミドル起点の合意形成の効果 

  1. 組織の一体感の向上
    中間管理職を起点とする合意形成は、現場の意見を反映した意思決定を促進します。これにより、従業員の意識が高まり、組織全体の一体感が向上します。 
  1. 効率的な意思決定
    中間管理職が調整役として機能することで、関係者間の迅速なコミュニケーションが可能になります。これにより、意思決定のスピードが向上し、無駄なプロセスを削減できます。 
  1. リスクの低減
    現場の情報を的確に反映した提案は、潜在的なリスクや問題点を事前に洗い出すことができます。中間管理職のフィルター機能により、稟議書の内容が精査され、リスク管理が強化されます。 
  1. 高い透明性と責任の明確化
    稟議プロセス全体が透明であるため、誰がどの段階で何を承認したかが明確になります。これにより、責任の所在が明確化され、問題発生時の迅速な対応が可能となります。 
  1. 現場のモチベーション向上
    現場の意見が反映された提案が承認されることで、従業員のモチベーションが向上します。自分たちの意見が尊重されると感じることで、業務への取り組み方にも積極性が生まれます。 
  1. 持続的な改善と成長
    ミドル起点の合意形成は、現場のフィードバックを継続的に収集し、反映させるプロセスです。これにより、組織全体が持続的に改善し、成長するための基盤が整います。 

ミドル起点の合意形成は、中間管理職が現場と経営層をつなぐ重要な役割を果たし、効率的かつ透明な意思決定を促進します。このプロセスにより、組織の一体感が向上し、リスク管理が強化され、従業員のモチベーションも高まります。結果として、組織全体の持続的な成長と改善が実現されます。 

エビデンスとしての稟議書

1つ1つの検討・決定について、毎回会議を開催し、議事録を残すには大きな手間がかかります。そこで、稟議プロセスを通じて意思決定を行うと、会議の検討課題を絞り込むことができるとともに、稟議書自体が合意形成・意思決定のエビデンスとなっていきます。一見手間がかかるように見える稟議プロセスですが、会議開催や議事録作成・保管といった手間をなくすほか、社内の強力な合意形成があることでその後の実行がスムーズになるなど、多くの省力化を実現し、経営のスピードアップに貢献するプロセスとなります。 

稟議に添付する書類

稟議書には、提案の実現性を事前に証明するために、必要な書類を添付します。稟議書には検討すべき内容を分かりやすいように簡潔に記載しつつ、裏付ける資料を適切に準備しましょう。 

エビデンスを提示する重要性

提案の信頼性向上 

適切なエビデンスを提示することで、提案の信頼性が高まり、承認を得やすくなります。特に数値データや具体的な事例は、提案の具体性と現実性を強調します。 

合意形成の促進 

エビデンスは関係者間の合意形成を促進します。客観的なデータや成功事例を共有することで、異なる意見を持つ関係者が納得しやすくなります。 

リスク管理の強化 

エビデンスを基に提案を検討することで、潜在的なリスクや問題点を事前に把握し、適切な対策を講じることができます。 

効率的な意思決定 

エビデンスが揃っていると、意思決定者は迅速かつ効果的に判断を下すことができます。これにより、稟議プロセス全体の効率が向上します。 

エビデンスの具体例

1. 数値データ

売上・コストデータ
現在の売上・コストの状況: 提案の前提条件を示すために、現時点の売上やコストのデータを提供します。
予測データ: 提案の実行により期待される売上増加やコスト削減の予測データを提示します。

効果の測定指標
ROI(投資利益率): 提案がどれだけのリターンをもたらすかを示すために、投資利益率を計算して提示します。
KPI(主要業績評価指標): 提案が達成すべき具体的な目標指標を設定し、その根拠を提示します。

2. 市場調査と競合分析

市場調査結果
市場規模と成長率: 提案の市場適合性を示すために、対象市場の規模や成長率を示すデータを提示します。
顧客ニーズの調査: 提案が顧客のニーズに適合していることを示すために、顧客調査の結果を提示します。
競合分析
競合他社の状況: 競合他社の戦略や市場シェアに関するデータを提供し、自社の提案の優位性を示します。

3. 具体的な事例と成功事例

他社の成功事例: 同様の提案が他社で成功している事例を紹介し、その成果をエビデンスとして提示します。
過去のプロジェクト成果: 自社内で同様のプロジェクトが成功した事例を紹介し、提案の実現可能性を示します。

4. 意見とフィードバック

従業員のフィードバック: 提案に対する従業員の意見やフィードバックを収集し、それをエビデンスとして提示します。
顧客の意見やニーズ: 提案が顧客のニーズに基づいていることを示すために、顧客からのフィードバックやクレームを紹介します。

5. 法的・規制の根拠

法令・規制に関する文書
関連法令の引用: 提案が法的に問題ないことを示すために、関連する法令や規制の文書を引用します。
契約書や合意書
重要な契約書: 提案に関連する契約書や合意書を提示し、法的な根拠を明確にします。

6. 財務計画と予算案

財務予測
予算案: 提案の実行に必要な予算を詳細に提示し、その根拠を説明します。
収支計画: 提案の実行後に期待される収入と支出の計画を提供します。

稟議の物理的制約とデメリット

紙の稟議書は書類の作成回覧、保管、検索に多くの時間とコストがかかります。これらの作業は、組織の効率を低下させる要因となり得ます。また、紙の文書は紛失や損傷のリスクが伴い、大量の文書を管理することは労力が必要です。特に多拠点を持つ大企業においては、紙で運用を続けることで、プロセス全体のスピードが落ち、紛失等のリスクが大きくなります。 

紙ベースの稟議が抱える課題と制約

  1. 物理的な保管スペースの必要性
    紙ベースの稟議は、物理的な保管スペースを必要とします。大量の稟議書を保管するために専用のキャビネットや倉庫が必要となり、オフィススペースの有効利用が難しくなります。
  2. 紛失や損傷のリスク
    紙の書類は、紛失や損傷のリスクが常に伴います。例えば、火災や水害などの災害が発生した場合、大量の重要書類が一瞬で失われる可能性があります。また、日常的な取り扱いでも、誤って書類を破損させてしまうことがあります。 
  1. 回覧にかかる時間
    紙ベースの稟議は、実際に紙を回覧する必要があります。これには、物理的に書類を部門間で移動させる時間がかかります。特に大企業では、稟議書が各部署や役職者の間を回るのに数日から数週間を要することがあります。 
  1. 効率性の低さ
    紙ベースの稟議は、修正や追加が発生した場合、再度全ての関係者に回覧する必要があります。これにより、プロセス全体の効率が低下し、意思決定が遅れる原因となります。 

時間とコストに関する考慮事項

  1. 時間のロス
    紙ベースの稟議は、以下のような理由で時間のロスを引き起こします。
    回覧の遅延: 前述の通り、稟議書を物理的に回覧するために時間がかかります。特に関係者が多い場合、この遅延は顕著になります。
    承認の遅れ: 各承認者が稟議書を確認し、サインをするのに時間がかかるため、プロセス全体が遅れます。 
  1. コストの増加
    紙ベースの稟議は、以下のような理由でコストが増加します。
    印刷と紙のコスト: 大量の稟議書を印刷するために、紙やインクなどの消耗品のコストがかかります。
    保管と管理のコスト: 稟議書を保管するためのスペースの確保や、保管キャビネットの購入などにコストがかかります。
    人件費: 稟議書を回覧するために、事務員や担当者が書類の管理や移動を行う時間が必要となり、その分の人件費が発生します。 
  1. 環境への影響
    紙ベースの稟議は、多量の紙を使用するため、環境への負担も考慮する必要があります。紙の消費量を削減することは、企業の環境意識を高め、持続可能な経営を実現するために重要です。 

デジタル化による稟議の進化

デジタル技術の進展により、稟議プロセスのデジタル化が進んでいます。これにより、多くの企業がプロセスの効率化と効果的な意思決定を実現しています。稟議システム(ワークフローシステム)は、稟議書の作成~回覧~決裁~保管~検索~廃棄までの各種プロセスをサポートし、リアルタイムでの情報共有、プロセスの透明性の向上、文書の即時アクセスを可能にします。これにより、意思決定のスピードが向上し、組織全体の生産性が向上します。 

デジタルツールを活用した稟議プロセスのメリット

  1. 効率的なプロセス管理
    迅速な承認: デジタル稟議システムでは、稟議書を電子的に回覧し、関係者がオンラインで承認を行うことができます。これにより、物理的な書類の移動にかかる時間が大幅に削減され、迅速な承認が可能となります。
    リアルタイムの追跡: デジタルツールを使用することで、稟議書の進捗状況をリアルタイムで追跡できます。誰がどの段階で承認しているか、どこで滞っているかを一目で確認できるため、プロセスの透明性が向上します。 
  1. コスト削減
    印刷費用の削減: デジタル化により、紙やインクの消費を減らすことができ、印刷費用を大幅に削減できます。また、保管スペースの節約も可能となり、オフィススペースの有効活用が進みます。
    人件費の削減: 稟議書の物理的な移動や管理にかかる手間が減少し、これに伴う人件費も削減されます。管理業務の効率化により、従業員はより価値のある業務に集中できるようになります。 
  1. セキュリティの向上
    データ保護: デジタルツールは、データのバックアップや暗号化を通じて高いセキュリティを提供します。紙の書類のように紛失や損傷のリスクがなくなり、情報漏洩のリスクも最小限に抑えられます。
    アクセス制御: デジタルシステムでは、ユーザーごとにアクセス権限を設定することができ、重要な情報に対するアクセスを制限することが可能です。これにより、情報の管理がより厳密に行われます。 
  1. 環境負荷の軽減
    ペーパーレス化: デジタル化により、紙の使用量が大幅に削減され、企業の環境負荷が軽減されます。これにより、企業は環境保護に貢献し、持続可能な経営を推進することができます。 

 

稟議とワークフローシステムのまとめ・今後の展望

稟議プロセスの効率化とその進化は、日本の企業文化の中で重要な位置を占めています。稟議システム(ワークフローシステム)の導入により、より迅速で透明性の高い意思決定が可能になり、企業の競争力を高めることができます。 

デジタル化が推進する未来の意思決定プロセス

今後、AIや機械学習などの技術を統合したデジタル稟議システムが登場することで、さらに高度な意思決定のサポートとプロセスの自動化が進むと予想されます。これにより、エビデンスに基づいた意思決定がさらに精緻化され、組織の効率性が向上するでしょう。 

稟議が企業文化に与える影響

稟議プロセスの進化は、企業文化にも大きな影響を与えます。オープンで透明性の高い意思決定プロセスは、従業員の参加意欲と責任感を高め、組織全体のエンゲージメントを向上させることが期待されます。また、クロスファンクショナルなコミュニケーションの促進は、チーム間の壁を取り除き、より統合された組織運営を実現します。 

稟議は、ただの手続きではなく、組織の核心を形成する文化的要素です。そのため、このプロセスの改善と進化は、企業が持続可能な成長を遂げるために不可欠です。デジタル化はこのプロセスを変革する鍵となり、未来に向けて企業がさらなるイノベーションを追求する基盤となるでしょう。 

ジュガールワークフローは、稟議プロセスをしっかりとサポート

世の中にあるワークフローシステムやグループウェアのすべてが稟議プロセスに最適な機能を保有しているわけではありません。ジュガールワークフローは、以下のような機能を持ち、稟議プロセス最適化されたサービスです。ぜひご検討ください。 

既存の稟議書フォーマットを活用できる

A4(またはA3)一枚で簡潔に提案内容を把握できるため、稟議書の書式は非常に重要な要素です。ジュガールワークフローでは、これまで使っていたフォーマットをそのまま活用し、提案内容を確認し、そのまま承認・却下といったアクションを実行することができます。この機能がない場合、WEBビューで項目の羅列情報で確認することとなり、提案内容の理解に負担がかかります。 

決裁ステータス

ジュガールワークフローでは、決裁時に決裁番号を発番したり、決裁後は書類内容の変更を不可とする「決裁ステータス」を機能として持っています。この機能がないワークフローシステムでは、書類内容の修正(または改ざん)がいつでも可能となり、正しい稟議プロセスであることを客観的に証明することが困難になります。(毎回操作ログの確認・照合が必要になるなど、余計な確認の手間が発生します) 

きめ細かな権限設定

ジュガールワークフローでは、きめ細かな権限設定により、書類の作成者、承認者、閲覧者などの設定が容易です。 

大企業での運用もスムーズな承認フローの設定

ジュガールワークフローでは、役職・所属による承認フロー設定と個人ごとのユーザー登録を分けて管理しており、最小限の登録作業で既存の承認フローを実現することができます。多段階の承認分岐、役職者不在のときの承認スキップ機能など、大企業でも運用がスムーズな承認フローの機能を有しています。 

 

ジュガールワークフローを導入することで、稟議と決裁のプロセスを大幅に効率化し、組織全体の生産性向上を実現できます。ぜひこの機会に、ジュガールワークフローの無料トライアルをお試しください。詳細な資料請求やオンライン相談も受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。